投稿日:2026.4.30/更新日:2026.5.12
私たちプレシジョンクリニックグループは名前の通り、遺伝子変異に基づいたがん精密医療(プレシジョンプレシジョン・プレシジョンオンコロジー)を行っているクリニックグループです。特に、KRAS変異を持つがんは、これまで治療が難しいとされてきましたが、近年、このKRAS変異を標的とする治療薬の研究開発が急速に進んでいます。2026年4月も、KRAS変異がん、特に膵臓がんや大腸がんに関する新しい研究成果が複数報告されました。これらの進展は、治療選択肢の拡大に繋がるかもしれません。
今月、アステラス製薬株式会社は、KRAS G12D変異陽性の転移性膵管腺がんに対する新しい治療薬、セチデグラシブの第3相臨床試験を開始しました。この試験では、一次治療として既存の標準治療mFOLFOXIRIとの併用療法を評価しています。セチデグラシブは、特定のタンパク質を分解するように誘導する「標的タンパク質分解誘導薬」という新しい作用機序を持つ薬剤です。これにより、これまで治療が難しかったKRAS G12D変異をピンポイントで狙うことが期待されています。 膵臓がんは特にKRAS G12D変異が多く見られるため、この試験が成功すれば、患者さんにとって新たな治療選択肢となる可能性があります。この治療法は、現在まだ研究段階にあり、いますぐ臨床で使えるわけではありません。しかし、将来の治療に繋がる重要な一歩です。膵臓癌の患者さんをはじめ、ご自身のKRAS変異の種類や、このような新しい治療法の研究について、私たちや主治医の先生に相談してみるのも良いでしょう。
アメリカがん学会(AACR 2026)では、次世代のKRAS G12C阻害薬であるelisrasib(D3S-001)に関する promising なデータが発表されました。これは、KRAS G12C変異陽性の既治療進行大腸がんおよび膵管腺がんの患者さんを対象としたフェーズ1/2試験の結果です。従来のKRAS G12C阻害薬と比較して、より強力な効果が期待される次世代薬として注目されています。特に大腸がんでは、分子標的薬セツキシマブとの併用でさらに効果が高まる可能性が示唆されました。 私たちの外来でも、KRAS G12C変異のある患者さんから、既存のKRAS阻害薬以外の選択肢について質問されることがあります。elisrasibは、まだ臨床試験段階であり、現時点で一般の診療で利用できるものではありませんが、将来的に治療の幅を広げる可能性を秘めています。患者さんのKRAS変異の種類や、このような新しい分子標的治療薬の研究について、ご関心があれば当グループにお気軽にご相談ください。
膵臓がんは治療が難しいがんの一つでプレシジョンクリニックグループの最重要テーマですが、この分野でも新たな治療法の開発が進んでいます。米国では、新興の創薬ベンチャーであるレボリューション・メディシンズが、新薬候補ダラクソンラシブの初期臨床試験で患者さんの約半数に腫瘍縮小が見られたと報告しました。これは、まだ初期段階のデータですが、難治性がんに対する新しい治療法の可能性を示すものです。 この治療薬は、直接KRAS変異を標的とするものではありませんが、KRAS経路の下流に作用するRAS阻害薬の一種であり、KRAS変異がんにも効果が期待されています。また、mRNAワクチンを用いた術後治療が、生存期間を延長する可能性も示されています。これらの研究は、現在進行中の臨床試験であり、いますぐ利用できる治療法ではありませんが、創薬ベンチャーが積極的に新しいアプローチを試みていることは、将来の治療選択肢を増やす上で非常に重要です。
国立がん研究センターは、膵がんの免疫抑制性微小環境(TME)がどのように構築されるかを解明したと発表しました。がん細胞の周りの環境、つまり腫瘍微小環境は、免疫細胞の働きを抑え、治療効果を低下させることが知られています。特にKRAS変異を持つがんは、この免疫抑制性のTMEが強い傾向にあります。 今回の研究は、このメカニズムを理解することで、免疫療法が効きにくいKRAS変異がんに対する新しい治療法の開発に繋がる可能性があります。これは基礎研究段階の成果であり、すぐに治療に結びつくものではありません。しかし、免疫療法と分子標的治療を組み合わせる個別化医療の進展に不可欠な知見です。私たちプレシジョンクリニックグループも、このようなTMEの基礎研究の進展が、将来の患者さんの治療に役立つことを期待しています。
2026年4月は、KRAS変異がん、特に膵臓がんの治療に関する多くの有望なニュースが報告されました。KRAS G12D変異を標的とする新しい作用機序の薬剤や、次世代のKRAS G12C阻害薬の臨床試験の進展は、分子標的治療のさらなる可能性を示しています。また、創薬ベンチャーによるRAS経路を標的とした新薬開発や、膵臓がんの腫瘍微小環境の解明は、個別化医療の実現に向けた重要な一歩と言えるでしょう。 これらの研究の多くはまだ臨床試験段階ですが、ゲノム解析によってご自身のKRAS変異などの遺伝子情報が明らかになることで、将来的に最適な治療法を選択できる可能性が高まります。プレシジョンクリニックグループでは、最新のゲノム医療情報に基づき、患者さん一人ひとりに合わせた治療選択肢について主治医と連携しながら、情報提供を行っています。ご不明な点があれば、いつでもお気軽にご相談ください。
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。