投稿日:2023.5.30/更新日:2024.10.22
がん治療の世界にはさまざまな治療法がありますが、中でも「アブスコパル効果」が近年、注目を集めています。
本記事では、アブスコパル効果の仕組み、放射線治療との関係、プレシジョンクリニックグループの取り組みについて詳しく解説します。
放射線治療は、長年にわたってがんの局所治療として用いられてきました。
この治療法において、「アブスコパル効果」という効果が明らかになっています。
アブスコパル効果とは、放射線療法において放射線照射野外の病変の縮小効果が認められる免疫学的現象です。
放射線治療によるアブスコパル効果には、免疫系に深い関係があります。
がん細胞に放射線を照射すると一部のがん細胞が破壊されて死滅しますが、この過程で死んだがん細胞からはたんぱく質やその他の細胞成分が放出され、樹状細胞が察知します。
樹状細胞とは免疫系の中で情報を集め、T細胞などの攻撃型免疫細胞に敵(この場合はがん細胞)の存在を知らせる役割を担っている細胞です。
放射線治療によって放出されたがん細胞の成分が樹状細胞によって捉えられた結果、体内の未治療のがん細胞に対する免疫応答が促されるのです。
これがアブスコパル効果の根本的な仕組みと考えられています。
アブスコパル効果は、放射線治療を受ける患者様全体の中で見られる頻度は極めて低いとされています。
そもそも放射線治療単独でこの現象が発生することが少ないためです。
しかし、最近の研究では、放射線治療と免疫チェックポイント阻害薬(ICI)をはじめとする免疫療法の併用によって、アブスコパル効果の発生頻度およびその効果が高まる可能性があるとされています。
アブスコパル効果とよく比較されるバイスタンダー効果ですが、2つの違いは作用にあります。
アブスコパル効果 | 放射線治療から誘導された免疫系による抗腫瘍反応 | 免疫応答を介して全身に効果を及ぼす |
---|---|---|
バイスタンダー効果 | 放射線治療を受けた細胞から放出される化学物質や シグナル物質による反応 |
より局所的な影響に限られる場合が多い |
アブスコパル効果は医学界ではこれまでも知られている現象でしたが、発生は非常に稀であり、具体的な治療法への応用には至っていませんでした。
しかし、放射線治療と免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせることで、アブスコパル効果が観察される症例が増加しています。
腫瘍の縮小や患者様の生存期間の延長など、従来の方法では得られなかった結果をもたらしています。免疫チェックポイント阻害剤には以下の種類があります。
阻害剤 | 種類(商品名) | 作用 |
---|---|---|
PD-1阻害薬 | ニボルマブ(オプジーボ) ペムブロリズマブ(キイトルーダ) |
PD-1とPD-L1間のPD-1側の相互作用を阻害し、 T細胞の活性を抑制するシグナルをブロックし、免疫応答を強化 |
PD-L1阻害薬 | アテゾリズマブ(テセントリク) デュルバルマブ(イミフィンジ) アベルマブ(バヴェンシオ) |
PD-1とPD-L1間のPDL-1側の相互作用を阻害し、 T細胞を抑制するシグナルをブロックし、免疫応答を強化 |
CTLA-4阻害薬 | イピリムマブ(ヤーボイ) イジュド(トレメリムマブト) |
樹状細胞とT細胞の活性化初期における抑制シグナルを ブロックし、免疫応答を強化 |
プレシジョンクリニックグループでは、がん治療におけるアブスコパル効果の誘導に注力しています。
この効果を誘導するためには、以下の2点が重要です。
①がんによって抑制されている抗腫瘍免疫を活性化すること
②がんによって誘導される免疫抑制を打破すること
プレシジョンクリニックグループでは①の目的で樹状細胞ワクチン療法を行い、②の目的で免疫チェックポイント阻害剤を用いています。
プレシジョンクリニックグループのこの取り組みは、膵臓専門紙(胆と膵)に取り上げられています。
今後も私たちは、独自の放射線照射に樹状細胞ワクチン療法+免疫チェックポイント阻害剤を併用することで、膵臓がん(膵がん)に対してアブスコパル効果を狙う取り組みを行っていきます。
胆と膵 2023年4月号(Vol.44 No.4)【特集】あの議論の決着はつきましたか?
【監修者】矢﨑 雄一郎
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、現在はプレシジョンクリニック神戸院長として活躍中。専門分野は一般外科及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。
略歴:
1996/3
東海大学医学部卒業
1996/4
東海大学附属病院消化器外科勤務
2000/11
遺伝子解析企業ヒュービットジェノミクス株式会社入社