投稿日:2023.12.17/更新日:2024.10.22
肺がんは世界的に見ても最も一般的ながんの一つで、早期発見と治療方法によって生存率が大きく左右される病気です。
本記事では、肺がんの診断方法からステージ別の症状、さらに最新の治療法などについて詳しく解説します。
また、近年注目されている免疫チェックポイント阻害薬を含む治療の詳細についても深堀りし、生存率向上の影響にも着目していきます。
肺がんは、早期に発見するほど治療の成功率が高まります。
ここでは、肺がんを診断するための代表的な方法を4つご紹介します。
がんの存在や大きさ、及びその他の重要な特徴を明らかにするために用いられます。
胸部X線検査は、肺がんの早期発見のための重要な検査です。
この検査は、X線装置の前に立つだけで、たった数秒で撮影が完了します。健康診断で経験する方も多いでしょう。
X線を胸部に透過させることで、肺組織の画像を撮ることが可能となりますが、そこで、肺に異常な陰影が見られる場合は、肺がんの存在を疑うことになります。
ただし、小さながんの場合は胸部X線検査だけでは見逃すこともあるため、異常が見られる場合はさらに詳細な検査を行います。
胸部CT検査は、肺がんの診断において非常に高い精度を誇る検査方法です。
胸部X線検査で疑わしい影が見つかった場合に行われます。
この検査では、X線を利用して体の横断面の詳細な画像を生成し、微小な腫瘍や一般的にがんができる位置以外にある腫瘍も検出することができます。
CT検査は、肺の異常だけでなく、周辺組織の状態やリンパ節の腫れも詳細にチェックできるため、治療計画を立てる上で重要な役割を果たす検査です。
気管支鏡検査は、胸部X線やCT検査で肺がんの疑いが強い場合に行われる検査です。
この検査により、気管や気管支の内部を直接観察し、異常な組織を発見することが可能です。
気管支鏡は口または鼻から挿入し、カメラがついた細長い管を用いて肺の内部画像を撮影します。
必要に応じて、異常な部位から直接、組織サンプルを採取することができるため、確定診断には欠かせない検査方法です。
遺伝子検査は、肺がん診断後の患者様に対して行われることが多い検査で、治療方針を決定するために行われます。
がん細胞の遺伝子の変異を調べ、標的治療薬の選定に利用します。
特定の遺伝子変異が存在する場合、それに効果的な分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を使用することで、治療の成果を大きく向上させることが可能です。
また、遺伝子検査は患者様の予後情報を扱うため、個別化医療の実現が期待できます。
肺がんの治療計画には、がんのステージを正確に把握することが不可欠です。
ステージは、がんがどれだけ進行しているかを示す指標となるだけでなく、治療方法の選択にも影響を与えます。
肺がんは0期から最も進行した4期までの範囲で分類され、がんの大きさ、肺やその他の臓器への広がり具合、リンパ節への転移の有無によって決定されます。
ここでは、肺がんの各ステージと症状について解説します。
ステージ0では、がん細胞は肺の粘膜内層に留まっており、周囲の組織やリンパ節への浸潤は見られません。
この初期段階のがんは、治療が比較的容易で、完全に治癒する可能性が非常に高いものです。
通常、このステージの発見は偶然か、定期的な健康診断によるものであり、特定の症状が現れることは少ないとされています。
治療法としては、局所的な外科手術やレーザー治療、光力学療法が行われます。
ステージ1の肺がんは、がん細胞が肺の一部に限定されており、リンパ節への転移はありません。
この段階では、腫瘍は通常3cm以下の大きさで、肺の片葉内にとどまっています。ステージ1で発見されると、患者様の生存率は比較的高く、治療の選択肢も広がります。
外科手術による腫瘍の完全切除が一般的な治療法であり、適用されると良好な結果が期待できます。
時には、手術後に放射線療法が補助的に用いられることもあります。
ステージ2の肺がんは、がん細胞が肺の中で比較的大きく成長しているか、近くのリンパ節に転移を始めている状態を指します。
