投稿日:2024.7.17/更新日:2024.10.22
セラノスティクス(Theranostics)は、治療(Therapy)と画像診断(Diagnostics)を組み合わせた新しい医療メソッドであり、プレシジョンメディシンの代表的な治療の一つです。特に近年注目されているのが前立腺がんに対するセラノティクスです。
前立腺がんに特徴的なタンパク質であるPSMAを標的にした「PSMA標的(放射線)治療」は、PSMAを持つがんの位置を特定し、その部位に放射性薬剤をピンポイントで届けることができる、セラノティクスを代表とする治療です。前立腺がん細胞をピンポイントに攻撃することができることから、前立腺がんに対する精密医療(プレシジョンメディシン)ということができます。
この治療法は、主に米国、オーストラリア、シンガポール、マレーシア、ドイツをはじめとする欧州で行われています。当グループでは、オーストラリアと連携してPSMA標的治療を提供しています。また現在、前立腺がんだけでなく、膵臓がんに対するセラノティクスの開発も進んでいます。
前立腺がんの中には、標準治療に対して抵抗性を示すものがあります。これが「去勢抵抗性前立腺がん」と呼ばれるもので、標準治療後にも転移や進行が見られる場合、この治療法が選択肢の一つとなります。
PSMA標的治療は、前立腺がん細胞に多く発現するPSMAを標的にした治療法です。この治療では、PSMAを選択的に狙う低分子リガンドにルテチウム-177(ルテチウム-177 PSMA-617:LuPSMA)という放射性薬剤を結合させます。これにより、全身に転移した前立腺がんのみに高線量の放射線を正確に照射することが可能です。
視覚化可能: LuPSMAは低レベルのガンマ線を放出し、これを利用して核医学画像診断が可能です。これにより、PSA値に頼らず、治療効果やがんの状態をリアルタイムで確認できます。
治療効果の随時判断: 画像診断により、治療の効果を随時判断できるため、適切な治療計画を立てることができます。
非侵襲的な治療: PSMA標的治療は、静脈に薬剤(LuPSMA)を注射し、がん細胞に集まった薬剤が放射線を放出することで治療を行います。この治療は、点滴のルートから薬剤を投与するだけなので、体への侵襲が少なく、体力のない患者にも比較的受けやすい療法です。
ドイツで開発され、欧米を中心に世界で始まっているPSMA標的治療。その効果は2017年から主要な国際学会で軒並み発表され、世界中で大変な注目を集めています。しかし日本には放射性物質の取り扱いに関する法的な制限があり、国内で検査や治療を受けられるようになるまで数年はかかるといわれています。
当グループでは、PSMA標的治療を去勢抵抗性前立腺がんに非常に有効な手段と考えています。しかし、日本ではまだ未承認の治療薬であるため、詳細については当グループの専門医にご相談ください。
プレシジョンクリニック東京院長 矢﨑監修
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、現在はプレシジョンクリニック神戸院長として活躍中。専門分野は一般外科及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。
略歴:
1996/3
東海大学医学部卒業
1996/4
東海大学附属病院消化器外科勤務
2000/11
遺伝子解析企業ヒュービットジェノミクス株式会社入社