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あ行

アキャルックス(Akalux)

現在、光免疫療法は一部のがん治療において承認されており、その代表的な例が「アキャルックス(Akalux)」という治療法です。これは、アメリカの国立衛生研究所(NIH)で小林久隆博士によって開発され、日本では2020年に初めて承認されました。この治療法は、特に再発または難治性の頭頸部がんを対象としています。

薬剤名: アキャルックス(Akalux)

アキャルックスは、光感受性物質「IR700」と、がん細胞表面に存在するEGFR(上皮成長因子受容体)をターゲットとしたモノクローナル抗体「セツキシマブ(Cetuximab)」を組み合わせた薬剤です。
この薬剤は、がん細胞表面に特異的に結合することで、近赤外線を照射した際に選択的にがん細胞を破壊します。

照射装置: BioBlade(バイオブレード)
アキャルックスと併用される近赤外線の照射装置で、がん細胞に薬剤が結合した後に、この光を患部に照射します。これにより、IR700が活性化され、がん細胞の細胞膜を破壊して細胞死を引き起こします。
対象となるがん種:

頭頸部がん(再発または難治性):
頭頸部がんは治療の難しいがんの一つであり、再発や進行がんの場合には手術や化学療法、放射線療法の効果が限定的です。アキャルックスはこのような患者に対して効果を示しています。

治療プロセス:
患者にアキャルックスを静脈注射で投与する。
投与された抗体が体内のがん細胞に結合するまで一定時間待機。
その後、近赤外線を患部に照射することで、光免疫療法によるがん細胞の破壊を行う。

アキャルックスの治療の利点
選択性の高さ: EGFRを標的にするため、EGFRを高発現するがん細胞を正確に狙うことができる。
低副作用: 周囲の正常組織にほとんどダメージを与えないため、副作用が他の治療法と比べて少ない。
短期間の治療: 通常のがん治療と異なり、短い期間でがん細胞を破壊できるため、患者のQOL(生活の質)を維持しやすい。

現在の課題と今後の展望
適応拡大: 現在は主に頭頸部がんに対する治療として承認されていますが、将来的には他のがん種(肺がん、乳がん、脳腫瘍など)に対しても応用可能性が検討されています。
他の治療法との併用: 光免疫療法を免疫チェックポイント阻害薬などの他の免疫療法や化学療法と組み合わせることで、相乗効果を狙った治療が期待されています。
光免疫療法はまだ新しい分野ですが、今後さらなる研究や臨床試験の結果によって、治療の適応範囲が広がり、多くの患者に新しい治療の選択肢を提供する可能性が高いです。

アフェレーシス(成分採血)

成分採血装置を使用して血液中の特定成分だけを採血する方法です。

プレシジョンクリニックグループでは樹状細胞に関係する細胞だけを取り出します。樹状細胞ワクチン療法では、樹状細胞を作るために単球という細胞を血液から分離するために、アフェレーシス(成分採血)を行います。

 

アブスコパル効果

アブスコパル効果とは、放射線療法や光免疫療法において照射野外の病変の縮小効果が認められる免疫学的現象です。照射により、がん細胞が死滅すると、がん抗原が放出され、樹状細胞を介したT細胞刺激により、がん特異的ヘルパーT細胞/キラーT細胞が誘導されることで、結果として遠隔にある転移巣に対してアブスコパル効果を示すといった免疫学的メカニズムが考えられています。この効果を誘導するために、条件があることが分かっており、①がんによって抑制されている抗腫瘍免疫を活性化すること、②がんによって誘導される免疫抑制を打破すること、が重要とされています。この考えに基づき、当グループでは樹状細胞ワクチン療法の独自のプロコールを開発し、アブスコパル効果を免疫学的に誘導できる取り組みを行っております。

アミバンタマブ(商品名:ライブリバント)

アミバンタマブ(ライブリバント)は、非小細胞肺がん(NSCLC)の治療に用いられる抗体薬で、特にEGFR遺伝子のエクソン20挿入変異を持つ患者に効果があることが示されています。アミバンタマブはEGFRとMETの両方を標的にするバイスペシフィック抗体で、がん細胞の増殖を抑制する新しい治療法のひとつです。

アミバンタマブの特徴と効果

  1. EGFRエクソン20挿入変異をターゲット:EGFR遺伝子にエクソン20挿入変異がある場合、従来のEGFR阻害薬が効きにくいことが多いですが、アミバンタマブはこの変異を持つ細胞にも効果を示します。
  2. 二重標的作用:EGFRとMETの二重標的であるため、これらのシグナル経路を介して増殖するがん細胞の増殖と生存を同時に抑制する効果が期待されます。
  3. 注射薬:アミバンタマブは点滴で投与されるため、定期的な通院が必要です。

副作用

アミバンタマブの一般的な副作用には、皮膚反応(発疹や乾燥肌など)、爪の異常、浮腫、インフュージョンリアクション(投与中に発生するアレルギー反応のような症状)などがあります。投与開始時のインフュージョンリアクションを避けるため、初回の投与はゆっくりと行われます。また、まれに肺炎などの重篤な副作用が発生することがあるため、慎重な経過観察が必要です。

承認と使用状況

アミバンタマブは、アメリカFDAやその他の規制機関により、EGFRエクソン20挿入変異を持つNSCLC患者向けの治療薬として承認されています。これは、従来の治療が効きにくいEGFR変異に対応した新しい治療選択肢として注目されています。

胃がん

胃がんとは
胃がんは肺がんと並んで日本人に多いがんとして知られています。ただし、高齢化のため罹患数は多いものの、一昔前の同世代で比較すると、その数は男女ともに減っています。その背景には胃がんの独立したリスク要因であるヘリコバクターピロリ菌の感染者が少なくなり、除菌が進んでいることがあります。しかし胃がんのリスク要因はピロリ菌だけでなく、喫煙なども指摘されているので、これらを避けるとともに定期的ながん検診で早期発見に努めることが、胃がん予防および早期治療の要となります。

胃がんは胃の出口(幽門)に近い粘膜に発生しやすく、進行に伴い胃の壁に沿って広がったり、粘膜を超えて深く入り込んだりします。一方、胃壁の粘膜の下にもぐったまま広がっていくタイプもあります。これを「スキルス性の胃がん」といい、発見しにくいため、多くの場合、進行した状態で見つかります。

胃がんの種類
胃がんの種類ですが、ほとんどが腺がんで、細胞や組織の特徴から、大きく分化型と未分化型に分けられます。一般的に、分化型は進行が緩やかで、未分化型は進行が速い傾向があるといわれています。また、未分化型は、がん細胞があまりまとまりを作らず、胃の壁にバラバラと浸み込むように広がっていくものが多くあります。

なお、スキルス胃がんは未分化型が多いですが、未分化型のすべての胃がんがスキルス胃がんというわけではありません。
(引用:がん情報サービス)

胃がんの治療
(1)一次化学療法
一次化学療法では、殺細胞性抗がん薬を用います。なお、胃がんでは、HER2ハーツーと呼ばれるタンパク質ががん細胞の増殖に関わっている場合があるため、治療前に病理検査を行い、HER2陽性の場合には、HER2タンパク質の働きを抑える分子標的薬を併用することが推奨されています。また、HER2陰性の場合には、免疫チェックポイント阻害薬を併用する場合もあります。

(2)二次化学療法
二次化学療法では、一次化学療法で使用しなかった細胞障害性抗がん薬と分子標的薬を組み合わせて用います。二次化学療法の前には、MSI検査と呼ばれるがんの遺伝子検査を行うことが推奨されています。MSI検査で、MSI-High(遺伝子に入った傷を修復する機能が働きにくい状態)の場合には、免疫チェックポイント阻害薬を用いることもあります。

(3)三次化学療法
三次化学療法では、HER2陰性の場合には、二次化学療法までに使用しなかった細胞障害性抗がん薬、もしくは免疫チェックポイント阻害薬のいずれか、HER2陽性の場合は、一次化学療法、二次化学療法とは異なる種類の分子標的薬を用いることがあります。なお、二次化学療法までに免疫チェックポイント阻害薬を使用した場合は、三次治療で用いることは推奨されていません。

(4)四次化学療法以降
四次化学療法以降は、三次化学療法までで候補になった薬のうち、使用しなかった薬剤に切り替えて治療することを検討します。

(引用:がん情報サービス)
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遺伝子パネル検査

遺伝子パネル検査とは、がんをはじめとする病気の診断や治療方針の決定に役立つ遺伝子の変異を調べるための検査です。この検査では、患者のがん細胞や血液などから遺伝情報を抽出し、特定の遺伝子や遺伝子群の異常(変異、欠失、増幅など)を網羅的に解析します。複数の遺伝子を一度に調べることができるため、効果的な治療方法や薬剤の選択に役立ちます。

遺伝子パネル検査の目的
1.がんの診断・治療: がんの種類や進行度、特定の治療薬(分子標的薬や免疫療法など)の効果が期待できるかを判断するために、遺伝子の変異を調べます。
2.個別化医療(プレシジョンメディシン): 各患者の遺伝的な背景に基づいて、最適な治療法を選択するために使われます。患者ごとに異なる遺伝子変異に基づいて、より効果的で副作用の少ない治療が行われます。
3.治療薬の選択: 特定の遺伝子変異が治療薬の効果に関連する場合、その変異を持つ患者にはその薬が推奨されます。
4.予後の評価: 遺伝子の変異によっては、がんの進行や治療の反応性に影響を与えることがあり、これに基づいて将来的な治療方針を調整します。

遺伝子パネル検査の仕組み
多くの場合、がんの患者から採取したがん組織や血液を使用し、数百から数千もの遺伝子を同時に調べることができます。次世代シーケンサー(NGS)という技術を用いて、これらの遺伝子の変異を解析します。

使用例
例えば、肺がんや乳がん、前立腺がんなどで見られる特定の遺伝子変異(EGFR、BRCA1/2、TP53など)が治療法の選択に大きく影響することがあります。こうした変異が確認された場合、患者はそれに対応する特定の治療を受けることができます。

遺伝子パネル検査は、がん治療における個別化医療の基礎を支える重要なツールです。

イピリムマブ(商品名:ヤーボイ)

イピリムマブ(商品名:ヤーボイ)は、免疫チェックポイント阻害薬に分類される抗CTLA-4抗体薬で、がん治療において主に悪性黒色腫(メラノーマ)や腎細胞がんなどの治療に使用されます。イピリムマブは、CTLA-4という免疫抑制分子をブロックすることでT細胞の活性化を促し、がん細胞に対する免疫反応を高めることで、がんの進行を抑制します。

イピリムマブの特徴と効果

  1. CTLA-4経路を標的:CTLA-4はT細胞上に存在する免疫抑制分子で、T細胞の過剰な活性化を抑制する役割を持っています。イピリムマブはCTLA-4に結合し、その働きを抑制することで、T細胞の活性化を促進し、がん細胞に対する攻撃を強化します。
  2. 併用療法での効果:イピリムマブはオプジーボ(ニボルマブ)などの他の免疫チェックポイント阻害薬と併用することで、さらに高い治療効果を発揮することが確認されています。この併用により、進行がんの患者においても長期的な生存効果が期待されます。
  3. 高い治療効果:特に進行悪性黒色腫や腎細胞がんで、従来の治療法に対して優れた治療効果を示しており、再発や転移のある患者に対しても効果があるとされています。

副作用

イピリムマブの主な副作用には、免疫関連の副作用(大腸炎、肝炎、皮膚炎、内分泌障害など)が含まれます。これらの副作用は、免疫系の過剰な活性化によって引き起こされるため、治療中は副作用の早期発見と適切な管理が重要です。多くの場合、ステロイド薬で対応することが可能ですが、重篤な場合には治療の一時中断や中止が必要となることもあります。

承認と使用状況

イピリムマブは、アメリカFDAや日本の厚生労働省などで悪性黒色腫や腎細胞がんをはじめとするがん治療薬として承認されています。特に、オプジーボとの併用療法は進行がんに対する新たな治療選択肢として注目されています。

栄養療法

適切な栄養管理は、身体機能を維持・増進させます。特に免疫療法のように、細胞を利用した治療の場合、栄養が重要な要素になると考えられます。 がん患者さまに対するダイエットカウンセリングは、治療中の体重減少抑制、栄養状態・QOL・身体機能の維持、がん治療の継続に有効との報告があり、ガイドライン 1,2)でも推奨されていますが、本邦の報告は多くありません。

1)日本静脈経腸栄養学会(編): がん治療施行時.静脈経腸栄養ガイドライン第3版,照林社,東京,2013,pp333-343
2)Arends J,Bodoky G,Bozzetti F,et al.: ESPEN Guidelines on enteral nutrition: Non-surgical oncology.Clin Nutr 25: 245-259, 2006

がんにおける栄養状態低下の誘因として食欲低下と代謝異常になりますが、これらを一つ一つに対して対策していく必要があります。当グループでは免疫の環境を改善するためにも積極的に栄養療法を取り入れています。

●食欲低下
味覚、臭覚の変化
疼痛、発熱 などの症状
がん悪液質 (サイトカイン・トキソホルモンが影響)
浮腫、腹水、疼痛等諸症状 不安などの精神的要因
意識障害 など
●代謝異常
エネルギー消費
代謝亢進
合成障害
吸収障害

エクソーム解析

エクソーム解析とは、ヒトのゲノムのうち、エクソンと呼ばれるタンパク質をコードする遺伝子領域(エクソーム)を特異的に解析する技術です。エクソンは全ゲノムの約1~2%を占めますが、病気に関連する多くの遺伝子変異がこの領域に存在するとされているため、エクソーム解析は疾患の原因となる遺伝子変異を効率的に見つけるために広く利用されています。 エクソーム解析の主な目的は、特定の病気や症状に関与する遺伝子変異を特定することです。特に、遺伝性疾患やがんの研究・診断において用いられることが多いです。全ゲノムを解析する全ゲノム解析と比べて、エクソーム解析は解析する範囲が狭いため、コストや時間を抑えつつ、重要な変異を特定できる利点があります。 解析の流れは以下の通りです:

  1. サンプル収集:血液や唾液からDNAを抽出。
  2. DNAの断片化とエクソン領域のキャプチャ:エクソン領域を選択的に取り出す。
  3. 次世代シーケンサーで解析:エクソン領域を配列決定し、変異を検出。
  4. バイオインフォマティクス解析:得られたデータを解析し、遺伝子変異を特定。
エクソーム解析は、精密医療(Precision Medicine)の分野でも重要で、個々の患者に対して遺伝的な情報に基づいた治療方針を決定するのに役立っています。

エフェクターT細胞

エフェクターT細胞は、感染やがん細胞を直接攻撃する免疫細胞です。ナイーブT細胞が抗原を認識すると分化してエフェクターT細胞となりますが、主に細胞傷害性(キラー)T細胞(CD8+)とヘルパーT細胞(CD4+)に分けられます。キラーT細胞は感染細胞や腫瘍細胞を破壊し、ヘルパーT細胞は言葉の通り、免疫細胞を活性化します。エフェクターT細胞は短命で、目的を達成した後はアポトーシス(細胞死)しますが、一部はメモリーT細胞として残ります。

エンハーツ(一般名:トラスツズマブ デルクステカン)

エンハーツ(Enhertu)は、乳がんや胃がん、他の特定のがん治療に使用される抗体薬物複合体(ADC)です。日本では、第一三共株式会社とアストラゼネカ株式会社が共同で開発した治療薬として承認されています。主成分は「トラスツズマブ デルクステカン」(trastuzumab deruxtecan)で、HER2(ヒト上皮成長因子受容体2)と呼ばれるタンパク質を標的にします。

エンハーツの特徴と作用機序

エンハーツは、HER2を発現するがん細胞に結合し、がん細胞内に薬剤を送り込むという特異なメカニズムを持っています。以下がその作用機序の詳細です。

  1. HER2標的:HER2は乳がんや胃がんの一部に高発現しており、がん細胞の増殖を助ける役割を果たしています。エンハーツはHER2に結合することで、がん細胞を特異的に攻撃します。

  2. 抗体薬物複合体(ADC):エンハーツは抗体と薬剤を結合させた「ADC(Antibody-Drug Conjugate)」であり、抗体がHER2陽性のがん細胞に結合した後、薬剤ががん細胞内部に取り込まれてがん細胞を殺傷します。

  3. がん細胞内での薬剤放出:エンハーツがHER2陽性のがん細胞に結合すると、細胞内に吸収され、細胞内で化学物質(トポイソメラーゼI阻害剤)を放出します。この物質はがん細胞のDNAにダメージを与えるため、がん細胞の増殖と分裂が抑えられます。

適応症

エンハーツは以下のような特定のがんの治療に使用されます:

  • 乳がん:HER2陽性乳がんに対して特に有効とされています。また、HER2低発現乳がんの一部にも適応が拡大されています。
  • 胃がん:HER2陽性の進行性または転移性胃がんの治療に使用されることが多いです。

エンハーツの副作用

エンハーツの主な副作用には以下のものがあります:

  • 間質性肺疾患(ILD):エンハーツの副作用の中で特に注目されているものが間質性肺疾患で、重篤なケースでは致死的な可能性もあります。治療中に呼吸困難や咳などの症状が現れた場合には、すぐに医療機関での確認が推奨されます。
  • 骨髄抑制:白血球や血小板が減少することで、感染症や出血リスクが増加します。
  • 消化器症状:吐き気、嘔吐、下痢などの症状が見られることがあります。

エンハーツの効果と今後の展望

エンハーツは、多くの臨床試験で高い有効性が確認されており、治療の選択肢が限られているがん患者にとって大きな期待が寄せられています。HER2陽性がんだけでなく、HER2低発現のがんにも効果を示すことが分かり、新たな治療領域の拡大が期待されています。また、他のがん種(例:肺がんなど)での適応も進められており、今後も注目される治療薬です。

エンハーツはがん治療におけるADC技術の進歩を象徴する薬剤であり、HER2を標的とする新しい治療選択肢として、がん患者のQOL(生活の質)改善に貢献しています。

オニバイド(Onivyde)

オニバイド(Onivyde)は、イリノテカン リポソーム注射液のブランド名で、膵臓癌の治療に用いられる抗がん剤です。特に、ジェムシタビン治療後の進行膵臓癌の治療に適応され、他の化学療法と組み合わせて使用されることが一般的です。従来のイリノテカンと異なり、リポソーム化することで腫瘍部位への薬剤到達性を高め、血中での安定性を向上させ、副作用を軽減する効果が期待されています。

オニバイドの特徴

  • リポソーム製剤:リポソーム(脂質二重層の小さな袋)で薬剤を包むことで、薬が標的部位に到達するまで分解されにくく、腫瘍部位で徐々に放出されるため、従来のイリノテカンに比べて副作用が少ないとされています。
  • 作用機序:イリノテカンはDNAトポイソメラーゼI阻害薬で、がん細胞のDNA複製を妨げることで細胞の分裂を抑制し、がん細胞の増殖を阻止します。

適応症と使用方法

オニバイドは、進行した膵臓癌に対してフルオロウラシル(5-FU)およびロイコボリンとの併用で使用されます。特に、ジェムシタビンによる治療が無効であった場合の次の治療選択肢として用いられます。

副作用

代表的な副作用としては、下痢、白血球減少、悪心、嘔吐、疲労感などが挙げられます。また、リポソーム製剤であっても骨髄抑制や消化器系の副作用が発生するため、使用には十分な管理が必要です。

オニバイドは、膵臓癌の予後改善を目的とした治療オプションの一つであり、リポソーム化によって効果と安全性のバランスが調整されています。

NAPOLI-1試験の概要と結果

オニバイドはジェムシタビン無効例に対して治療効果が確認されており、特に進行膵臓癌に対する治療効果が示されています。代表的な臨床試験として、NAPOLI-1試験が行われ、この試験によりオニバイドの効果と安全性が確認されました。

ジェムシタビン治療後に進行が見られた膵臓癌患者を対象にした第3相試験であり、次の3つの群で比較が行われました:

  1. オニバイド単剤投与群
  2. オニバイド+5-FU/ロイコボリン併用群
  3. 5-FU/ロイコボリンのみの群

試験結果

  • 全生存期間(OS): オニバイド+5-FU/ロイコボリン併用群の全生存期間中央値は 6.1か月 で、5-FU/ロイコボリンのみの群の 4.2か月 に比べ、有意な延長が認められました。
  • 無増悪生存期間(PFS): 併用群では 3.1か月 であり、5-FU/ロイコボリンのみの群の 1.5か月 よりも長く、生存期間と無増悪期間の両方において有意な改善が見られました。

これにより、オニバイド+5-FU/ロイコボリンの併用療法がジェムシタビン無効例において治療効果があると判断され、標準的な治療選択肢として認識されています。

治療効果の臨床的意義

オニバイドの併用療法は、進行膵臓癌の予後改善において意味のある成果をもたらしており、ジェムシタビン無効例に対する新たな治療オプションとして期待されています。しかし、生存期間延長はわずか数か月であり、依然として膵臓癌治療の困難さが示されています。そのため、他の新しい治療法や併用療法の研究が進められている現状です。

このように、NAPOLI-1試験の結果を通じてオニバイドの併用療法が効果的であることが確認されています。

オプジーボ(一般名:ニボルマブ)

オプジーボ(一般名:ニボルマブ)は、免疫療法の一種である免疫チェックポイント阻害剤の一つで、がん治療に用いられています。特に、体の免疫システムががん細胞を攻撃する力を高めることを目的とした薬です。

仕組み:
オプジーボは、T細胞と呼ばれる免疫細胞に働きかけ、免疫応答を抑制する「PD-1(Programmed Cell Death Protein-1)」というタンパク質の働きを阻害します。通常、がん細胞はこのPD-1を活性化させることで、T細胞の攻撃を回避し、免疫から隠れます。オプジーボはこのPD-1の働きをブロックし、免疫細胞が再びがん細胞を攻撃できるようにします。

適応症:
オプジーボはさまざまな種類のがんに対して使用されており、以下のような適応症があります

悪性黒色腫(メラノーマ)
非小細胞肺がん(NSCLC)
腎細胞がん(RCC)
ホジキンリンパ腫
頭頸部がん
胃がん
食道がん
膵臓がんなど

これらのがんは免疫逃避メカニズムを持つため、従来の治療法では効果が得られにくいケースが多いです。しかし、オプジーボは免疫応答を再活性化することで、これらのがんに対して有効な治療効果を示します。

副作用:
オプジーボは免疫系を活性化させるため、自己免疫関連の副作用が発生することがあります。代表的な副作用には次のものがあります:

皮膚の発疹やかゆみ
下痢や腸炎
肝機能障害
肺炎
内分泌障害(甲状腺機能低下や副腎機能不全など)

これらの副作用は、早期に適切な対応を行うことで管理可能です。

効果と今後の展望:
オプジーボは免疫療法の分野で大きな進展をもたらした薬であり、特に進行がんや再発がんに対して長期的な効果が期待されています。また、免疫チェックポイント阻害剤は他の治療法(化学療法、放射線治療、他の免疫療法など)と組み合わせて使用されることで、より高い効果が得られるケースもあります。

オプジーボは、免疫療法の一環として、がん治療の選択肢を大きく広げていますが、どの患者にも適用できるわけではないため、適切な治療計画を立てることが重要です。

オラパリブ(商品名:リムパーザ)

オラパリブ(リムパーザ)は、特にBRCA1およびBRCA2遺伝子変異を持つがん患者に対して効果を発揮するPARP阻害剤です。主に乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がんなどの治療に使用されます。この薬が効果を発揮する遺伝子変異とそのメカニズムは次のように説明されます。

効果を発揮する遺伝子変異

オラパリブは、DNA修復に重要な役割を果たすBRCA1、BRCA2、およびCHEK2などの遺伝子に変異を持つ腫瘍細胞に対して効果的です。これらの遺伝子は、DNAの二本鎖切断を修復する相同組換え修復(HRR)と呼ばれるメカニズムに関与しています。特にBRCA1とBRCA2に変異があると、がん細胞はこの修復経路がうまく機能せず、DNAの損傷を適切に修復できなくなります。また、CHEK2の変異もHRRの機能を損ない、がん細胞のDNA修復能力が低下します。

オラパリブの作用メカニズム

オラパリブは、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)という酵素を阻害します。PARPは、DNAの一本鎖切断を修復する役割を持っており、通常の細胞ではPARPが働くことで一本鎖損傷が修復されます。しかし、BRCA1/2やCHEK2に変異があるがん細胞では、**相同組換え修復(HRR)**が機能しないため、PARPによる修復が唯一のDNA修復手段となります。

オラパリブはPARPを阻害することで、この修復経路を妨げ、DNAの損傷が修復されないまま蓄積していきます。その結果、がん細胞は致命的なDNA損傷を受け、最終的に細胞死(アポトーシス)に至ります。このプロセスを**「合成致死性」**(synthetic lethality)と呼び、HRRの欠陥を持つ腫瘍細胞は、PARP阻害によって選択的に死滅します。

まとめ

オラパリブは、BRCA1、BRCA2、およびCHEK2に変異を持つがん患者において、DNA修復の主要な経路である相同組換え修復が損なわれているため、PARP阻害剤によるDNA損傷修復のさらなる阻害ががん細胞の死を引き起こします。このメカニズムにより、選択的にがん細胞を死滅させる効果を発揮します。

温熱療法

温熱療法は、がん細胞が正常細胞と比べて熱に弱いという性質を利用し、がんの局所に電磁波等を当てるなどして熱を加え、がん細胞を死滅させようとするがん治療法です。

がん細胞が正常細胞よりも熱に弱いことを利用した治療ですが、体も適度に温まり、免疫力を高めます。樹状細胞についてはその働きを促進し、がん細胞の認識力を高めると報告されています。

免疫力を保ちながらがんを狙い撃ちするという、当グループのがん治療戦略に合致する治療法です。また温熱療法と抗がん剤治療の併用でもよい治療成績が報告されています。 歴史は古く、1960年代から本格的な研究がはじめられました。 温熱療法には全身温熱療法という全身を加温する方法と、 局所温熱療法というがんの周辺を加温する方法があります。 一般的には、局所温熱療法がよく使用される方法で、 マイクロ波や電磁波を用いた装置でがんの周辺を温めます。

国内では装置の普及が進み、全国の多くの病院に導入されています。1996年4月から、それまで限定的であった保険も全面適用となりました。 副作用も少なく、免疫療法と併用することにより、より効果が期待できます。

か行

獲得免疫

最初に攻撃をしかける自然免疫に対して、やや遅れて誘導されるのが獲得免疫です。初期攻撃で得た病原体などの特徴を記憶し、その特徴を目印にして、T細胞やB細胞が集中攻撃します。さらに、学習したこれらの免疫細胞は、次に同じ特徴の病原体が侵入すると素早く認識して攻撃し、防御できるようになります。T細胞のうち、がんの特徴を記憶して戦うがん特異的キラーT細胞、がん特異的ヘルパーT細胞が重要になります。

活性化リンパ球療法(LAK療法)

活性化自己リンパ球療法とは、患者さまの血液からリンパ球を採取し、体外で増殖させ患者さまの体内に戻す治療方法です。抗がん剤や放射線などの治療で弱った免疫力を回復させ、がんと戦う力が高めることができる治療法です。活性化したキラーT細胞などのリンパ球が出すサイトカインや成長因子が、体内の免疫環境を整え、がん免疫の働きを助ける効果も報告されています。
治療の流れ:
患者さまの血液から得られたリンパ球を、体外で細胞を刺激する物質(サイトカインなど)を用いて攻撃力の高いリンパ球へと培養していきます(約1,000倍に増えます)。約2週間で培養は完了します。点滴により活性化されたリンパ球を体内に戻して、がんを攻撃します。
適応:
免疫療法を希望される患者さま(血液がんなど、一部適応とならないものがあります)で、がんの部位や血液データをもとに決定いたします。主に樹状細胞ワクチン療法によってキラーT細胞が増殖した後に、本療法を実施します。
他の治療との併用:
ほぼすべてのがん治療(手術、抗がん剤、放射線療法、緩和医療など)、樹状細胞ワクチン療法との併用効果を狙って併用します。

カプマチニブ(商品名:タブレクタ)

カプマチニブ(商品名:タブレクタ)は、主に非小細胞肺がん(NSCLC)の治療に使用される抗がん剤で、MET阻害薬に分類されます。カプマチニブは、特にMET遺伝子の異常(METエクソン14スキッピング変異など)を持つ患者に効果があることが知られています。この薬剤は、がん細胞の増殖や生存に関わるMETタンパク質の異常な活性化を阻害することで、がんの進行を抑えます。

カプマチニブの特徴と効果

  1. METエクソン14スキッピング変異をターゲット:この変異がある患者では、METタンパク質の分解が正常に行われず、細胞が増殖しやすい状態になります。カプマチニブは、METタンパク質の異常な活性を抑制し、がん細胞の増殖を制御します。
  2. 高い治療効果:臨床試験では、METエクソン14スキッピング変異を持つNSCLC患者に対し、効果的な治療成績が確認されています。特に治療の難しい進行肺がんの患者にも一定の効果が期待できるとされています。
  3. 経口薬:カプマチニブは経口投与で、患者が家庭でも服用できるため、治療の継続がしやすいという利点があります。

副作用

カプマチニブの主な副作用には、浮腫(むくみ)、吐き気、疲労、食欲減退などがあります。また、まれに重篤な肝機能障害や肺障害が発生することがあるため、定期的な血液検査や診察によるモニタリングが重要です。

承認と使用状況

カプマチニブは、特にMETエクソン14スキッピング変異を有する進行非小細胞肺がん患者向けの治療薬として、アメリカFDAや日本の厚生労働省などで承認されています。

肝臓がん

肝臓がんとは
原発性の肝臓がんは年間約4万人の方が発病し、3万5千人が亡くなっています。臓器別死亡者数では、男性では第3位、女性では第5位と、近年増加傾向にあるがんのひとつです。
肝臓がんの特徴は、8割以上の方が慢性ウィルス性肝炎(B型、C型など)や肝硬変をすでに患っていることです。肝切除後でも、ウィルス性肝炎などの影響で、3年以内に約7割の方で残った肝臓内に新たにがんが発生します。
ただし、小さいうちに再発を発見すれば、次の治療によってがんを消失させることも可能な場合があります。このため、治療後も定期的に血液検査や超音波検査・CT・MRIといった画像検査をお受けいただくことが重要です。

肝臓がんの治療
肝臓がんの治療法には、肝切除、肝移植、穿刺療法(ラジオ波焼灼療法(RFA)、経皮的エタノール注入(PEI)、経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT))や肝動脈塞栓術(肝動脈化学塞栓療法(TACE)、肝動脈塞栓療法(TAE))があります。
がんが肝臓の一部に限局している場合に最も適した治療法は肝切除です。術前の検査では発見されなかった小さながんも、手術時に発見して同時に切除できる利点があります。
腫瘍の大きさが3cm以下、個数が3個以下といった場合には、切除ができなくても穿刺療法が非常に有効な治療法です。
切除も穿刺療法もできない方は、全肝臓がんの4割程度います。この場合は、肝機能に応じて肝動脈塞栓術などが考慮されます。
ただし4cmを超えるがんでは半数以上で肝臓内の血管などに目に見えないがん細胞が広がっており、肝動脈塞栓術の効果が不十分になりやすいと言われています。

薬物療法:
肝細胞がんの全身薬物療法では、分子標的薬による治療(分子標的治療)や免疫チェックポイント阻害薬による治療が標準治療です。肝切除や肝移植、穿刺局所療法、肝動脈化学塞栓療法(TACE)などが行えない進行性の肝細胞がんで、体の状態を表す指標の1つであるパフォーマンスステータスと肝臓の機能がともに良好なChild-Pugh分類Aの場合には、全身薬物療法を行います。

肝細胞がんが4個以上の場合などには、鼠径部あるいは肘や手首の動脈からカテーテルを入れ、血管造影しながら先端を肝動脈まで挿入し、細胞障害性抗がん薬を注入する肝動注化学療法(TAI)が行われることがあります。
(引用:がん情報サービス)

緩和ケア

緩和ケアとは、2002年のWHO(世界保健機関)による定義による、「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな(霊的な・魂の)問題に関してきちんとした評価をおこない、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、クオリティー・オブ・ライフ(QOL;生活の質、生命の質)を改善するためのアプローチである。」と定義されています。

Palliative care

provides relief from pain and other distressing symptoms;
affirms life and regards dying as a normal process;
intends neither to hasten or postpone death;
integrates the psychological and spiritual aspects of patient care;
offers a support system to help patients live as actively as possible until death;
offers a support system to help the family cope during the patients illness and in their own bereavement;
uses a team approach to address the needs of patients and their families, including bereavement counselling, if indicated;
will enhance quality of life, and may also positively influence the course of illness;
is applicable early in the course of illness, in conjunction with other therapies that are intended to prolong life, such as chemotherapy or radiation therapy, and includes those investigations needed to better understand and manage distressing clinical complications.