この段階では、がんの進行により症状がより明確になることが多く、咳が続く、呼吸困難、胸痛などが現れる場合があります。
治療には主に外科手術が用いられますが、リンパ節への転移がある場合は化学療法や放射線療法が組み合わされることもあります。
治療計画は、腫瘍の具体的な位置や健康状態によって個別に決定されます。
ステージ3の肺がんは、がん細胞が肺の周囲の主要な組織や臓器へ広がり、リンパ節にも転移している状態を指します。
このステージに分けられる場合、がんが胸膜や心膜、さらには胸骨や椎骨に達している場合も含まれます。
また、同じ側の胸部にあるリンパ節、特に中枢部近くのリンパ節への転移が特徴です。
激しい胸痛や持続的な咳、呼吸困難、声のかすれ、さらには顔や首の腫れ(上大静脈症候群)などの症状が現れます。治療は放射線療法や化学療法のほか、症状の緩和を目的とした支持療法も選択肢となります。
ステージ4の肺がんは、がん細胞が離れた臓器への転移を伴うか、胸水(肋膜腔に溜まる液体)にがん細胞が見られる、最も進行した状態です。
転移は肝臓、脳、骨、他の肺、または副腎など、さまざまな臓器に及びます。
この段階になると、非常に強い疲労感、体重減少、慢性的な痛み、呼吸困難や咳など、生活の質を大幅に低下させる多くの症状が現れます。
治療は主に病状の進行を遅らせ、生活の質を改善することを目指し、化学療法や標的治療が中心となります。
肺がんの治療法は、がんの種類、ステージ、患者様の全体的な健康状態に基づいて決定されます。
治療の主な目的はがんの成長を抑え、症状を管理し、生存率を向上させることです。
現代の医学では、手術、抗がん剤治療、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など、さまざまな治療が可能です。これらの治療法について、ステージ3やステージ4の進行した肺がんに用いる代表的な治療を3つご紹介します。
抗がん剤治療といえば副作用が強いというイメージがありませんか?
主に殺細胞抗がん剤がこれにあたり、細胞の核内でDNA合成や細胞増殖にかかわる分子に作用し、細胞の分裂や増殖を阻害することで効果を発揮するものです。
しかしながら、活発に増殖、分裂する正常細胞に対しても毒性を示すことから、副作用などによる患者様への身体的負担も高いものでした。
殺細胞性の抗がん剤治療は、肺がんを含む多くのがんにおいて基本的な治療法です。
この治療は、体内を循環する薬剤を使用してがん細胞を攻撃し、成長を抑制または消滅させることを目的としています。
肺がんの場合に使用される抗がん剤はがんのタイプによって異なり、複数の薬剤が組み合わされることもあります。
治療は数週間おきのサイクルで行われ、効果と副作用を定期的に確認しながら続けられます。副作用は、脱毛、吐き気、疲労感などが一般的です。
分子標的薬治療は、殺細胞性抗がん剤のように、活発に増殖、分裂する細胞をがん細胞だけでなく、正常細胞にも影響を及ぼすものではなく、がんの特定の遺伝子変異や細胞内シグナル経路を標的とすることで、がん細胞の成長を効果的に抑制します。
分子標的薬は、正常な細胞を避けることができるため、従来の抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)に比べて副作用が少ない点が特徴です。
免疫チェックポイント阻害薬は、がん治療に革命をもたらした新しい治療薬です。
がん細胞が免疫システムの攻撃から逃れるために利用するプロセスを阻害します。
具体的には、T細胞ががん細胞を正しく認識して攻撃するために必要なチェックポイントを活性化させることで、体の自然な防御力を強化します。
免疫チェックポイント阻害薬は、その作用機序から樹状細胞ワクチン免疫療法の効果を高めることも期待されています。
また分子標的薬との相性も良い可能性があります。
免疫チェックポイント阻害薬による治療法は、次にご紹介します。
免疫チェックポイント阻害薬は、体の自然な免疫システムを活用してがん細胞を攻撃することにより、従来の治療法では難しかった進行がんや再発がんの治療を可能にする薬剤です。
