投稿日:2026.8.1/更新日:2026.10.23
この記事でわかること
KRAS変異が見つかったとき、これからの治療方針や日常生活への影響に不安を感じる方は少なくありません。標的となる変異に応じた薬の開発や検査技術の進歩は、着実に前進を続けています。日常の生活を維持しながら最適な治療を選ぶために、知っておきたい最新情報を整理してお伝えします。
血液中の微量な腫瘍由来DNAを捉える技術が、再発の早期発見に役立つ可能性を示しました。手術後の微小残存病変を調べる検査において、新しい高感度アッセイが従来法を上回る検出力を示したのです。
米国を中心とする研究チームから報告された成果によると、限局性膵がん患者を対象にした解析で成果が得られました。標準的な次世代シーケンサーを用いた検査と比較して、より多くの患者から残存病変を検出できたと報告されています。
膵がんの9割以上にはKRAS変異が存在します。この特異的な変異部位を集中的に調べることで、ごくわずかな再発の兆候を逃さず捉えられるようになりました。画像検査では見えない極小の病変を、血液検査だけで把握できる時代が近づいています。
ただし、この検査手法は現在研究段階にあります。今すぐ保険診療として一般の病院で受けられるわけではありません。日常診療への導入には、検出結果に基づいて治療を変えることで予後が改善するかを検証する必要があります。
将来的に実用化されれば、不要な抗がん剤治療を減らしたり、早期にKRAS阻害薬などの治療へ移行したりする判断が可能になります。血液による精密な遺伝子検査の進展状況について、主治医や当グループにご相談ください。
再発卵巣低異型度漿液性がんに対して、RAF/MEK阻害薬avutometinibとFAK阻害薬defactinibの併用療法が国内で良好な結果を示しました。日本婦人科腫瘍学会で発表されたデータにより、日本人患者における忍容性と効果が確認されています。
この2剤併用療法は、KRAS変異をはじめとするRAS変異シグナル伝達経路の上流と下流を同時に抑え込む新しいアプローチです。海外で行われた第2相臨床試験であるRAMP201試験と、ほぼ同等の薬物動態や安全性プロファイルが日本人でも得られました。
低異型度漿液性癌は従来の抗がん剤が効きにくい特徴があります。しかし、RAS変異を標的とする分子標的薬の併用によって、腫瘍の縮小や進行停止が期待できるようになってきました。治療選択肢が限られていた患者さまにとって心強い選択肢となります。
この併用療法は現在、承認に向けた治験が進められている段階です。今すぐ一般的な処方ができる状態ではありませんが、国内での実用化に向けた歩みは着実に進んでいます。治験への参加機会も含めて、RAS変異に関連した治療選択肢の広がりを注視したいところです。
当院でも患者さまから、標準治療以外の選択肢として分子標的治療を検討したいという声をよく伺います。ご自身のがんでRAS経路の薬が適応になるか気になる方は、主治医や当グループにご相談ください。
がん患者さまに生じる静脈血栓塞栓症に対する抗凝固療法において、安全性を高める予測ツールが発表されました。京都府立医科大学や京都大学などの研究グループが、8つの項目で大出血リスクを評価する「ONCO-DOAC BLEEDスコア」を提唱しました。
膵臓がんや肺がんなどのKRAS変異がんでは、血液が固まりやすくなり深部静脈血栓症や肺塞栓症を合併する頻度が高くなります。血栓を防ぐために直接作用型経口抗凝固薬が広く使われますが、過度の出血を起こすリスク管理が臨床上の課題でした。
新しく開発されたスコアは、年齢や腎機能、血小板数、がんの進行状況など8つの日常的な検査値から簡便に算出できます。患者さまごとの大出血リスクを高い精度で予測できるため、抗凝固療法を継続すべきか慎重に判断する根拠になります。
この知見はすでに実際の臨床現場で活用できる実践的な情報です。血栓症の治療を続けながら抗がん剤治療を受ける患者さまにとって、不要な出血事故を防ぎながら安全に通院を続ける大きな助けとなります。
抗凝固薬の内服中は、あざができやすい、歯茎から血が出るなどの症状に注意が必要です。外来でも患者さまから「血をサラサラにする薬を飲み続けて大丈夫か」と質問されることがあります。服薬中の出血が気になる方は、主治医や当グループにご相談ください。
