投稿日:2025.12.28/更新日:2025.12.28
卵巣がんは、初期症状がほとんどないため発見が遅れやすく、婦人科がんの中でも特に注意が必要な病気です。
本記事では、卵巣がんの症状や検査方法、治療方法などについて解説します。
卵巣がんは、子宮の両側にある卵巣に発生する悪性腫瘍です。婦人科領域のがんの中では、最も死亡者数の多い深刻な病気となっています。
腫瘍がかなり大きくなったり、腹水が溜まったりして初めて症状を感じることが多く、診断時にはすでに進行した状態であることが少なくありません。また、良性の卵巣腫瘍との区別が困難で、手術で摘出して詳しく検査した結果、がんと判明するケースも多く見られます。
卵巣がんは早期発見が困難なことが多いため、年に一度検診を受けることがおすすめです。
検診で良性の卵巣の腫れや腫瘍が見つかった場合は、年に3~4回の経過観察を継続することが大切です。また、下腹部の張りや頻尿などの気になる症状が3~4週間続く場合は、迷わず婦人科を受診してください。
ただし、がん検診は一度で全てのがんを確実に発見できるわけではないため、定期的な受診が必要です。
卵巣がんは初期段階ではほとんど症状が現れないという特徴があります。そのため、気づかないうちに病気が進行してしまうことが多く、「サイレントキラー」とも呼ばれています。
症状が現れ始める頃には、すでにある程度進行していることがよくあります。初期の兆候として、スカートやズボンのウエスト部分がきつく感じるようになったり、下腹部にしこりのようなものを感じたりすることがあります。また、理由もなく食欲が落ちたり、お腹の膨満感を感じたりすることもあります。
がんが大きくなってくると、周囲の臓器への圧迫による症状が現れ始めます。膀胱が圧迫されることで頻尿になったり、直腸への圧迫により便秘がちになったりします。また、血液やリンパの流れが妨げられることで、足がむくみやすくなることもあります。
病気がさらに進行すると、腹水が溜まってお腹が大きく前方に突き出るようになることがあります。これは妊娠しているような外見になることもあり、患者さまが異変に気づくきっかけとなる場合があります。
卵巣がんが疑われる場合、さまざまな検査が行われます。基本的な触診や内診から始まり、超音波検査、CT・MRI検査、血液検査など、段階的に詳しい検査を進めていきます。最終的な診断確定には病理検査が必要となります。ここからは、卵巣がんの検査方法をご紹介します。
医師がお腹の上から手で触れる腹部触診と、膣から指を挿入して子宮や卵巣の状態を直接確認する内診を行います。これらの検査により、卵巣の大きさや硬さ、位置などを調べることができます。必要に応じて、直腸から指を挿入する直腸診も実施し、直腸やその周辺に異常がないかを確認します。
お腹の表面に超音波を当てて、体内からの反射音を画像として映し出す検査です。より詳しく観察するために、膣内から超音波プローブを挿入して行う経膣超音波検査を実施することもあります。
この検査では、卵巣にできた腫瘍の大きさや性質、内部の構造を詳しく観察できます。また、腫瘍と周囲の臓器との位置関係も把握でき、治療方針を決める上で重要な情報を得ることができます。痛みはほとんどありません。
CTやMRI検査は、卵巣がんがリンパ節や他の臓器に転移していないかを詳しく調べるために行います。特にMRI検査では、骨盤内の細かな部分まで鮮明に観察することが可能です。
これらの検査により、腫瘍と子宮、膀胱、直腸などの位置関係や、腫瘍内部の詳細な状態を把握できます。また、リンパ節の腫れの有無も確認でき、がんの可能性や進行度を推定する手がかりとなります。
病理検査は、卵巣がんの最終的な診断を確定するために不可欠な検査です。手術で摘出した卵巣や卵管の組織を顕微鏡で詳しく観察し、良性か悪性か、またどのような種類のがんかを判定します。結果が出るまでには通常2~3週間が必要です。
手術中に迅速な判断が必要な場合は、術中迅速病理診断を行うことがあります。ただし、この検査には時間や検体量の制約があるため、手術後の詳細な検査結果と異なる場合があります。
