投稿日:2026.6.5/更新日:2026.9.26
この記事でわかること
腫瘍の中に免疫細胞がたくさん入り込んでいれば経過が良い。そう聞くと自然に思えますが、今回の報告はその見方を一段階細かくします。
結論から申し上げます。肺腺がんでは、B細胞の量を示す指標が生存をよく予測した一方、同じ検体でT細胞の指標は予測しませんでした。「免疫細胞が多いこと」そのものが効いているのではない、ということです。
研究チーム(Sambanthamoorthy S ほか, Cancer Immunology Research 2026)は、B細胞の量を正確に測る指標としてCD79Aを選び、TCGAに登録された未治療の患者さん8,720検体・15のがん種と、正常組織のデータを解析しました。
| 調べたこと | 結果 |
|---|---|
| B細胞浸潤と生存 | 相関するがん種と、しないがん種があった |
| 肺腺がん(LUAD) | CD79Aは全生存を強く予測した |
| 同じ検体のCD8A | 予測しなかった。白血球が入り込んでいること自体では説明できない |
この対比がこの報告の核心です。T細胞の指標では説明できないものを、B細胞の指標が説明した。だから「どの免疫細胞か」を見る必要がある、という話になります。
単一細胞RNA解析とフローサイトメトリーで詳しく見ると、未治療の肺腺がんの腫瘍内には、CD11c陽性のB細胞が正常な肺組織や血液よりも多く存在していました。
この細胞には次の特徴がありました。
位置。腫瘍の中でCD4陽性T細胞のすぐ近くにいました。助け役のT細胞と隣り合っているということです。
反応性。試験管内で抗IgG(CD40作動薬の有無を問わず)で刺激すると、速やかに増えて分化しました。
出すもの。刺激によりIL12・IL21・TNF-αを分泌しました。いずれも抗腫瘍免疫を後押しすることが知られているサイトカインです。
当グループが腫瘍微小環境(TME)の検査を行っているのは、まさにこの理由です。免疫細胞が入り込んでいるかどうかだけでなく、どの細胞が、どこに、どういう状態でいるかで治療の組み立ては変わります。
ただし正直に申し上げると、当院の現在の検査項目にCD11c陽性B細胞は入っていません。いま見ているのはCD8陽性T細胞や制御性T細胞、マクロファージの性質などです。この報告は、今後見るべき対象が増えうることを示したものだと受け止めています。
樹状細胞ワクチン療法は樹状細胞がキラーT細胞を教育する治療で、T細胞側の組み立てです。B細胞側を直接動かす治療は当院にもありません。
これは相関の研究です。CD11c陽性B細胞が多いから経過が良い、という因果は示されていません。
刺激実験は試験管内で行われたものです。体の中で同じように働くかは別の検証が要ります。
この集団を狙う治療はまだありません。予後を推し量る目印、そして将来の治療標的の候補として提示された段階です。
当院の実例
肺腺がんステージ4(脳転移・骨転移)に、放射線治療と樹状細胞ワクチン療法の局所投与を行い、原発巣が縮小し小結節が消失した症例
脳転移と骨転移を伴う肺腺がんステージ4の方に、放射線治療と樹状細胞ワクチン療法の局所投与を組み合わせました。右肺の原発巣が縮小し、小結節は消失しています。腫瘍の中で免疫が働ける状態をつくるという意味で、本記事で述べた「どの細胞がどこにいるか」という視点とつながる一例です。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
肺腺がんでは、B細胞の指標が生存を予測し、T細胞の指標は予測しませんでした。腫瘍に入り込んだCD11c陽性B細胞は、CD4陽性T細胞の近くに位置し、刺激に応じて抗腫瘍免疫を後押しするサイトカインを出します。
免疫療法を考えるとき、免疫細胞の多さではなく、どの細胞がどう働いているかを見る。この報告はその必要性を、数字で示しました。
※治療効果には個人差があり、すべての患者さまに同様の結果が得られるとは限りません。また、本記事で紹介した研究の多くは開発・検証の段階にあり、国内の保険適応や大規模臨床試験で標準治療として確立されたものではありません。実際の治療は、リスクとベネフィットを評価し、ご本人の同意のもとで設計します。
一般の診療で腫瘍内のB細胞を測る検査は標準化されていません。この研究ではCD79Aという遺伝子の発現量がB細胞の量を反映する指標として使われ、CD11c陽性B細胞の同定には単一細胞解析とフローサイトメトリーが用いられています。当院が行っている腫瘍微小環境の検査はCD8陽性T細胞や免疫を抑える細胞が中心で、この集団は現時点では評価項目に含めていません。
すべてのがんでそう言えるわけではありません。この研究でも、B細胞の浸潤が生存と相関したのは一部のがん種だけでした。肺腺がんでははっきり相関しましたが、他のがん種に同じ結論をあてはめることはできません。
現時点では変わりません。CD11c陽性B細胞は予後を推し量る目印、そして将来の治療標的の候補として提示された段階で、これを狙う治療はまだありません。ただし「T細胞だけを見ていては足りない」という視点は、当院がプレシジョンメディシンの考え方で治療を設計するうえで参考になります。
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。