すなわち緩和ケアとは、がん患者さまやそのご家族に対し、
現在の治療の目的を認識し、予後の見通しをたて、
患者さまが現在困っていることの見極めをおこない、その苦痛を緩和することにより、
患者さまやご家族のQOLを最大限まで高めることを目標とする医療行為といえます。
スクリーン リーダーのサポートを有効にする

がん・癌・ガン

がんとは、体を維持するために適切に細胞を増殖・調節することができなくなってしまい、無秩序に増えつづけるようになった細胞です。がん細胞の性質は2つあり、1つはがんが発生した場所を超えて、周囲の正常組織を破壊しながら拡がっていく「浸潤」、そしてもう一つは周囲の血管やリンパ管を壊してその中に侵入し、血液やリンパ液の中の流れに乗って離れた所で増殖する「転移」があります。がんがヒトの死因になるのは、多くの場合、「浸潤」や「転移」によって拡がって行った先で臓器が破壊され、生命の維持に必要な機能、例えば肺における呼吸や肝臓における毒物代謝が充分に行えなくなったり、出血を起こすことなどによります。

がんゲノム医療

ゲノムとは、その生物に含まれている、その生物を作るのに必要なすべてのDNAの情報を指します。一方、遺伝子とは、化学物質が意味のある順番で並んだ文字列で、それが生命を作る・起動するために必要な情報を指します。 がんゲノム医療とは、このゲノムに基づいたがん医療です。ゲノムは患者さま一人ひとり異なるため、個別化医療ともいます。プレシジョンメディスンと表現することもあります。
プレシジョンメディスンという言葉は2015年、オバマ前アメリカ大統領が一般教書演説で推進を約束したことで世界的にも知られるようになった言葉です。
「精密医療」と訳され、患者さま一人ひとりに合わせた治療全般のことを指しますが、主にがん患者さまの治療に用いられています。



【例】胃がんと診断された患者さまがいた場合
胃がんの患者さまのがん組織を採取して、遺伝子情報を解析すると、がんの原因となった遺伝子変異が見つかる場合があります。その情報を元に最も効果的な治療を行うのががんゲノム医療です。

胃がん患者さまの集団の統計から有効だと思われる抗がん剤を、その患者さま本人にも効くかどうか順々に試していく従来のやり方に比べれば、患者さまのがんの変異部分に効果を示すことが明らかな薬剤を使うため、その精度は飛躍的に高まると言えます。

しかし、現在においてはがん細胞を攻撃するだけでなく、正常な組織に対しても作用する殺細胞性抗がん剤が推奨されています。

「殺細胞性抗がん剤」とは、私たちが、がんゲノム医療で用いる「分子標的薬」とは異なります。従来より用いられている、いわゆる抗がん剤と呼ばれてきた多くの薬剤は、がんの無限増殖に伴うDNAの合成や細胞分裂を阻害することによりがん細胞を死滅させる作用をもつため、「殺細胞性抗がん剤」と言われます。これらは正常細胞においても、DNAの合成や細胞分裂の盛んな血液の細胞や、腸管、毛髪細胞などに影響を及ぼし、ダメージを与えてしまいます。一方、「分子標的薬」は、がん細胞や腫瘍環境で異常亢進を来たしている分子、すなわちがんの特性を規定する分子を標的として、その機能を制御する作用をもつ薬剤です。 標的分子ががん特有の分子と明確であるため、正常組織のダメージは少なく、より治療効果の予測が可能となります。ダメージという点でもう一つ重要なことは、正常な免疫細胞に傷害を与えないという点においてもがん治療に優位に働くと言えます。



事前に遺伝子解析を行うがんゲノム医療では薬剤の命中率が高まるだけでなく、効果が見られない薬による余計な副作用が避けられること、免疫にダメージを与えにくいというメリットがあります。

遺伝子解析の技術の発達、特定のがん細胞に有効な分子標的薬の登場でがん治療は新たなステージを迎えたと言えるでしょう。

がん抗原

免疫が、がん細胞を攻撃するのに目印となる重要な物質が、がん抗原です。通常、がんに存在する特有のタンパク質、そしてそのペプチドが、がん抗原となります。一般にアミノ酸が50個以上結合したものをタンパク質といい、50個未満のものはペプチドと呼ばれます。

がん治療の目標

がん治療の目標を大雑把に分けると、がん細胞を体内から一掃する「根治(完治)」、一掃は無理でも当面命を取られないようにする「共存・延命」、苦痛を抑えたり取り除いたりする「緩和」となります。 それぞれの目標に応じて、基本となる治療法が様々に組み合わせられます。まずは基本となるがん治療を、がんの分類に照らしながら押さえることが大切です。がんは、がん化する細胞の種類によって、癌、肉腫、白血病などに分かれます。 がんと肉腫、つまり固形腫瘍の場合、早期で原発部位に留まっているのであれば、丸ごと完治を望むことが可能です。このような場合に行われるのが「局所治療」で外科的に切除する「手術」が最も一般的です。がんの種類と広がりや全身状態によっては「放射線療法」が選ばれることもあります。

放射線療法はX線やガンマ線、重粒子線、陽子線といった放射線をがん細胞へ照射して死滅される方法です。最大の特徴は「切らずに治す」点。低侵襲、つまり臓器の形態や機能を温存でき、多くは手術よりQOL(生活の質)の低下が少なくて済みます。 白血病など全身性のがんや、固形腫瘍でも血管やリンパ管を通じてがん細胞が全身へ回ってしまっている場合(遠隔転移)には、「全身療法」が選択されます。具体的に行われるのは「化学療法」と呼ばれる抗がん剤の投与です。最近では、がんを狙い撃ちにする「分子標的薬」が進歩しています。また、乳がんや前立腺がんなど、ホルモンによく反応する性質がある場合にはホルモン剤等を使った「ホルモン療法」も選択肢となり得ます。

ほとんどの抗がん剤は細胞分裂を阻止したり、細胞の自殺を促すように働きます。がん細胞以外の細胞分裂の多い細胞にも作用しますので、副作用が生じます。効果自体も場合によって異なるので、向き不向きを見極めながら副作用を上手にコントロールする必要があります。なお、近年、多くの分子標的薬が誕生しています。分子標的薬は、がん細胞以外に悪影響がないことをめざした抗がん剤として開発が進んできたものです。したがって、副作用がこれまでの抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)に比べて副作用は少ない薬剤がほとんどです。これらは、根治率向上を目指すため、手術や放射線療法、免疫療法と組み合わせることも多くなっています。

免疫療法については前述の治療に比較して、直ぐに効果が表れる治療法ではありません。それは自己の免疫を回復させることで治療効果を得るものだからともいえます。一方、、一旦効果が表れてくると長く効果が持続することが分かっており、副作用も少ないことから、がんの一掃は無理だとしても共存・延命が期待できる治療ともいえます。医学的には、Long SD(長期的な進行停止)、Slow PD(緩慢な進行)と表現することもあります。

がん特異的免疫療法

がん特異的とは、がんだけを標的としたという意味になります。具体的には、がん特異的キラーT細胞ががん細胞を攻撃する主役の細胞になります。
このキラーT細胞が、免疫力の低下した患者さまの体の中で、どれだけ効率的に「数とパワー」を増し、がんの中に攻め込んでいけるかが、がん治療効果に重要であることがわかってきました。
このがん特異的キラーT細胞の「数とパワー」を増やすためには、もう一つのカギとなる細胞、がん特異的ヘルパーT細胞の存在が不可欠です。
これらの2つのがん特異的T細胞を同時に戦う力を与える、がん免疫の中心的役割を担う細胞が樹状細胞です。

がん難民

日本人の2人に1人が、がんになるといわれています。しかし現状のがん治療は早期に発見された非進行期(早期)がんの患者さまに対する根治治療が中心となっており、進行期や再発がんといった根治する可能性が極めて低いがんの患者さまは打つ手がないと治療を拒否されることがあります。このように自分が治療を望んでも受けられないがん患者さまが「がん難民」と呼ばれているようです。このような「がん難民」は毎年32万人、累計で160万人余りいるといわれています。

がん(癌)の発生

癌の発生は、正常な細胞が異常に増殖し、制御不能な状態に陥ることで始まります。通常、細胞は規則的に成長し、分裂し、特定の役割を果たした後に死滅するというサイクルをたどりますが、癌細胞はこのプロセスを破り、異常に分裂し続けます。

癌の発生メカニズムには、以下のような要因が関与します:

遺伝子変異: 正常な細胞のDNAに変異が起きると、細胞の増殖を制御するメカニズムが破壊されます。これにより、細胞が異常に増殖し続けることが可能となります。がん遺伝子や腫瘍抑制遺伝子の異常が関与することが多いです。

環境要因: 放射線、化学物質(タバコの煙やアスベストなど)、紫外線、ウイルス(ヒトパピローマウイルスなど)は、細胞のDNAにダメージを与え、変異を引き起こす原因となります。

生活習慣: 飲酒、喫煙、不適切な食事、運動不足、肥満などの生活習慣が、癌の発生リスクを高めることが知られています。

慢性炎症: 慢性的な炎症は、細胞の増殖を促進し、DNAに損傷を与える可能性があります。例えば、潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患は、大腸癌のリスクを高めます。

免疫系の低下: 免疫系が正常に機能していると、体内の異常細胞を排除する役割を果たしますが、免疫力が低下すると、がん細胞が見逃されやすくなり、増殖が進む可能性があります。

癌は、多段階の過程を経て発生します。まず、DNAに初期の変異が生じ、その後さらに多くの変異が蓄積され、細胞は徐々にがん化していきます。この過程は年単位で進行することが多く、初期段階では症状がないことが多いです。

ガンマナイフ

ガンマナイフは脳腫瘍、脳動静脈奇形などを治療する 定位的放射線外科治療の装置のことです。 このガンマナイフでは、201個のコバルト(Co60)線源が半円球状に配列され、 201本のガンマ線のビームが一点に集中するように設計されています。

患者さまの頭に穴のあいたヘルメットのようなものをかぶせますが、このヘルメットの穴に合わせて201個のコバルト60の線源が置いてあります。この線源から穴を通してガンマ線を照射して、病巣に集中的にあてます。あてたい部分がヘルメット中心部にくるようにすればピンポイントでがんを狙い撃ちすることができます。

周辺の正常な脳組織へ与える影響を最小限に抑えながら、 中心部にある病変に対しては通常の放射線治療よりも、 極めて高い線量の放射線を一回で照射することが可能となります。 開頭することなく、脳腫瘍、脳動静脈奇形などを治療できます。

脳腫瘍の場合、周囲の脳を守りながら腫瘍だけを攻撃しなければなりませんが、ガンマナイフは非常に優れた力を発揮します。対象の多くは、肺や乳房など他の部位から転移した脳腫瘍で、小さな脳転移は、ガンマナイフによる治療だけで消えてしまうことが多いです。

このように狙撃主として優秀なガンマナイフですが、ひつとつだけ難点として、麻酔をかける必要があるということがあげられます。正確に照射するために、患者さまの頭に金属の固定枠をピンで取り付ける必要があり、その際に痛みが伴うため、局所または全身麻酔をかけなければなりません。

がんワクチン

がんワクチン治療には、以下の2種類があります。
【1】ペプチドワクチン
人工的に合成したがんの目印(人工がん抗原:多くの場合は、タンパク質よりももっと小さいアミノ酸が連結した「ペプチド」というものを使用。)を患者さまに投与して、体内でがんを狙い撃ちするリンパ球や抗体を作らせるがん治療法です。

患者さまに注入されたペプチドは、体内の樹状細胞に取り込まれて、樹状細胞からリンパ球(キラーT細胞)にその情報が伝達されます。情報を伝達されたリンパ球(キラーT細胞)が、がん細胞を攻撃します。また、「ワクチン」と呼ばれるように、がん抗原の記憶がリンパ球に残り、抗腫瘍効果が長期間期待できます。「樹状細胞を培養する必要がなく、患者さまの負担が小さい」という利点がある一方、「体外で大量に培養した樹状細胞にがん抗原を取り込ませて体内に投与すれば、より治療効果は高くなるのではないか?」という考えから、日本では樹状細胞ワクチン療法のほうが多く医療現場に取り入れられています。

【2】樹状細胞ワクチン療法
体外で大量に作製した樹状細胞にがん抗原を与えて、患者さまの体内に戻してキラーT細胞をより効率よく増やすことによって、抗腫瘍効果を狙った細胞がんワクチン療法です。

キラーT細胞

細胞表面にCD8という分子を持つT細胞の一種で、ヘルパーT細胞からの指示を受け、宿主(患者さま)にとって異物になる異常細胞(がん細胞、ウイルス感染細胞など)を認識し、たんぱく質の1種であるパーフォリンを放出して破壊する細胞です。細胞傷害性T細胞(CTL)ともいいます。

役目を終えたキラーT細胞はほとんど死滅しますが、一部はメモリーキラーT細胞として残り、同じ敵に備えることができます。

クール(セット)

「クール(セット)」とは治療期間の単位で、各治療法ごとに異なります。プレシジョンクリニックの樹状細胞ワクチン療法では、5~7回(3〜4か月の期間)の樹状細胞ワクチンの投与を1クール(1セット)としています。

ケトン食療法

ケトン食療法(ケトジェニック・ダイエット)は、脂肪の割合を高くし、炭水化物の摂取を極力控えた食事法で、糖質制限食をさらに厳しくした療法です。これにより体内のエネルギー源が糖からケトン体(脂肪由来のエネルギー源)にシフトし、「ケトーシス」と呼ばれる代謝状態が起こります。この食事法は、特にがん治療においても注目されています。

ケトン食療法の背景と基礎研究

ケトン食はもともと難治性小児てんかんの治療食として1920年代から欧米や日本で実施されてきた歴史があります。2010年には「コクランライブラリー」で小児てんかんの治療食として正式に採用され、2011年には英国立医療技術評価機構でもその効果が認められています。また、アメリカのアイオワ大学と米国国立衛生研究所(NIH)によって、ケトン食ががん治療に与える影響を研究するため、2011年8月に非小細胞肺がんのステージIV患者を対象にした臨床試験が開始されました。

日本における臨床研究

国内では、第53回日本癌治療学会学術集会で「肺癌患者におけるケトン食の有用性と安全性についての検討」と題し、大阪大学大学院医学系研究科漢方医学寄附講座の萩原圭祐教授らによる発表が行われました。この研究では、2013年に肺腺がんのステージIV患者に対してケトン食療法を導入し、5つの症例が報告されました。結果として、2例においてがんの寛解が見られ、1例では胸膜播種があるものの長期間進行が停止し、他の2例は進行が見られたものの、ケトン食療法が一部の患者において一定の有効性を示すことが確認されました。

がん治療でのケトン食療法の可能性

がん細胞は、通常の細胞よりも多くの糖(グルコース)を必要とし、グルコースをエネルギー源とする嫌気的解糖(ワールブルグ効果)を活発に行います。ケトン体を主要なエネルギー源とするケトーシスの状態では、体内のグルコースレベルが低下し、理論的にはがん細胞がエネルギーを得にくくなるため、がんの成長が抑制される可能性があると考えられています。

ケトン食療法の利点と研究結果

  1. がん細胞の増殖抑制
    いくつかの研究で、ケトン食療法が特定のがんの増殖を抑制する可能性が示唆されています。特に、脳腫瘍や一部の固形腫瘍において効果が期待されています。ただし、この効果はがんの種類や個人の代謝状態に依存するため、効果にばらつきがあります。

  2. 抗がん治療との併用
    ケトン食療法は、放射線治療や化学療法との併用により、がん細胞が治療に対してより敏感になるとされ、治療効果を高める可能性があると考えられています。

  3. インスリンと炎症の低減
    ケトン食療法によりインスリンレベルが安定し、炎症が抑えられることが期待されます。インスリンの急上昇はがんの成長因子となる可能性があり、インスリン低減はがん治療の観点で有利です。また、慢性炎症もがんの進行を助長する要因であるため、炎症の低減は抗がんに有利です。

ケトン食療法のリスクと限界

  • 栄養不足
    ケトン食では炭水化物摂取が非常に少なくなるため、ビタミンやミネラルが不足しやすくなります。そのため、医師や栄養士のサポートのもとで行うことが重要です。

  • 長期的な影響の不明確さ
    現在のところ、長期的なケトン食療法の影響については、がん患者に対する十分なデータがありません。個人差が大きいため、長期的に安全で効果が持続するかについては引き続き研究が必要です。

  • 特定のがんへの適応
    ケトン食が全てのがんに有効とは限らず、特にグルコースへの依存度が低いがんや、ケトン体を利用できるがんには効果が薄いと考えられます。

まとめ

ケトン食療法はがん治療の補助として期待が持てるものの、すべてのがん患者に適しているわけではありません。研究結果から、動物だけでなく一部のヒトのがんにも一定の効果が期待できることがわかっていますが、患者のエネルギーバランスや免疫、治療耐性にどのように影響するかを理解し、適切な管理とモニタリングが求められます。

ゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用療法(通称:ジェムザール+アブラキサン療法・GnP)

ゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用療法、通称「ジェムザール+アブラキサン療法」は、主に膵臓がんの治療に用いられる化学療法の一種です。この治療は、ゲムシタビン(ジェムザール)とナブパクリタキセル(アブラキサン)の2つの薬剤を組み合わせて使用するもので、進行膵臓がんや転移性膵臓がんに対する効果が認められています。

1. 薬剤の作用機序

  • ゲムシタビン:核酸合成を妨害することで、がん細胞の増殖を抑える抗がん剤です。DNAの複製過程でがん細胞に取り込まれ、細胞分裂を阻止してがん細胞を死滅させます。
  • ナブパクリタキセル:パクリタキセルをアルブミンというたんぱく質に結合させた薬剤で、がん細胞の微小管に作用し、細胞分裂を妨げます。従来のパクリタキセルに比べて、副作用が少ないとされています。

2. 治療効果

ジェムザール+アブラキサン療法は、進行膵臓がんにおいてがんの増殖を抑制し、延命効果が期待される治療法です。特に、FOLFIRINOX療法(フォルフィリノックス療法)に比べると副作用が少ないため、体力が低下している患者にも適用しやすい利点があります。臨床試験では、ジェムザール単剤に比べて併用療法は生存期間の延長が確認されています。

3. 副作用

  • 一般的な副作用:骨髄抑制(白血球や血小板の減少)、貧血、吐き気、倦怠感、脱毛など。
  • 重大な副作用:重度の感染症リスクが増加しやすいため、治療中の体調管理が重要です。また、神経障害(手足のしびれ)も発生することがあります。

4. 治療スケジュール

ジェムザール+アブラキサン療法は、通常3週を1サイクルとして行われます。具体的には、1・8・15日目に点滴を行い、22日目に休薬を取る形が一般的です。

この治療法は、効果が認められている一方で副作用も伴うため、医師とよく相談しながら進めることが推奨されます。また、効果や副作用の管理には定期的な検査や体調のチェックが欠かせません。

5. 併用療法についての補足

ゲムシタビン単独治療からゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用療法(ジェムザール+アブラキサン療法・GnP)へ進化したことで、治療効果が向上する一方、新たなデメリットもあります。以下に、主なメリットとデメリットを詳しく説明します。

  1. 生存期間の延長

    臨床試験で確認された通り、ゲムシタビン単独療法に比べ、併用療法は生存期間を有意に延ばす効果が示されています。特に進行した膵臓がんや転移性膵臓がんの治療において、がんの進行を抑え、延命効果が期待されます。
  2. 腫瘍縮小効果の向上

    ナブパクリタキセル(アブラキサン)の作用により、がん細胞の分裂をより強力に阻害できるため、腫瘍の縮小や抑制がゲムシタビン単独療法よりも顕著に現れやすくなります。これにより、患者の生活の質を改善する効果も期待されます。
  3. 治療の選択肢が増える

    ゲムシタビン単独療法では効果が得られにくかった患者に対しても、新たな治療選択肢を提供することが可能になり、特にFOLFIRINOX療法が適用できない患者にとって有効な代替手段となります。
  4. 副作用の増加

    ゲムシタビン単独に比べ、併用療法は副作用が増加する傾向があります。特に、骨髄抑制(白血球・血小板の減少)による免疫力低下や、末梢神経障害(手足のしびれ)が現れることが多く、治療中の体調管理がさらに重要です。
  5. 治療スケジュールが厳しい

    ゲムシタビン単独療法では比較的緩やかなスケジュールが設定されることが多いのに対し、併用療法では1・8・15日目に点滴を行う3週間のサイクルが標準であり、患者の通院頻度が増えます。これは特に高齢者や通院が難しい患者にとって負担となる可能性があります。
  6. 費用面の負担

    薬剤費用もゲムシタビン単独に比べ高額になりがちです。ナブパクリタキセルの追加により、経済的な負担が増加し、長期間の治療が必要な場合は、保険適用を考慮しても患者にとって負担が大きくなることがあります。
  7. 感染リスクの増加

    骨髄抑制の影響で感染症のリスクが増加するため、定期的な血液検査や感染予防が不可欠です。感染症が発生すると治療スケジュールに遅れが生じることもあり、これが治療の進行に影響を与える可能性があります。

ゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用療法は、より強力な治療効果が期待できる一方、患者への負担も増加します。そのため、患者の年齢や体力、既往歴などを考慮し、医師と相談しながら治療計画を慎重に立てることが重要です。

抗がん効果(抗腫瘍効果)

抗がん効果(抗腫瘍効果)とは、がんの増殖と浸潤を抑制し、減弱させる効果のことです。

抗がん剤治療(化学療法)

化学療法とは、薬を使って、がんを治療する方法のことです。 抗がん剤、ホルモン剤、免疫賦活剤などがこれに相当します。 ここでは、抗がん剤治療について説明します。

抗がん剤の種類
抗がん剤は作用の仕方や由来などにより、「殺細胞性抗がん剤」 と「分子標的薬」に分類されます。「殺細胞性抗がん剤」はさらにアルキル化剤、 代謝拮抗剤、抗がん性抗生物質、植物アルカロイドなどに分類されます。 最近は、がん細胞に特異性の高い標的分子を探し出し、その標的に効率よく作用する薬(分子標的薬)の開発が盛んに行われています。 使い方も静脈注射、内服などによる全身投与のほかに、肝臓の動脈へ注入して肝臓のがんに濃い抗がん剤が行き渡るようにする方法など、いろいろあります。

より薬物有害反応が少なく、効果の高い薬の開発が期待されています。

抗がん剤の特徴
抗がん剤は、基本的には全身にほぼ均等に作用するため、「全身治療」と言えます。がんには、抗がん剤によく反応するタイプのものと、そうでないものがあり、白血病などのがんは抗がん剤治療によって完全に治すことが期待できます。しかし、ほとんどのがんに対しては、抗がん剤だけでがんを完治させることは出来ません。抗がん剤を使う目的は、がん細胞の増殖を抑えて、がんの進行を抑えることです。 がんを完全に治すことができない場合でも、がんの大きさを小さくすることで、延命効果や痛みなどの症状を和らげることができます。
ただし、抗がん剤は、全身にほぼ均等に作用するため、がん細胞よりもはるかに数が多い正常の細胞にも悪影響を与えるため、抗がん剤の多くは副作用を伴うことが多いのが欠点です。

抗がん剤の副作用
抗がん剤(特に殺細胞性抗がん剤)には副作用が伴います。それは、がん細胞だけでなく正常な細胞にもダメージを与えるためです。したがって患者さまの全身状態(体調)が良くないと、かえって悪い結果を招いてしまうこともあります。抗がん剤は効果と副作用のバランスを考えながら使うことが非常に重要です。

当クリニックが提供する「樹状細胞ワクチン療法」をはじめとする免疫細胞療法は患者さまご自身の細胞を使用し、がん細胞を「狙い撃つ」治療です。自分の細胞を用いるため正常細胞に対する影響が少なく、副作用はほとんどないことがその特徴になります。

抗がん剤の副作用

『抗がん剤』とは
がんに対する薬物療法で使われる代表的なものが「抗がん剤」です。従来から使われている殺細胞性抗がん剤と分子標的薬を合わせて「化学療法」といいます。

殺細胞性の抗がん剤は、細胞の核内でDNA合成や細胞増殖にかかわる分子に作用し、細胞の分裂や増殖を阻害することで効果を発揮します。しかしながら、活発に増殖、分裂する正常細胞に対しても毒性を示すことから、副作用などによる患者さまへの身体的負担も高いものでした。一方、分子標的薬の殺細胞性抗がん剤との大きな違いは作用の仕方です。分子標的薬は、がん細胞の増殖に関与する増殖因子や、増殖因子の受容体、細胞内シグナル伝達物質など、固有の標的分子に対して特異的に作用します。そのため、正常細胞への影響が小さく副作用の軽減が期待される薬剤です。この分子標的薬により治療成績も向上するたくさんの報告があり、安全性だけでなく有効性の面でもがん治療に大きく貢献しています。

薬物療法には他にも増殖がホルモンに依存するがん種に対しては、ホルモン剤による治療法(ホルモン療法)、また免疫療法として免疫チェックポイント阻害剤もあります。

抗がん剤は100以上もの種類があります。投与方法は経口(飲み薬)、点滴、注射など薬によってさまざまあり、投与量や機関もそれぞれ異なってきます。近年は分子標的薬をはじめとする新薬の開発も進み、2剤以上を組み合わせて投与する薬物併用療法が盛んになっています。

抗がん剤は、体内に投与されると血液にのって全身をめぐり、あちらこちらにあるがん細胞を攻撃します(抗がん剤を病巣に直接投与し、局所に効かせるような治療法もあります)。白血病や悪性リンパ腫など、いくつかのがんは抗がん剤がたいへんよく効き、治癒にまで持ち込むことが可能です。しかし、ほとんどのがんに対しては、活発に増殖しようとするがん細胞の勢いを止める作用はあるものの完全にがん細胞を殺すところまでは難しいと考えられています。

抗がん剤治療は、基本的にがんを縮小させ、病気の進行を遅らせることで延命したりがんによる痛みなどの症状を緩和したりすることが目的となります。

抗がん剤の副作用
抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞にもダメージを与えるので、多かれ少なかれ副作用を伴います。
もちろん副作用の内容や程度には個人差があり「副作用があると言われてびくびくしていたが、思っていたほどではなかった」という人もいれば、途中で休んだり、量を減らしたりしないと耐えられない人もいます。

主な抗がん剤の副作用には、脱毛や吐き気、しびれなどがありますが、こうした自覚症状だけではありません。白血球が減少するなど、自覚はないものの体の内部にも副作用が生じます。おもな免疫機能を担っている白血球が少なくなると、感染症にかかりやすくなるなど、いわゆる「抵抗力」が落ちてしまうと考えられます。
近年は副作用を緩和する薬も進歩しており、以前より抗がん剤によるつらい吐き気や悪心をコントロールできるようになっています。
当クリニックが提供する「樹状細胞ワクチン療法」は患者さまご自身の細胞を使用し、がん細胞を「狙い撃つ」がん治療です。そのため、この治療法は、正常細胞に対する影響が少なく、副作用はほとんど観察されません。

抗原

抗原とは、がん細胞上のHLA(主要組織適合抗原分子)と呼ばれるタンパク質に結合し、免疫反応を引き起こす物質です。
通常、細菌やウイルス、がんなどの異物のタンパク質などが免疫反応を引き起こす抗原となります。

抗原提示細胞

抗原提示細胞とは、細菌、ウイルス、がんなどの異物の断片を自分の細胞表面上にくっつけ(これを提示といいます)、T細胞を活性化させる細胞です。
抗原提示細胞は細胞表面上に主要組織適合抗原分子(HLAといいます)を持ち、これに抗原を載せて提示します。
T細胞はHLA上に提示された抗原を認識して活性化し、引き続いてそれに対する免疫反応をおこします。
樹状細胞は、非常に強力な抗原提示細胞であり、樹状細胞ワクチン療法はその機能を利用したがん治療法になります。

抗体薬物複合体(ADC, Antibody-Drug Conjugate)

抗体薬物複合体(ADC, Antibody-Drug Conjugate)は、がん治療の新しいアプローチの一つで、抗体と抗がん薬(細胞毒性薬)を結合させた治療法です。ADCは、標的特異性を持つ抗体によってがん細胞を認識し、がん細胞にだけ薬物を直接送達できるように設計されているため、従来の化学療法に比べて高い治療効果低い副作用を期待できます。

抗体薬物複合体の構成

ADCは、次の3つの主要な要素から構成されています:
  1. 抗体: 特定のがん細胞上に存在するターゲット分子(抗原)を認識するモノクローナル抗体。例えば、Trop-2やHER2といったがん細胞の表面に高発現するタンパク質がターゲットとなります。この抗体がターゲットに結合することで、抗がん薬ががん細胞に特異的に送達されます。
  2. 細胞毒性薬(抗がん薬): がん細胞を破壊する強力な薬物です。ADCでは、この細胞毒性薬が抗体に結合され、がん細胞に届けられるまで活性を保持した状態で安全に運搬されます。通常、これらの薬物は、DNAを損傷させる、細胞分裂を阻害するなど、がん細胞を直接殺傷する作用を持っています。
  3. リンカー(結合剤): 抗体と細胞毒性薬を結びつける役割を果たします。リンカーの安定性が重要で、血流中では分解されず、がん細胞に到達した時にだけ薬物が放出されるように設計されています。このリンカーが安定していることにより、治療の標的性と安全性が保たれます。

抗体薬物複合体の作用メカニズム

  1. 標的分子の認識: 抗体部分が、がん細胞上の特異的な抗原(例: HER2, Trop-2)に結合します。この抗原はがん細胞に特有または高発現しており、正常細胞にはほとんど見られません。
  2. がん細胞への取り込み: 抗体が抗原に結合すると、がん細胞は抗体ごとADCをエンドサイトーシス(細胞内取り込み)します。
  3. 細胞内での薬物放出: がん細胞内部に取り込まれると、細胞内の酵素や環境によってリンカーが分解され、薬物(細胞毒性薬)が放出されます。この薬物はがん細胞を破壊し、アポトーシス(細胞死)を引き起こします。
  4. がん細胞の破壊: 放出された細胞毒性薬は、がん細胞内で標的分子に作用し、DNAの損傷や細胞分裂の阻害を通じてがん細胞を死に至らせます。

ADCの利点

  • 高い標的特異性: 正常細胞には影響を与えず、がん細胞に対してのみ特異的に働くため、従来の化学療法に比べて副作用が少ない。
  • 強力な抗がん作用: 細胞毒性薬ががん細胞内部で直接作用するため、強力な抗がん効果が期待されます。
  • 薬剤耐性克服の可能性: 抗体によるターゲティングと新たな細胞毒性薬の組み合わせにより、薬剤耐性を持つがんに対しても有効な場合があります。

主なADC薬剤の例

  • Trodelvy(サシツズマブ・ゴビテカン): Trop-2を標的にする抗体薬物複合体で、転移性乳がんや尿路上皮がんに対して使用されます。
  • Kadcyla(トラスツズマブ・エムタンシン): HER2陽性乳がんに使用されるADCで、HER2タンパクを標的にしてがん細胞に抗がん薬を届けます。

課題

ADCは非常に強力な治療法ですが、次のような課題もあります:
  • 薬剤耐性: 一部のがん細胞が抗体や薬剤に対して耐性を獲得する可能性がある。
  • 副作用: 標的以外の細胞に影響を及ぼすことがあり、特に高用量では副作用が問題となる場合があります。
ADCは、がん治療の新たなフロンティアを切り開く技術であり、がん治療の個別化や副作用の軽減に大きな貢献をしている領域です。

コンバージョン手術(Conversion surgery)

コンバージョン手術(Conversion surgery)とは、治療が難しいとされる進行がんや転移性がんに対して、化学療法や放射線療法などを用いて腫瘍の縮小や病状の改善を図り、その後に根治を目指して手術を行う治療アプローチのことを指します。通常、手術が難しいと判断される症例でも、術前治療により腫瘍の縮小や進行の抑制が可能となった場合に、手術が行えるようになることを目的としています。

