投稿日:2026.3.1/更新日:2026.4.6
この記事でわかること
2026年2月は、膵臓がんの「早期発見」と「治療抵抗性(薬の効きにくさ)」という2大課題に対し、分子レベルでの回答が示された1か月でした。
膵臓がんは「症状が出てからでは遅い」と言われます。その常識を覆す研究が進んでいます。
トピック: 膵がん早期診断に有用な血中マイクロRNAを同定(QLife Pro 2026/02/03)
臨床的な意味: 血液中の微細な物質(マイクロRNA)を測定することで、従来の腫瘍マーカーでは捉えきれなかった早期のがんを検知できる可能性が出てきました。これは、ゲノム解析技術を「診断」へ応用する画期的な動きです。
膵臓がんの多くを占める膵管腺がんが、なぜこれほどまでに治療が難しいのか。その正体が見えてきました。
トピック: 膵管腺がんにおける新規治療標的分子の同定(QLife Pro 2026/02/02)
臨床的な意味: がん細胞そのものだけでなく、周囲のTME(腫瘍微小環境)とがん細胞がどう協力して薬をブロックしているのか、その「指令役(分子)」が特定されました。この分子を標的にできれば、これまでの免疫療法や分子標的薬が効かなかった環境を「効く環境」へ変えられる可能性があります。
2月のニュースは、膵臓がんという難攻不落の城に対し、「裏口(早期診断)」を見つけ、「防壁(TMEの分子)」を壊すための研究が結実しつつあることを示しています。 当院では、これらの基礎研究を単なるニュースで終わらせず、実際の治療戦略(個別化医療)に反映させるためのアップデートを日々行っています。
当院の実例
手術不能の膵体部がんステージ4bで、抗がん剤に樹状細胞ワクチン療法と活性化リンパ球療法を併用し、著明な縮小と腫瘍マーカーの改善を確認した62歳男性
腹部の不快感と食欲低下から膵体部がんと診断され、手術はできない状態でした。抗がん剤(ジェムザール+TS-1)に続いて、免疫の兵隊役である活性化リンパ球療法を先に始め、3か月後に司令官役の樹状細胞ワクチン療法を追加。治療後は腹痛が消失して食事も良好となり、膵臓がんの著明な縮小と腫瘍マーカー(DUPAN2)の16,400から391への低下を確認しました。血液の指標を治療の判断材料として使う、という点でこの記事の話題ともつながる一例です。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
マイクロRNAによる早期診断は研究段階で、一般の診療で受けられる検査としては確立していません。現時点で膵臓がんの早期発見に有用なのは、腹部超音波・CT・MRI/MRCP・超音波内視鏡(EUS)といった画像検査です。家族歴や慢性膵炎、糖尿病の新規発症などリスクのある方は、定期的な画像検査をご検討ください。
腫瘍マーカー(CA19-9など)は早期の膵臓がんでは正常のことが多く、体質的に値が上がらない方もいます。マーカーだけで判断せず、画像検査と組み合わせることが大切です。当院でも治療中はマーカーと画像の両方で経過を確認します。
記事で紹介した標的分子そのものを狙う薬は研究段階です。一方で「環境を変えてから免疫を働かせる」という考え方自体は、いま受けられる治療にも応用できます。当院ではTMEの検査結果をもとに、放射線や抗がん剤で環境を動かしたうえで樹状細胞ワクチン療法を組み合わせる順番を設計します。詳しくはプレシジョンメディシンをご覧ください。
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。