若い世代におけるがん発症率の増加傾向に対して、体の生物学的老化が影響している可能性が示されました。米国ワシントン大学の研究グループが、国際的な医学誌「Nature Medicine」に研究成果を発表しています。
研究グループは大規模なデータベースを解析し、実年齢よりも生物学的な年齢が進んでいる若年者ほど、がんの発症リスクが高いことを突き止めました。特に大腸がんや膵がんといった消化器系のがんで、この相関が強く認められています。
これらのがんの多くにはKRAS変異が深く関与しています。慢性的な炎症や生活習慣、ストレスなどによって細胞の生物学的老化が加速すると、ゲノム修復機構が乱れてRAS変異などの遺伝子異常が蓄積しやすくなると考えられます。
この研究は基礎的な疫学研究の段階であり、特定の治療法を直ちに決定づけるものではありません。しかし、若くしてがんを発症した患者さまの背景にある分子生物学的なメカニズムを解き明かす重要な手がかりとなります。
若い年代でがんと診断されると、仕事や育児との両立に強い負担を感じる方が多くいらっしゃいます。将来的な予防や早期診断、個別化治療の開発につながる研究として期待されています。遺伝子検査の結果や背景要因について詳しく知りたい方は、主治医や当グループにご相談ください。
当院の実例
手術不能の膵臓がんステージ4(肝転移)に、減量した抗がん剤と樹状細胞ワクチン療法を併用し、原発巣・肝転移の消失と腫瘍マーカーの正常化を確認した60代男性
抗がん剤(ジェムザール+TS-1)を2コース行った時点で進行が止まり、副作用のため減量。そこに樹状細胞ワクチン療法を併用しました。治療経過のなかで原発巣と肝転移の消失、腫瘍マーカーの正常化を確認しています。減量した分を免疫で補う、当院がよく行う組み合わせです。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
KRAS変異がんの診療は、超高感度なctDNA検査による微小残存病変の把握から、RAS変異シグナルを狙う新規薬剤の開発まで多角的な広がりを見せています。さらに血栓塞栓症の安全管理といった支持療法の進化も、治療を安全に継続する上で欠かせません。
プレシジョンクリニックグループは創業以来、KRAS変異をはじめとする難治性がんのゲノム解析と個別化医療に最も注力してきました。当グループでは、がん組織や血液を用いた精密な遺伝子検査の実績を積み上げています。一人ひとりの病状や生活環境に合わせた最適な治療方針の選択肢を提示することを大切にしています。治療法の選択に迷ったときは、どうぞお気軽にご相談ください。
血液中のごく微量な腫瘍由来DNAからKRAS変異を捉え、手術後の再発リスクや治療効果の判定に役立つ可能性があります。当院でもctDNA・MRD検査を行い、免疫療法の設計に使っています。
日本人データが報告された段階で、承認状況は適応ごとに異なります。RAS変異経路を止める併用療法の候補として、治験や今後の承認情報を確認してください。
KRAS変異がんでは血栓症を合併しやすいことが知られ、抗凝固療法中の出血リスクを予測するスコアが開発されました。治療中にむくみや息切れがあれば早めに主治医へ相談してください。
監修:矢﨑 雄一郎 医師
プレシジョンクリニック 東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア 理事長 | 専門分野:一般外科・消化器外科
がんゲノム情報に基づく個別化医療と免疫療法を専門とし、標準治療と組み合わせた治療設計に取り組んでいます。著書『免疫力をあなどるな!』。
【免責事項】本記事は2026年7月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者さまへの診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年9月9日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。