投稿日:2026.2.28/更新日:2026.2.28
近年、日本では前立腺がんを発症する方が増加しており、男性がかかるがんの中でも特に注意が必要な病気となっています。前立腺がんは50歳以上の男性に多く見られ、高齢化が進む日本社会において、今後さらに患者数が増えることが予想されています。
前立腺がんの大きな特徴は、ゆっくりと進行することです。そのため、早期に発見できれば治癒が十分に期待できるがんでもあります。しかし初期段階では自覚症状がほとんどないため、定期的な検査による早期発見が重要です。
本記事では、前立腺がんの特徴や検査方法、治療方法などについて詳しく解説します。
前立腺がんは、前立腺の細胞が異常に増殖することで発生する悪性腫瘍です。比較的ゆっくりと進行するのが特徴で、早期に発見して適切な治療を行えば、治癒が期待できます。男性の9人に1人は生涯のうちに前立腺がんにかかると推定されており、男性にとって注意が必要ながんのひとつです。
前立腺がんは50歳代から急速に増え始め、発症の平均年齢が70歳代の高齢男性に多く見られるがんです。一般的に、前立腺がんの進行はゆるやかで、何年もかけて局所限局がんから局所進行がん、転移がんへと進行すると考えられています。しかし、同時に悪性度の異なるがんが発生して共存することがあるため、個々の症例によって進行の様子は異なります。
前立腺がんの発生には男性ホルモンが関与しており、加齢によるホルモンバランスの変化が影響していると考えられています。また、親や兄弟に前立腺がんの患者さまがいる場合、発症リスクが高くなるといわれています。さらに、動物性脂肪をたくさん摂るようになった現代の食生活が、前立腺がん発症に影響を及ぼしていると考えられています。ただし、決定的な原因は明らかになっていません。
前立腺がんでは、Tカテゴリー(原発腫瘍の広がり)、Nカテゴリー(所属リンパ節への転移の有無)、Mカテゴリー(遠隔転移の有無)の3つの要素でステージを評価します。ステージは1~4期に分けられ、進行するにつれて数字が大きくなります。治療はリスク分類の結果を中心に、がんの進行度やPSA値、腫瘍の悪性度、本人の希望や年齢を含めた体の状態などさまざまな要素をもとに考えていきます。
前立腺肥大症は、前立腺をつくるさまざまな細胞が増殖して前立腺が大きくなる良性の病気で、年齢が上がるとともに多くみられるようになります。前立腺肥大症は内腺(移行領域)で発生するため、尿道が圧迫されて排尿に関する症状があらわれます。一方、前立腺がんは主に外腺(辺縁領域)に発生するため、早期では自覚症状はほとんどあらわれません。前立腺がんと前立腺肥大症はまったく別の病気で、肥大症からがんに変化することはありませんが、2つの病気が並行して起こることがあります。
前立腺がんの検査では、まず始めにPSA検査を行って、基準値を超えているときは直腸診を行います。これらの検査でがんが疑われる場合には、MRIによる画像検査を実施して確認し、経直腸エコーを使った前立腺生検を行ってがんを発症しているかどうかを診断します。ここからは、前立腺がんの検査方法について詳しく解説します。
PSA(前立腺特異抗原)は前立腺でつくるタンパク質のことで、前立腺がんの腫瘍マーカーとして使われています。がんや炎症によって前立腺組織が壊れると、PSAが血液の中にもれ出してしまい、血液中のPSA量が増加します。PSAの数値は一般的には4.0ng/mL以下を基準としていますが、年齢とともに上昇するため、50~64歳で3.0ng/mL以下、65~69歳で3.5ng/mL以下、70歳以上で4.0ng/mL以下が基準の数値となります。PSA値は前立腺肥大症や前立腺炎などがん以外の病気でも上昇することがあります。
直腸診は、医師が肛門に指を挿入して前立腺の状態をチェックする検査です。前立腺の表面にボコボコとした感覚があったり、左右非対称であったりした場合は、前立腺がんが疑われます。
経直腸的超音波検査は、肛門から専用の機械を入れて、音波を用いて前立腺を観察する検査です。前立腺にがんができていると正常とは違った像が見られることが多く、がんが広がってくるとよりわかりやすくなります。
近年のMRIの進歩は著しく、前立腺がんを検出する能力が非常に高くなってきています。前立腺がんの疑い症例の局在診断や生検の参考としてMRIは活用されます。
MRIの結果だけではがんかどうかの診断はできませんが、組織検査をおこなった方がよいかどうか判断する材料となります。強い磁場の中で受ける検査なので、体内に金属が入っている方は注意が必要です。