膵臓癌におけるコンバージョン手術

膵臓癌(膵がん)は、他の臓器に転移しやすく、診断時には進行していることが多いため、手術ができない非切除可能な状態と診断されるケースが少なくありません。しかし、近年の化学療法や放射線療法の進展により、非切除可能と診断された膵臓癌患者にも手術が可能になるケースが増えてきました。これがコンバージョン手術の概念です。

主な適応ケース

  1. 局所進行膵臓癌: 膵臓に限定されているが、大血管や周囲の重要な臓器に浸潤しており、直ちには切除が不可能な場合。
  2. 転移性膵臓癌: 他の臓器(肝臓、肺など)に転移が見られるが、化学療法により腫瘍が縮小し、転移が完全に制御できた場合。

コンバージョン手術のプロセス

  1. 術前化学療法/放射線療法: 術前に行われる治療は、膵臓癌の進行を抑えたり、腫瘍のサイズを縮小させる目的で行われます。一般的には、ゲムシタビンやFOLFIRINOXなどの強力な化学療法レジメンが使われます。
  2. 治療効果の評価: 術前治療後に画像検査(CT、MRI、PETなど)を行い、腫瘍の縮小や進行停止を確認します。また、腫瘍マーカー(CA19-9など)を用いて治療の効果をモニタリングすることもあります。
  3. 手術適応の再評価: 術前治療によって腫瘍が手術で取り除ける状態まで改善されていれば、手術が行われます。この段階で手術が可能かどうか、再評価を行います。
  4. 手術の実施: 手術の目的は腫瘍を完全に切除することです。膵頭十二指腸切除術(Whipple手術)や膵体尾部切除術が行われることが多いです。
  5. 術後治療: 手術後も再発予防のために、さらなる化学療法が行われることがあります。

コンバージョン手術の意義と課題

膵臓癌におけるコンバージョン手術は、手術が不可能だった症例に新たな治療の可能性を開く点で非常に意義があります。しかし、すべての患者が手術の適応となるわけではなく、化学療法や放射線療法が十分な効果を示さない場合もあります。また、術前治療による副作用や手術そのもののリスクも考慮する必要があります。

コンバージョン手術の成功要因

  • 適切な術前治療: 化学療法や放射線療法が効果を発揮し、腫瘍を手術可能な状態にすることが重要です。
  • 患者の全身状態: 長期間の化学療法や放射線療法を耐え抜くための体力や免疫力が必要です。栄養状態の管理や免疫強化も治療成功のカギです。
膵臓癌におけるコンバージョン手術は、新しい治療アプローチとして注目されていますが、治療の選択肢として慎重に評価する必要があります。

さ行

サイバーナイフ

コンピューター制御の可動式小型X線照射装置です。 患者さまの周囲を照射装置が回り、最大104カ所の停止位置から、 患者の病気部分を狙ってX線を照射します。 X線CTやMR画像に対応、誤差は1mm以内といわれています。

サイバーナイフは、エックス線を使用した細かい放射線ビームを病巣に集中照射する治療法で、頭部だけでなく頸部にも適応があります。ガンマナイフが頭部を固定して行われるのに対し、サイバーナイフはロボットアームに装置がつけられ、それが動き回って照射するので、固定の必要がありません。メッシュのマスクで固定するだけなので、数回に分けて放射線を照射(分割照射)できるという大きな利点があります。治療は1~2時間程度で入院も数日程度とガンマナイフと大きな差はありません。

細胞傷害性T細胞(CTL)

細胞表面にCD8という分子を持つT細胞の一種で、ヘルパーT細胞からの指示を受け、宿主(患者さま)にとって異物になる異常細胞(がん細胞、ウイルス感染細胞など)を認識し、たんぱく質の1種であるパーフォリンを放出して破壊する細胞です。キラーT細胞ともいいます。

役目を終えたキラーT細胞はほとんど死滅しますが、一部はメモリーキラーT細胞として残り、同じ敵に備えることができます。

サバイビン(Survivin)

Survivin(サバイビン)は、腫瘍細胞の成長や生存に重要な役割を果たすタンパク質で、癌研究において非常に注目されています。具体的には、以下のような特徴があります。

1. 役割

  • アポトーシスの抑制: Survivinは、細胞のプログラム化された死(アポトーシス)を抑制することで、癌細胞の生存を促進します。これは、癌細胞が増殖し続ける理由の一つです。
  • 細胞分裂の調整: Survivinは、細胞分裂(有糸分裂)の過程に関与し、正常な細胞分裂をサポートします。癌細胞が制御されない形で分裂を続ける背景には、このタンパク質の異常な発現が関与しています。

2. 癌との関連

Survivinは、多くの種類の癌で過剰に発現しており、腫瘍の進行、薬剤耐性、悪性度の高さに関与しています。これにより、Survivinは癌治療の標的として非常に重要視されています。高いSurvivin発現は、次のような点で癌患者の予後に悪影響を及ぼすことが知られています。
  • 治療抵抗性: Survivinは化学療法や放射線療法に対する抵抗性を与えることがあります。癌細胞が死を回避し、生き残る能力を持つため、治療が難しくなります。
  • 再発リスク: Survivinの発現が高い癌は再発リスクが高いとされています。治療後も生き残った細胞が再び増殖し、腫瘍の再発を引き起こす可能性があります。

3. 治療標的としてのSurvivin

Survivinは、癌細胞に特異的に発現し、正常細胞ではほとんど発現しないため、標的療法の開発において非常に魅力的です。具体的には、以下のようなアプローチが検討されています。
  • 小分子阻害剤: Survivinの機能を阻害する小分子薬剤が開発されており、癌治療における新しい選択肢として研究されています。
  • 免疫療法: Survivinを標的としたがんワクチンやT細胞療法の研究も進行中です。これにより、癌細胞に対してより効果的に免疫反応を引き起こすことが期待されています。

4. 臨床応用と将来の展望

Survivinを標的とした治療法は現在、前臨床試験や臨床試験の段階にありますが、これが成功すれば、既存の治療法に対する耐性を克服できる可能性があります。また、Survivinの発現レベルをバイオマーカーとして使用することで、患者に適した治療法の選択が可能になるかもしれません。 Survivinは、癌治療において重要な標的の1つとして、今後の研究と治療開発の進展が期待されます。

自然免疫

体内に侵入した病原体などの非自己をいち早く発見し、最初に攻撃をしかける先天的な反応が自然免疫です。その役割を担うのがマクロファージ、樹状細胞、好中球、NK細胞などです。

免疫システムは、「自然免疫」と「獲得免疫」の2 段構えになっています。
自然免疫は「生まれつきに備わっている免疫システム」です。病原体だけが持っているパターンを認識し、病原体の侵入を素早く検知して、マクロファージ、樹状細胞、好中球が病原体を食べて分解します。
獲得免疫は「後天的に獲得した病原体などの非自己に特異的な免疫システム」です。一度侵入した病原体の情報を記憶し、再度同じ病原体が侵入したときには初回より素早く、より強力な免疫となり、この病原体を特異的に排除することができるようになります。

腫瘍血管

腫瘍血管とは、血管内皮細胞増殖因子 (VEGF)、肝細胞増殖因子 (HGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子 (bFGF)など腫瘍が出す因子によって作られた、腫瘍を栄養するための血管です。
正常の血管は、血管壁が3層構造になっていますが、新生された腫瘍血管は1層しかありません。この腫瘍血管にWT1と呼ばれる「がん抗原」が多く発現しているという報告もあり、プレシジョンクリニックが提供する樹状細胞ワクチン療法は、この腫瘍血管み攻撃していることが示唆せれています。

腫瘍浸潤リンパ球(TIL)

腫瘍浸潤リンパ球(tumor infiltrating lymphocyte)の略で.腫瘍の中に浸潤している腫瘍反応性リンパ球,腫瘍抗原特異的なリンパ球が集中して存在することが明らかになっている。TILが多く浸潤しているがん組織をHot tumor、TILの浸潤が少ない腫瘍を、Cold tumorとも表現され、Hot tumorに関して免疫チェックポイント阻害剤の効果が高いことが入れている。本文中にもあるようにTIL中の腫瘍反応性T細胞を拡大培養して輸注する治療法が試みられている.

腫瘍浸潤リンパ球療法(TIL療法)

腫瘍浸潤リンパ球(tumor infiltrating lymphocyte)、具体的には腫瘍反応性T細胞・腫瘍特異的T細胞(がん特異的キラーT細胞、がん特異的ヘルパーT細胞など)を体外で大量培養して輸注する方法である。

腫瘍マーカー

腫瘍マーカーとは、腫瘍細胞が産生する特異性の高い物質です。
がんでない人の血液の中にも腫瘍マーカーは見つかることがあるため、腫瘍マーカーが検出されたからといって、必ずしもがんであるとは限りません。
腫瘍マーカーのほとんどが、腫瘍細胞も正常細胞も作る物質ですが、腫瘍細胞の方が大量に産生するという物質といえます。
がん患者さまでは、治療の有効性や再発の有無を知るために利用します。参考としていた腫瘍マーカーの値は一般的に、がんが再発すると高くなります。
一部の腫瘍マーカーは、呼吸器疾患や子宮内膜症、自己免疫疾患などの良性疾患と喫煙などの生活習慣で測定値が上昇する場合がありますので、複数の腫瘍マーカーを併用することでその欠点を補います。

腫瘍免疫

異物としてのがん細胞
免疫細胞たちの緻密な連携プレーによって、わたしたちのからだは守られています。からだは、自分自身(自己)の細胞で構成されており、そこへ侵入してきたウィルスや細菌などは”異物”(非自己)として認識され、免疫細胞たちの攻撃を受けて、やがて排除されます。 がん(腫瘍)細胞もまた”非自己”、すなわち異物と見なされます。
細胞の中には遺伝情報としてDNAが含まれています。これは、多少傷ついても修復され、元に戻りますが、稀に修復されず、これによって無秩序に細胞分裂を行うようになり、増殖の止まらない細胞があります。このような無秩序に増えている細胞は「がん細胞」と言われます。無秩序に増えるがん細胞は、正常な細胞に対して悪影響を与え、健康を害します。

“抗腫瘍免疫”-それはがん細胞を排除する免疫システム-
「正常細胞のがん細胞化」は、それほど珍しい現象ではありません。体内では毎日のように起こっている現象です。免疫細胞たちが、がん細胞を”非自己”として認識し、排除するため、大きながんに育つことはほとんどありません。
免疫細胞たちが行う、がん化した細胞への攻撃は、NK(ナチュラルキラー)細胞が優れています。特に、初期のがん細胞であれば、そのほとんどがNK細胞によって排除されます。NK細胞ががん細胞を減らす速度より、がん細胞の増殖能力が勝っているような場合でも、リンパ球や好中球など、他の免疫細胞たちが攻撃を加えて、最終的にがん細胞は排除されます。免疫システムは、ウィルスや細菌といった外敵だけではなく、同時にがんという病気からも私たちを守っています。

免疫細胞でも見分けにくいがん細胞
以上のように免疫細胞たちは、がん化した細胞を排除してくれますが、がん細胞も増殖するために、さまざまな手段で免疫細胞からの攻撃を回避しようとします。例えば、免疫細胞に攻撃されないために、時にがん細胞は正常細胞の「ふり」をして攻撃を逃れようとします。がん細胞は、もともと正常な細胞が変異して生じる細胞であるため、免疫細胞たちでも見分けずらい倍もあり、そして攻撃の機会を逃す場合もあります。その一方で、がん細胞の特徴を示す「がん細胞の目印」もあります。この目印をターゲットとして免疫細胞にがん細胞を攻撃させる免疫療法を特に「特異的免疫療法」といいます。

紹介状(診療情報提供書)

紹介状とは、診療情報提供書のことであり、医師が他の医師へ患者さまを紹介する場合に発行する書類です。
患者さまの個人情報ならびに症状・診断・治療など現在までの治療状況を記載しています。
大学病院など特定機能病院を受診する際、初診の患者さまは紹介状を持っていないと追加の料金を請求されることがあります。
紹介状は、患者さまの依頼によって作成される場合と、医師が他の病院の方が適切と考えて作成する場合がありますが、どちらの場合にも診療情報提供書(紹介状)を発行する場合には診療情報提供料という費用がかかります。

食事療法、栄養療法

栄養療法で、がんが治癒する訳ではないですが、
適切な栄養管理は、身体機能を維持・増進させます。特に免疫療法のように、体内の細胞を利用した治療の場合、栄養が重要な要素になると考えられています。
一方、がん患者さまに対するダイエットカウンセリングは、治療中の体重減少抑制、栄養状態・QOL・身体機能の維持、ひいては治療継続に有効との報告があり、各種ガイドライン
1,2)でも推奨されていますが、本邦の報告は多くありません。

1)日本静脈経腸栄養学会(編): がん治療施行時.静脈経腸栄養ガイドライン第3版,照林社,東京,2013,pp333-343
2)Arends J,Bodoky G,Bozzetti F,et al.: ESPEN Guidelines on enteral nutrition: Non-surgical oncology.Clin Nutr 25: 245-259, 2006


がんにおける栄養状態低下の誘因として食欲低下と代謝異常になりますが、これらを一つ一つに対して対策していく必要があります。


●食欲低下
味覚、臭覚の変化
疼痛、発熱 などの症状
がん悪液質
(サイトカイン・トキソホルモンが影響)
浮腫、腹水、疼痛等諸症状
不安などの精神的要因
意識障害 など
●代謝異常
エネルギー消費
代謝亢進
合成障害
吸収障害

診療情報提供書(紹介状)

診療情報提供書は、医師が他の医師へ患者さまを紹介する場合に発行する書類です。
患者さまの個人情報ならびに症状・診断・治療など現在までの治療状況を記載しています。
大学病院など特定機能病院を受診する際、初診の患者さまは診療情報提供書を持っていないと追加の料金を請求されることがあります。
診療情報提供書は、患者さまの依頼によって作成される場合と、医師が他の病院の方が適切と考えて作成する場合がありますが、どちらの場合にも診療情報提供書(紹介状)を発行する場合には診療情報提供料という費用がかかります。

ジェムザール+アブラキサン療法「ゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用療法・GnP」

ゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用療法、通称「ジェムザール+アブラキサン療法」は、主に膵臓がんの治療に用いられる化学療法の一種です。この治療は、ゲムシタビン(ジェムザール)とナブパクリタキセル(アブラキサン)の2つの薬剤を組み合わせて使用するもので、進行膵臓がんや転移性膵臓がんに対する効果が認められています。

1. 薬剤の作用機序

  • ゲムシタビン:核酸合成を妨害することで、がん細胞の増殖を抑える抗がん剤です。DNAの複製過程でがん細胞に取り込まれ、細胞分裂を阻止してがん細胞を死滅させます。
  • ナブパクリタキセル:パクリタキセルをアルブミンというたんぱく質に結合させた薬剤で、がん細胞の微小管に作用し、細胞分裂を妨げます。従来のパクリタキセルに比べて、副作用が少ないとされています。

2. 治療効果

ジェムザール+アブラキサン療法は、進行膵臓がんにおいてがんの増殖を抑制し、延命効果が期待される治療法です。特に、FOLFIRINOX療法(フォルフィリノックス療法)に比べると副作用が少ないため、体力が低下している患者にも適用しやすい利点があります。臨床試験では、ジェムザール単剤に比べて併用療法は生存期間の延長が確認されています。

3. 副作用

  • 一般的な副作用:骨髄抑制(白血球や血小板の減少)、貧血、吐き気、倦怠感、脱毛など。
  • 重大な副作用:重度の感染症リスクが増加しやすいため、治療中の体調管理が重要です。また、神経障害(手足のしびれ)も発生することがあります。

4. 治療スケジュール

ジェムザール+アブラキサン療法は、通常3週を1サイクルとして行われます。具体的には、1・8・15日目に点滴を行い、22日目に休薬を取る形が一般的です。

この治療法は、効果が認められている一方で副作用も伴うため、医師とよく相談しながら進めることが推奨されます。また、効果や副作用の管理には定期的な検査や体調のチェックが欠かせません。

5. 併用療法についての補足

ゲムシタビン単独治療からゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用療法(ジェムザール+アブラキサン療法・GnP)へ進化したことで、治療効果が向上する一方、新たなデメリットもあります。以下に、主なメリットとデメリットを詳しく説明します。

  1. 生存期間の延長

    臨床試験で確認された通り、ゲムシタビン単独療法に比べ、併用療法は生存期間を有意に延ばす効果が示されています。特に進行した膵臓がんや転移性膵臓がんの治療において、がんの進行を抑え、延命効果が期待されます。
  2. 腫瘍縮小効果の向上

    ナブパクリタキセル(アブラキサン)の作用により、がん細胞の分裂をより強力に阻害できるため、腫瘍の縮小や抑制がゲムシタビン単独療法よりも顕著に現れやすくなります。これにより、患者の生活の質を改善する効果も期待されます。
  3. 治療の選択肢が増える

    ゲムシタビン単独療法では効果が得られにくかった患者に対しても、新たな治療選択肢を提供することが可能になり、特にFOLFIRINOX療法が適用できない患者にとって有効な代替手段となります。
  4. 副作用の増加

    ゲムシタビン単独に比べ、併用療法は副作用が増加する傾向があります。特に、骨髄抑制(白血球・血小板の減少)による免疫力低下や、末梢神経障害(手足のしびれ)が現れることが多く、治療中の体調管理がさらに重要です。
  5. 治療スケジュールが厳しい

    ゲムシタビン単独療法では比較的緩やかなスケジュールが設定されることが多いのに対し、併用療法では1・8・15日目に点滴を行う3週間のサイクルが標準であり、患者の通院頻度が増えます。これは特に高齢者や通院が難しい患者にとって負担となる可能性があります。
  6. 費用面の負担

    薬剤費用もゲムシタビン単独に比べ高額になりがちです。ナブパクリタキセルの追加により、経済的な負担が増加し、長期間の治療が必要な場合は、保険適用を考慮しても患者にとって負担が大きくなることがあります。
  7. 感染リスクの増加

    骨髄抑制の影響で感染症のリスクが増加するため、定期的な血液検査や感染予防が不可欠です。感染症が発生すると治療スケジュールに遅れが生じることもあり、これが治療の進行に影響を与える可能性があります。

ゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用療法は、より強力な治療効果が期待できる一方、患者への負担も増加します。そのため、患者の年齢や体力、既往歴などを考慮し、医師と相談しながら治療計画を慎重に立てることが重要です。

自己がん組織

手術などで採取された患者さま自身のがん組織。
自己がん組織を利用して、免疫療法に応用したり、また遺伝子検査に利用して患者さまに合った抗がん剤(分子標的薬)を見つけたり、患者さまにとって非常に有用な治療資源です。

樹状細胞とは

樹状細胞は、皮膚や消化管などに存在する免疫細胞です。
1973年に米国のRalf Steinmanや京都大学の稲葉かよ先生らにより発見され、Steinmanはその業績で2011年ノーベル医学生理学賞を受賞したことで有名になりました。
名前のとおり、樹木の枝が伸びたような突起状(樹状様)の細胞表面を持った細胞です。
樹状細胞は、がん細胞・細菌・ウイルスなど、本来、体に存在しないもの(抗原)を見つけて己の細胞の中に取り込む(貪食)働きがあります。
がんをはじめとした異物を取り込んだ後、樹状細胞は活性化され、リンパ節に移動します。
リンパ節に入った樹状細胞は、まだ一度も抗原に出会ったことのないナイーブT細胞へと抗原を伝達(提示)し、ナイーブT細胞を活性化させます。このナイーブT細胞が、がんを攻撃するエフェクターT細胞(キラーT細胞、ヘルパーT細胞)へとなっていきます。これが獲得免疫の最初のイベントなります。

樹状細胞の働き

がん特異的免疫療法として注目される「樹状細胞」の働き
がんの「印」である「がん抗原」が明らかになったことで、免疫システムにおいてにわかに重要視されるようになったのが、「印」である「がん抗原」を認識する樹状細胞です。 樹状細胞が発見されたのは1970年代とされています。樹木の枝のような突起がいくつもある形態をしているため、このように名付けられたものの、その働きについてはほとんど分かっていませんでした。しかし年代を追うごとに、免疫システムにおいて敵を認識するという重要な役割が明らかになり、さらに「がん抗原」の発見によりがん治療や感染症治療などを語る上で欠かせない存在となったのです。 樹状細胞そのものにはがん細胞を攻撃する力はありません。しかし、がん抗原を細胞内に取り込んで、他の免疫細胞に「これが攻撃する相手の目印ですよ」と教える大切な役割をもっています。これがうまく機能しなければ、がん細胞を攻撃することは出来ません。
この樹状細胞の機能を応用した免疫療法が、当クリニックが提供する「樹状細胞ワクチン療法」です。

好中球、NK細胞、マクロファージや樹状細胞が、最前線で敵(細菌やウィルスなど)の体内への侵入を抑えると同時に、がん細胞を食べた樹状細胞やマクロファージ(特に樹状細胞が重要)は、リンパ節に移動し、細胞内で消化したがん細胞の断片である「がん抗原」を自分の細胞表面に掲げ、リンパ球の中でもがんの攻撃に司るT細胞に教えます。がんの目印の情報を持っていないリンパ球に、がんの目印を教えるのです(抗原を提示する、という言い方をします)。その働きのため、樹状細胞は「プロフェッショナル抗原提示細胞(がんの目印をT細胞に教える細胞)」とも呼ばれます。

免役システムの中で、樹状細胞はがんができたら、まず駆けつけて食べてしまう「見張り役」、そしてその後リンパ球を教育する「司令官」のような役割を演じています。すなわち樹状細胞は、自然免疫と獲得免役の「橋渡し役」と言えます。そしてがんの攻撃の主役がこの獲得免疫になります。さらにがんを攻撃する獲得免疫の主役はT細胞であり、具体的にキラーT細胞、ヘルパーT細胞、メモリーT細胞、B細胞になります。

樹状細胞が細胞表面で「がん抗原」をのせる「器」には2種類あります。HLAクラスIとクラスIIです。一方、がんの目印を樹状細胞から教えられるT細胞も、CD8とCD4という2つのグループに分かれています。

CD8T細胞は、HLAクラスIという器に入っている「がん抗原」を覚えて、この抗原をもった細胞をがん細胞として攻撃します。このようなT細胞をがん特異的キラー細胞(細胞傷害性T細胞(CTL))と呼びます。CD4T細胞はHLAクラスIIという器に入ったものをがんの目印として記憶し、がん細胞を見つけるとインターフェロンガンマやインターロイキン2というサイトカインを放出します。これらのサイトカインは、いわばがん特異的キラーT細胞の栄養分です。サイトカインは、体内の細胞(主に免疫細胞)によって作られる、生理活性をもったタンパク質の総称であり、ホルモンのようなものです。

がん特異的キラーT細胞(CTL)はインターフェロンガンマやインターロイキン2といった「栄養」を摂取して元気になり、がん細胞をやっつけに行けるようになります。このような働きをするT細胞を、がん特異的ヘルパーT細胞と言います。これはいわばがん特異的キラーT細胞(CTL)の後方支援をする役目を負っています。

司令官である樹状細胞は、兵士であるキラーT細胞へがん細胞の目印「がん抗原」を教育するために必要な環境を作ります。これは自然免疫系のサイトカインであるインターロイキン12やインターロイキン18になります。これら自然免疫系のサイトカインに対し、インターフェロンガンマやインターロイキン2は獲得免疫系のサイトカインと言います。

つまり司令官が兵士たちに敵の情報を教えようとしても、真夏のクーラーもない教室で食事もとらずに指導しても、いくら優秀な兵士でも学ぼうとするモチベーションは保てません。兵士たちの学習意欲を向上させ、より優秀な兵士に育てるために必要な教室の環境作りを整えるのが、自然免疫系のサイトカインになります。自然免疫系の先行的な活性化があって、はじめてそれに続き起こる反応である獲得免疫系が正常に発動するのです。

一方B細胞は「がん抗原」を覚えると、ヘルパーT細胞の後方支援により活性化し、がんの目印だけに結合する抗体を作って、がん細胞を攻撃します。一般的には、がん細胞を攻撃することにおいて、B細胞が作る抗体よりもキラーT細胞(CTL)の方が中心的な任務をもって働いていると考えられていますが、抗体が中心になってがんを治したとする報告もあります。

このような獲得免疫反応は、がんの目印をしっかり覚えて狙い撃ちするために「がん特異的免疫」と呼ばれます。その中で中心的な役割を担っているのが樹状細胞なのです。樹状細胞は「自然免疫と獲得免疫の架け橋」であり、人体の持つ免疫のしくみにおいて極めて重要な役目を果たしていると言えます。

樹状細胞ワクチン療法

樹状細胞ワクチン療法とは、患者さまのがん細胞が持っている特徴「がん抗原」を目印として、そのがん細胞だけを狙い撃ちするような免疫力を高めるがん特異的免疫療法です。樹状細胞ワクチン療法は、活性化リンパ球療法(LAK療法)、NK細胞療法、ガンマデルタT細胞療法、といった他の免疫細胞を用いた治療にはない特質として、ワクチン効果というのがあります。これはがんに特異的免疫反応、すなわちそれによる抗腫瘍効果が数年に渡り持続するという意味です。

樹状細胞ワクチン療法とは、樹状細胞の働きを用いて、患者さま自身の体の中で、がんを攻撃する体制を作り上げる治療法です。患者さまのがんに対する免疫のみを高めるため正常細胞を傷つけることもなく、効率的で、重度な副作用が出ない体にやさしい治療法と言えます。

人工抗原

人工抗原とは、人工的に合成した抗原を指します。がんペプチドワクチンや樹状細胞ワクチン療法、それらの研究に使用します。

膵臓がん

膵臓がんの特徴
膵臓がんは、食べ物を消化し、血糖値を調整する働きを持つ膵臓にできるがんで、そのほとんどは膵管にできます。また、膵臓がんは高齢になるほど多くなるがんで、年間約3万人が膵臓がんを新たに発症しており、ここ数年は増加傾向にあります。膵臓がんは、診断時点で既に進行例が多く、膵臓がんの5年相対生存率は7%(地域がん登録2005)の難治性のがんです。

膵臓がんの原因
膵臓がんの発症には不明な点が多く、はっきりとした原因はわかっていません。しかし、膵臓がんの原因としては、喫煙や過度の飲酒、糖分の多い炭酸飲料やコーヒーの摂取、動物性タンパク質や脂肪分の取りすぎなどが考えられています。

喫煙しない人に比べて、喫煙する人の膵臓がんの発症率は2~3倍との報告もあります。

また、慢性膵炎や糖尿病などのほかの膵臓の疾患がある場合、膵臓がんを発症しやすい傾向があります。糖尿病患者においては、健康な人に比べて膵臓がんになりやすく、膵臓がんによって糖尿病が悪化するといわれています。
膵臓がんの原因はいずれも生活習慣に関わるものですが、日本で膵臓がんが年々増加傾向にある背景には、食生活の欧米化や野菜不足があることも指摘されています。

膵臓がんのリスクファクターとして膵臓がんの家族歴があります。特に両親、兄弟姉妹に2人以上の膵臓がん患者がいる家族性の膵臓がん家系は一般人口に比べて6.79倍と優位に高く罹患します。

膵臓がんの種類
膵臓がんには、主に「膵管がん」と「神経内分泌腫瘍(神経内分泌がん)」があります。

膵臓がんの約90%は「膵管がん」で、膵臓の中心を通る膵管の上皮(膵管細胞)に発生します。
口から入った食べ物の消化を助ける消化酵素を含む膵液は、この膵管を通って、十二指腸に流れ込んでいます。膵臓は膵頭、膵体、膵尾に分けられますが、膵臓がんの多くは、十二指腸に隣接した膵頭部に発生します。膵頭部には、脂肪の分解を促す胆汁を肝臓から十二指腸に送り込む胆管が通っているため、膵管にできたがんが胆管を圧迫するようになると黄疸が出やすくなります。

「神経内分泌腫瘍」は、悪性腫瘍全体の1~2%と発症率は少ないものの、子どもから高齢者まで年代を問わずに見られます。膵臓には、ランゲルハンス島という、血糖値を調整する働きを持つホルモンを分泌している細胞の塊が散在していますが、このランゲルハンス島にできるのが、「神経内分泌腫瘍」です。
「神経内分泌腫瘍」には、「膵管がん」より治りやすいとされる悪性度の低い「神経内分泌腫瘍」と、進行が早く悪性度の高い「神経内分泌腫瘍」があります。

膵臓はからだの奥深くに存在するため、がんを見つけにくく、症状に気が付いた時にはがんが進行していることも少なくありません。
早期発見が難しく、治療困難ながんとして知られる膵臓がんですが、近年では新しい治療法の開発も進み、これまで通りの生活を送ることもできるようになってきています。

膵臓がんの治療
膵臓がんの治療は、全身状態が良好で切除適応となる場合は、外科的切除が治療の第一選択肢となります。一方、切除不能な膵臓がんについては、全身状態が良好であればFOLFIRINOX、ジェムザール(GEM)+アブラキサン(nab-paclitaxel)の併用療法が第一選択肢になります。一方、これらの副作用は強いため継続が困難になる場合が多く、それらが難しくなるとジェムザールの単剤、TS1の単剤、またはその併用などが行われます。

膵臓がんに対する免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ、キイトルーダ等)についてですが、これまでいい結果が出ていないのが現状です。その原因として膵臓がんの周りの組織の特殊性や遺伝子(ミスマッチ修復遺伝子)の異常の有無などが挙げられています。

一方、プレシジョンクリニックグループでは1,000例以上の膵臓がんに対する免疫療法の実績を持っておりますが、免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ、キイトルーダ)とプレシジョンクリニックメソッドで行う樹状細胞ワクチン療法の併用することで、良好な成績が出てきています。
膵臓がんに対して免疫療法で効果が出てきている理由としては、プレシジョンクリニックメソッドの樹状細胞ワクチンを投与することで、膵臓がんやその周辺組織に浸潤し、膵臓がんを攻撃するT細胞が体内で増殖するからと考えています。実際に膵臓がんを攻撃するT細胞は、体内で2倍程度、多い患者で400倍弱まで増えていることが研究の結果明らかになっています。
また、抗がん剤(FOLFIRINOX、ジェムザール、アブラキサン)と比較して、副作用も軽度であるため体力が温存されるという利点もあります。
現在、プレシジョンクリニックグループのこれらのデータを活用して、日本初の膵臓がんに対する樹状細胞ワクチン療法の治験が和歌山県立医科大学で開始されています。

ステージ分類

がんの病期分類(ステージ分類)は、がんの進行度を評価し、治療方針や予後の見通しを立てるために重要な指標です。一般的には、TNM分類が広く用いられています。これは、原発腫瘍の大きさと広がり(T)、リンパ節への転移の有無(N)、および遠隔転移の有無(M)を基にした分類法です。以下は、各ステージの概要です。

TNM分類

  1. T(Tumor): 原発腫瘍の大きさや浸潤の程度T0: 原発腫瘍が存在しない T1-T4: 腫瘍の大きさや浸潤度に応じて進行度を示す
  2. N(Node): リンパ節転移の有無とその範囲N0: リンパ節転移がない N1-N3: 転移しているリンパ節の数や範囲に応じて進行度を示す
  3. M(Metastasis): 遠隔転移の有無M0: 遠隔転移がない M1: 遠隔転移がある

病期(Stage)

TNM分類をもとに、ステージは以下のように分類されます。
  • ステージ0: 早期のがん(上皮内がん)で、がん細胞がまだ粘膜内にとどまっている状態。
  • ステージI: 小さな腫瘍であり、リンパ節や他の臓器への転移がない状態。
  • ステージII: 腫瘍がやや大きくなり、隣接する組織やリンパ節に転移がある可能性があるが、遠隔転移はない。
  • ステージIII: 腫瘍がさらに大きくなり、近くのリンパ節に転移している可能性が高いが、遠隔転移はない。
  • ステージIV: 遠隔転移が確認されている状態で、がんが他の臓器に広がっている。

ステージ分類の目的

  • 治療計画の立案: 早期ステージでは手術や放射線療法が中心となり、進行したステージでは化学療法や免疫療法、放射線治療の組み合わせが考慮されることが多いです。
  • 予後の予測: 一般的にステージが進むほど予後は厳しくなりますが、治療の進歩によりステージIVでも治療可能な場合があります。
病期分類はがんの種類によって異なる場合もあり、たとえば白血病や脳腫瘍では異なる分類法が使用されます。

