投稿日:2026.4.30/更新日:2026.5.5
乳がんと診断された時、治療法は多岐にわたります。しかし、診断技術や治療薬は日々進化しており、昨年にはなかった新しい選択肢が、今、目の前に現れることも少なくありません。患者さんやご家族にとって、最新の情報を知ることは、ご自身の治療を考える上でとても大切です。今月も乳がん診療に関する注目すべきニュースがいくつかありましたので、臨床現場の視点から分かりやすくご紹介します。
まず注目したいのは、再発・転移性乳がんの治療選択肢を広げる遺伝子検査に関するニュースです。 ガーダントヘルスジャパン株式会社は、血液検体を用いたリキッドバイオプシー検査「Guardant360® CDx がん遺伝子パネル」が、特定の乳癌治療薬の適応判定に役立つとして、日本で薬事承認を取得しました。プレシジョンクリニックグループでも2019年以来、同社のリキッドバイオプシーを使用させていただいております。この検査は、ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の乳癌で、アロマターゼ阻害薬による一次治療中に病状が進行した患者さんが対象です。 特に、ESR1遺伝子変異という、ホルモン療法への抵抗性に関わる重要な遺伝子変異の有無を、血液検査で調べられるようになりました。 この変異が見つかった場合、現在承認申請中の新しい分子標的薬「カミゼストラント」の適用を検討できるようになります。 何が新しいかというと、体への負担が少ない血液検査だけで、患者さん一人ひとりの乳房がんの特性に合わせた治療薬を選べるようになる点です。 これはプレシジョンクリニックグループが標榜する、ゲノム解析に基づいた個別化医療の進展を示すもので、私たちの外来でも、患者さんから「体への負担が少ない検査で、より効果的な治療を選びたい」という声が多く聞かれます。 この検査はすでに承認されており、カミゼストラントが承認されれば、すぐに臨床で活用できるようになります。 ご自身の乳がんの治療選択肢についてご興味がある場合は、当グループや主治医に「Guardant360® CDx」や「ESR1遺伝子変異」について相談してみると良いでしょう。
次に、治療選択肢が限られるトリプルネガティブ乳癌(TNBC)の患者さんにとって希望となるニュースです。 ギリアド・サイエンシズ株式会社は、TROP-2を標的とする抗体薬物複合体(ADC)「トロデルビ」と、免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」の併用療法について、特定のトリプルネガティブ乳がんの初回治療としての承認を申請しました。 この併用療法は、PD-L1陽性の手術不能または再発乳癌の患者さんを対象としています。トロデルビは、がん細胞の表面にあるTROP-2というタンパク質に結合し、抗がん剤を直接がん細胞に届ける働きがあります。 一方、キイトルーダは、がん細胞が免疫細胞の攻撃から逃れるのを防ぐ免疫チェックポイント阻害薬です。 異なる作用機序を持つ二つの薬剤を組み合わせることで、より高い治療効果が期待されています。 これは、免疫療法と分子標的治療を組み合わせた新しい治療戦略であり、進行した乳がん患者さんの予後改善に繋がる可能性があります。 現在、承認申請段階ですが、承認されれば、トリプルネガティブ乳癌の初回治療の選択肢が大きく広がるでしょう。 ご自身の乳癌がトリプルネガティブである場合、この新しい治療法について当グループ、そして主治医に尋ねてみるのも良いかもしれません。
抗体薬物複合体(ADC)は、乳がん治療の分野で近年特に注目を集めています。 大鵬オンコロジーと大鵬薬品、そしてスイスの創薬ベンチャーであるAraris Biotech AGが、新しいADC「ARC-02」の第I相臨床試験を開始したというニュースがありました。ARC-02は、特殊なリンカー技術を用いて抗体と抗がん剤を結合させることで、より安定して効率的に薬剤をがん細胞に届け、副作用を減らすことを目指しています。 この技術は、腫瘍微小環境(TME)にも影響を与える可能性があり、今後の研究が期待されます。 これはまだ第I相試験という初期の研究段階であり、安全性や有効性が確認されるまでには時間を要します。 しかし、このような新しい創薬ベンチャーとの共同開発は、将来の乳房がん治療に革新をもたらす可能性を秘めています。 現時点では臨床で使える話ではありませんが、未来の治療選択肢として、今後の進展に注目していきましょう。