免疫チェックポイント阻害薬は、人体の免疫システムががん細胞を攻撃できるようにするために、免疫システムのブレーキを解除する薬剤です。
チェックポイント(PD-1、PD-L1、CTLA-4など)は免疫システムが過剰反応するのを防ぎ、健康な細胞に対する攻撃を抑制します。
しかし、がん細胞はこれらのチェックポイントを悪用して免疫応答から逃れることがあります。
免疫チェックポイント阻害薬は、この逃避機構を無効にし、T細胞ががん細胞を識別し破壊する能力を強化します。
以下は、代表的な免疫チェックポイント阻害薬です。
薬剤名 | 主要成分 | 対象となるがん種 |
---|---|---|
オプジーボ | ニボルマブ | 非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫等 |
キイトルーダ | ペムブロリズマブ | 非小細胞肺がん、皮膚がん(メラノーマ)、頭頸部がん等 |
ヤーボイ | イピリムマブ | 非小細胞肺がん、小細胞肺がん等 |
イジュド | トレメリムマブ | 非小細胞肺癌、肝細胞癌 |
イミフィンジ | デュルバルマブ | 非小細胞肺がん、肝細胞癌等 |
免疫チェックポイント阻害薬の効果は、特定の生物学的マーカーを持つ患者様に特に顕著に現れます。
例えば、PD-L1タンパクの高発現を示す非小細胞肺がん患者様や、MSI-H(高頻度ミクロサテライト不安定性)やdMMR(DNAミスマッチ修復不全)を持つ患者様が当てはまります。
このようなマーカーは、がん細胞が免疫系の監視から逃れる能力を持っており、免疫チェックポイント阻害薬によってその逃避行動を阻止し、自然な免疫応答を促進します。
ただし、これらの薬剤は免疫系を活性化するため、患者様の全体的な免疫状態も治療の効果に影響を与える重要な条件となります。
免疫チェックポイント阻害薬の副作用は、免疫系の過剰活性化によって引き起こされることが一般的です。
免疫関連副作用(irAEs)が発生することがあり、皮膚の発疹、下痢、肝炎、内分泌障害、肺炎などが挙げられます。
副作用は軽微なものから生命に関わるものまで幅広く、患者様の健康状態や過去の治療履歴によって程度が異なる場合があります。
治療中は定期的な観察を行い、副作用の早期発見に努めることが必要不可欠です。
免疫チェックポイント阻害薬による治療は、特に進行性のがん患者様において生存率の向上が期待されています。
『KEYNOTE024』という2020年に行われた国際的な臨床試験ではPD-L1の発現が50%以上の人(効果が見込める人)を対象に行ったところ、キイトルーダ治療群の5年生存率が31.9%(抗がん剤群は16.3%)の驚異的な結果が出ました。
一方で、『KEYNOTE189』試験ではPD-L1の発現に関わらず行ったところ、キイトルーダと2種類の抗がん剤を用いた治療群の5年生存率が19.4%と報告されており、こちらも従来の治療の約2倍の成果を出しました(抗がん剤のみの群は11.3%)。
このように、現在は免疫チェックポイント阻害薬による生存率の向上が期待されており、がんに対するイメージを覆す可能性を秘めています。
免疫チェックポイント阻害薬について詳しく知りたい方は、ぜひご連絡いただければ幸いです。
参考文献:肺がんステージ4でも5年生存率2~3倍向上 医師「驚異的な結果」 免疫チェックポイント阻害薬で
(https://dot.asahi.com/articles/-/197858?page=1)
【監修者】岡崎 能久
大阪大学医学部を卒業後、同大学院の修士課程を終了したのち、関西地方を中心に医療に従事、現在はプレシジョンクリニック名古屋院長として活躍中。専門は内視鏡診断および治療・研究開発。日本内科学会認定医や日本消化器病学会専門医、日本医師会認定産業医などの認定医を保有。
略歴:
2001/3
大阪大学医学部卒業
2001/6
大阪大学医学部附属病院内科研修医
2002/6
大阪厚生年金病院 内科 研修医