制御性T細胞

制御性T細胞は、キラーT細胞が正常細胞へ攻撃をしないよう、キラーT細胞の働きを抑制したり、免疫反応を終了に導く役割を担っている免疫細胞の一つです。

成分採血(アフェレーシス)

成分採血装置を使用して血液中の特定成分だけを採血する方法です。
プレシジョンクリニックでは樹状細胞に関係する細胞だけを取り出します。
樹状細胞ワクチン療法では、樹状細胞を作るために単球という細胞を血液から分離するために、成分採血(アフェレーシス)を行います。

セカンドオピニオン

セカンドオピニオンとは、かかりつけの医師とは良好な関係を保ちながら、それとは別にご病気のことや治療について他の医師から意見を聞くことです。がんのように、治療法が日々進歩している領域では、セカンドオピニオンの必要性はより高まっていると考えられます。治療法の選択肢が多岐にわたるため、専門家で さえどのような治療法であればその患者さまにとって一番いいのか、判断に悩むこともあります。セカンドオピニオンを受けることによって、患者さまにとって、より合った治療法を見つけられる可能性があります。

セット(クール)

「セット(クール)」とは治療期間の単位で、各治療法ごとに異なります。プレシジョンクリニックの樹状細胞ワクチン療法では、5~7回(3〜4か月の期間)の樹状細胞ワクチンの投与を1セット(1クール)としています。

セルプロセッシングセンター(CPC)

セルプロセッシングセンター(CPC)は、免疫細胞療法や再生医療、あるいは遺伝子治療など、細胞を利用した医療または研究を行なうための極めて高度な施設を指します。
プレシジョンクリニックでは、セルプロセッシングセンター(CPC)を安定的に運営するために、GMPという医薬品を製造するための厳格なルールに準拠しています。

前立腺がん

前立腺がんの特徴
前立腺がんとは男性だけにある前立腺という臓器に発生するがんです。前立腺の細胞が細胞生殖機能を失い、無秩序に自己増殖することにより発生します。
前立腺がんの特徴のひとつとして、一般的に発がんしてから臨床的ながんになるまで、40年近くかかるといわれるほど進行速度が遅いがんです。
前立腺がんの自覚症状として初期症状はほとんどあらわれませんが、がんが大きくなるにつれ、尿道の圧迫感、頻尿や残尿感が現れます。
さらに肥大すると排尿時の痛み、血尿や尿閉の症状、また前立腺の上部にある精嚢腺に広がると精液が赤くなることがあります。
診断がついた時にはすでに進展がんや転移がんとなっている人が7~8割にのぼっていました。
しかしPSA検査の進歩によりこのような進展がんは減ってきているため、自覚症状に頼らず検査を受けることが必要です。

前立腺がんの治療
前立腺がんの主な治療法は、監視療法、手術(外科治療)、放射線治療、内分泌療法(ホルモン療法)や化学療法など複数の治療が選択可能な場合があります。これらの治療を単独あるいは組み合わせで行います。
治療法はPSA値、悪性度、リスク分類、また、患者様の年齢、全身状態や考え方などを基に治療法を選択することになります。
当クリックグループが提供する『樹状細胞ワクチン療法』は、副作用が少なく、放射線治療や抗がん剤治療と併用して、前立腺がんに対する治療効果が期待されます。

【トピックス】
予後不良である去勢抵抗性前立腺がんについて

去勢抵抗性前立腺がんの特徴
前立腺癌は男性ホルモンによって引き起こされるため、ホルモン療法が90%以上の患者さまに有効ですが、ホルモン療法を長期間継続すると、数年の経過で半数以上がホルモン療法に抵抗性を示す癌細胞が増え、治療効果が消失してしまうことが知られています。
このホルモン療法抵抗性となった状態は、外科的去勢後に症状が増悪した患者と合わせて「去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)」と定義しています。

去勢抵抗性前立腺がんの治療
去勢抵抗性前立腺がんの治療は抗がん剤になりますが、副作用が比較的少なく有用と評価されているドセタキセル、その効果が無くなると、抗がん剤カバジタキセル(ジェブタナ)、ホルモン治療剤エンザルタミド(イクスタンジ)とアビラテロン(ザイティガ)になります。
これも効かないとなると一般的に他に方法がないため、緩和医療を勧められます。
プレシジョンクリニックが提供する免疫療法『樹状細胞ワクチン療法』は、上記の抗がん剤とは異なる作用機序で去勢抵抗性前立腺がんを治療します。
具体的には前立腺がん細胞の存在するPSA、前立腺がんの増殖に重要な蛋白を持つ細胞を狙って攻撃する免疫療法になります。
したがって、上記の抗がん剤との併用効果も期待できます。

奏功率

治療評価はRECIST(最長径の和の変化)分類によって評価しています。
Complete Response (CR):消失
Partial Response (PR):30%以上の減少
Stable Disease(SD):PRの基準もPDの基準もみたさない
Progressive Disease (PD):20%以上の増加

た行

タブレクタ(一般名:カプマチニブ)

タブレクタ(一般名:カプマチニブ)は、主に非小細胞肺がん(NSCLC)の治療に使用される抗がん剤で、MET阻害薬に分類されます。タブレクタは、特にMET遺伝子の異常(METエクソン14スキッピング変異など)を持つ患者に効果があることが知られています。この薬剤は、がん細胞の増殖や生存に関わるMETタンパク質の異常な活性化を阻害することで、がんの進行を抑えます。

タブレクタの特徴と効果

  1. METエクソン14スキッピング変異をターゲット:この変異がある患者では、METタンパク質の分解が正常に行われず、細胞が増殖しやすい状態になります。タブレクタは、METタンパク質の異常な活性を抑制し、がん細胞の増殖を制御します。
  2. 高い治療効果:臨床試験では、METエクソン14スキッピング変異を持つNSCLC患者に対し、効果的な治療成績が確認されています。特に治療の難しい進行肺がんの患者にも一定の効果が期待できるとされています。
  3. 経口薬:タブレクタは経口投与で、患者が家庭でも服用できるため、治療の継続がしやすいという利点があります。

副作用

タブレクタの主な副作用には、浮腫(むくみ)、吐き気、疲労、食欲減退などがあります。また、まれに重篤な肝機能障害や肺障害が発生することがあるため、定期的な血液検査や診察によるモニタリングが重要です。

承認と使用状況

タブレクタは、特にMETエクソン14スキッピング変異を有する進行非小細胞肺がん患者向けの治療薬として、アメリカFDAや日本の厚生労働省などで承認されています。

単球

単球とは、自然免疫の中心的な役割を果たす食細胞の一つです。
この単球を、サイトカインなどを用いて培養すると樹状細胞を作ることができます。
食細胞の食とは、がんなどの異物を食べるということから、このような名前をつけられています。

大腸がん

大腸がんの特徴
大腸がんは早期で発見できれば、内視鏡下のポリペクトミー(ループ状のワイヤーを病巣にひっかけて取り除く)や内視鏡下の切除術により、体へそれほど負担をかけることなく、ほぼ100%近くの確率で完治が見込めます。しかし発見が遅れると開腹手術でも周囲の内臓に転移しているなどで切除しきれいないことになり、完治が難しくなってきます。この場合は、手術後に、放射線療法や抗がん剤などの全身治療も検討されます。

大腸がんの特徴のひとつとして、肝臓に転移しやすいことがあげられます。これは門脈という太い血管が、大腸から肝臓へと通じているからです。門脈は胃、小腸、大腸、脾臓、膵臓からの血流を集めて肝臓へと運ぶ静脈で、栄養素とともにアンモニアなどの老廃物や細菌を吸収した血液を、肝臓にて無毒化するためのルートとして重要な血管です。大腸にがんができると、一部の細胞がここを通って肝臓に運ばれやすいのです。

大腸がんの自覚症状は、おもに「大便」に現れます。出血、便が細くなる、急に便秘がちになるなどですが、こちらはポリープなどの良性の疾患でも起こります。つまり、がんに特徴的な症状ではなく、自覚症状だけではがんかそうでないかは判別がつかない場合もあります。早期発見のためには、できるだけ無症状のうちに、がん検診をきちんと受けることが大切です。

大腸がんの治療
早期であれば、肛門から挿入した大腸内視鏡で切除する方法や、腹腔鏡などによる手術で治すことができます。進行して肝臓や肺へ転移した場合でも、手術により治癒が期待できるケースもあります。一方で、発見が遅れると、肝臓、肺、リンパ節などに手術が困難な転移が起こります。そのようなときには、放射線療法や抗がん剤治療が治療選択肢となります。

プレシジョンクリニックが提供する『樹状細胞ワクチン療法』は、副作用が少なく、手術や、放射線療法、抗がん剤治療と併用することで、大腸がんに対する治療効果の向上が期待されます。

転移

転移とは、血液やリンパ液の流れにのって、いろいろな臓器に飛び火し(転移)、そこでまた増殖を始めることをいいます。
がん細胞は、ある程度の大きさになると、成長のために自ら血管をつくりだし、そこで栄養を得て、加速度的に成長し、転移を起こしていきます。
血液やリンパ管は全身いたるところにありますので、自ら作り出した血管やリンパ管を介して全身にばら撒かれ、そこでまた増殖を始めます。

特異的免疫

特異的免疫とは、誕生時には備わっておらず、後天的に獲得される免疫です。
免疫細胞は抗原に出会うたび、それぞれの抗原ごとに攻撃方法を習得・記憶するため、過去に遭遇した抗原に対して、それぞれに応じた攻撃ができるようになります。
記憶された免疫(特異的免疫)は、同じ抗原に遭遇した場合、非特異的免疫に比べて素早く反応し、また効力も高いのが特徴です。
プレシジョンクリニックの樹状細胞ワクチン療法は、この特異的免疫の働きを利用した免疫療法です。

トロデルヴィ

Trodelvy(トロデルヴィ、一般名:サシツズマブ・ゴビテカン)は、がん治療に使用される抗体薬物複合体(ADC)で、特に転移性乳がんや尿路上皮がんなどの治療に効果があるとされています。Trodelvyは、Trop-2というタンパク質を標的にした治療薬で、このタンパク質は多くのがん細胞の表面に高濃度で発現しています。Trodelvyは、抗体ががん細胞のTrop-2に結合し、抗がん薬であるイリノテカン誘導体(SN-38)を直接がん細胞に送り込むことで、がん細胞を効果的に破壊します。

主な使用用途

  • 転移性トリプルネガティブ乳がん(mTNBC): 化学療法が無効となった後の進行がんに対して承認されています。
  • 局所進行または転移性尿路上皮がん(mUC): 化学療法および免疫療法が無効となった後の患者に使用されます。

効果

Trodelvyは、従来の化学療法が効きにくい進行がんに対して、腫瘍の縮小や進行の抑制を示す有望な結果が報告されています。臨床試験では、転移性トリプルネガティブ乳がん患者で全生存期間の延長が確認されており、尿路上皮がん患者でも有効性が示されています。

副作用

主な副作用には、以下のものが含まれます:
  • 血液学的毒性: 好中球減少症や貧血
  • 消化器系: 下痢、吐き気、嘔吐
  • 疲労感や脱力感
これらの副作用は、特に治療開始後の初期段階で強く出ることがありますが、医師の管理のもとで適切に対応されます。

使用方法

Trodelvyは点滴静注で投与され、通常は2週間ごとに3週間のサイクルで投与されます。初回の投与は病院で行われ、副作用が管理可能であることを確認した後は、通院治療で投与が継続されることが多いです。 Trodelvyは、新しい治療オプションとして非常に重要な役割を果たしており、特に他の治療法が効かなくなった患者にとって、命をつなぐ希望となっています。

な行

内視鏡

内視鏡とは、体の外からは診断のつかない早期のがんや小さな病変を、患者さまの体の内側から観察または治療するための医療機器です。
上部消化管内視鏡(胃カメラ)や大腸内視鏡(大腸カメラ)を使った検査は良く知られていますが、治療としては腹腔鏡、胸腔鏡を用いた手術にも盛んに応用されています。

ナイーブT細胞

ナイーブT細胞とは、抗原にさらされたことのないT細胞のことをいいます。 樹状細胞をはじめとする抗原提示細胞からの抗原刺激を受けることにより、活性化され、(がん)抗原ん特異的なキラーT細胞、ヘルパーT細胞に分化し、その細胞としての働きをするようになります。

ナチュラルキラー(NK)細胞

免疫反応において働いている細胞は主に白血球です。白血球の中にはさまざまな細胞があり、免疫反応は次のようなメカニズムで起こります。
「ばい菌が入ってきた」、「ウィルスがはいってきた」、あるいは「がんができた」という時に最前線で活躍するのが顆粒球(ほとんどが好中球)、樹状細胞、マクロファージ、そしてNK細胞(ナチュラルキラー細胞)です。これらの細胞は、ばい菌やウィルス、がん細胞を、敵(非自己)として認識し、無差別に攻撃します。

NK細胞(ナチュラルキラー細胞)は、リンパ球の一種で、体の中で、ウイルスに感染した細胞や、一部のがん細胞を認識して傷害する細胞のことです。NK細胞(ナチュラルキラー細胞)の働きは、樹状細胞の ように、がんだけを狙い撃ちするといった、抗原(ウイルスやがんなどの異物)に特異的な免疫反応を示すものではなく、非特異的に、以前に出会ったことがないような細胞を障害するといった初期の免疫反応(自然免疫)を司っています。

ニボルマブ(商品名:オプジーボ)

ニボルマブ(商品名:オプジーボ)は、免疫療法の一種である免疫チェックポイント阻害剤の一つで、がん治療に用いられています。特に、体の免疫システムががん細胞を攻撃する力を高めることを目的とした薬です。 仕組み: ニボルマブ(商品名:オプジーボ)は、T細胞と呼ばれる免疫細胞に働きかけ、免疫応答を抑制する「PD-1(Programmed Cell Death Protein-1)」というタンパク質の働きを阻害します。通常、がん細胞はこのPD-1を活性化させることで、T細胞の攻撃を回避し、免疫から隠れます。ニボルマブ(商品名:オプジーボ)はこのPD-1の働きをブロックし、免疫細胞が再びがん細胞を攻撃できるようにします。 適応症: ニボルマブ(商品名:オプジーボ)はさまざまな種類のがんに対して使用されており、以下のような適応症があります 悪性黒色腫(メラノーマ) 非小細胞肺がん(NSCLC) 腎細胞がん(RCC) ホジキンリンパ腫 頭頸部がん 胃がん 食道がん 膵臓がんなど これらのがんは免疫逃避メカニズムを持つため、従来の治療法では効果が得られにくいケースが多いです。しかし、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)は免疫応答を再活性化することで、これらのがんに対して有効な治療効果を示します。 副作用: ニボルマブ(商品名:オプジーボ)は免疫系を活性化させるため、自己免疫関連の副作用が発生することがあります。代表的な副作用には次のものがあります: 皮膚の発疹やかゆみ 下痢や腸炎 肝機能障害 肺炎 内分泌障害(甲状腺機能低下や副腎機能不全など) これらの副作用は、早期に適切な対応を行うことで管理可能です。 効果と今後の展望: ニボルマブ(商品名:オプジーボ)は免疫療法の分野で大きな進展をもたらした薬であり、特に進行がんや再発がんに対して長期的な効果が期待されています。また、免疫チェックポイント阻害剤は他の治療法(化学療法、放射線治療、他の免疫療法など)と組み合わせて使用されることで、より高い効果が得られるケースもあります。 ニボルマブ(商品名:オプジーボ)は、免疫療法の一環として、がん治療の選択肢を大きく広げていますが、どの患者にも適用できるわけではないため、適切な治療計画を立てることが重要です。

乳がん

乳がんは、子宮頸がんと並び、女性がかかり易い代表的ながんです。女性部位別がん罹患率は1994年以後、トップです。日本では40代半ばから50代が罹患のピークで、ほかの多くのがんと同じように原因ははっきりとしないものの、女性ホルモンが何らかの形でかかわっていると言われています。

早期に発見できれば、乳がんは決して怖いがんではありません。乳がんのほとんどは、乳腺(母乳の分泌の場)と乳管(乳汁の通り道)にできますが、その中に留まっているうちなら、手術で病巣を切除すれば10年生存率の平均は約80%にものぼります。近年、乳がんの手術はできるだけ切除範囲を小さくし(縮小手術)、乳房を温存するやり方(乳房温存手術)が主流になっています。早期のうちなら、乳房の変形も少なく済み、がんが大きい(一般に直径3㎝以上)場合は、術前化学療法といって手術前に抗がん剤などの薬物でがんを小さくしてから切除されます。

乳がんの治療
乳がんに対する薬物療法には、大きく分けてホルモン療法剤、分子標的薬(トラスツズマブなど)、抗がん剤の3種類があります。がん細胞の表面にはレセプターといって、特定の物質と結合し反応を起こす「手」のようなものがあり、それがホルモンに対応していればホルモン療法剤が、HER2という遺伝子タンパク質が過剰に発現していればトラスツズマブ(ハーセプチン、カドサイラ、エンハーツ)などが効きやすくなります。

トラスツズマブは、タキサンとの併用で再発を防ぐ効果が報告されています。分子標的薬の特性として、がんを殺し、がんが縮小するというのではなく、大きくならない状況の維持が主目標となります。また、乳がんの特徴として、エストロゲン、プロゲステロン受容体を持っているがん細胞に対しては、これら重要体の効き目をブロックする目的から、エストロゲン生成阻害剤や抗エストロゲンLH-RHアゴニストを使用することにより、治療効果を上げることが可能です。

乳がんでは進行に伴い骨転移も認められます。骨の破壊が進み、痛みが強くなるケースもでてきます。骨粗鬆症の薬であるビスフォスファン酸の使用により、骨転移の状況改善が望まれます。

当クリニックグループでは、乳がんなど、難治に至ったがんの症例に対してWT1ペプチドなどのさまざまながん抗原を使用した免疫療法『樹状細胞ワクチン療法』を行っています。

認定再生医療等委員会

プレシジョンクリニックグループは「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」に基づき、認定再生医療等委員会を設置し、2015年に厚生局の認可を受けている、認定再生医療等委員会設置医療法人になります。

ネオアンチゲン

ネオアンチゲンとは、がん細胞で起こる遺伝子変異により、新たに出現した抗原(がんの目印)のことです。細胞はがん化する過程で遺伝子が変異しますが、変異したアミノ酸から作られる変異タンパク質が細胞の中でペプチドに分解され、抗原として細胞の表面に現れます。こうしたアミノ酸変異部位を含む抗原(ペプチド)は正常な細胞には存在せず、がん細胞のみに新たに出現することからネオアンチゲンと呼ばれます。正常細胞にも存在するタンパク質の中にも、がんに関連するタンパク質(腫瘍関連抗原)はありますが遺伝子変異はしていないため、自己として免疫に認識されており、免疫寛容が成立しているため強い免疫反応は起きません。一方、遺伝子変異によってできた抗原、ネオアンチゲンは本来体の中に存在しない「非自己」であるため高い免疫反応が起きると考えられます。また遺伝子の変異は患者さまごとに異なるため、ネオアンチゲンも患者さま一人ひとりによって異なります。

は行

肺がん

肺がんの特徴
肺がんは、日本人におけるがんによる死亡数で常に上位(1~3位)となっています。罹患率、死亡率ともに男性が女性を3~4倍上回っており、また性別に関係なく40代後半から増加し始めます。
肺がんは組織型の違いにより、大きく「小細胞がん」と「非小細胞がん」に分けられます。「非小細胞がん」はさらに「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」に分けられます。
肺がんのリスク要因として筆頭にあげられる「喫煙」は、主に小細胞がんや扁平上皮がんのリスクを高めることが知られています。一方、女性の非喫煙者には腺がんの発症が多いことも分かってきていますが、その原因はまだ明らかになっていません。

肺がんの治療
肺がんの治療方針は、がんの型や場所、広がり具合、進行度(転移の有無など)などを総合して検討されます。小細胞がんは基本的に抗がん剤が治療の中心となり、状況に応じて放射線治療も検討されます。手術はごく早期の場合のみで肺がんが見つかった約5人に1人が適応となります。非小細胞がんは早期のうちは手術が第一選択となり、放射線や術後化学療法(抗がん剤)も状況に応じて検討されますが、転移が認められる場合は、抗がん剤が第一選択になったり、手術と抗がん剤の組み合わせが検討されたりします。

期待されている治療法のひとつに、免疫チェックポイント阻害剤があります。免疫チェックポイント阻害剤は、これまでの抗がん剤とは異なる免疫に関連した副作用(irAE)があります。とはいえ、これまでの抗がん剤の副作用とは異なり、だいぶ患者さまの負担は軽減されるようになりました。免疫療法が、広くがんに効果がるということが一般的のドクターにも認識されるきっかけとなった薬剤といえます。

ハイパーサーミア

ハイパーサーミアは、がん治療において8MHzの高周波(マイクロ波)を用いて腫瘍組織を42〜43℃に加温し、がん細胞のダメージを促進する治療法です。この周波数帯は人体に吸収されやすく、特定の組織にエネルギーを集中させることで効率的な局所温熱療法が可能です。がん組織はこのエネルギーを吸収して発熱し、腫瘍部位が目標温度に達することで、がん細胞が損傷を受けやすい環境を作り出します。

【主な特徴と治療効果】

  1. がん細胞の生存率の低下
    ハイパーサーミアによる加温により、がん細胞は加温時間とともに生存率が低下します。この温度での細胞死の誘発は、多くのがん細胞に共通する現象です。

  2. 正常組織と腫瘍組織の血管反応の違い
    正常組織は加温されると血流を増加させて冷却効果が働きますが、腫瘍組織の血管は新生血管であるため、この冷却効果が働きにくい状態です。そのため、腫瘍組織は加温された状態を維持しやすく、がん細胞がダメージを受けやすくなります。

  3. 低酸素細胞の温熱感受性
    低酸素状態のがん細胞は高酸素状態の正常細胞よりも温熱に弱い性質があり、腫瘍組織が低酸素・低栄養状態にあることで、ハイパーサーミアによる加温効果が高まります。

  4. 化学療法剤の効果増強
    温熱によりがん細胞は薬剤の取り込みが増加し、抗がん剤の効果が高まります。ハイパーサーミアは化学療法と併用することで、抗腫瘍効果をさらに強化することが確認されています。

  5. 免疫反応の活性化
    高温にさらされると腫瘍細胞からヒートショックプロテインという特殊なタンパク質が放出され、免疫系の細胞ががんを攻撃するのを助けます。これにより、体内での免疫応答が高まり、抗がん効果をサポートすることが期待されています。

ハイパーサーミアは、腫瘍周辺の温度を精密に管理しながら、がん細胞に特化したダメージを与え、他の治療法との併用による相乗効果を引き出す効果的な治療法です。

ハイフ(HIFU)

HIFU(High-Intensity Focused Ultrasound、高強度集束超音波)は、超音波を高エネルギーで腫瘍に集中させ、熱を発生させてがん細胞を焼灼(しょうしゃく)する治療法です。非侵襲的であるため、切開や放射線による副作用が少なく、身体にかかる負担を軽減する点が大きな特徴です。

HIFUのメカニズム

HIFUは、以下のメカニズムでがん細胞を破壊します。

  1. 熱作用: 集中的に当てた超音波によって局所的に高温(60~100℃)が発生し、腫瘍を焼灼します。
  2. 空洞現象(キャビテーション効果): 超音波の振動により腫瘍内部に小さな気泡が生じ、これが破裂することでがん細胞にダメージを与えます。

HIFUの利点

  • 低侵襲性: メスを使わないため手術跡が残らず、出血のリスクもありません。
  • 回復が早い: 手術後の回復が早く、入院期間が短くなる場合が多いです。
  • 副作用が少ない: 放射線治療や化学療法に伴う副作用がほとんどありません。
  • 正確性: MRIやCTと連動させることで、腫瘍位置をリアルタイムでモニタリングしながら治療できます。

HIFUが有効とされるがんの種類

HIFUは、主に以下のがんに適用されています。

  • 前立腺がん: 前立腺がん治療で特に用いられており、前立腺内に局所化した腫瘍を焼灼する治療法として有効です。
  • 肝臓がん: 非切除可能な肝臓がんにも用いられますが、肝臓の位置や周囲組織の状態により適用が難しい場合があります。
  • 膵臓がん: 膵臓がんに対しては進行状況により適用が検討されますが、深部にあるため正確な照射が難しいこともあります。

HIFUの課題

  • 適用範囲の制限: 腫瘍の大きさや位置によってはHIFUの熱が周囲の正常組織に影響を及ぼす可能性があるため、全ての患者に適用できるわけではありません。
  • 効果の個人差: 腫瘍のタイプや患者の状態によって効果が異なるため、単独での完治が難しい場合もあります。
  • 費用: 高度な技術と設備が必要であるため、費用が高額になることが多く、保険適用が限定的です。

HIFUとハイパーサーミアの違い

HIFUとハイパーサーミアはいずれも熱を利用したがん治療法ですが、メカニズムと適用範囲が異なります。HIFUは超音波で局所的に高温(60~100℃)を発生させ、がん細胞を瞬時に破壊するため、即効性があり、局所がんに適しています。
一方、ハイパーサーミアは体外から腫瘍全体を42~43℃程度に温め、がん細胞を弱らせるとともに血流を制限します。これにより、他の治療(特に放射線や化学療法)との相乗効果が期待でき、広範囲のがんや転移がんの補助療法として有用と考えられます。

HIFUは特定のがんの治療において効果的ですが、腫瘍の種類や進行具合に応じた適切な選択が必要です。

蓮見ワクチン療法(ハスミワクチン)

蓮見喜一郎博士ががんのウィルス説に着想して開発した「ハスミワクチン(蓮見ワクチン)」という ワクチンを使う免疫療法です。

免疫細胞ががん細胞を認識する能力と、乱れたがん免疫システムを回復して、がん治療の効き目を向上させようという目的のもと、治療を実施します。

具体的にはがん細胞からがん抗原を分離して、それにアジュバンドという免疫性を強化させる薬、いわゆるがん細胞の抗原性を強める薬を付加して体内にもどし、これによってがん免疫を増強させようというものです。
がんワクチンにはいくつか種類がありますが、 主に「膜抗原型」「ペプチド型」「遺伝子型」の3つに分かれます。ハスミワクチンは「膜抗原型」で、がん細胞から採取した膜を抗原にする方法です。

光免疫療法

光免疫療法(Photoimmunotherapy, PIT)は、新しいがん治療法の一つで、光と抗体を組み合わせてがん細胞を選択的に破壊する方法です。この療法は、従来の治療法に比べて副作用が少なく、がん細胞を正確に狙うことができるため、効果的な治療法として注目されています。 光免疫療法の仕組みは、まずがん細胞に特異的に結合する抗体に、光感受性物質(フォトシンセタイザー)を結合させます。この抗体は、がん細胞の表面に存在する特定のタンパク質に結合するよう設計されており、正常細胞にはほとんど影響を与えません。この抗体ががん細胞に結合した後、近赤外線を照射すると、フォトシンセタイザーが活性化され、がん細胞膜が破壊されて細胞が死滅します。この過程で、周囲の正常組織へのダメージが少ないことが大きなメリットです。 光免疫療法の主な特徴 高い選択性: がん細胞に特異的に結合する抗体を利用するため、正常細胞をほとんど傷つけず、がん細胞のみをターゲットにできる。 低侵襲性: 光を使った治療なので、手術や化学療法と比べて体への負担が少なく、副作用が軽減される。 即効性: 光を照射することで迅速にがん細胞を破壊できるため、短期間での効果が期待できる。 代表的な光免疫療法:アキャルックス(Akalux) アキャルックスは、光感受性物質「IR700」と、がん細胞表面に存在するEGFR(上皮成長因子受容体)をターゲットとしたモノクローナル抗体「セツキシマブ(Cetuximab)」を組み合わせた薬剤です。 この薬剤は、がん細胞表面に特異的に結合することで、近赤外線を照射した際に選択的にがん細胞を破壊します。 照射装置: BioBlade(バイオブレード) アキャルックスと併用される近赤外線の照射装置で、がん細胞に薬剤が結合した後に、この光を患部に照射します。これにより、IR700が活性化され、がん細胞の細胞膜を破壊して細胞死を引き起こします。 対象となるがん種: 頭頸部がん(再発または難治性): 頭頸部がんは治療の難しいがんの一つであり、再発や進行がんの場合には手術や化学療法、放射線療法の効果が限定的です。アキャルックスはこのような患者に対して効果を示しています。 臨床応用と今後の展望 光免疫療法は、現在進行中の臨床試験で有望な結果を示しており、特に頭頸部がんなどで有効性が確認されています。さらに、今後は他のがん種にも適用範囲が拡大される可能性があります。特に、免疫チェックポイント阻害薬との併用など、他の治療法との組み合わせによって治療効果の向上が期待されています。

非特異的免疫

非特異的免疫(自然免疫)とは、生来備わった免疫であり、病原微生物などの異物の進入を防ぐ第一線の防御機構として働く免疫です。
基本的にどんな微生物に対しても一様に防御効果を示し、特定の微生物に対してのみ防御し、ほかの微生物は無視するというようなことはしません。

ヒトパピローマウイルス(HPV)

ヒトパピローマウイルス(HPV)は、さまざまな種類のがんの原因となることが知られています。特に「高リスク型」HPV感染が長期間続く場合、がんの発生に関与する可能性が高まります。以下は、HPV感染が関連する主要ながんの種類です:

1. 子宮頸がん

  • HPV関連のがんで最も一般的です。ほぼすべての子宮頸がんは、高リスク型HPV感染が原因とされています。特にHPV16型とHPV18型が、子宮頸がんの大部分を引き起こします。

2. 外陰がん

  • 女性の外陰部(外性器)に発生するがんで、HPV感染が原因の約50%の外陰がんが報告されています。特にHPV16型が関連しています。

3. 膣がん

  • 膣に発生するがんで、HPV感染が原因となるケースが多く、特にHPV16型がリスク要因となります。

4. 陰茎がん

  • 男性の陰茎に発生するがんで、HPV感染が原因となることがあります。特に、包茎や衛生管理が不十分な場合にリスクが高まります。

5. 肛門がん

  • 男女ともに影響を受けるがんで、HPV感染が約90%の肛門がんの原因とされています。特にHPV16型が多く関連しています。

6. 中咽頭がん

  • 口腔内や喉のがんで、特に扁桃や舌の根元に発生します。HPV感染はこのがんの主な原因の1つで、特にHPV16型が関連しています。口腔性行為によって感染が広がることがあります。

これらのがんは、HPV感染によって引き起こされるリスクがあるため、HPVワクチンの接種や定期的な検査が予防において重要です。

標準作業手順書(SOP)

標準作業手順書(SOP: Standard Operating Procedure)とは、再生医療のような細胞を用いたちりょうにおいて、その細胞の品質保持のため、ひとつひとつの作業工程や施設管理方法などを順序だてて文書に落とし込んだものです。

標準治療

がんと診断されたら、最初に検討するべきがん治療です:
がんと診断されたら、まず手術や放射線療法、抗がん剤治療が勧められます。これらは「標準治療」と呼ばれ、科学的な根拠、すなわち統計結果に基づいています。

具体的には大規模な臨床試験によって得られた証拠に基づいて行われる治療が標準治療となりますが、この標準治療も日進月歩で、日々のように変わっています。

これらのがん治療は、手術などの「外科治療」、エックス線などの「放射線療法」、抗がん剤などの「化学療法」の3つに分けられるため、「三大がん治療」とも呼ばれています。

これらの治療は、1つだけで実施されることは少なく、がんの進行状況に応じて、組み合わせることが多くなっています。例えば、手術でがん組織を取り除いてから抗がん剤治療と放射線療法を行い、転移したがんまで退治するケースや、あらかじめ化学療法でがんをある程度小さくしてから(術前化学療法)、手術でがんを取り除く場合もあります。また、手術ができない患者さまには、化学療法と放射線療法を合わせてがんの進行を抑える場合もあります(放射線化学療法)。