乳がんの治療において、手術後に放射線治療を行うことは一般的です。 特に左側乳房の乳がんの場合、心臓が近いため、放射線による心臓への影響を心配される患者さんが多くいらっしゃいました。 しかし、カナダのトロント大学が行った後ろ向きコホート研究で、現代の放射線治療技術が進歩した結果、左側乳癌患者さんの心血管疾患リスク増加はわずかであることが示されました。この研究は、2002年以降に外部照射療法(EBRT)を受けた乳癌患者さんを対象としています。 昔の放射線治療とは異なり、深吸気息止め法など、心臓への放射線量を低減する技術が普及しています。 この結果は、左側乳房の乳がんを患う患者さんが、心臓への影響を過度に心配することなく、安心して放射線治療を受けられることを示しています。 これは今すぐ臨床で役立つ情報であり、放射線治療を検討されている方は、ご自身の治療計画について主治医や放射線治療医と詳しく相談してみてください。
乳がんの中には、遺伝子の変異が原因で発症する「遺伝性乳がん」があります。 理化学研究所の研究グループが、日本人約4万人を対象とした大規模なゲノム解析を行い、BRCA1/2遺伝子に変異がある場合、乳がんや卵巣がんだけでなく、頭頸部がん、甲状腺がん、膀胱がん、皮膚がんのリスクも上昇することが明らかになりました。この発見は、BRCA1/2遺伝子変異を持つ患者さんやそのご家族にとって、乳房がん以外の特定のがんのリスクについても、より詳細な情報が得られることを意味します。 私たちの外来でも、リキッドバイオプシーでBRCA1/2遺伝子変異が見つかり、遺伝性乳がんの可能性について不安を感じる患者さんがいらっしゃいます。 遺伝子検査や遺伝カウンセリングはすでに臨床で行われており、この研究結果は、遺伝子検査の意義をさらに高めるものです。 ご自身やご家族に乳がんやその他のがんの既往がある場合、遺伝カウンセリングを通じて、BRCA1/2遺伝子変異や関連するがんのリスクについて相談し、適切な検査や予防策を検討する良い機会となるでしょう。
最後に、乳がんの早期発見の重要性を改めて感じさせる患者さんの体験談をご紹介します。 ステージ0の乳がんを経験した50代の女性「ぼんさん」のコラムが公開されました。 ぼんさんは、マンモグラフィ検診で早期の乳房がんが発見され、その後の治療を経て、現在はお元気に過ごされています。 この体験談からは、がんの診断に直面した時の心の葛藤や、身近な人からの情報がどれほど力になったか、そして何よりも早期発見がいかに重要であるかが伝わってきます。 乳がん検診の受診を迷われている方や、早期乳がんの診断を受けたばかりの方にとって、具体的な心の準備や情報収集のヒントが得られることでしょう。 乳がんの早期発見は、治療の選択肢を広げ、治療後の生活の質を高める上で非常に大切です。 定期的な検診を忘れずに受けていきましょう。
2026年4月は、乳がんの診断と治療、そして患者さんの心のケアに至るまで、多岐にわたるニュースが報じられました。 特に、私たちが長年取り組んでいるリキッドバイオプシーによるESR1遺伝子変異の検出や、トリプルネガティブ乳癌に対する新しい併用療法の承認申請は、ゲノム解析に基づいた個別化医療が着実に進展していることを示しています。 抗体薬物複合体(ADC)のような未来の治療薬の研究も進み、乳がん診療は常に進化を続けています。 また、放射線治療の安全性向上や、遺伝性乳がんに関する新たな知見は、患者さんが安心して治療を選択し、将来のリスクに備えるための重要な情報となります。 プレシジョンクリニックグループでは、このような最新の知見に基づき、患者さん一人ひとりの乳房がんの特性や生活背景に合わせた最適な医療を提供できるよう努めています。 ご自身の乳がんについて、不安なことや疑問に思うことがあれば、いつでもご相談ください。 私たちは、患者さんが納得して治療を受けられるよう、全力でサポートいたします。