また、胸水や腹水が溜まっている場合は、その中にがん細胞が含まれていないかを調べる細胞診も行われます。
血液中の特定の物質を測定することで、がんの診断に使われたり、治療効果を確認したりする検査です。
ただし、腫瘍マーカー検査によって出た値だけでがんの有無や場所を確定することはできません。良性の病気でも数値が上昇することがあるため、超音波検査やCT・MRI検査などの画像検査の結果と合わせて、医師が総合的に判断します。
卵巣がんの治療は、手術によるがん組織の摘出を中心として、薬物療法を組み合わせて行われます。患者さまの病期や体の状態などを総合的に考慮し、最適な治療計画を立てていきます。具体的な治療方法についてご紹介します。
卵巣がんの治療において、手術でがんを完全に取り除けるかどうかが、その後の経過に大きく影響します。残存するがん組織が小さいほど、予後は良好です。このため、がんを可能な限り取り除くことと、進行の程度や組織の種類を正確に診断することを目的として手術を行います。
両側の卵巣・卵管、子宮、大網の摘出を基本として、進行度を正確に判定するために腹水の細胞検査や各部位の組織検査、リンパ節の検査なども実施します。既にがんが腹膜や周囲の臓器に広がっている場合は、目で確認できるがん組織をすべて取り除くことを目標に、可能な限り徹底的な切除を行います。
がんを完全に切除することが困難と判断される場合に実施される手術です。組織を採取してがんの種類を確定診断することと、可能な範囲で進行度を把握することを主な目的としています。患者さまの状態や病気の広がりを考慮して選択していきます。
最初の手術が試験開腹術だった場合や、手術後に1cm以上のがん組織が残存している場合に、薬物療法と組み合わせながら計画的に行う手術です。また、初回手術で十分な切除が困難と予想される場合には、先に薬物療法を行ってがんを小さくしてから、この手術を実施することもあります。
将来の妊娠の可能性を残すことを目的とした手術です。通常の手術では両側の卵巣・卵管と子宮を摘出しますが、強い妊娠希望があり、がんが片側のみで性質がおとなしい場合には、健康な側の卵巣・卵管を温存できる場合があります。ただし、この手術が適用されるのは厳しい条件を満たす場合に限られ、長期間の厳重な経過観察が必要です。
卵巣がんは進行した状態で見つかることが多く、早期がんでも再発しやすい特徴があります。一方で、最も頻度の高い漿液性がん(体液(漿液)を生成する細胞から発生する癌)は薬物療法で改善する可能性が高いといわれています。
薬物療法には、術後薬物療法、術前薬物療法、維持療法があります。
基本的には以下の治療薬を使って、治療を進めていきます。
※ベバシズマブ(抗VEGF抗体)
進行卵巣がんで化学療法との併用、維持療法に活用
※PARP阻害薬(オラパリブ、ニラパリブ、ルカパリブ)
BRCA遺伝子変異やHRD陽性症例で特に有効で、再発予防の維持療法に活用
【治療の流れ】
細胞障害性抗がん薬による副作用として、吐き気や食欲不振、白血球・血小板の減少、貧血、口内炎、脱毛、手足のしびれなどが現れることがあります。分子標的薬では、出血傾向、血圧上昇、タンパク尿、神経への影響による痛みやしびれ、疲労感、消化器症状などが主な副作用として挙げられます。
卵巣がんの初期治療として放射線治療が選択されることはありません。主に再発時の症状緩和を目的として、局所的な放射線治療が検討される場合があります。痛みなどの症状を和らげる効果が期待できます。
がんの診断と同時に始まり、治療と並行して提供される包括的なケアです。身体的な症状だけでなく、心理的な不安や社会的な問題なども含めたさまざまなつらさを軽減することを目的としています。
治療期間中や治療後は身体活動が制限されがちで、筋力や体力が低下しやすくなります。医師の指導の下で適切な筋力トレーニングや有酸素運動、日常生活に必要な身体活動を取り入れることで、身体機能の維持・改善を図ります。