進化する手術の技術:
これまでの外科治療では、胸や腹部を大きく切り開いて行う開胸や開腹手術が主に行われていました。しかし、手術後の治癒までに時間がかかるなど、比較的長期間の入院が必要でした。ところが、技術の進歩によって、胸腔鏡や腹腔鏡など、いわゆる「内視鏡」を使うことにより、がん病巣の状態によっては、体に小さい穴を開けるだけでがんを取り除くことも可能になりました。
その結果、患者さまへの麻酔が少なくて済み、手術後の回復も早くなり、術後の入院期間が短くなるなど、患者さまの負担が少なくなりました。加えて、ロボット手術も行われるようになってきています。
ダビンチシステムは、腹腔鏡手術を支援する、内視鏡下手術支援ロボットですが、ロボット手術といっても、機械が自動的に手術を行うわけではありません。患者さまのお腹にあけた小さな穴に手術器具を取り付けたロボットアームと内視鏡を挿入し、内視鏡画像を見ながら操作して手術をするといったものです。いずれも、患者さまへの麻酔が少なくて済み、手術後の回復も早くなり、術後の入院期間が短くなるなど、患者さまの負担は少なくなりました。また抗がん剤治療(いわゆる「化学療法」)も、1つの薬剤のみ使用するのではなく、いくつか薬剤を組み合わせることによって、治療効果が改善されたり、副作用の軽減も見られるようになりました。

効果的な使い分けが行われている「放射線療法」:
放射線療法に使用される放射線には、主に電子線、エックス線、ガンマ線、粒子線があり、それぞれ性質が異なっています。

電子線は、一定の深さまでしか影響を及ぼさない性質があるので、皮膚など体の表面部分の治療に利用されます。エックス線は、体を通過する性質があるため、線量を調整することで、体の内部にある脳・肺・骨などには大きいエネルギーで、体の表面にある首・のど・乳房などには小さいエネルギーで治療を行うことができます。そして、ガンマ線は電子線やエックス線に比べてエネルギーが小さいため、脳腫瘍など、周囲の細胞に影響してはいけない治療に使用されています。最近ではより副作用が少ない「陽子線」や「重粒子線」などを用いた放射線治療の研究も進められています。

いろいろながん治療の研究開発が進んでいます:
三大がん治療は、どれかが優れていて、そのほかが優れていないということはありません。それぞれの特徴を活かして、患者さまとがんの状態を見極めて、最適な方法が選択されます。最近は三大がん治療を基本にしながら、新しい治療法も導入されています。免疫を活性化する免疫チェックポイント阻害剤や免疫細胞療法、電磁波を利用した温熱療法であるハイパーサーミアなど、多くの治療が実用化されています。また「がんを取り除く治療」だけでなく、がんに伴うや精神的苦痛(スピリチュアルペイン)も含めた苦痛を取り除く緩和ケアの研究も進んでいます。

ビロイ(一般名:ゾルベツキシマブ)

ビロイ(Zolbetuximabゾルベツキシマブ)は、CLDN18.2(Claudin 18.2)を標的としたモノクローナル抗体で、特にCLDN18.2が異常発現している胃がんや膵臓がんなどの消化器系がんに対して高い効果が期待されています。Zolbetuximabは、CLDN18.2を発現するがん細胞に結合し、免疫系を介してがん細胞を破壊します。

以下は、ビロイとCLDN18.2に関連する重要なポイントです。

  1. CLDN18.2の選択的標的: Zolbetuximabは、CLDN18.2を発現するがん細胞の表面に選択的に結合します。CLDN18.2は、正常な組織では主に胃に限られた発現を示しますが、がん細胞では異常な発現が見られることがあり、この特性を利用してがん治療に応用されています。

  2. がん細胞死のメカニズム: ビロイは、CLDN18.2に結合することにより、**抗体依存性細胞傷害(ADCC)と補体依存性細胞傷害(CDC)**という2つの異なる免疫系経路を活性化します。これにより、免疫系のエフェクター細胞や補体系が活性化され、がん細胞が破壊されます。具体的には、ADCCでは免疫細胞がビロイに結合したがん細胞を認識して殺傷し、CDCでは補体系ががん細胞に対する攻撃を引き起こします。この2つの経路の働きが相乗効果を発揮し、がん細胞死が誘導されます。

  3. 抗体依存性細胞傷害(ADCC): ビロイががん細胞に結合すると、NK細胞やマクロファージなどのエフェクター細胞がビロイを介してがん細胞を認識し、がん細胞を殺傷します。このプロセスは、がん細胞表面に結合した抗体を目印として免疫系が攻撃を行うメカニズムです。

  4. 補体依存性細胞傷害(CDC): また、ビロイは補体系も活性化し、補体タンパク質ががん細胞膜に形成された抗体に結合することで細胞膜を破壊し、がん細胞を死に至らせます。このプロセスは、補体系による攻撃を通じてがん細胞を破壊します。

  5. 臨床試験と治療の展開: ビロイは、進行性胃がんや膵臓がんに対する臨床試験が進行中で、CLDN18.2の発現が確認された患者に対して効果が示されています。個別化治療として、CLDN18.2陽性がん患者に対する有効な治療選択肢となることが期待されています。

  6. 併用療法の可能性: ビロイは、他のがん治療法、例えば化学療法や免疫療法との併用も検討されており、これらの治療法と併用することで、さらに高い治療効果が期待されています。

まとめ:
ビロイは、CLDN18.2を発現するがん細胞に選択的に作用し、抗体依存性細胞傷害(ADCC)および補体依存性細胞傷害(CDC)の両方のメカニズムを介してがん細胞死を誘導します。特に胃がんや膵臓がんなど、CLDN18.2が高発現するがんに対して有望な治療法であり、今後の臨床応用が期待されています。また、化学療法や免疫療法との併用によるさらなる治療効果の向上が期待されています。

腹膜播種(ふくまくはしゅ)

腹膜播種(ふくまくはしゅ)とは、がんが腹膜(腹腔内の臓器を覆う薄い膜)に広がり、そこに多数の小さな腫瘍を形成する状態を指します。これは、主に腹腔内の臓器(胃、卵巣、大腸、膵臓など)のがんが進行した際に見られる特徴的な転移の形です。

腹膜播種のメカニズム:
腫瘍細胞が原発巣(最初に発生した部位)から離れて腹膜に浸潤することが原因です。がん細胞が腹腔内に脱落し、腹腔内に広がって腹膜表面に付着・増殖することで小さな腫瘍を形成します。この転移の形態は、血流やリンパ管を介した転移とは異なり、腹腔内での直接的な拡散によるものです。

腹膜播種の症状:
腹膜播種は、進行するにつれて次のような症状を引き起こすことがあります。

・腹痛や腹部の膨満感
・食欲不振や体重減少
・腹水(腹腔内に液体がたまる状態)
・消化不良や腸閉塞

治療法:
腹膜播種は進行がんの一つであり、治療が難しいことが多いですが、以下のような治療法が検討されます。

・手術: 腹膜に広がった腫瘍の一部を摘出することができる場合がありますが、全ての腫瘍を取り除くことは難しいことが多いです。
・化学療法: 全身化学療法や、腹腔内に直接抗がん剤を投与する腹腔内化学療法が行われることがあります。
・免疫療法: がんの進行を抑えるために免疫チェックポイント阻害薬などの免疫療法も選択肢となることがあります。
・腹水の管理: 腹水がたまる場合は、ドレナージ(体外に液体を排出する処置)が行われることがあります。

腹膜播種は難治性ですが、患者さまの状態に応じて治療方針が決定され、症状を軽減し、生活の質を維持することを目指していきます。

フローサイトメトリー

細胞の性質を測定すること。細胞療法には必須の検査です。
フローサイトメーターという機器を使用して、細胞1個1個の大きさや形状、内部構造の違い、細胞の同定や細胞群を構成する種々の細胞の存在比を短時間で解析します。
プレシジョンクリニックの樹状細胞ワクチン療法においても、患者さまに投与する免疫細胞に対して、フローサイトメトリーにより品質を確認しています。

分子標的薬

分子標的薬は、1980年代から1990年代にがんの分子生物学が進歩したことがきっかけで誕生しました。がん細胞の増殖や転移に関しては、がんだけに見られる、あるいはがんで多く発現している異常なタンパク質や酵素が重要な役割を果たしていることが分かってきました。

こうしたがん細胞に特異的あるいは過剰に発現し、がんの成長に関与している分子を見つけ、標的として攻撃する、これが分子標的薬です。

分子標的薬が標的とする「がんに特異的な分子」によって、主に「シグナル伝達経路阻害剤」、「血管新生阻害薬」等のグループに分けられます。

また、分子標的薬は薬そのものの物理的性質によっても分類することもでき、「低分子化合物」と、「抗体製剤」に分けられます。低分子グループの薬は分子量が小さいので細胞の中まで入っていくことができます。多くの分子標的薬がこれに当たります。

一方、抗体製剤のグループは、遺伝子工学を利用して作られた人工の抗体です。人工の抗体が、がん細胞にだけ存在する細胞のレセプター(受容体)や情報伝達物質に取り付いて、その働きを阻害したりして効果を発揮します。

プレシジョンメディスン

プレシジョンメディスンという言葉は2015年、オバマ前アメリカ大統領が一般教書演説で推進を約束したことで世界的にも知られるようになった言葉です。
「精密医療」と訳され、患者さま一人ひとりに合わせた治療全般のことを指しますが、主にがん患者さまの治療に用いられています。



【例】胃がんと診断された患者さまがいた場合
胃がんの患者さまのがん組織を採取して、遺伝子情報を解析すると、がんの原因となった遺伝子変異が見つかる場合があります。その情報を元に最も効果的な治療を行うのがプレシジョンメディスンです。

胃がん患者さまの集団の統計から有効だと思われる抗がん剤を、その患者さま本人にも効くかどうか順々に試していく従来のやり方に比べれば、患者さまのがんの変異部分に効果を示すことが明らかな薬剤を使うため、その精度は飛躍的に高まると言えます。

しかし、現在においてはがん細胞を攻撃するだけでなく、正常な組織に対しても作用する殺細胞性抗がん剤が推奨されています。

「殺細胞性抗がん剤」とは、私たちが、プレシジョンメディスンで用いる「分子標的薬」とは異なります。従来より用いられている、いわゆる抗がん剤と呼ばれてきた多くの薬剤は、がんの無限増殖に伴うDNAの合成や細胞分裂を阻害することによりがん細胞を死滅させる作用をもつため、「殺細胞性抗がん剤」と言われます。これらは正常細胞においても、DNAの合成や細胞分裂の盛んな血液の細胞や、腸管、毛髪細胞などに影響を及ぼし、ダメージを与えてしまいます。一方、「分子標的薬」は、がん細胞や腫瘍環境で異常亢進を来たしている分子、すなわちがんの特性を規定する分子を標的として、その機能を制御する作用をもつ薬剤です。 標的分子ががん特有の分子と明確であるため、正常組織のダメージは少なく、より治療効果の予測が可能となります。ダメージという点でもう一つ重要なことは、正常な免疫細胞に傷害を与えないという点においてもがん治療に優位に働くと言えます。



事前に遺伝子解析を行うプレシジョンメディスンでは薬剤の命中率が高まるだけでなく、効果が見られない薬による余計な副作用が避けられること、免疫にダメージを与えにくいというメリットがあります。

遺伝子解析の技術の発達、特定のがん細胞に有効な分子標的薬の登場でがん治療は新たなステージを迎えたと言えるでしょう。

ヘルパーT細胞

細胞表面にCD4という分子を持つT細胞の一種で、B細胞の分化と抗体の産生を促し、キラーT細胞を活性化させる働きをもつ。
このヘルパーT細胞が活性化されないと、キラーT細胞も活性化されないため、腫瘍免疫において重要な働きを担っていることが明らかになっている。

ペプチド

アミノ酸が50個程結合したものをいいます。
それ以上結合したものがタンパク質と呼ばれます。
樹状細胞に貪食(取り込まれた)されたがんのタンパク質は、アミノ酸が10個程度(ペプチド)にまで消化されます。
消化されたペプチドは細胞内でHLAと結合し、樹状細胞の細胞膜表面に運ばれ、T細胞に提示されることになります。

樹状細胞ワクチン療法では、樹状細胞の細胞膜上にがんのペプチドとHLAが結合した分子が提示されている状態で患者さまに投与されます。
樹状細胞によって提示されたがんのペプチドを認識したT細胞のみが、増殖し活性化します。
このT細胞によってがん細胞への攻撃が行われます。
ペプチドなどを用いた人工抗原樹状細胞ワクチン療法は、がん特有の抗原(ペプチドを人工的に合成したもの)を樹状細胞に与えてから、ワクチンを作製し、これを体内に投与する方法です。
なお、人工抗原樹状細胞ワクチン療法は、患者さまのがんの抗原と人工抗原とが合致する必要があるため、患者さまのHLAの型によっては実施できない場合があります。

ペプチドワクチン療法

正常細胞と比較して、がん細胞に特に多く存在するタンパク質由来のペプチドを「がん抗原ペプチド」と表現しています。このがん抗原ペプチドを利用したワクチン療法が、「ペプチドワクチン療法」です。

ペプチドワクチン療法は、がんペプチド(8~10アミノ酸が連結した小さいペプチド)にアジュバントと呼ばれる物質を混ぜて注射することによって、がん患者さま自身のもっている免疫の力を高めてがんを治療することを目的として開発されたものです。がん細胞内では、がん関連遺伝子から作られるがん抗原(タンパク質)が絶えず合成されたり、分解されたりしています。この分解されてできた断片は、がん細胞に由来する特有のペプチド(がん抗原ペプチド)ということになります。

これと同様に、がん細胞やがんタンパク質を樹状細胞が取り込み、細胞内で分解した場合も、樹状細胞の膜表面にがん抗原ペプチドが提示されます。その情報を受け取った細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)ががん細胞を排除するようになります。

放射線治療(放射線療法)

放射線治療は、放射線が持つ電離作用を利用して、がんを制御する治療法です。
放射線という言葉を聞くと恐ろしいものと考えられがちですが、最新の放射線治療装置では、がんの部位以外にはほとんど放射線があたらない、ピンポイントでがん細胞を狙い撃つタイプのものも数多く開発されています。

■ 放射線治療の原理
放射線ががん細胞にあたると、DNAに傷をつけます。わずかな傷であればDNAは修復されますが、傷が多く、修復できないほどの損傷が加わるとがん細胞は死に至ります。損傷する程度は放射線をあてる量に完全に比例するわけではありませんが、多くあてればがん細胞の死ぬ確率が高くなります。

放射線によって致命的なダメージを受けると、細胞は数日後に死に至ります。1~2日程度では細胞が変化することは少なく、1~2度の分裂を行うこともありますが、やがて分裂する能力を失い、正常であれば無限に続けるはずの分裂を停止します。すると、生体が死んだことをリンパ球が認識して、それを処理するマクロファージなどの細胞が働き始め、処理が終わったところで腫瘍が縮んでいきます。腫瘍の塊は2~3か月かかって徐々に縮み、CT(断層撮影)で見るとその影が消えていることが分かります。

■ 放射線治療の現状
最新の放射線治療装置の特徴は、コンピュータ制御によってミクロの単位でがんを破壊する「がんのモニタリング装置」が装備されている点です。IMRTやSRTといわれる放射線治療では、非常に小さながんでも、極細のペンシルビームによる照射とリアルタイムでの位置認識システムによって患者さまの動きを敏感に捉えながら、がんを治療することが可能となっています。

また、従来のX線、γ線、電子線を使った放射線治療のみでは制御が困難な悪性黒色腫、骨肉腫、肝がんなどの治療に有効であると期待されているのが、サ イクロトロンやシンクロトロンという粒子加速器を用いる高エネルギー炭素線または陽子線による粒子線治療です。こうした放射線治療は免疫力を下げにくい特徴があるため、プレシジョンクリニックグループが提供する樹状細胞ワクチン療法との相性も良いことが分かってきています。

ま行

丸山ワクチン

丸山ワクチンは、1944年に結核の治療薬として誕生しました。 このワクチンの名前は、発明者である故丸山博士(日本医科大学名誉教授)に由来します。 主成分は、結核菌から抽出したリポアラビノマンナンという多糖の一種です。

丸山ワクチンは、BRM療法という免疫療法の一種として用られます。 がん治療において、BRM療法は、体内の免疫を全体的に活性化して、 抗がん作用を期待する非特異的免疫療法に分類されます。 BRM療法には、丸山ワクチンの他、細菌から調製したOK-432(商品名ピシバニール)、 シイタケから抽出した多糖類であるレンチナン、同じくキノコであるサルノコシカケから抽出した クレスチンなどが使用されています。

丸山ワクチンは、抗がん剤としての承認を受けていません。 有効性の確認をするために、費用を患者様に負担していただく治験として、 丸山ワクチンは、引き続き行われています。 しかし、放射線療法によって白血球が減少した場合の治療薬として 1991年に承認された「アンサー20(有効成分:Z-100)」は、丸山ワクチンと同成分です。 体内において、有効成分であるZ-100が、血液細胞の幹細胞に作用する成分の産生を促進します。 その結果、放射線により障害を受けた血液細胞の分裂が活発化されて、 白血球の減少が抑制されます。

丸山ワクチンは、体内の免疫システムを調節することによって、間接的にがん細胞の浸潤、転移などを阻害します。すなわち、Tリンパ球やマクロファージ、NK細胞(リンパ球の一種で直接がん細胞を攻撃する細胞)など、主に自然免疫にかかわる免疫細胞が活性化され、様々なサイトカイン(生理活性物質、例えばインターフェロンやインターロイキン)産生が促進されることによって、がん細胞における生存環境が悪化し、がん細胞はその数を減らしていきます。

ミスマッチ修復(MMR)タンパク

ミスマッチ修復(MMR)タンパクの評価は、腫瘍の遺伝的な異常を確認し、治療法を決定するために重要です。特に、ミスマッチ修復機構の欠損(dMMR)は、がんの進行や免疫療法の効果に影響を与えるため、評価の方法を知ることが重要です。MMRタンパクの評価方法には、主に以下の2つのアプローチが使用されます。

1. 免疫組織化学染色(IHC)

IHCは、腫瘍組織内の特定のMMRタンパク(MLH1, MSH2, MSH6, PMS2)の存在を検出するために使用されます。この方法では、通常4つのMMRタンパクのうちどれかが失われているかどうかを確認します。結果は以下のように分類されます:

  • 正常(pMMR): すべてのMMRタンパクが正常に発現している場合。
  • 異常(dMMR): 1つ以上のMMRタンパクが発現していない場合。dMMRは、遺伝子のミスマッチ修復能力が損なわれていることを示します。

2. マイクロサテライト不安定性(MSI)検査

MSI検査は、DNAのミスマッチリペアの機能に関連する異常を評価するために使用されます。MSI-high(MSI-H)やMSI-low(MSI-L)と呼ばれる結果が得られ、特にMSI-Hの状態は、免疫チェックポイント阻害剤(例えば、PD-1阻害剤)の有効性が高いことを示唆します。

  • MSI-high(MSI-H): ミスマッチ修復機構が損なわれている状態。dMMRに対応することが多い。
  • MSI-stable(MSS): ミスマッチ修復機構が正常に機能している状態。pMMRに対応することが多い。

IHCとMSIの組み合わせ

IHCとMSI検査は、補完的に使用されることが多く、IHCによってMMRタンパクが欠損している場合には、MSI検査によって遺伝的な不安定性が確認されることがあります。これらの検査は、主に大腸がんや子宮内膜がんなどで使われ、免疫療法の適応を決定する上での基準にもなります。

無血清培養

ヒトや動物由来の血清を使用しない培養方法。
ウイルスなど既知あるいは未知の病原体の二次感染を防止できます。
ヒトの細胞の培養において無血清での細胞培養は技術的なハードルが高いのですが、細胞療法の場合、生きている細胞を利用するため殺菌や消毒ができません。
したがって感染症の可能性を避けるために、安全第一の観点から無血清培養が必要にあります。

免疫

人間には生まれつき免疫とよばれる働きが備わっており、体の中に侵入した細菌やウイルスを、体の中から取り除く働きがあります。
予防注射もこの原理を応用したもので、例えば「はしか」の予防注射を行って免疫をつけると「はしか」のウイルスは体の中に入ってこられなくなります(排除されます)。
体の免疫は、がんができたり転移したりすることとも密接な関係があります。
体の免疫力が低下した状態、たとえば後天性の免疫不全症候群(エイズ)や臓器移植の時に投与される薬によって生じる、免疫の抑制された状態では、がんができやすくなることが知られています。
がんは通常、手術や抗がん剤、放射線で取り除こうとするのが一般的ですが、近年はこれとは別に、人間の体に生まれつき備わっている免疫の力を利用したり、免疫の力を強めたりすることでがんの発症や進展を抑えようとすることが試みられています。
これががん免疫療法と呼ばれているものです。

免疫細胞の種類

白血球の種類
白血球は、からだの中に侵入してきたウイルスや細菌などから、常にからだを守り続ける免疫細胞です。からだの中では多種多彩な免疫細胞(白血球の仲間達)が、緻密なチームプレーで異物と戦っています。

【樹状細胞(じゅじょうさいぼう)】
外気に触れる鼻腔、肺、胃、腸管、皮膚などに主に存在している細胞です。名前のとおり枝のような突起(樹状突起)を周囲に伸ばしています。樹状細胞は、異物を自分の中に取り込み、その異物の特徴(抗原)を他の免疫細胞に伝える働きを持ちます。実際には、抗原を取り込んだ樹状細胞は、リンパ節などのリンパ器官へ移動し、T細胞やB細胞などに抗原情報を伝えることで、それら免疫細胞を活性化させます。活性化されたT細胞やB細胞が、異物を攻撃します。

【マクロファージ】
マクロファージはアメーバ状の細胞です。からだの中に侵入してきた異物を発見すると、自分の中にそれを取り込んで消化します。また一部のマクロファージは、異物の特徴 (抗原)を細胞表面に出すことで、外敵の存在を他の免疫細胞に伝えます。 そのほか、他の免疫細胞と共同で、TNF-α、インターロイキン、インターフェロンなど、主に免疫細胞を活性化させるサイトカインという物質産生にも関与します。

【リンパ球(T・B・NK細胞)】
★ T細胞

ウイルスなどに感染した細胞を見つけて排除します。T細胞は、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、制御性T細胞の3種類があり、それぞれ司令塔、殺し屋、クローザーの役割があります。
① キラーT細胞は樹状細胞から抗原情報を受け取り、ウィルスが感染した細胞やがん細胞にとりつき、排除する、といういわゆる「殺し屋」の働きを持っています。

②  ヘルパーT細胞は、樹状細胞やマクロファージから異物の情報(抗原)を受け取り、サイトカインなどの免疫活性化物質などを産生します。

③ 制御性T細胞は、キラーT細胞が正常細胞へ攻撃をしないよう、キラーT細胞の働きを抑制したり、免疫反応を終了に導く、野球でいう「クローザー」の役割を担っています。

④ αβT細胞(アルファベータT細胞)は、αβT細胞療法に利用される、α鎖とβ鎖からなるT細胞受容体を有するT細胞の総称です。抗CD3抗体とIL-2を使用して選択的に増殖させることが可能です。αβT細胞療法は、一般に活性化自己リンパ球療法(LAK療法)とよばれている免疫細胞療法の一種です。

⑤ γδT細胞(ガンマデルタT細胞)は、α鎖、β鎖と呼ばれる2つの糖タンパク質から構成されるT細胞受容体を持つT細胞の総称です。γδT細胞は、αβT細胞と比べると少数ですが、この末梢血中に存在するγδT細胞には、がん細胞を認識して攻撃する能力があることが明らかになっています。

⑥ ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)は、T細胞とナチュラルキラー細胞(NK細胞)の両方の特徴を持つT細胞の亜種です。NKT細胞は末梢血中T細胞のわずか0.1%程度しか存在しません。活性化されたNKT細胞は、サイトカイン(IFN-γなど)を産生したり、Fasリガンドやパーフォリン・グランザイムによるがん細胞への障害活性を示します。

★ B細胞
B細胞は骨髄に存在して、抗体を産生する免疫細胞です。血液の元となる細胞(造血幹細胞)から作られ、樹状細胞の指令を受けると、外敵や異物を攻撃する「抗体」を作り、異物の排除を手助けします。また、B細胞は、細胞ごとに作る抗体の種類が決まっています。あるB細胞が作り出す抗体に適合した外敵が出現した場合にのみ、そのB細胞は活性化して、抗体を産生します。

★ NK(ナチュラルキラー)細胞
いつもからだの中をパトロールしています。ウイルスに感染した細胞などを発見すると単独で攻撃をしかけます。T細胞とは異なり、他からの指示を必要とせず、一人で外敵や異物を攻撃できるため、生まれつき(natural)の殺し屋(killer)という名前が付けられています。

【顆粒球の役割】
★  好中球(こうちゅうきゅう)
強い貪食作用や殺菌能力を持ち、主に細菌やカビを攻撃します。

★ 好酸球(こうさんきゅう)< 寄生虫の感染に対する免疫を担当しています。また、アレルギー反応などが起こった時に増加します。

★ 好塩基球(こうえんききゅう)
細胞内にヒスタミンなど種々の生理活性物質を含有していて、主に炎症反応に関与します。

免疫細胞療法

がんは通常、手術・抗がん剤・放射線の、いわゆる「三大治療」で治療するのが一般的です。一方で、近年、がん細胞を攻撃する機能を持つ免疫細胞(樹状細胞やリンパ球など)を体外に取り出し、専門 の培養施設で加工・処理することによってその数を増やしてから、再び体内に戻し、がんの発症や進行を抑えるがん治療が行われています。これが免疫細胞療法と呼ばれている治療です。2015年に法整備がされ、認可を受けた医療機関で免疫細胞療法が実施できるようになりました。

免疫チェックポイント阻害薬

免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitors)は、がんの免疫療法の一つであり、がん細胞が免疫システムから逃れるのを防ぐ薬剤です。免疫チェックポイントは、免疫細胞(特にT細胞)が異常に活性化して自己免疫反応を起こさないようにするための体内の仕組みです。しかし、この仕組みを利用して、がん細胞がT細胞による攻撃を回避することがあります。

代表的な免疫チェックポイント

  1. PD-1(Programmed Death-1): T細胞の表面にあるタンパク質で、がん細胞がPD-1に結合すると、T細胞の働きが抑制され、がん細胞を攻撃できなくなります。
  2. PD-L1(Programmed Death-Ligand 1): がん細胞や免疫抑制性の細胞が出すタンパク質で、PD-1に結合してT細胞を抑制します。
  3. CTLA-4(Cytotoxic T-Lymphocyte Antigen 4): 免疫チェックポイントの一つで、T細胞が活性化される前の段階で、CTLA-4が働くことによりT細胞の攻撃が抑制されます。

免疫チェックポイント阻害薬の作用機序

免疫チェックポイント阻害薬は、PD-1、PD-L1、CTLA-4といったチェックポイント分子を阻害することで、免疫細胞が再び活性化し、がん細胞を攻撃できるようにします。これにより、がん細胞が免疫システムの監視から逃れるのを防ぎ、免疫によるがんの排除を促進します。

主な免疫チェックポイント阻害薬

  • PD-1阻害薬: ニボルマブ(オプジーボ) ペムブロリズマブ(キイトルーダ)
  • PD-L1阻害薬: アテゾリズマブ(テセントリク) アベルマブ(バベンシオ) デュルバルマブ(イミフィンジ)
  • CTLA-4阻害薬: イピリムマブ(ヤーボイ) トリメリマブ(イジュド)

免疫チェックポイント阻害薬の効果

特定のがん種では、免疫チェックポイント阻害薬が非常に有効であり、特にメラノーマ(皮膚がん)、非小細胞肺がん、腎細胞がん、頭頸部がんなどで効果が示されています。また、一部の固形がんや血液がんにも適用が広がってきています。がんの種類や進行具合、患者の免疫状態により、治療効果は異なりますが、長期的な生存を得る患者も増加しています。

副作用

免疫チェックポイント阻害薬は免疫を活性化するため、自己免疫疾患に似た副作用を引き起こすことがあります。例えば、皮膚、腸、肝臓、肺、内分泌系(ホルモンの分泌を司る臓器)に炎症を引き起こすことがあります。これらの副作用は、免疫抑制剤で治療されることが一般的です。 免疫チェックポイント阻害薬は、免疫システムを利用したがん治療の進展に大きく貢献しており、がん患者に新たな治療選択肢を提供しています。

免疫の仕組み

免疫は命を守っている:
風邪をひいた時など、「免疫力が低下したからだ…」などと言ったりしませんか? 免疫という言葉は、普段なにげなく使っていますし、テレビや雑誌などでも頻繁に取り上げられています。普段からよく耳にする”免疫”ですが、その言葉の意味を正しく理解して使っている人は、あまり多くありません。ここでは免疫について、わかり易く解説します。 そもそも免疫という漢字は、「やまい(疫)をまぬが(免)れる」と書きます。例えばインフルエンザワクチンを注射してインフルエンザウィルスに対する免疫をつけると、インフルエンザにかかりにくくなるように、免疫とは、細菌やウイルスなどの外敵(異物:自分以外のもの)がからだの中へ侵入してきた時など、それに立ち向かって排除し、わたしたちの命を守ってくれる仕組みなのです。

免疫細胞はチームプレーでからだを守る:
では、免疫は、一体どのようにして、からだの中に侵入してきた異物を排除するのでしょうか。 答えは”血液”にあります。血液の中には、大きく分けて酸素を運ぶ「赤血球」と、免疫を担う「白血球」という細胞が存在しています。これらのうち、白血球は1種類の細胞ではなく、さまざまな役割を持った多種類の免疫細胞で構成されています。それらが相互に連絡をとりあい、チームプレーで外敵と戦っているのです。

免疫細胞と抗体:
白血球以外にも、からだの免疫システムで重要な役割を担っている物質が”抗体”です。からだの中に異物が進入すると、わたしたちの血液中には、その異物だけに特異的に作用する『免疫グロブリン(抗体のこと)』が作られます。産生された抗体は、異物とつながり、白血球の一種であるマクロファージやリンパ球といった免疫細胞がこの抗体を目印として、異物を貪食・攻撃します。この抗体も白血球の中のB細胞から産生されます。

わたしたちの体は、異物が侵入してきても、それに対応する抗体を作り、ある種の免疫細胞によって排除することができます。その素晴らしい能力で、侵入してきた外敵や異物と絶え間なく戦っているのです。

免疫療法

免疫療法とは、人間の体に生まれつき備わっている免疫の特徴を利用したり、免疫の力を強めたりすることでがんの発症や進展を抑えようとすることを目的とした治療をいいます。

免疫療法には、特異的免疫療法と非特異的免疫療法に分けれられ、また機能的には免疫のアクセル役の免疫療法とブレーキを解除することで機能を発揮する免疫療法があります。アクセル役の免疫はキラーT細胞になります。このキラーT細胞を体内で強化する治療法が、樹状細胞ワクチン療法になります。また、世界で承認されているキラーT細胞を用いたものとして、CAR-T細胞療法というのがあります。CAR-T細胞療法は、がん細胞の目印を見分ける遺伝子としてCAR(キメラ抗原受容体遺伝子)という遺伝子をT細胞に埋め込んだ治療法で、血液のがんで保険適応になっています。一方、ブレーキを解除する免疫療法として、免疫チェックポイント阻害剤があります。免疫チェックポイント阻害薬は、体に備わっている免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ薬です。T細胞の表面には、「異物を攻撃するな」という命令を受け取るためのアンテナがあります。一方、がん細胞にもアンテナがあり、T細胞のアンテナに結合して、「異物を攻撃するな」という命令を送ります。すると、T細胞にブレーキがかかり、がん細胞は排除されなくなります。このように、T細胞にブレーキがかかる仕組みを「免疫チェックポイント」といいます。免疫チェックポイント阻害薬は、T細胞やがん細胞のアンテナに作用して、免疫にブレーキがかかるのを防ぎます。

免疫療法の変遷

免疫賦活剤やサイトカイン療法は、免疫システムを全体的に活性化させる目的で行われていたものの、免疫にかかわる細胞を選んで強化するまでには至りませんでした。これに対し1980年代から、免疫細胞そのものをがん治療に利用する免疫療法(免疫細胞療法)が注目されるようになってきました。

1990年代に入り免疫療法の研究がさらに発展していく中で、がんに特有の「がん抗原」を明らかにしていく動きも活発になりました。この10年でめざましく進歩した生化学・分子生物学の最先端研究によって、「がん抗原」が次々と発見されるに至ったのです。

がん抗原は、がん細胞が「自分はがんですよ」と外に示す「印」のようなものです。印がわかれば、免疫細胞はそれを手がかりに効率よくがん細胞を攻撃することができます。「がん抗原」が発見されたことで、攻撃すべき相手(がん細胞)のみを狙い打ちできるがん治療法が確立されました。免疫療法は、非特異的な免疫療法(第3世代)から、特異的な免疫療法(第4世代)へと大きな進歩を遂げました。