がんであると診断された場合、病巣の広がりや転移を調べるためにCT・単純X線検査・骨シンチグラムなどを行います。がんの広がりや転移の有無は画像検査(CT検査、MRI検査、骨シンチグラフィなど)で調べます。これらの検査によって、がんの進行度(病期)を決定し、治療計画を立てていきます。前立腺がんは骨に転移しやすい性質があるため、骨シンチグラフィが特に重要な検査となります。
前立腺がんの治療には、監視療法、手術、放射線治療、薬物療法などがあります。治療は、がんの進行度を示す病期やがんの性質、体の状態などに基づいて決定していきます。また、患者さまの希望や生活環境も考慮しながら、治療方法を選んでいきます。
PSA監視療法とは、病勢進行の予兆をいち早くとらえて、時機を逸せず積極的治療に介入する治療方法です。積極的治療開始までを遅らせることができる、積極的治療による副作用を回避することができる、などの特徴があります。PSA監視療法で大切なのは、治療を開始してから1年目には前立腺生検を行って、がんの進行がないかを確認することです。また、監視療法を行う場合にはその後も定期的な生検が必要になります。
手術療法は、前立腺をすべて取り除いて膀胱と尿道をつなぎ合わせる治療方法です。がんが転移していきやすい前立腺のまわりのリンパ節も同時に摘除します。近年は「ロボット支援前立腺全摘除術」が標準治療となりました。
ロボット支援手術は手術器具の操作性が高いことから、神経温存に適していると考えられています。
放射線療法には、体の外側から放射線を照射する外照射と、体内に線源を入れて内側から照射する組織内照射という方法があります。悪性度が比較的高い中間リスクのがんや、リスクの高いがんでは、放射線治療と同じタイミングで、または前後に内分泌療法(ホルモン療法)を行うことがあります。年齢による制限はなく、高齢の患者さまでも対象となります。
前立腺がんのホルモン治療には、ホルモン感受性とホルモン抵抗性(去勢抵抗性)の2つがあります。初回ホルモン治療にはLHRHアゴニスト(注射)、手術により両側の睾丸を摘除する外科的去勢、抗男性ホルモン剤の内服があります。転移を有する場合のホルモン療法がメインとなり、根治療法前後の補助ホルモン療法としても用いられます。効果が無くなると、男性ホルモンが低めに抑えられているにもかかわらず、前立腺がんは増殖します。この状態をホルモン(去勢)抵抗性前立腺がんと呼びます。
免疫療法は、患者さま自身の免疫力を活用してがん細胞を攻撃する治療方法です。患者さまの血液から免疫細胞を取り出し、増殖・活性化させて体内に戻すことでがん細胞への攻撃力を高めるというものです。
免疫細胞の司令塔とも呼ばれる樹状細胞を活性化させる「樹状細胞ワクチン療法」などが代表的な免疫細胞療法として挙げられます。免疫療法は標準治療との併用が可能で、特に進行がんやホルモン療法の効果が弱くなってきた場合に採用されることがあります。この治療方法は、現時点では研究段階にあります。
セラノティクスとは、診断と治療を一体化した新しい医療概念で、前立腺がんではPSMA(前立腺特異膜抗原)を標的としたリガンド治療が代表的です。
PSMAは前立腺がん細胞の表面に高発現しており、PSMAに結合する放射性リガンドを用いることで、PET検査による高精度な全身診断(PSMA-PET)と、同じ標的を利用した放射線治療(PSMAリガンド療法)を同時に実現します。
治療では、放射性物質ルテチウム-177などを結合させた薬剤を投与し、体内でPSMAを発現するがん細胞に放射線を集中照射して破壊します。
この治療は去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)など、従来のホルモン療法や化学療法で効果が乏しくなった進行例にも有効性が報告されており、世界的に注目されています。
がん細胞のみを選択的に狙うため、副作用が比較的少なく、骨転移などの多発病変にも対応できるのが特徴です。また、PSMA-PETによって病変の可視化と治療効果判定を同一の分子標的で行える点も大きな特徴といえます。
現在、欧米では複数の臨床試験で長期生存の延長効果が確認され、日本国内でも順次導入が進んでいます。将来的には、FAPI治療など他のセラノティクス技術と並び、個別化医療の中核を担う治療法として発展が期待されています。
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。