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○ 特異的がん免疫療法
※特異的免疫(獲得免疫)を利用したがん免疫療法です。
→ 樹状細胞ワクチン ・ ペプチドワクチンなど

○ 非特異的がん免疫療法
※非特異的免疫(自然免疫)を利用したがん免疫療法です。
→ 活性化リンパ球療法 ・ BRM療法 ・ NK細胞療法
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免疫療法のメリット

三大がん治療に加えて、近年”第4のがん治療”として注目されているのが「免疫療法」です。これまでで説明したように、免疫とは、からだの中に侵入した異物と闘うために、誰もが生まれながらに備えている能力です。この能力を最大限に高め、がん治療に役立てるものが、免疫療法です。

三大がん治療は、外部からの力(手術・放射線・抗がん剤)を借りてがんを治療するのに対し、免疫療法は、本来からだが持っている免疫力(免疫細胞)を活かして、がんと闘うため、つらい副作用で苦しむことは、ほとんどありません。これが免疫療法のメリットです。

近年、免疫療法の中には、大学や医療機関で研究されているものもあり、さまざまな臨床試験も進んでいます。米国では、デンドリオン社の樹状細胞ワクチン療法Provenge(sipuleucel-T:免疫細胞である樹状細胞を使用した免疫療法剤)が米国食品医薬品局(FDA)から認可されています。また、切除不能のがんに対して、免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる免疫療法も臨床応用されています。

や行

ヤーボイ(一般名:イピリムマブ)

ヤーボイ(Yervoy、一般名:イピリムマブ)は、免疫チェックポイント阻害薬に分類される抗CTLA-4抗体薬で、がん治療において主に悪性黒色腫(メラノーマ)や腎細胞がんなどの治療に使用されます。ヤーボイは、CTLA-4という免疫抑制分子をブロックすることでT細胞の活性化を促し、がん細胞に対する免疫反応を高めることで、がんの進行を抑制します。

ヤーボイの特徴と効果

  1. CTLA-4経路を標的:CTLA-4はT細胞上に存在する免疫抑制分子で、T細胞の過剰な活性化を抑制する役割を持っています。ヤーボイはCTLA-4に結合し、その働きを抑制することで、T細胞の活性化を促進し、がん細胞に対する攻撃を強化します。
  2. 併用療法での効果:ヤーボイはオプジーボ(ニボルマブ)などの他の免疫チェックポイント阻害薬と併用することで、さらに高い治療効果を発揮することが確認されています。この併用により、進行がんの患者においても長期的な生存効果が期待されます。
  3. 高い治療効果:特に進行悪性黒色腫や腎細胞がんで、従来の治療法に対して優れた治療効果を示しており、再発や転移のある患者に対しても効果があるとされています。

副作用

ヤーボイの主な副作用には、免疫関連の副作用(大腸炎、肝炎、皮膚炎、内分泌障害など)が含まれます。これらの副作用は、免疫系の過剰な活性化によって引き起こされるため、治療中は副作用の早期発見と適切な管理が重要です。多くの場合、ステロイド薬で対応することが可能ですが、重篤な場合には治療の一時中断や中止が必要となることもあります。

承認と使用状況

ヤーボイは、アメリカFDAや日本の厚生労働省などで悪性黒色腫や腎細胞がんをはじめとするがん治療薬として承認されています。特に、オプジーボとの併用療法は進行がんに対する新たな治療選択肢として注目されています。

陽子線治療

陽子線治療は、がんの部分だけ(ピンポイント)に照射してがん細胞を攻撃するので、正常組織を傷めない、粒子線治療に含まれる放射線治療の一種です。

これまでのX線治療では、病巣に向けて照射されたX線は、体の表面近くで放射線量が最も高く、体の深くにあるがん病巣に近づくにつれて、その量は減少していきます。そのために、がん細胞への効果は薄くなり、しかも周辺の正常組織を傷めるために副作用を起こすことになります。陽子線の場合、X線と比べて、ターゲットへより正確にエネルギーを運ぶことができるという優れた特徴があります。

陽子線は、エックス線よりも集中してあてることができますが、さらにピンポイントでがんの病巣にあてる技術が進めば、強い破壊力でまさに標的を狙い打ちできるようになります。

粒子線治療の大きな問題として、装置が大掛かりで、建設に莫大なコストがかかることが挙げられます。重粒子線の治療施設建設には約130億円、陽子線の場合は70~80億円がかかります。ただ、陽子線治療装置に関しては、リニアックよりも一回り大きい程度のものが米国で開発されつつあり、小型化すれば普及が見込まれるのではないかと考えられます。

ら行

ライセート

プレシジョンクリニックでいうライセートは、腫瘍(しゅよう)ライセートを略したもので、腫瘍溶解液を意味します。
腫瘍溶解液とは、がん組織(がん細胞)を人工的に溶かした液をいいます。これを樹状細胞に取り込ませることによって、そのがんに対する免疫反応を起こさせるようにします。

ライブリバント(一般名:アミバンタマブ)

ライブリバント(アミバンタマブ)は、非小細胞肺がん(NSCLC)の治療に用いられる抗体薬で、特にEGFR遺伝子のエクソン20挿入変異を持つ患者に効果があることが示されています。アミバンタマブはEGFRとMETの両方を標的にするバイスペシフィック抗体で、がん細胞の増殖を抑制する新しい治療法のひとつです。

ライブリバントの特徴と効果

  1. EGFRエクソン20挿入変異をターゲット:EGFR遺伝子にエクソン20挿入変異がある場合、従来のEGFR阻害薬が効きにくいことが多いですが、、ライブリバントはこの変異を持つ細胞にも効果を示します。
  2. 二重標的作用:EGFRとMETの二重標的であるため、これらのシグナル経路を介して増殖するがん細胞の増殖と生存を同時に抑制する効果が期待されます。
  3. 注射薬:ライブリバントは点滴で投与されるため、定期的な通院が必要です。

副作用

ライブリバントの一般的な副作用には、皮膚反応(発疹や乾燥肌など)、爪の異常、浮腫、インフュージョンリアクション(投与中に発生するアレルギー反応のような症状)などがあります。投与開始時のインフュージョンリアクションを避けるため、初回の投与はゆっくりと行われます。また、まれに肺炎などの重篤な副作用が発生することがあるため、慎重な経過観察が必要です。

承認と使用状況

ライブリバントは、アメリカFDAやその他の規制機関により、EGFRエクソン20挿入変異を持つNSCLC患者向けの治療薬として承認されています。これは、従来の治療が効きにくいEGFR変異に対応した新しい治療選択肢として注目されています。

ラジオ波治療

ラジオ波治療は、鉛筆の芯くらいの太さのラジオ波電流を発生する針をCTや超音波の画像を見ながら腫瘍のなかに挿入し、電流を流して腫瘍を焼灼する方法です。
原理的には、電子レンジで火がないのに料理が暖まるのと同じで、ラジオ波により腫瘍内のイオンが振動運動を起こして熱が生じます。
がん細胞は熱に弱く、50~100度の熱が加わると細胞は死滅します。
針を刺すだけですので、外科的治療法に比べて患者さまの負担は少ないため、悪性腫瘍に対する新しいがん治療選択肢といえます。
ラジオ波療法は肝臓をはじめとして肺、頭頸部、気管、骨軟部などのがん治療にも応用され始めており、その有効性が報告されつつあります。

卵巣がん

卵巣がんの特徴
卵巣がんは、初期のうちに見つけにくいがんの一つです。皮膚がんのように直接みて分かるというものではなく、胃がんや大腸がんのようにカメラを入れて確認することもできません。ただし、実は月経まわりの自覚症状に気を付けていれば、早い段階で発見できる可能性が高いのです。というのも、卵巣がんの中にはチョコレートのう腫など、良性の腫瘍がホルモンなどの影響を受け、年月を経てがん化するものがあり、それに伴って月経過多や月経痛などの症状もよく見られるからです。これらがあるからといって必ずがんというわけではありませんが、継続的に検査を受けることが大切です。

卵巣がんの治療
卵巣がんは、がん細胞の性質からたくさんの種類に分けられますが、50代に多いのは上皮にできるがんで、大きく漿液性腺がん、粘液性腺がん、類内膜腺がん、明細胞腺がんに分けられます。このうちもっとも多いのは漿液性腺がんで、全体の40%を占めています。一方で、明細胞腺がんも全体の15~20%で欧米人に比べて日本人に多く、年々増加しているといわれています。漿液性腺がんには、タキソール+カルボプラチンという抗がん剤の組み合わせが比較的よく効くことが分かっていますが、明細胞腺がんの治療はまだ十分に確立されていません。

いずれにしても初期治療では手術を、あるいは手術前に抗がん剤投与を行い(術前化学療法)、病巣を小さくしてから手術をするのが標準治療となっていますが、再発治療になるとスタンダードな治療がありません。セカンドライン、サードラインの抗がん剤はありますが、ファーストラインほどの奏効率は期待できず、副作用も強いというのが現状です。

そこで、こうした標準治療だけでは立ち向かえない卵巣がんに対し、樹状細胞ワクチン療法などの免疫細胞療法が、新たな選択肢として期待されています。

ランマーク(一般名:デノスマブ)

ランマーク(一般名:デノスマブ)は、骨関連の合併症を防ぐために使用される薬剤です。特に、がん患者の骨転移によって引き起こされる骨折や痛み、脊髄圧迫などのリスクを軽減するために用いられます。デノスマブは、RANKL(Receptor Activator of Nuclear Factor Kappa-B Ligand)というタンパク質を標的にするモノクローナル抗体で、骨吸収(骨の破壊)を促進する破骨細胞の活動を抑える働きがあります。

主な使用目的

  1. 骨関連の合併症の予防: がんの骨転移がある患者において、骨折や痛みの発生を防ぐ目的で使用されます。
  2. 骨粗鬆症治療: 骨密度を改善し、骨折リスクを減少させるため、骨粗鬆症患者にも使われます。

作用機序

RANKLは破骨細胞の形成や活動を促進するタンパク質であり、骨吸収に重要な役割を果たします。ランマークは、このRANKLに結合してその作用を抑えることで、破骨細胞の働きを制限し、骨の破壊を防ぎます。その結果、骨の強度が保たれ、骨折や痛みのリスクが減少します。

投与方法

ランマークは皮下注射として投与され、通常は4週間ごとに1回投与されます。

副作用

主な副作用には、以下のようなものがあります:

  • 低カルシウム血症(血中カルシウムの低下)
  • 顎骨壊死(骨が損傷し、治癒しない状態)
  • 感染症のリスク増加(免疫システムへの影響)

使用上の注意

  • 低カルシウム血症の予防として、カルシウムやビタミンDのサプリメントを併用することが推奨されています。
  • 顎骨壊死のリスクがあるため、特に歯科治療を受ける前後には注意が必要です。

ランマークは、骨転移のあるがん患者の生活の質を向上させるために重要な役割を果たしていますが、投与中のカルシウム管理や副作用のモニタリングが必要です。

リキッドバイオプシー

リキッドバイオプシーとは、血液やその他の体液(尿や唾液など)を使用して、がんのような病気を診断・監視するための非侵襲的な検査方法です。従来の組織バイオプシーは腫瘍から直接サンプルを採取するため、外科的な手術が必要であるのに対し、リキッドバイプシーでは体液中に含まれる腫瘍細胞や腫瘍由来のDNA(ctDNA)、循環腫瘍細胞(CTC)、エクソソームなどを分析します。

主な特徴

  • 非侵襲的: 血液採取などで実施できるため、患者への負担が少ないです。
  • リアルタイムモニタリング: がんの進行状況や治療効果を頻繁に確認することができます。
  • 多様な情報を提供: リキッドバイオプシーは、遺伝的変異、腫瘍の進化、薬剤耐性の発生など、腫瘍に関するさまざまな分子情報を提供します。

主な利用用途

  1. がんの早期発見: がんの兆候を早期に捉えるために使用されます。
  2. 治療モニタリング: 治療中のがん細胞の変化や薬剤耐性をリアルタイムで追跡することが可能です。
  3. 再発検出: 手術や治療後の再発リスクを早期に検知するために利用されます。
リキッドバイオプシーは、特に腫瘍が手術でアクセスできない場合や、患者が何度も侵襲的な手術を受けるリスクを避けたい場合に有効です。

リムパーザ(一般名:オラパリブ)

オラパリブ(リムパーザ)は、特にBRCA1およびBRCA2遺伝子変異を持つがん患者に対して効果を発揮するPARP阻害剤です。主に乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がんなどの治療に使用されます。この薬が効果を発揮する遺伝子変異とそのメカニズムは次のように説明されます。

効果を発揮する遺伝子変異

オラパリブは、DNA修復に重要な役割を果たすBRCA1、BRCA2、およびCHEK2などの遺伝子に変異を持つ腫瘍細胞に対して効果的です。これらの遺伝子は、DNAの二本鎖切断を修復する相同組換え修復(HRR)と呼ばれるメカニズムに関与しています。特にBRCA1とBRCA2に変異があると、がん細胞はこの修復経路がうまく機能せず、DNAの損傷を適切に修復できなくなります。また、CHEK2の変異もHRRの機能を損ない、がん細胞のDNA修復能力が低下します。

オラパリブの作用メカニズム

オラパリブは、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)という酵素を阻害します。PARPは、DNAの一本鎖切断を修復する役割を持っており、通常の細胞ではPARPが働くことで一本鎖損傷が修復されます。しかし、BRCA1/2やCHEK2に変異があるがん細胞では、**相同組換え修復(HRR)**が機能しないため、PARPによる修復が唯一のDNA修復手段となります。

オラパリブはPARPを阻害することで、この修復経路を妨げ、DNAの損傷が修復されないまま蓄積していきます。その結果、がん細胞は致命的なDNA損傷を受け、最終的に細胞死(アポトーシス)に至ります。このプロセスを**「合成致死性」**(synthetic lethality)と呼び、HRRの欠陥を持つ腫瘍細胞は、PARP阻害によって選択的に死滅します。

まとめ

オラパリブは、BRCA1、BRCA2、およびCHEK2に変異を持つがん患者において、DNA修復の主要な経路である相同組換え修復が損なわれているため、PARP阻害剤によるDNA損傷修復のさらなる阻害ががん細胞の死を引き起こします。このメカニズムにより、選択的にがん細胞を死滅させる効果を発揮します。

粒子線治療(重粒子線治療・陽子線治療)

従来のエックス線による放射線治療を超えるものとして期待されているのが、粒子線(炭素イオン線:重粒子線 ・ 水素イオン(陽子):陽子線)による放射線治療です。
エックス線はそもそも原子核の周囲を回っている質量の小さい電子に電圧をかけて加速し、金属にぶつけることで発生させている放射線です。これに対し、粒子線は電子よりも千倍以上も重いとされる原子核や原子核を構成する粒子にエネルギーを与えて放射線にしたものです。つまり、質量の大きい粒子を元にする分、発生する放射線のパワーも大きいのです。

通常のエックス線はがん細胞のDNAに切り込みを入れてダメージを与えるのに対し、粒子線はDNAを切り刻んでしまうほどのエネルギーがあるのです。使用する粒子によって、「重粒子線治療」、「陽子線治療」などに分かれます。

粒子線にはもうひとつ、大きな特徴があります。それは腫瘍に対してピンポイントに照射できるということです。エックス線は、エネルギーを放出しながら体を通り抜けていくため、がん細胞まで効率よく届くとはいえず、がん細胞に行き着く前に他の正常な細胞に影響を及ぼしやすいのです。

これに対して粒子線は、エネルギー保ったまま体の奥深くに進み、届かせたいところまでいってからそのエネルギーを一気に放出させるという特徴があります。つまりがん細胞をめがけてピンポイントに照射し効率よく攻撃することができる上、正常な細胞には影響を及ぼしにくいということなのです。

このことから粒子線は特に、広がりの少ない限局したがんの治療に適しています。悪性黒色腫(メラノーマ)、頭蓋底腫瘍、肝がん、体幹部にできたがんなどがよい適応です。一方、食道がんや胃がんといった、おもに消化器系のがんにはあまり適していません。管腔臓器の壁が薄いため、がん組織にピンポイントに照射できたとしても周囲の組織に大きなダメージを与える可能性が高いからです。

リンパ球

リンパ球は、白血球の一種で、大別して「T細胞」「B細胞」に分けられ、NK細胞などの自然免疫反応をかいくぐってきた異物(がんなど)に対して、より直接的な免疫反応(特異的免疫反応)を起こします。
胸腺で分化成熟したリンパ球はT細胞と呼ばれ、骨髄の中で分化成熟するのがB細胞です。

リンパ節

全身をめぐるリンパ管のところどころに、まるで関所のように陣取っているのがリンパ節です。
樹状細胞はリンパ管を通ってリンパ節に達し、そこで体の中の免疫を強力に活性化させます。

ルマケラス(ソトラシブ)

ルマケラス(ソトラシブ)は、アムジェン(Amgen)によって開発された、KRAS G12C変異に対する経口治療薬です。KRAS遺伝子は、癌の発生や進行に関与する主要な遺伝子の一つであり、その変異は特に難治性のがんに関係しています。KRAS G12C変異は、非小細胞肺がん(NSCLC)など特定のがんで多く見られる変異ですが、膵臓がんにおいても一部の患者にこの変異が認められます。

KRAS G12C変異と膵臓がん

膵臓がんは非常に治療が難しいがんであり、KRAS遺伝子の変異が90%以上の患者に見られることが知られています。特に膵臓がんにおいては、KRASのG12DやG12V変異が一般的ですが、一部の患者にはKRAS G12C変異が存在します。このKRAS G12C変異がある患者に対して、ルマケラスのような治療薬が有効である可能性が注目されています。

ルマケラスの作用機序

ルマケラスはKRAS G12Cという特定の変異を標的とし、変異したKRASタンパク質の活性を阻害することによってがん細胞の増殖を抑える薬です。KRAS G12C変異は、タンパク質が「スイッチオン」の状態で持続することで細胞がん化の原因となるため、ルマケラスはこの変異タンパク質を「スイッチオフ」の状態にし、腫瘍の進行を抑える役割を果たします。

膵臓がん治療におけるルマケラスの可能性

膵臓がんの治療は非常に困難で、手術や化学療法に加えて、標的治療や免疫療法が模索されていますが、KRAS変異が原因で治療の選択肢が限られることが多いです。膵臓がん患者の中でKRAS G12C変異を持つ人は少数派ですが、この変異が確認された場合、ルマケラスが治療オプションとして考えられる可能性があります。

現在の臨床試験と展望

現在、ルマケラスは主にKRAS G12C変異を持つ非小細胞肺がんの患者に対して承認されていますが、膵臓がんなど他のがん種に対しても臨床試験が進行しています。膵臓がんにおけるKRAS G12C変異に対する治療法の一環として、ルマケラスがどのような効果を発揮するかについては、今後の研究結果次第で明らかになるでしょう。 要約すると、ルマケラスはKRAS G12C変異に特異的に作用する画期的な薬剤であり、膵臓がんの治療においてもこの変異を持つ患者に対する新たな治療オプションとして期待されていますが、膵臓がんでの臨床使用にはさらに研究が必要です。

レントゲン

レントゲンとは、X線を用いて体内の様子を調べる画像検査です。

わ行

ワクチン

ワクチンとは、生体が本来持っている異物に対して反応する体の仕組みを利用た薬剤のことです。
感染症をはじめとしたさまざまな異物(抗原)に対して、あらかじめ「免疫力」あるいは「免疫記憶」を作らせておく薬剤のことをいいます。

ワクチン療法

ワクチン療法の基本的な考え方は、特定の病原体が体内に侵入する前にその病原体に対する(=特異的な)免疫力を高めておこう、というものです。

私たちの体内では絶えず「自己」でないもの(抗原)を排除する仕組みが働いています。なかでも免疫細胞の一種であるリンパ球は、病原体を1種類ずつ、特異的に認識して排除した上、その相手を記憶して再び同じ病原体に出会ったときにすぐに認識・排除に移れるよう準備します(抗原抗体反応)。これをうまく利用したのがワクチン療法で、毒性を弱めたり死滅させた病原体を接種してリンパ球にあらかじめ記憶させ襲来本番に備えます。

「がんを治すワクチン(がんワクチン)」という発想の始まりは、1991年にヒトのがんではじめて「正常組織でほとんど発現が見られず、がんでのみ発現が認められる遺伝子」が確認されたことによります。この遺伝子をもとに生み出される物質を「がん抗原」として標的にすれば、抗がん剤や放射線治療と違って正常組織を傷害することなく、がん細胞のみを攻撃することが可能だろう、という考え方が出て来たのです。もちろん、副作用が起こりにくことが予想されます。

そこで本来のワクチン療法の意味からは少し逸脱しますが、抗原抗体反応のような特異的な免疫応答を人為的に作り出すという点で「ワクチン」の言葉が使われるようになりました。

がんを治すワクチン療法、すなわちがんワクチン療法には「樹状細胞ワクチン療法」と「ペプチドワクチン療法」の2種類があります。

A-Z行

ADC(抗体薬物複合体)

抗体薬物複合体(ADC, Antibody-Drug Conjugate)は、がん治療の新しいアプローチの一つで、抗体と抗がん薬(細胞毒性薬)を結合させた治療法です。ADCは、標的特異性を持つ抗体によってがん細胞を認識し、がん細胞にだけ薬物を直接送達できるように設計されているため、従来の化学療法に比べて高い治療効果と低い副作用を期待できます。

抗体薬物複合体の構成

ADCは、次の3つの主要な要素から構成されています:
  1. 抗体:特定のがん細胞上に存在するターゲット分子(抗原)を認識するモノクローナル抗体。例えば、Trop-2やHER2といったがん細胞の表面に高発現するタンパク質がターゲットとなります。この抗体がターゲットに結合することで、抗がん薬ががん細胞に特異的に送達されます。
  2. 細胞毒性薬(抗がん薬):がん細胞を破壊する強力な薬物です。ADCでは、この細胞毒性薬が抗体に結合され、がん細胞に届けられるまで活性を保持した状態で安全に運搬されます。通常、これらの薬物は、DNAを損傷させる、細胞分裂を阻害するなど、がん細胞を直接殺傷する作用を持っています。
  3. リンカー(結合剤):抗体と細胞毒性薬を結びつける役割を果たします。リンカーの安定性が重要で、血流中では分解されず、がん細胞に到達した時にだけ薬物が放出されるように設計されています。このリンカーが安定していることにより、治療の標的性と安全性が保たれます。

抗体薬物複合体の作用メカニズム

  1. 標的分子の認識: 抗体部分が、がん細胞上の特異的な抗原(例: HER2, Trop-2)に結合します。この抗原はがん細胞に特有または高発現しており、正常細胞にはほとんど見られません。
  2. がん細胞への取り込み: 抗体が抗原に結合すると、がん細胞は抗体ごとADCをエンドサイトーシス(細胞内取り込み)します。
  3. 細胞内での薬物放出: がん細胞内部に取り込まれると、細胞内の酵素や環境によってリンカーが分解され、薬物(細胞毒性薬)が放出されます。この薬物はがん細胞を破壊し、アポトーシス(細胞死)を引き起こします。
  4. がん細胞の破壊: 放出された細胞毒性薬は、がん細胞内で標的分子に作用し、DNAの損傷や細胞分裂の阻害を通じてがん細胞を死に至らせます。

ADCの利点

  • 高い標的特異性: 正常細胞には影響を与えず、がん細胞に対してのみ特異的に働くため、従来の化学療法に比べて副作用が少ない。
  • 強力な抗がん作用: 細胞毒性薬ががん細胞内部で直接作用するため、強力な抗がん効果が期待されます。
  • 薬剤耐性克服の可能性: 抗体によるターゲティングと新たな細胞毒性薬の組み合わせにより、薬剤耐性を持つがんに対しても有効な場合があります。

主なADC薬剤の例

  • Trodelvy(サシツズマブ・ゴビテカン): Trop-2を標的にする抗体薬物複合体で、転移性乳がんや尿路上皮がんに対して使用されます。
  • Kadcyla(トラスツズマブ・エムタンシン): HER2陽性乳がんに使用されるADCで、HER2タンパクを標的にしてがん細胞に抗がん薬を届けます。

課題

ADCは非常に強力な治療法ですが、次のような課題もあります:
  • 薬剤耐性: 一部のがん細胞が抗体や薬剤に対して耐性を獲得する可能性がある。
  • 副作用: 標的以外の細胞に影響を及ぼすことがあり、特に高用量では副作用が問題となる場合があります。
ADCは、がん治療の新たなフロンティアを切り開く技術であり、がん治療の個別化や副作用の軽減に大きな貢献をしている領域です。

ADCC

ADCC(Antibody-Dependent Cell-Mediated Cytotoxicity)は、抗体依存性細胞傷害の一形態で、免疫系の重要なメカニズムの一つです。このプロセスは、特に癌細胞やウイルス感染細胞を標的とする際に重要です。以下に、ADCCの仕組みとその役割を説明します。

ADCCのメカニズム

  1. 抗体の結合:特定の抗原(例えば、癌細胞の表面に存在する特異的なタンパク質)に対して特異的に結合する抗体が生成されます。
  2. 免疫細胞の活性化:抗体が標的細胞に結合すると、抗体のFc部分が免疫細胞のFc受容体(例えば、ナチュラルキラー細胞やマクロファージ)に結合します。
  3. 細胞傷害の誘導:免疫細胞が活性化されると、標的細胞を殺すためのさまざまなメカニズムが働きます。ナチュラルキラー細胞は、細胞傷害性顆粒を放出して標的細胞を破壊することができます。

ADCCの役割

  • 癌治療:ADCCは、多くのモノクローナル抗体治療(例えば、トラスツズマブやリツキシマブ)で重要な役割を果たしています。これらの抗体は、癌細胞に特異的に結合し、ADCCを通じて癌細胞を排除します。
  • ウイルス感染:ウイルスに感染した細胞も標的となります。抗体がウイルス抗原に結合することで、感染細胞が免疫系によって排除される助けとなります。
  • 免疫の調節:ADCCは、抗体を介した免疫応答を強化することで、全体的な免疫機能の向上にも寄与します。
ADCCは、抗体による標的細胞の排除を通じて、免疫系が効果的に働くための重要なメカニズムです。この過程を利用することで、がん治療やウイルス感染の治療がより効果的になる可能性があります。

Akalux(アキャルックス)

現在、光免疫療法は一部のがん治療において承認されており、その代表的な例が「アキャルックス(Akalux)」という治療法です。これは、アメリカの国立衛生研究所(NIH)で小林久隆博士によって開発され、日本では2020年に初めて承認されました。この治療法は、特に再発または難治性の頭頸部がんを対象としています。

薬剤名: アキャルックス(Akalux)

アキャルックスは、光感受性物質「IR700」と、がん細胞表面に存在するEGFR(上皮成長因子受容体)をターゲットとしたモノクローナル抗体「セツキシマブ(Cetuximab)」を組み合わせた薬剤です。
この薬剤は、がん細胞表面に特異的に結合することで、近赤外線を照射した際に選択的にがん細胞を破壊します。

照射装置: BioBlade(バイオブレード)
アキャルックスと併用される近赤外線の照射装置で、がん細胞に薬剤が結合した後に、この光を患部に照射します。これにより、IR700が活性化され、がん細胞の細胞膜を破壊して細胞死を引き起こします。
対象となるがん種:

頭頸部がん(再発または難治性):
頭頸部がんは治療の難しいがんの一つであり、再発や進行がんの場合には手術や化学療法、放射線療法の効果が限定的です。アキャルックスはこのような患者に対して効果を示しています。

治療プロセス:
患者にアキャルックスを静脈注射で投与する。
投与された抗体が体内のがん細胞に結合するまで一定時間待機。
その後、近赤外線を患部に照射することで、光免疫療法によるがん細胞の破壊を行う。

アキャルックスの治療の利点
選択性の高さ: EGFRを標的にするため、EGFRを高発現するがん細胞を正確に狙うことができる。
低副作用: 周囲の正常組織にほとんどダメージを与えないため、副作用が他の治療法と比べて少ない。
短期間の治療: 通常のがん治療と異なり、短い期間でがん細胞を破壊できるため、患者のQOL(生活の質)を維持しやすい。

現在の課題と今後の展望
適応拡大: 現在は主に頭頸部がんに対する治療として承認されていますが、将来的には他のがん種(肺がん、乳がん、脳腫瘍など)に対しても応用可能性が検討されています。
他の治療法との併用: 光免疫療法を免疫チェックポイント阻害薬などの他の免疫療法や化学療法と組み合わせることで、相乗効果を狙った治療が期待されています。
光免疫療法はまだ新しい分野ですが、今後さらなる研究や臨床試験の結果によって、治療の適応範囲が広がり、多くの患者に新しい治療の選択肢を提供する可能性が高いです。

BNCT

BRM(Biological Response Modifiers)療法

BRMとはBiological Response Modifiersの頭文字をとったものです。
直訳すると生体応答調節剤となります。

BRMは免疫系をはじめとして、体全体の働きを調節することにより、治療効果を得ようとする治療です。
つまり、がんを治そうとする患者さま自身のもつ免疫力を手助けし、強めるものです。
BRMは単独で行われるよりも、むしろ免疫が低下してしまう外科療法(手術)や放射線、化学療法(抗がん剤)などと併用することで、その治療効果を期待します。

<プレシジョンクリニックにおけるBRMの役割>

プレシジョンクリニックでは、樹状細胞ワクチン療法の効果をさらに高めるためにBRMを使用しております。
BRMは、主にマクロファージやT細胞、NK細胞などの免疫系細胞の機能を増強し、からだ全体の免疫機能を回復すると考えられています。したがってBRM は単独で行われるよりも、外科療法(手術)や放射線、化学療法(抗がん剤)などと併用することによって、患者さまの防御能力が低下するのを予防したり、より高めることを目的に使用さます。一部のがんで有効性が認められています。

B細胞

B細胞は、抗体を産生し、それによって直接病原体等を失活させたり、病原体等を攻撃する目印としてくっつき、結果として失活させる細胞です。
その働きは液性免疫とも呼ばれています。

CLDN18.2(Claudin 18.2)

CLDN18.2(Claudin 18.2)は、細胞接着分子であるクラウディンファミリーに属するタンパク質の一種です。このタンパク質は、主に胃の粘膜上皮細胞に発現しており、特に胃癌や膵臓癌などの消化器系のがんにおいて異常発現が認められます。CLDN18.2は、細胞同士を密着させる「タイトジャンクション」を構成し、細胞のバリア機能を維持する役割を担っていますが、がん細胞ではこのタンパク質の発現が増加することがあります。

CLDN18.2の特徴と治療ターゲットとしての重要性:

  1. 選択的発現: 正常な組織では主に胃に発現しているCLDN18.2ですが、がん細胞では異常な場所での発現や過剰発現が見られることがあり、この特徴が抗がん治療において重要なターゲットとなっています。

  2. がん治療におけるターゲット: CLDN18.2は、がん細胞表面に選択的に発現しているため、これを標的にしたモノクローナル抗体や抗体薬物複合体(ADC)の開発が進んでいます。これらの治療は、CLDN18.2を発現するがん細胞を狙って破壊することを目指しています。

  3. 臨床試験と治療法: CLDN18.2を標的とした治療法としては、モノクローナル抗体「Zolbetuximab」などが開発されており、進行性の胃癌や膵臓癌を対象に臨床試験が行われています。この抗体はCLDN18.2を発現するがん細胞に結合し、免疫系を活性化してがん細胞を破壊するメカニズムで作用します。

  4. 治療の将来性: CLDN18.2は胃癌や膵臓癌に限らず、他のがん種でも発現することがあり、将来的には幅広いがん治療に応用される可能性があります。特に、がんの精密医療(precision medicine)において、CLDN18.2をターゲットとする治療法は個別化治療として有望です。

CLDN18.2に対する治療法は、がん細胞を正確に狙い撃ちするため、副作用を抑えながら効果的に治療できる点が期待されています。

Cold Tumor/Hot Tumor

"ホット・チューマー (Hot Tumor)" と "コールド・チューマー (Cold Tumor)" は、腫瘍内の免疫細胞の活性度や、免疫系による反応の強さに基づいて腫瘍を分類する概念です。この区別は、がん免疫療法の効果に大きく関わると考えられています。

ホット・チューマー (Hot Tumor)

ホット・チューマーとは、腫瘍内部に免疫細胞、特にT細胞が豊富に存在し、活発な免疫応答が起こっている腫瘍です。ホット・チューマーは以下のような特徴を持ちます:

  • 高い免疫細胞浸潤:腫瘍内に多くのT細胞や他の免疫細胞が浸潤しています。
  • 高い免疫原性:がん細胞の変異が多いため、免疫系に「異物」として認識されやすいです。
  • PD-1/PD-L1経路:多くのホット・チューマーは、免疫抑制をかけるためにPD-1やPD-L1といった免疫チェックポイント分子が発現しています。これにより、がん細胞は一部の免疫応答を抑えますが、免疫チェックポイント阻害剤を使って免疫反応を再活性化しやすい特性もあります。

ホット・チューマーは免疫チェックポイント阻害剤などの免疫療法が比較的効果的とされ、がん治療において良好な反応が得られる可能性が高いとされています。

コールド・チューマー (Cold Tumor)

一方、コールド・チューマーとは、腫瘍内に免疫細胞の浸潤が少なく、免疫応答が弱い腫瘍です。コールド・チューマーの特徴は次の通りです:

  • 低い免疫細胞浸潤:腫瘍周辺に免疫細胞があまり存在しないため、免疫反応が十分に起こりません。
  • 低い免疫原性:変異が少ないため、がん細胞が「自己」として認識されやすく、免疫系によって異物として認識されにくいです。
  • 免疫抑制性の腫瘍微小環境:がん細胞が免疫抑制性の因子を分泌し、免疫細胞の浸潤や活性化を阻害しています。

コールド・チューマーでは免疫チェックポイント阻害剤の効果が薄いため、T細胞を腫瘍へ呼び込むための別の戦略が必要です。例えば、放射線療法、ウイルス療法、または低用量の化学療法などで腫瘍の免疫原性を高め、ホット・チューマーへと転換させる方法が研究されています。

ホット・チューマーとコールド・チューマーの治療アプローチの違い

ホット・チューマーに対しては免疫チェックポイント阻害剤が有効である一方、コールド・チューマーに対しては、次のような方法が効果を高めるために検討されています:

  1. 腫瘍の免疫原性の向上:放射線療法やウイルス療法などでがん細胞の抗原提示を高め、免疫系が認識しやすくします。
  2. 免疫細胞の腫瘍への誘導:腫瘍微小環境に免疫細胞を呼び込むための治療法(例えば、ケモカインの誘導など)を使用します。
  3. 免疫抑制性因子の阻害:T細胞の抑制を解除するために、免疫抑制因子や分子標的薬の併用が試みられます。

今後の展望

ホット・チューマーとコールド・チューマーの区別は、個別化医療(プレシジョン・メディシン)においても重要です。患者ごとの腫瘍特性を考慮した治療戦略が、より効果的な治療結果をもたらす可能性が高く、この視点が免疫療法の最適化や新たな治療法の開発に役立っています。

Conversion surgery(コンバージョン手術)

コンバージョン手術(Conversion surgery)とは、治療が難しいとされる進行がんや転移性がんに対して、化学療法や放射線療法などを用いて腫瘍の縮小や病状の改善を図り、その後に根治を目指して手術を行う治療アプローチのことを指します。通常、手術が難しいと判断される症例でも、術前治療により腫瘍の縮小や進行の抑制が可能となった場合に、手術が行えるようになることを目的としています。

膵臓癌におけるコンバージョン手術

膵臓癌(膵がん)は、他の臓器に転移しやすく、診断時には進行していることが多いため、手術ができない非切除可能な状態と診断されるケースが少なくありません。しかし、近年の化学療法や放射線療法の進展により、非切除可能と診断された膵臓癌患者にも手術が可能になるケースが増えてきました。これがコンバージョン手術の概念です。

主な適応ケース

  1. 局所進行膵臓癌: 膵臓に限定されているが、大血管や周囲の重要な臓器に浸潤しており、直ちには切除が不可能な場合。
  2. 転移性膵臓癌: 他の臓器(肝臓、肺など)に転移が見られるが、化学療法により腫瘍が縮小し、転移が完全に制御できた場合。

コンバージョン手術のプロセス

  1. 術前化学療法/放射線療法: 術前に行われる治療は、膵臓癌の進行を抑えたり、腫瘍のサイズを縮小させる目的で行われます。一般的には、ゲムシタビンやFOLFIRINOXなどの強力な化学療法レジメンが使われます。
  2. 治療効果の評価: 術前治療後に画像検査(CT、MRI、PETなど)を行い、腫瘍の縮小や進行停止を確認します。また、腫瘍マーカー(CA19-9など)を用いて治療の効果をモニタリングすることもあります。
  3. 手術適応の再評価: 術前治療によって腫瘍が手術で取り除ける状態まで改善されていれば、手術が行われます。この段階で手術が可能かどうか、再評価を行います。
  4. 手術の実施: 手術の目的は腫瘍を完全に切除することです。膵頭十二指腸切除術(Whipple手術)や膵体尾部切除術が行われることが多いです。
  5. 術後治療: 手術後も再発予防のために、さらなる化学療法が行われることがあります。

コンバージョン手術の意義と課題

膵臓癌におけるコンバージョン手術は、手術が不可能だった症例に新たな治療の可能性を開く点で非常に意義があります。しかし、すべての患者が手術の適応となるわけではなく、化学療法や放射線療法が十分な効果を示さない場合もあります。また、術前治療による副作用や手術そのもののリスクも考慮する必要があります。

コンバージョン手術の成功要因

  • 適切な術前治療: 化学療法や放射線療法が効果を発揮し、腫瘍を手術可能な状態にすることが重要です。
  • 患者の全身状態: 長期間の化学療法や放射線療法を耐え抜くための体力や免疫力が必要です。栄養状態の管理や免疫強化も治療成功のカギです。

膵臓癌におけるコンバージョン手術は、新しい治療アプローチとして注目されていますが、治療の選択肢として慎重に評価する必要があります。

CPC(セルプロセッシングセンター)

CPCはCell Processing Centerの略で、免疫細胞療法や再生医療、あるいは遺伝子治療など、細胞を利用した医療または研究を行なうための極めて高度な施設を指します。
プレシジョンクリニックでは、CPC(細胞加工施設)を安定的に運営するために、GMPという医薬品を製造するための厳格なルールに準拠しています。

CPS/TPS

PD-L1の評価には、腫瘍組織におけるPD-L1発現量を測定するいくつかの指標が使われています。代表的なものが**CPS(Combined Positive Score)とTPS(Tumor Proportion Score)**です。それぞれの概要は以下の通りです。

1. CPS(Combined Positive Score)

CPSは、腫瘍細胞だけでなく、免疫細胞にもPD-L1が発現しているかを評価する指標です。具体的には、腫瘍細胞、リンパ球、マクロファージにおけるPD-L1陽性細胞の数を合計し、それを腫瘍細胞の総数で割って算出されます。

  • CPS = (PD-L1陽性腫瘍細胞 + PD-L1陽性免疫細胞の数) ÷ 腫瘍細胞の総数 × 100
  • スコアの範囲は0から100までで、1以上でPD-L1陽性と見なされることが多いです。

CPSは、特に免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価する際に使われることが多く、胃がんや頭頸部がんなどのいくつかのがんで用いられています。

2. TPS(Tumor Proportion Score)

TPSは、腫瘍細胞におけるPD-L1発現の割合を評価する指標です。PD-L1陽性の腫瘍細胞数を、腫瘍全体の腫瘍細胞数で割ってパーセンテージで表します。

  • TPS = PD-L1陽性腫瘍細胞の数 ÷ 腫瘍細胞の総数 × 100
  • スコアは0から100%までの範囲で、がんの種類によってPD-L1陽性の基準値が異なります。例えば、TPSが50%以上でPD-L1陽性とする基準が使われることが多いです。

TPSは、主に非小細胞肺がん(NSCLC)の治療における免疫療法の適応を判断するために広く使用されています。

違いと適用

  • CPSは、腫瘍細胞だけでなく免疫細胞にもPD-L1発現を考慮するため、より広い範囲の評価が可能です。
  • TPSは、腫瘍細胞に限定してPD-L1発現を評価するため、特定のがんにおける免疫チェックポイント阻害薬の効果を見極める際に使われます。
 

EBM

EBM(エビデンス・ベイスド・メディスンEvidence Based Medicine)の略で、科学的な根拠に基づいた治療のことです。具体的には大規模な臨床試験によって得られた証拠に基づいて行われる治療がEBMとなります。

FOLFIRINOX

FOLFIRINOXは、特に膵臓がんや一部の進行がんに対して使用される強力な化学療法の一種です。この治療は4つの薬剤の組み合わせから成り、各薬剤の名前の頭文字をとって「FOLFIRINOX」と呼ばれています。4つの薬剤は以下の通りです:

  1. 5-FU(フルオロウラシル)

    がん細胞のDNA合成を阻害し、細胞の増殖を抑制する抗がん剤です。
  2. ロイコボリン(ホリナート)

    5-FUの効果を増強する薬剤で、がん細胞への攻撃力を高めます。
  3. イリノテカン

    トポイソメラーゼ阻害剤として作用し、がん細胞のDNA複製を妨げ、細胞の分裂を防ぎます。
  4. オキサリプラチン

    プラチナ製剤で、DNAを傷つけることで細胞分裂を阻害し、がん細胞を死滅させます。

効果と適応

FOLFIRINOXは、膵臓がんの中でも特に進行性・転移性のケースに対して効果が期待される治療法のひとつです。膵臓がんは一般に治療が難しいため、FOLFIRINOXは標準治療の一環として位置づけられ、患者の生存期間を延ばす効果が確認されています。ただし、強力な治療であるため、体力が十分にある患者に限られることが多く、他の治療法と比較しても副作用が強い点が注意されます。

副作用

FOLFIRINOXは強力な治療であるため、副作用も少なくありません。主な副作用には以下のようなものが含まれます。

  • 骨髄抑制:白血球や赤血球、血小板が減少し、感染症のリスクが高まる。
  • 吐き気・嘔吐:胃腸への影響が強く、食欲不振や体重減少を引き起こすことがある。
  • 神経障害:オキサリプラチンによる末梢神経障害が生じ、手足のしびれや感覚異常が現れる。
  • 脱毛や下痢:患者によっては脱毛や消化器症状が現れることもあります。

適応の判断

FOLFIRINOXは、進行性や転移性膵臓がん患者で、比較的体力があり、治療を耐えられると判断された場合に適応されることが一般的です。

※FOLFIRINOXの名称

FOLFIRINOXの名前は、4つの薬剤の英語名の頭文字を取って構成されています。それぞれの薬剤名と頭文字の由来は以下の通りです。

  1. FOLinic acid (ホリナート / ロイコボリン)

    • 「FOL」とは、ロイコボリンの別名「フォリン酸(folinic acid)」に由来します。
    • ロイコボリンは5-FUの効果を増強する目的で使われます。
  2. Fluorouracil (5-FU / フルオロウラシル)

    • 「F」はフルオロウラシルの頭文字から取られています。
    • 5-FUは抗がん剤で、がん細胞のDNA合成を妨げる働きを持っています。
  3. IRinotecan (イリノテカン)

    • 「IR」は、イリノテカンの一部を取ったものです。
    • イリノテカンは、トポイソメラーゼ阻害剤として作用し、がん細胞のDNA複製を妨げます。
  4. OXaliplatin (オキサリプラチン)

    • 「OX」は、オキサリプラチンの名前の一部から取られています。
    • オキサリプラチンは、プラチナ製剤でがん細胞のDNAにダメージを与えます。

GMP基準

GMPとは、Good Manufacturing Practiceの略で、品質を定められた医薬品を製造するための要件をまとめたものです。薬機法に基づいて厳格な基準が設けられています。
細胞を用いた医療行為は、再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づいて行われるため、基本的にGMP基準を求められることはありませんが、GMPを準拠することによって、安全で質の高い免疫細胞療法が提供できるようになります。プレシジョンクリニックでは、東京大学医科学研究所における公的臍帯血バンクで積み上げられた運営ノウハウ等を参考に、GMPに準拠したハイレベルな施設体制を整えています。

GnP(ゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用療法)

GnP(ゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用療法)は、主に膵臓がんの治療に用いられる化学療法の一種です。この治療は、ゲムシタビン(ジェムザール)とナブパクリタキセル(アブラキサン)の2つの薬剤を組み合わせて使用するもので、進行膵臓がんや転移性膵臓がんに対する効果が認められています。

1. 薬剤の作用機序

  • ゲムシタビン:核酸合成を妨害することで、がん細胞の増殖を抑える抗がん剤です。DNAの複製過程でがん細胞に取り込まれ、細胞分裂を阻止してがん細胞を死滅させます。
  • ナブパクリタキセル:パクリタキセルをアルブミンというたんぱく質に結合させた薬剤で、がん細胞の微小管に作用し、細胞分裂を妨げます。従来のパクリタキセルに比べて、副作用が少ないとされています。

2. 治療効果

GnPは、進行膵臓がんにおいてがんの増殖を抑制し、延命効果が期待される治療法です。特に、FOLFIRINOX療法(フォルフィリノックス療法)に比べると副作用が少ないため、体力が低下している患者にも適用しやすい利点があります。臨床試験では、ジェムザール単剤に比べて併用療法は生存期間の延長が確認されています。

3. 副作用

  • 一般的な副作用:骨髄抑制(白血球や血小板の減少)、貧血、吐き気、倦怠感、脱毛など。
  • 重大な副作用:重度の感染症リスクが増加しやすいため、治療中の体調管理が重要です。また、神経障害(手足のしびれ)も発生することがあります。

4. 治療スケジュール

GnPは、通常3週を1サイクルとして行われます。具体的には、1・8・15日目に点滴を行い、22日目に休薬を取る形が一般的です。

この治療法は、効果が認められている一方で副作用も伴うため、医師とよく相談しながら進めることが推奨されます。また、効果や副作用の管理には定期的な検査や体調のチェックが欠かせません。

5. 併用療法についての補足

ゲムシタビン単独治療からGnPへ進化したことで、治療効果が向上する一方、新たなデメリットもあります。以下に、主なメリットとデメリットを詳しく説明します。

  1. 生存期間の延長

    臨床試験で確認された通り、ゲムシタビン単独療法に比べ、併用療法は生存期間を有意に延ばす効果が示されています。特に進行した膵臓がんや転移性膵臓がんの治療において、がんの進行を抑え、延命効果が期待されます。
  2. 腫瘍縮小効果の向上

    ナブパクリタキセル(アブラキサン)の作用により、がん細胞の分裂をより強力に阻害できるため、腫瘍の縮小や抑制がゲムシタビン単独療法よりも顕著に現れやすくなります。これにより、患者の生活の質を改善する効果も期待されます。
  3. 治療の選択肢が増える

    ゲムシタビン単独療法では効果が得られにくかった患者に対しても、新たな治療選択肢を提供することが可能になり、特にFOLFIRINOX療法が適用できない患者にとって有効な代替手段となります。
  4. 副作用の増加

    ゲムシタビン単独に比べ、併用療法は副作用が増加する傾向があります。特に、骨髄抑制(白血球・血小板の減少)による免疫力低下や、末梢神経障害(手足のしびれ)が現れることが多く、治療中の体調管理がさらに重要です。
  5. 治療スケジュールが厳しい

    ゲムシタビン単独療法では比較的緩やかなスケジュールが設定されることが多いのに対し、併用療法では1・8・15日目に点滴を行う3週間のサイクルが標準であり、患者の通院頻度が増えます。これは特に高齢者や通院が難しい患者にとって負担となる可能性があります。
  6. 費用面の負担

    薬剤費用もゲムシタビン単独に比べ高額になりがちです。ナブパクリタキセルの追加により、経済的な負担が増加し、長期間の治療が必要な場合は、保険適用を考慮しても患者にとって負担が大きくなることがあります。
  7. 感染リスクの増加

    骨髄抑制の影響で感染症のリスクが増加するため、定期的な血液検査や感染予防が不可欠です。感染症が発生すると治療スケジュールに遅れが生じることもあり、これが治療の進行に影響を与える可能性があります。

GnPは、より強力な治療効果が期待できる一方、患者への負担も増加します。そのため、患者の年齢や体力、既往歴などを考慮し、医師と相談しながら治療計画を慎重に立てることが重要です。

HDAC阻害剤

HDAC阻害剤(Histone Deacetylase Inhibitors, HDAC inhibitors)は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の機能を阻害する薬剤です。HDACは、遺伝子の発現を制御する重要な役割を持つ酵素であり、DNAが巻き付いているヒストンタンパク質のアセチル基を除去することで、遺伝子の発現を抑制します。HDAC阻害剤は、このアセチル化の除去を阻害することで、遺伝子の発現パターンを変化させ、特定の遺伝子の活性化や抑制を引き起こします。

HDAC阻害剤の主な効果

  • がん細胞の成長抑制:HDAC阻害剤は、がん細胞の異常な増殖を抑える効果があります。特に、がん細胞が異常な遺伝子発現を行う際に、HDAC阻害剤はそのプロセスを調整し、アポトーシス(細胞の自然な死)を誘導することができます。

  • がん細胞の分化誘導:HDAC阻害剤は、がん細胞が正常な細胞に近い分化を促進することで、がんの進行を抑制します。

  • 免疫反応の増強:HDAC阻害剤は免疫系の反応を高め、がん細胞に対する免疫攻撃を強化します。特に、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせることで、より強力な抗腫瘍効果を発揮することが期待されています。

  • 抗血管新生効果:がん細胞は新しい血管を作り出して栄養を供給し、増殖を促進しますが、HDAC阻害剤はこの血管新生を阻害する効果もあります。

HDAC阻害剤の治療用途

HDAC阻害剤は、特に以下のがん種に対する治療で使用されています:

  1. 血液がん:特に、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)や末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)などに対して、効果があることが確認されています。
  2. 固形がん:乳がんや肺がん、膵がんなどでも研究が進んでおり、特定の患者においては効果が期待されています。

代表的なHDAC阻害剤

  • バリノスタット(Vorinostat, ゾリンザ):主に皮膚T細胞リンパ腫の治療に用いられています。
  • ロミデプシン(Romidepsin, イストダックス):同様にT細胞リンパ腫に使用されます。
  • ツシジノスタット(Tucidinostat, ハイヤスタ):主に乳がんに対する効果が研究されていますが、その他のがん種でも臨床試験が行われています。

副作用

HDAC阻害剤は有効性がある一方で、副作用も報告されています。代表的な副作用には以下のものがあります:

  • 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)
  • 血液の異常(血小板減少、貧血など)
  • 疲労感や感染リスクの増加

HDAC阻害剤は、がん治療における革新的な薬剤の1つであり、特に他の治療法と組み合わせることでより効果的な治療が期待されています。

HIFU(ハイフ)

HIFU(High-Intensity Focused Ultrasound、高強度集束超音波)は、超音波を高エネルギーで腫瘍に集中させ、熱を発生させてがん細胞を焼灼(しょうしゃく)する治療法です。非侵襲的であるため、切開や放射線による副作用が少なく、身体にかかる負担を軽減する点が大きな特徴です。

HIFUのメカニズム

HIFUは、以下のメカニズムでがん細胞を破壊します。

  1. 熱作用: 集中的に当てた超音波によって局所的に高温(60~100℃)が発生し、腫瘍を焼灼します。
  2. 空洞現象(キャビテーション効果): 超音波の振動により腫瘍内部に小さな気泡が生じ、これが破裂することでがん細胞にダメージを与えます。

HIFUの利点

  • 低侵襲性: メスを使わないため手術跡が残らず、出血のリスクもありません。
  • 回復が早い: 手術後の回復が早く、入院期間が短くなる場合が多いです。
  • 副作用が少ない: 放射線治療や化学療法に伴う副作用がほとんどありません。
  • 正確性: MRIやCTと連動させることで、腫瘍位置をリアルタイムでモニタリングしながら治療できます。

HIFUが有効とされるがんの種類

HIFUは、主に以下のがんに適用されています。

  • 前立腺がん: 前立腺がん治療で特に用いられており、前立腺内に局所化した腫瘍を焼灼する治療法として有効です。
  • 肝臓がん: 非切除可能な肝臓がんにも用いられますが、肝臓の位置や周囲組織の状態により適用が難しい場合があります。
  • 膵臓がん: 膵臓がんに対しては進行状況により適用が検討されますが、深部にあるため正確な照射が難しいこともあります。

HIFUの課題

  • 適用範囲の制限: 腫瘍の大きさや位置によってはHIFUの熱が周囲の正常組織に影響を及ぼす可能性があるため、全ての患者に適用できるわけではありません。
  • 効果の個人差: 腫瘍のタイプや患者の状態によって効果が異なるため、単独での完治が難しい場合もあります。
  • 費用: 高度な技術と設備が必要であるため、費用が高額になることが多く、保険適用が限定的です。

HIFUとハイパーサーミアの違い

HIFUとハイパーサーミアはいずれも熱を利用したがん治療法ですが、メカニズムと適用範囲が異なります。HIFUは超音波で局所的に高温(60~100℃)を発生させ、がん細胞を瞬時に破壊するため、即効性があり、局所がんに適しています。
一方、ハイパーサーミアは体外から腫瘍全体を42~43℃程度に温め、がん細胞を弱らせるとともに血流を制限します。これにより、他の治療(特に放射線や化学療法)との相乗効果が期待でき、広範囲のがんや転移がんの補助療法として有用と考えられます。

HIFUは特定のがんの治療において効果的ですが、腫瘍の種類や進行具合に応じた適切な選択が必要です。

HLA(エイチエルエー)

白血球にも血液型のようなさまざまなタイプがあります。これは細胞膜上のHLAとよばれる分子によります。HLA分子は6種類に大別され、さらにそれぞれが多くの種類に分かれるため、非常にたくさんの種類になります。
HLAは、細菌、ウイルス、がんなどの異物由来の物質(ペプチド)に選択的に結合し、T細胞へ抗原提示(異物を攻撃するように指示する)します。人工抗原樹状細胞ワクチン療法を行う場合は、HLAの型を調べる必要があります。

HLAクラスI

HLAクラスI分子であるHLA-A、HLA-B、HLA-Cは、それぞれ抗原呈示の役割を担い、免疫細胞、特にCD8+ T細胞に抗原を提示して免疫応答を引き起こしますが、必ずしも同等に抗原提示を行っているわけではありません。

  1. 発現量の違い:HLAクラスI分子の中でも、HLA-AとHLA-Bは通常、HLA-Cに比べて発現量が高いことが知られています。これは、抗原提示や免疫応答の刺激において、HLA-AやHLA-Bの方が主に機能していると考えられる理由の一つです。

  2. 抗原結合性の違い:HLA-A、HLA-B、HLA-Cはそれぞれ異なる抗原結合ポケットを持ち、異なる抗原ペプチドと結合しやすい性質があります。このため、感染病原体や腫瘍関連抗原に対して、各HLAクラスI分子が結合するペプチドの種類が異なることがあり、それによって異なる免疫応答が引き起こされることがあります。

  3. 免疫監視と免疫逃避:HLA-CはNK細胞による免疫監視において重要な役割を果たすことが知られています。HLA-Cの一部のアロタイプは、NK細胞のKIR(キラー細胞免疫グロブリン様受容体)と結合してNK細胞の活性化を抑制する役割があり、他のHLAクラスI分子と異なる機能を持つ点で、抗原提示の仕組みも少し異なる役割を担っていると考えられます。

  4. 免疫応答の強度:研究によれば、HLA-B分子はHLA-AやHLA-Cに比べ、ウイルス感染などに対する免疫応答において強い役割を果たすことが多く、特にHIVなどの慢性感染において、HLA-Bは疾患進行に関与することが示されています。

したがって、HLA-A、HLA-B、HLA-Cはそれぞれ抗原提示機能を持ちますが、発現量や結合する抗原、免疫細胞との相互作用の点で違いがあり、それが免疫応答に与える影響も異なっています。

Hot Tumor/Cold Tumor

"ホット・チューマー (Hot Tumor)" と "コールド・チューマー (Cold Tumor)" は、腫瘍内の免疫細胞の活性度や、免疫系による反応の強さに基づいて腫瘍を分類する概念です。この区別は、がん免疫療法の効果に大きく関わると考えられています。

ホット・チューマー (Hot Tumor)

ホット・チューマーとは、腫瘍内部に免疫細胞、特にT細胞が豊富に存在し、活発な免疫応答が起こっている腫瘍です。ホット・チューマーは以下のような特徴を持ちます:

  • 高い免疫細胞浸潤:腫瘍内に多くのT細胞や他の免疫細胞が浸潤しています。
  • 高い免疫原性:がん細胞の変異が多いため、免疫系に「異物」として認識されやすいです。
  • PD-1/PD-L1経路:多くのホット・チューマーは、免疫抑制をかけるためにPD-1やPD-L1といった免疫チェックポイント分子が発現しています。これにより、がん細胞は一部の免疫応答を抑えますが、免疫チェックポイント阻害剤を使って免疫反応を再活性化しやすい特性もあります。

ホット・チューマーは免疫チェックポイント阻害剤などの免疫療法が比較的効果的とされ、がん治療において良好な反応が得られる可能性が高いとされています。

コールド・チューマー (Cold Tumor)

一方、コールド・チューマーとは、腫瘍内に免疫細胞の浸潤が少なく、免疫応答が弱い腫瘍です。コールド・チューマーの特徴は次の通りです:

  • 低い免疫細胞浸潤:腫瘍周辺に免疫細胞があまり存在しないため、免疫反応が十分に起こりません。
  • 低い免疫原性:変異が少ないため、がん細胞が「自己」として認識されやすく、免疫系によって異物として認識されにくいです。
  • 免疫抑制性の腫瘍微小環境:がん細胞が免疫抑制性の因子を分泌し、免疫細胞の浸潤や活性化を阻害しています。

コールド・チューマーでは免疫チェックポイント阻害剤の効果が薄いため、T細胞を腫瘍へ呼び込むための別の戦略が必要です。例えば、放射線療法、ウイルス療法、または低用量の化学療法などで腫瘍の免疫原性を高め、ホット・チューマーへと転換させる方法が研究されています。

ホット・チューマーとコールド・チューマーの治療アプローチの違い

ホット・チューマーに対しては免疫チェックポイント阻害剤が有効である一方、コールド・チューマーに対しては、次のような方法が効果を高めるために検討されています:

  1. 腫瘍の免疫原性の向上:放射線療法やウイルス療法などでがん細胞の抗原提示を高め、免疫系が認識しやすくします。
  2. 免疫細胞の腫瘍への誘導:腫瘍微小環境に免疫細胞を呼び込むための治療法(例えば、ケモカインの誘導など)を使用します。
  3. 免疫抑制性因子の阻害:T細胞の抑制を解除するために、免疫抑制因子や分子標的薬の併用が試みられます。

今後の展望

ホット・チューマーとコールド・チューマーの区別は、個別化医療(プレシジョン・メディシン)においても重要です。患者ごとの腫瘍特性を考慮した治療戦略が、より効果的な治療結果をもたらす可能性が高く、この視点が免疫療法の最適化や新たな治療法の開発に役立っています。

HPV(ヒトパピローマウイルス)

ヒトパピローマウイルス(HPV)は、さまざまな種類のがんの原因となることが知られています。特に「高リスク型」HPV感染が長期間続く場合、がんの発生に関与する可能性が高まります。以下は、HPV感染が関連する主要ながんの種類です:

1. 子宮頸がん

  • HPV関連のがんで最も一般的です。ほぼすべての子宮頸がんは、高リスク型HPV感染が原因とされています。特にHPV16型とHPV18型が、子宮頸がんの大部分を引き起こします。

2. 外陰がん

  • 女性の外陰部(外性器)に発生するがんで、HPV感染が原因の約50%の外陰がんが報告されています。特にHPV16型が関連しています。

3. 膣がん

  • 膣に発生するがんで、HPV感染が原因となるケースが多く、特にHPV16型がリスク要因となります。

4. 陰茎がん

  • 男性の陰茎に発生するがんで、HPV感染が原因となることがあります。特に、包茎や衛生管理が不十分な場合にリスクが高まります。

5. 肛門がん

  • 男女ともに影響を受けるがんで、HPV感染が約90%の肛門がんの原因とされています。特にHPV16型が多く関連しています。

6. 中咽頭がん

  • 口腔内や喉のがんで、特に扁桃や舌の根元に発生します。HPV感染はこのがんの主な原因の1つで、特にHPV16型が関連しています。口腔性行為によって感染が広がることがあります。

これらのがんは、HPV感染によって引き起こされるリスクがあるため、HPVワクチンの接種や定期的な検査が予防において重要です。

IGRT(画像誘導放射線治療)

IGRT(Image-Guided Radiation Therapy、画像誘導放射線治療)は、がん治療において放射線を腫瘍に正確に照射するための高度な技術です。IGRTは、治療中にリアルタイムで患者の体内の腫瘍の位置を画像で確認し、その都度、照射の精度を調整することができます。

この技術の主な利点は、腫瘍の動きを正確に追跡できることです。たとえば、肺や腹部の腫瘍は、患者の呼吸や体内の動きにより、位置がわずかに変わることがあります。従来の放射線治療では、この移動を補正するために広い範囲を照射する必要がありましたが、IGRTでは腫瘍の正確な位置を確認してから放射線を照射するため、健康な組織に対するダメージを最小限に抑えつつ、効果的に腫瘍を治療できます。

IGRTでは、次のような画像技術が使用されます。
X線画像: 低線量のX線を使って、腫瘍の位置を治療直前や治療中に確認します。
CTスキャン: CT画像を使って、患者の体内の断層画像を取得し、より詳細な腫瘍の位置や形状を把握します。
MRIや超音波: 一部の装置では、MRIや超音波を併用することで、さらに詳細な軟部組織の画像を得ることも可能です。

IGRTの特徴と利点
高精度: 腫瘍の微小な移動にも対応し、非常に正確な照射が可能。
低リスク: 健康な組織や臓器に対する放射線の影響を最小限に抑えられるため、副作用が少ない。
柔軟性: 様々な部位の腫瘍に適用可能で、特に移動する可能性のある肺や腹部の腫瘍に有効。

IGRTは、特に肺がん、前立腺がん、消化器系がんなど、呼吸や体内の動きに影響されやすい腫瘍に対して効果的です。この技術の進歩により、がん治療における放射線療法の精度と安全性が大幅に向上しています。

IMRT(強度変調放射線治療)

SRT(Stereotactic Radiation therapy;定位照射:ガンマナイフとサイバーナイフ)が小さい病巣を得意とするならば、IMRT(Intensity-Modulated Radiation Therapy;強度変調放射線治療)は「複雑な形をした病巣」を得意とします。

最大の特徴は、多方向から照射される放射線の量を出口ごとに調節し、放射線を多く当てたい部分と少量でよい部分、避けたい部分などに細かく対応できることです。これは、CT画像を撮影してターゲットの正確な位置を割り出し、コンピューターの計算によってエックス線の照射口が移動し、線量も調節しながら照射を行える機器です。これによって、変形した病巣に対しても正確に、かつ周囲へのダメージを極力少なくした放射線治療が可能になります。

治療時間は1回20分程度で入院はあっても1泊程度、あるいは不要の医療機関もあります。病巣の正確な位置を割り出すため、ち密な画像撮影や検証などを行うことから、通常の放射線治療よりも治療開始までに時間がかかります。考えられる副作用は、他の放射線治療とほとんど同じになります。

KRAS

KRASの遺伝子変異は、癌の発生や進行に深く関わる遺伝子変異の一種です。KRASは、細胞の成長や分裂を調整するRASファミリーに属する遺伝子で、通常、成長因子からの信号を受け取り、その信号を細胞内に伝達する役割を果たしています。このプロセスは、細胞が適切に成長・分裂し、損傷した際には死滅するようにする重要な仕組みの一部です。

しかし、KRAS遺伝子に変異が生じると、KRASタンパク質が常に活性化された状態になり、細胞が成長を止める信号を受け取らず、制御不能な細胞分裂を引き起こします。この異常な細胞増殖は癌化の原因となります。KRAS遺伝子変異は、特に肺癌、大腸癌、膵臓癌などで多く見られ、治療の難しさに直結することが多いです。

KRAS変異の中でも、G12D、G12V、G13Dなど特定のタイプが一般的で、変異の場所やタイプに応じて治療のアプローチが異なります。最近では、KRAS変異をターゲットにした新しい治療法(例:KRAS G12C阻害薬)が開発され、個別化医療の一環として注目されていますが、治療の対象となる変異型は限られているため、さらなる研究が進められています。

KRAS変異を持つ癌は通常、従来の治療に対して抵抗性を示すことが多いため、遺伝子検査によってKRAS変異を確認し、個別の治療戦略を立てることが重要です。

KRAS遺伝子変異は、特に肺癌、大腸癌、膵臓癌などで多く見られますが、その種類や治療法もそれぞれ異なります。以下は、KRAS変異によって典型的に発生するがんの種類と、それに対する分子標的薬や他の治療法です。

1. 肺がん(非小細胞肺がん:NSCLC)
関連するKRAS変異: KRAS G12C、G12V、G12D など
治療:KRAS G12C阻害薬: 最近、KRAS G12C変異に特異的に作用する分子標的薬が登場しました。主な薬剤としては以下が挙げられます。
・Sotorasib(ルマケラス/Lumakras): KRAS G12C変異をターゲットにし、非小細胞肺がんの治療に使用されます。
・Adagrasib(Krazati): 同様にKRAS G12C変異を標的にする薬で、治療効果が期待されています。
・免疫療法: KRAS変異は免疫チェックポイント阻害薬(PD-1/PD-L1阻害薬)に対する感受性が高い場合があります。特に、KRAS変異と他の分子異常がある場合、免疫療法の併用が有効なことが示されています。

2. 大腸がん(結腸・直腸がん)
関連するKRAS変異:KRAS G12D、G13D、G12Vなど
治療:KRAS変異を持つ大腸がんは、一般的に従来の**EGFR阻害薬(セツキシマブやパニツムマブ)**に抵抗性を示します。そのため、KRAS変異がある患者にはこれらの薬は効果が期待できません。
・新規KRAS阻害薬の研究: KRAS G12C阻害薬の適用はまだ限られていますが、大腸がんにも試験的に適用され始めています。
・免疫療法: KRAS変異を持つ大腸がんでも、特にマイクロサテライト不安定性が高い(MSI-H)場合は、免疫チェックポイント阻害薬が有効なことが確認されています。

3. 膵臓がん
関連するKRAS変異: KRAS G12D、G12Vなど
治療:
・現状の課題: 膵臓がんはKRAS変異を持つ割合が非常に高い(約90%)ですが、KRAS変異に対する分子標的薬の開発は進展しているものの、膵臓がんでは効果的な治療法が限られています。
・臨床試験: KRAS阻害薬やその周辺分子をターゲットにした治療法が試験中です。
・併用療法: 標準的な治療法として、化学療法(ゲムシタビンやフォルフィリノックス)が主流で、これらに分子標的薬や免疫療法の併用が検討されています。

4. その他のがん(胆管がんなど)
関連するKRAS変異: KRAS G12D、G12Vなど
治療: KRAS変異を持つ他のがんでも、KRAS G12C阻害薬の適用が臨床試験で検討されており、治療法が確立されつつあります。

KRAS変異に対する治療戦略のポイント
KRAS G12C阻害薬: これまで標的が困難だったKRAS変異に対する治療の新たな希望として登場しました。G12C変異は特に非小細胞肺がんでよく見られ、この変異を特異的にターゲットにする薬が承認されています。
免疫療法: KRAS変異を持つがんは、従来の分子標的薬に抵抗性を示すことが多いですが、免疫チェックポイント阻害薬との併用療法で効果が見られるケースもあります。特に、KRAS変異がある肺がんや大腸がんでは免疫療法の効果が報告されています。
KRAS変異と併発する他の変異の解析: KRAS以外の遺伝子変異や変異の組み合わせによって治療法が変わるため、**次世代シーケンシング(NGS)**などの遺伝子解析を行い、最適な治療を選択することが推奨されます。
KRAS変異に対する治療はまだ限られていますが、研究は急速に進んでおり、今後新しい治療法の確立が期待されています。

MAGE-A4

MAGE-A4(メラノーマ抗原A4)は、がん・睾丸抗原(Cancer-Testis Antigen, CTA)の一つであり、通常は生殖細胞(睾丸や卵巣)にのみ発現していますが、多くの種類のがん細胞で異常発現します。MAGE-A4が発現することが知られているがんの種類は以下の通りです。 非小細胞肺がん(NSCLC)/発現率:30%~40% 頭頸部がん/発現率:25%~40% 食道がん/発現率:30%~40% 胃がん/発現率:20%~40% 肝細胞がん/発現率:30%前後 膵がん/発現率:30%~35% 卵巣がん/発現率:30%~35% 乳がん/発現率:10%~25% 子宮がん/発現率:20%~30% 肉腫(滑膜肉腫)/発現率:70%~90% MAGE-A4は、免疫療法やがんワクチンの標的として研究されており、特定の治療法においてはMAGE-A4の発現を利用してがん細胞を認識するメカニズムが用いられています。

MMR

ミスマッチ修復(MMR)タンパクの評価は、腫瘍の遺伝的な異常を確認し、治療法を決定するために重要です。特に、ミスマッチ修復機構の欠損(dMMR)は、がんの進行や免疫療法の効果に影響を与えるため、評価の方法を知ることが重要です。MMRタンパクの評価方法には、主に以下の2つのアプローチが使用されます。

1. 免疫組織化学染色(IHC)

IHCは、腫瘍組織内の特定のMMRタンパク(MLH1, MSH2, MSH6, PMS2)の存在を検出するために使用されます。この方法では、通常4つのMMRタンパクのうちどれかが失われているかどうかを確認します。結果は以下のように分類されます:

  • 正常(pMMR): すべてのMMRタンパクが正常に発現している場合。
  • 異常(dMMR): 1つ以上のMMRタンパクが発現していない場合。dMMRは、遺伝子のミスマッチ修復能力が損なわれていることを示します。

2. マイクロサテライト不安定性(MSI)検査

MSI検査は、DNAのミスマッチリペアの機能に関連する異常を評価するために使用されます。MSI-high(MSI-H)やMSI-low(MSI-L)と呼ばれる結果が得られ、特にMSI-Hの状態は、免疫チェックポイント阻害剤(例えば、PD-1阻害剤)の有効性が高いことを示唆します。

  • MSI-high(MSI-H): ミスマッチ修復機構が損なわれている状態。dMMRに対応することが多い。
  • MSI-stable(MSS): ミスマッチ修復機構が正常に機能している状態。pMMRに対応することが多い。

IHCとMSIの組み合わせ

IHCとMSI検査は、補完的に使用されることが多く、IHCによってMMRタンパクが欠損している場合には、MSI検査によって遺伝的な不安定性が確認されることがあります。これらの検査は、主に大腸がんや子宮内膜がんなどで使われ、免疫療法の適応を決定する上での基準にもなります。

NK細胞(ナチュラルキラー細胞)

免疫反応において働いている細胞は主に白血球です。白血球の中にはさまざまな細胞があり、免疫反応は次のようなメカニズムで起こります。
「ばい菌が入ってきた」、「ウィルスがはいってきた」、あるいは「がんができた」という時に最前線で活躍するのが顆粒球(ほとんどが好中球)、樹状細胞、マクロファージ、そしてNK細胞(ナチュラルキラー細胞)です。これらの細胞は、ばい菌やウィルス、がん細胞を、敵(非自己)として認識し、無差別に攻撃します。

NK細胞(ナチュラルキラー細胞)は、リンパ球の一種で、体の中で、ウイルスに感染した細胞や、一部のがん細胞を認識して傷害する細胞のことです。NK細胞(ナチュラルキラー細胞)の働きは、樹状細胞の ように、がんだけを狙い撃ちするといった、抗原(ウイルスやがんなどの異物)に特異的な免疫反応を示すものではなく、非特異的に、以前に出会ったことがないような細胞を障害するといった初期の免疫反応(自然免疫)を司っています。

NK細胞(ナチュラルキラー細胞)療法

NK細胞(ナチュラルキラー細胞)の働き:
NK細胞(ナチュラルキラー細胞)は免疫細胞の一つです。腫瘍細胞、ウイルス感染細胞などに対して強い殺傷能力(細胞障害活性)を示し、がん抗原(がんの目印)の情報がなくても直接目的の腫瘍へ単独で攻撃することができます。もともとNK細胞は体内に比較的多く存在し、がん免疫の中でも重要な役割を果たしています。
NK細胞は細胞障害性T細胞が見逃したがん細胞も発見し、付着して殺傷します。NK細胞を顕微鏡で見ると、NK細胞特有の顆粒をその細胞内に蓄えています。この顆粒が、いわゆる弾丸のような役目を果たし、がん細胞を攻撃します。ます、付着したがん細胞の細胞膜に穴をあけるのがパーフォリンと呼ばれる糖タンパク質です。穴が開いたところに、グランザイムという酵素(プロテアーゼ)を打ち込んで、がん細胞のアポトーシスを誘導します。
しかし、加齢やがんに患うことによりNK細胞数は減少した り、活性が下がります。実際に免疫機能検査を行いますと、がん患者さまではNK細胞の数や活性が強く抑制されている方が多く見られます。活性化したNK細胞などのリンパ球が出すサイトカインや成長因子が、体内の免疫環境を整えてくれる効果も報告されています。
NK細胞(ナチュラルキラー細胞)療法とは?:
患者さまから約50mlの採血を行い、体外で高活性、高純度のNK細胞を大量増殖・培養する方法です。NK細胞は約2週間無菌状態で培養し、数億~数10億個に大量増殖させます。これは健康な人が持っているNK細胞の数倍の量です。
活性化したNK細胞は生理食塩水に溶かし、点滴で患者さんの体内に戻します。NK細胞療法は本人の血液を培養する方法なので、身体への負担がほとんどなく、QOL(生活の質)を高く維持しながら受ける事が出来ます。
また、「樹状細胞ワクチン療法」と「NK細胞療法」のがんへの攻撃方法は異なりますので、双方を組み合わせることにより、より良い治療効果が期待されています。
適応:
免疫療法を希望される患者さま(血液がんなど、一部適応とならないものがあります)で、がんの部位や血液データをもとに決定いたします。
他の治療との併用:
ほぼすべてのがん治療(手術、抗がん剤、放射線療法、緩和医療など)、樹状細胞ワクチン療法との併用が可能です。

NLR

NLR(好中球リンパ球比、Neutrophil-to-Lymphocyte Ratio)は、血液検査で測定される好中球数とリンパ球数の比率です。この指標は、シンプルながら特に炎症反応や免疫応答を反映するマーカーとして注目されており、がんや感染症、慢性疾患などの重症度や予後を評価するために広く使われています。NLRの主なポイントを以下にまとめます。

1. NLRの算出方法

  • NLRは、末梢血の白血球検査から得られる「好中球数」を「リンパ球数」で割ることで算出されます。
  • 数値が高い場合、好中球が増加しリンパ球が減少していることを示します。

2. 炎症マーカーとしてのNLRの意義

  • NLRは、体内の炎症反応を反映し、急性や慢性の炎症状態を示すマーカーとされています。
  • 特にがん患者において、NLRの上昇は腫瘍微小環境の炎症と関連が深く、予後の悪化と関係があるとされています。

3. がん治療におけるNLRの役割

  • 多くのがん種で、NLRが高い患者は低い患者と比べて予後が悪い傾向にあることが報告されています。
  • 例えば、NLRが高いことは、免疫応答が抑制されている状態を示しており、腫瘍の成長や転移のリスクが増すと考えられています。
  • NLRは、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療や化学療法の反応予測因子としても研究が進んでいます。

4. 基準値と臨床的意義

  • 一般的に、健康な成人のNLRは1.5〜3.5程度とされますが、基準値は個人や年齢、性別によって異なります。
  • がん患者においては、NLRが5を超える場合、予後不良の可能性が高まることが示唆されています。ただし、NLRのカットオフ値は病状や個人差により異なるため、他の臨床的指標と併用して評価されるべきです。

5. NLRの限界と課題

  • NLRは安価で簡便に測定できる一方で、様々な要因(感染、ストレス、薬物治療など)が値に影響を及ぼす可能性があるため、単独での診断指標として用いるには限界があります。
  • 他のバイオマーカー(例えば、PLR:血小板リンパ球比やSII:Systemic Immune-Inflammation Index)と併用することで、炎症や免疫応答の状態をより包括的に評価するアプローチも提案されています。

NLRは予後マーカーや治療の指標として利用可能ですが、総合的な診断には他の要因も考慮し、医師の判断と組み合わせる必要があります。

Oncotype DX

Oncotype DXは、乳がん患者における再発リスクを評価するためのゲノム検査で、特にホルモン受容体陽性 (HR+)、HER2陰性の早期乳がんに用いられます。この検査では、特定の21個の遺伝子の発現を分析し、再発リスクを数値化して示します。この数値がRecurrence Score(再発スコア)で、0から100の範囲で示されます。

<評価項目の説明>
1.Recurrence Score(再発スコア):
・0~100の数値で、再発の可能性を示します。
・スコアが低いほど再発リスクは低く、高いほど再発リスクが高いです。
・このスコアは、特に遠隔転移のリスクを予測するために使用されます。

2.Distant Recurrence risk at 9 years(9年間における遠隔再発リスク):
・これは再発スコアに基づき、9年間で遠隔転移(他の臓器へのがんの再発)が起こるリスクの割合を示します。
・低リスクの患者では10%未満、中リスクでは10~20%、高リスクでは20%以上の遠隔再発リスクとされています。

3.Group average Absolute chemotherapy benefit(化学療法による群平均の絶対的な効果):
・化学療法が追加された場合に得られる再発リスクの低減効果の平均を示します。
・低リスクでは化学療法の効果はほとんどない(推奨されない)とされますが、再発スコアが高くなるほど化学療法の効果が大きくなるため、スコアが高い患者には推奨される場合があります。

<Recurrence Scoreの範囲と解釈>
1.低リスク (Recurrence Score: 0–25):
遠隔再発リスクは低い。化学療法は一般的に推奨されず、ホルモン療法が主な治療法になります。

2.中間リスク (Recurrence Score: 26–30):
再発リスクが中程度。化学療法を行うかどうかは、患者の年齢や他の臨床的要因を考慮して判断されます。

3.高リスク (Recurrence Score: 31–100):
再発リスクが高い。化学療法の効果が高いとされ、積極的に化学療法が推奨されることが多いです。

これらの評価は、患者がどのような治療を受けるべきかを決定するために非常に重要です。特に、化学療法の必要性やその効果を予測するために役立ちます。

OS(Overall Survival:全生存期間)

OSは、特定の治療を受けた患者さまが、がん診断後に生存している期間の全体になります。OSは、がんの治療やその他の要因による影響を総合的に考慮し、患者の全体的な生存期間を評価することになります。つまり、がんの進行や再発に関係なく、治療後の生存期間を測定します。

PET-CT

PET-CTは、その名のとおりPET(陽電子放射断層撮影装置)とCT(コンピュータ断層撮影装置)が合体した装置です。
PETはおもに機能的な情報を、CTは形や大きさといった形態的な情報を画像化します。
PET-CTの最大の利点は、同時にPET画像とCT画像の重ね合わせ、画像(融合画像)の撮影ができることです。
PET-CTでは2つの画像の重ね合わせの実現により、がんや転移巣をその臓器と同時に表示することが可能となり、診断精度が飛躍的に向上しました。
さらにPETとCTが一度の検査ですむことで、患者さまの負担も軽減されます。

PFS(Progression-Free Survival:無増悪生存期間)

PFSは、がん治療などの臨床試験や研究においてよく使用される指標の1つです。PFSは、特定の治療を受けた患者が病気の進行(がんの再発や増殖)なしに生存している期間を表します。PFSは、抗がん剤や、放射線治療、免疫療法等の治療が進行を遅らせる能力をどれだけ持っているかを示す指標として使われます。

PLR

PLR(血小板リンパ球比、Platelet-to-Lymphocyte Ratio)は、末梢血中の血小板数をリンパ球数で割った値で、NLR(好中球リンパ球比)と同様に炎症や免疫応答の指標として使われます。特にがん、心血管疾患、感染症などの病態の重症度や予後を評価するためのマーカーとして研究されています。

PLRの主なポイント

  1. PLRの算出方法

    • 血液検査で得られる「血小板数」を「リンパ球数」で割ることで算出します。
    • PLRが高い場合は、血小板が増加しリンパ球が減少している状態を示し、体内の炎症や免疫応答の異常が反映されることが多いです。
  2. 炎症マーカーとしての役割

    • PLRは体内の慢性的な炎症状態や免疫応答の変化を反映します。
    • 血小板は単に血液凝固に関与するだけでなく、炎症反応や免疫応答に関与することが分かっています。特に腫瘍環境では、血小板が腫瘍細胞の増殖や転移を促進する役割を果たすため、PLRが高いと腫瘍の悪化が示唆されることがあります。
  3. がん治療におけるPLRの有用性

    • がん患者において、PLRが高いことは、しばしば予後不良と関連しています。例えば、胃がん、大腸がん、乳がんなど、多くのがん種でPLRが高い患者は再発リスクが高く、治療成績が悪い傾向が報告されています。
    • PLRはNLRと併用して、がんの予後をより正確に評価する指標として用いられることも多いです。
  4. 基準値と臨床的意義

    • 健康な成人のPLRはおおよそ100〜200とされていますが、がんや慢性炎症性疾患ではこれよりも高い傾向があります。
    • ただし、PLRのカットオフ値は病状や個人差によって異なるため、他のバイオマーカーや臨床的な状態と併用して評価されます。
  5. PLRの限界と課題

    • PLRは簡便に算出できる一方で、さまざまな要因(感染、ストレス、薬剤、出血、貧血など)が数値に影響を与える可能性があり、単独での診断指標としては限界があります。
    • 他の炎症関連マーカー(NLRやSystemic Immune-Inflammation Index (SII) など)と併用することで、免疫状態や炎症レベルをより包括的に評価する方法が提案されています。

結論
PLRはがんや炎症性疾患の重症度や予後の指標として有用ですが、他の臨床的指標と併用し、包括的に評価することが重要です。

PSA

PSAは Prostate Specific Antigenの略で、前立腺の上皮細胞と尿道の周囲の腺から特異的につくられて分泌される糖たんぱくの一種です。前立腺がんで数値に反応が出やすいことから、前立腺がんの腫瘍マーカーとして使われています。

PSMA標的治療

PSMA標的治療とは、前立腺がんに特化した新しい放射線療法の一つです。前立腺がんのなかでも、すでに転移をしており、標準的な治療では進行を制御できなくなった「去勢抵抗性前立腺がん」に、大きな効果が期待できます。PSMA(Prostate Specific Membrane Antigen)は、「前立腺特異的膜抗原」と言う意味で、前立腺がん細胞の表面に存在しているタンパク質です。前立腺がんの悪性度が高かったり進行すると、数十~百倍も強く認めるようになります。PMSA標的治療では、このPSMAにくっつく物質にさらに放射性同位元素(177-ルテチウム)つけたものを点滴します。体内でPSMAにくっついた物質から放射線が放出されることによって、前立腺がんだけを狙い撃ちして、細胞レベルの放射線療法を行うのがPSMA治療の基本的な原理となります。がん細胞だけを選択的に攻撃するため、正常な臓器への影響が少ないという点がPSMA標的治療の大きなメリットになります。 PSMA治療は現在、欧米を中心に行われていますが、今のところ日本では受けることができません。 その効果は2017年から主要な国際学会で軒並み発表され、世界中で大変な注目を集めています。 しかし日本では、放射性物質の取り扱いに関する法的な制限があり、国内で検査や治療を受けられるようになるまで数年はかかるといわれています。

RECIST分類

治療評価はRECIST(最長径の和の変化)分類によって評価しています。
Complete Response (CR):消失
Partial Response (PR):30%以上の減少
Stable Disease(SD):PRの基準もPDの基準もみたさない
Progressive Disease (PD):20%以上の増加

SII(Systemic Immune-Inflammation Index)

SII(Systemic Immune-Inflammation Index、全身免疫炎症指標)は、血液中の好中球数、血小板数、およびリンパ球数を基にした指標で、炎症や免疫応答の状態をより包括的に評価するためのマーカーです。特にがん患者の予後予測において、SIIはNLR(好中球リンパ球比)やPLR(血小板リンパ球比)と同様、あるいはそれ以上の予測力を持つことが示されています。

SIIの算出方法

SIIは、以下の計算式で算出されます:

SII=(好中球数×血小板数)/リンパ球数

この数式では、好中球数と血小板数が分子にあり、炎症反応を促進する役割を担うため、炎症が強い状態ではSIIが高くなります。リンパ球数は分母にあり、リンパ球の減少は免疫抑制や予後不良と関連することが多いため、分母が小さいほどSIIが上昇します。

SIIの主な意義と特徴

  1. 炎症および免疫応答の包括的な指標

    • SIIは、好中球、血小板、リンパ球を組み合わせて計算するため、炎症と免疫抑制の状態を反映するより包括的な指標として機能します。
    • がん患者における予後予測において、炎症環境の状態を詳細に把握でき、腫瘍進行や転移リスクとの関連も深いことが示されています。
  2. がんにおける予後因子としてのSII

    • SIIは、肝臓がん、胃がん、大腸がん、乳がんなど多くのがん種において、SIIが高いと予後が悪いとされ、病状進行や治療の反応予測にも役立つとされています。
    • 特に転移性がんや進行がんでは、SIIが高いことが腫瘍微小環境での炎症促進と免疫抑制状態の強さを示し、治療が難しい状態であることが多いとされています。
  3. 基準値と臨床的な評価

    • SIIの基準値は、通常の炎症状態やがんの進行状況によって異なるため、確立された特定のカットオフ値はないものの、がん患者の間で一定の値を超えると予後不良と見なされることがあります。
    • 一般的に、SIIが高いほど全身の炎症反応や免疫抑制が強く、病態悪化のリスクが高いとされます。
  4. 他のバイオマーカーとの併用

    • SIIは、NLRやPLRと併用することで、がんや慢性炎症性疾患のリスク評価がより精度高く行えると考えられています。
    • 例えば、NLRが炎症と免疫応答のバランスを評価し、PLRが血小板とリンパ球の関係を示すのに対し、SIIはより広範な炎症反応と免疫抑制の程度を示し、これらの指標を総合的に分析することが推奨されています。

SIIの限界と注意点

  • SIIは、簡便に算出できるものの、感染症やストレス、薬剤治療など様々な要因で変動するため、単独での診断指標としては限界があります。
  • 他の血液マーカーや臨床的な指標と併用して総合的な評価を行うことが重要です。

結論

SIIは、がんを含む多くの疾患で免疫炎症の状態を把握する上で有用な指標であり、特にがん治療において予後予測に役立つ可能性があります。

SOP: Standard Operating Procedure

SOP: Standard Operating Procedure(標準作業手順書)とは、再生医療のような細胞を用いたちりょうにおいて、その細胞の品質保持のため、ひとつひとつの作業工程や施設管理方法などを順序だてて文書に落とし込んだものです。

Survivin

Survivin(サバイビン)は、腫瘍細胞の成長や生存に重要な役割を果たすタンパク質で、癌研究において非常に注目されています。具体的には、以下のような特徴があります。

1. 役割

  • アポトーシスの抑制: Survivinは、細胞のプログラム化された死(アポトーシス)を抑制することで、癌細胞の生存を促進します。これは、癌細胞が増殖し続ける理由の一つです。
  • 細胞分裂の調整: Survivinは、細胞分裂(有糸分裂)の過程に関与し、正常な細胞分裂をサポートします。癌細胞が制御されない形で分裂を続ける背景には、このタンパク質の異常な発現が関与しています。

2. 癌との関連

Survivinは、多くの種類の癌で過剰に発現しており、腫瘍の進行、薬剤耐性、悪性度の高さに関与しています。これにより、Survivinは癌治療の標的として非常に重要視されています。高いSurvivin発現は、次のような点で癌患者の予後に悪影響を及ぼすことが知られています。
  • 治療抵抗性: Survivinは化学療法や放射線療法に対する抵抗性を与えることがあります。癌細胞が死を回避し、生き残る能力を持つため、治療が難しくなります。
  • 再発リスク: Survivinの発現が高い癌は再発リスクが高いとされています。治療後も生き残った細胞が再び増殖し、腫瘍の再発を引き起こす可能性があります。

3. 治療標的としてのSurvivin

Survivinは、癌細胞に特異的に発現し、正常細胞ではほとんど発現しないため、標的療法の開発において非常に魅力的です。具体的には、以下のようなアプローチが検討されています。
  • 小分子阻害剤: Survivinの機能を阻害する小分子薬剤が開発されており、癌治療における新しい選択肢として研究されています。
  • 免疫療法: Survivinを標的としたがんワクチンやT細胞療法の研究も進行中です。これにより、癌細胞に対してより効果的に免疫反応を引き起こすことが期待されています。

4. 臨床応用と将来の展望

Survivinを標的とした治療法は現在、前臨床試験や臨床試験の段階にありますが、これが成功すれば、既存の治療法に対する耐性を克服できる可能性があります。また、Survivinの発現レベルをバイオマーカーとして使用することで、患者に適した治療法の選択が可能になるかもしれません。 Survivinは、癌治療において重要な標的の1つとして、今後の研究と治療開発の進展が期待されます。

TIL療法

TIL療法(Tumor-Infiltrating Lymphocytes療法)とは、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を利用した免疫療法の一つです。この治療法は、患者の腫瘍から採取したリンパ球を体外で増殖・活性化させ、それを再び患者に戻すことで、がん細胞を攻撃する能力を高めるものです。

TIL療法の手順
腫瘍の採取: 手術などを通じて腫瘍組織を採取します。
TILの分離: 採取された腫瘍組織から腫瘍に浸潤しているリンパ球(TIL)を分離します。
TILの増殖・活性化: 分離されたTILを体外で増殖させ、免疫機能を強化するための特定の薬剤(インターロイキン-2など)を使って活性化させます。
患者への戻し: 活性化・増殖されたTILを患者の体内に戻します。
サポート治療: TILを戻した後、患者には通常、インターロイキン-2(IL-2)などの免疫をサポートする薬剤が投与されます。

メリット
がん細胞に対する特異性が高い: TILはすでにがん細胞に対して反応しているリンパ球であり、がんを標的にする能力がある。
個別化医療: 患者の腫瘍から採取したTILを使用するため、個別化された治療が行える。

主な適応症
メラノーマ(悪性黒色腫): 特にメラノーマに対して高い効果が確認されています。
その他のがん: 研究が進められており、他のがん種にも応用される可能性があります。

TIL療法は、がん免疫療法の中でも特に患者の免疫系を利用してがん細胞を直接攻撃する治療法であり、個別の患者に合わせた高度な治療の一環として注目されています。

TNM分類

がんの病期分類(ステージ分類)は、がんの進行度を評価し、治療方針や予後の見通しを立てるために重要な指標です。一般的には、TNM分類が広く用いられています。これは、原発腫瘍の大きさと広がり(T)、リンパ節への転移の有無(N)、および遠隔転移の有無(M)を基にした分類法です。以下は、各ステージの概要です。

TNM分類

  1. T(Tumor): 原発腫瘍の大きさや浸潤の程度 T0: 原発腫瘍が存在しない T1-T4: 腫瘍の大きさや浸潤度に応じて進行度を示す
  2. N(Node): リンパ節転移の有無とその範囲 N0: リンパ節転移がない N1-N3: 転移しているリンパ節の数や範囲に応じて進行度を示す
  3. M(Metastasis): 遠隔転移の有無 M0: 遠隔転移がない M1: 遠隔転移がある

病期(Stage)

TNM分類をもとに、ステージは以下のように分類されます。
  • ステージ0: 早期のがん(上皮内がん)で、がん細胞がまだ粘膜内にとどまっている状態。
  • ステージI: 小さな腫瘍であり、リンパ節や他の臓器への転移がない状態。
  • ステージII: 腫瘍がやや大きくなり、隣接する組織やリンパ節に転移がある可能性があるが、遠隔転移はない。
  • ステージIII: 腫瘍がさらに大きくなり、近くのリンパ節に転移している可能性が高いが、遠隔転移はない。
  • ステージIV: 遠隔転移が確認されている状態で、がんが他の臓器に広がっている。

ステージ分類の目的

  • 治療計画の立案: 早期ステージでは手術や放射線療法が中心となり、進行したステージでは化学療法や免疫療法、放射線治療の組み合わせが考慮されることが多いです。
  • 予後の予測: 一般的にステージが進むほど予後は厳しくなりますが、治療の進歩によりステージIVでも治療可能な場合があります。
病期分類はがんの種類によって異なる場合もあり、たとえば白血病や脳腫瘍では異なる分類法が使用されます。

Trodelvy

Trodelvy(トロデルヴィ、一般名:サシツズマブ・ゴビテカン)は、がん治療に使用される抗体薬物複合体(ADC)で、特に転移性乳がんや尿路上皮がんなどの治療に効果があるとされています。Trodelvyは、Trop-2というタンパク質を標的にした治療薬で、このタンパク質は多くのがん細胞の表面に高濃度で発現しています。Trodelvyは、抗体ががん細胞のTrop-2に結合し、抗がん薬であるイリノテカン誘導体(SN-38)を直接がん細胞に送り込むことで、がん細胞を効果的に破壊します。

主な使用用途

  • 転移性トリプルネガティブ乳がん(mTNBC): 化学療法が無効となった後の進行がんに対して承認されています。
  • 局所進行または転移性尿路上皮がん(mUC): 化学療法および免疫療法が無効となった後の患者に使用されます。

効果

Trodelvyは、従来の化学療法が効きにくい進行がんに対して、腫瘍の縮小や進行の抑制を示す有望な結果が報告されています。臨床試験では、転移性トリプルネガティブ乳がん患者で全生存期間の延長が確認されており、尿路上皮がん患者でも有効性が示されています。

副作用

主な副作用には、以下のものが含まれます:
  • 血液学的毒性: 好中球減少症や貧血
  • 消化器系: 下痢、吐き気、嘔吐
  • 疲労感や脱力感
これらの副作用は、特に治療開始後の初期段階で強く出ることがありますが、医師の管理のもとで適切に対応されます。

使用方法

Trodelvyは点滴静注で投与され、通常は2週間ごとに3週間のサイクルで投与されます。初回の投与は病院で行われ、副作用が管理可能であることを確認した後は、通院治療で投与が継続されることが多いです。 Trodelvyは、新しい治療オプションとして非常に重要な役割を果たしており、特に他の治療法が効かなくなった患者にとって、命をつなぐ希望となっています。

T細胞

T細胞とは、リンパ球の一種で、細胞の表面にT細胞に特徴的なT細胞受容体を発現している細胞です。末梢血中のリンパ球の70~80%を占めます。
細胞の表面の分子としてCD4かCD8などを発現しており、CD4を発現したT細胞は他のT細胞の機能発現を誘導したりB細胞の分化成熟、抗体産生を誘導したりするヘルパーT細胞として機能します。
またCD8陽性のT細胞はウイルス感染細胞などを破壊するキラーT細胞(CTL)として機能します。その働きは細胞性免疫とも呼ばれています。

WT1

免疫が、がん細胞を攻撃するのに目印となる重要な物質が、がん抗原です。これまで様々ながん抗原が発見されていますが、「WT1」は、がん抗原として優れている(優先度が最も高い)物質※として、世界で評価されているがん抗原です。

※Cheeve MA. Clinical Cancer Research 2009

WT1(Wilms' Tumor 1)は、もともとウィルムス腫瘍という腎臓がんで発見された遺伝子で、腫瘍抑制遺伝子としての役割を持ちますが、特定のがん細胞では異常な発現が見られることが知られています。がん抗原としてのWT1は、腫瘍細胞で過剰に発現することが多く、がん治療における免疫療法の標的として注目されています。

WT1は、白血病、卵巣がん、膵臓がん、肺がん、乳がんなど、多くのがんで発現が報告されており、正常な組織ではほとんど発現していないため、がんに特異的なターゲットとして利用されています。このため、WT1に対する免疫反応を誘導することで、がん細胞を特異的に攻撃する治療が研究されています。

具体的には、WT1を標的としたがんワクチンやT細胞療法が開発されています。これらの治療では、患者の免疫系を活性化させ、WT1を持つがん細胞を特異的に認識して攻撃するように訓練された免疫細胞(例えば、WT1に反応するT細胞)を利用します。これにより、正常な細胞へのダメージを最小限に抑えつつ、がん細胞を効率的に排除することが期待されています。

WT1を標的にした治療は、特に再発がんや治療抵抗性がんに対する新しい治療オプションとして注目されており、研究が進んでいる領域です。

プレシジョンクリニックグループでは、樹状細胞ワクチン療法にこのWT1タンパクの一部分である「WT1ペプチド」を用いることで、より多くのがん患者さまに樹状細胞ワクチン療法を提供できるようになりました。