投稿日:2026.8.1/更新日:2026.10.23
この記事でわかること
骨や筋肉などに発生する肉腫は、種類が多く希少ながんです。確定診断までに時間がかかったり、有効な標準治療が限られていたりと、患者さまやご家族は多くの不安を抱えがちです。特に思春期や若年成人のAYA世代に多く見られるため、学業や仕事との両立も切実な問題となります。治療法の拡充や病態解明に向けた国内外の最新知見を詳しく解説します。
小児からAYA世代に好発するユーイング肉腫を対象とした、世界14か国による国際共同第3相臨床試験に日本が参加しました。国立がん研究センター中央病院が先進医療Bの枠組みを活用して開始しています。
海外で標準治療の検証が進む一方で、国内への導入には制度上の壁がありました。今回の取り組みにより、世界水準の新規治療レジメンへ国内の患者さまが迅速にアクセスできる道が開かれます。
この試験は、標準的な多剤併用化学療法に新たな薬剤や投与スケジュールを組み込み、無イベント生存割合の向上を検証するものです。今すぐ誰でも受けられる標準治療ではありませんが、適格基準を満たす患者さまには大きな選択肢となります。
私たちの外来でも、小児期や青年期に発症した患者さまから、海外の最新治療を受けられないかという切実なご相談を頻繁に受けてきました。対象となる可能性があるかどうか、現在の主治医や当グループへご相談ください。
思春期の膝周囲などに好発する骨肉腫について、東京大学の研究チームが発症の引き金となるメカニズムを明らかにしました。もともとは老化関連の研究を進める中で得られた知見です。
研究チームは、骨を作る細胞において増殖のアクセルとブレーキの均衡が崩れる現象をマウスモデルで再現しました。特定の遺伝子ネットワークの破綻が細胞の無秩序な増殖を誘発していたのです。
長年、骨肉腫がなぜ成長期の若者に集中して起こるのかは完全には解明されていませんでした。今回の成果は、発症のごく初期段階を捉えた基礎研究であり、今すぐ現場の投薬を変える段階ではありません。
とはいえ、発症の根本的な引き金が特定されたことで、将来的な早期診断マーカーの開発や発症予防的アプローチへの応用が期待されます。ゲノム解析の技術と組み合わせることで、個別化医療の精度を一段と高める基盤になるはずです。
ご自身の腫瘍が持つ遺伝子変異や特徴について詳しく知りたい方は、がんゲノムプロファイリング検査の適応を含め、専門医へお気軽にご相談ください。
骨肉腫において最も警戒すべき転移先である肺への病変進展について、岐阜大学が新たな抑制メカニズムを突き止めました。腫瘍細胞が肺の微小環境へ生着する際に機能する分子経路を特定した成果です。
骨肉腫は原発巣を手術で完全に切除できても、肺転移をきたすと予後が厳しくなる傾向があります。既存の抗がん剤では肺転移巣の制御が困難な事例も多く、新しい作用機序を持つ分子標的薬の開発が強く望まれていました。
岐阜大学の研究グループは、細胞間相互作用に関わる特異的なシグナルを阻害することで、実験モデルにおいて肺への生着が著しく抑えられることを示しました。こちらは前臨床の研究段階であり、ヒトへの投与試験が始まるまでにはまだ一定の時間を要します。
しかし、腫瘍微小環境を標的とした治療戦略は、従来の殺細胞性抗がん剤が効きにくい難治例に対する有力な打破策になり得ます。創薬ベンチャーや製薬企業との連携による臨床応用への進展が注目されます。
当院でも患者さまから肺転移への不安を打ち明けられる場面は少なくありません。転移巣の早期発見には定期的な画像フォローが欠かせないため、検査の進め方について主治医と密に確認してください。
骨肉腫をはじめとするサルコーマは、高校生や大学生といった人生の節目で発症することが珍しくありません。長期にわたる過酷な抗がん剤治療や手術により、学校生活や競技生活の断念を迫られるケースが多々あります。
過酷な抗がん剤治療を乗り越えて高校野球のベンチ入りを果たした元選手の報道や、SNSを通じて闘病生活を発信し続けた21歳の若者が亡くなった報道がありました。これらの事象は、肉腫という希少疾患の現実を社会に投げかけています。
軟部腫瘍や骨肉腫の治療現場では、身体的な治癒を目指す医療と同時に、就学や就労、妊孕性温存といった多面的な生活支援が不可欠です。AYA世代の患者さまは特有の孤立感を抱えやすく、精神的なケア体制の整備も急務とされています。
臨床試験や創薬の進展によって生存期間を延ばすだけでなく、治療後の生活の質をどう維持するかという視点が欠かせません。治療による身体的な後遺症や心理的な負担については、遠慮なく医療スタッフや当グループにご相談ください。
当院の実例
18年にわたり再発を繰り返した滑膜肉腫で、手術ができない肺転移が樹状細胞ワクチン療法単独で3年間増悪なく経過している40代女性
左大腿の滑膜肉腫で手術・抗がん剤の後、肺転移・右肺全摘・大腿再発と再発を繰り返し、そのたびに手術を受けてきました。左肺に出現した転移が手術できない状態になった時点で、樹状細胞ワクチン療法を単独で実施。1セット終了後も肺転移は増悪せず、免疫療法のみで3年間良好に経過しています。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
肉腫の診療は、ゲノム解析の普及や国際的な治験ネットワークへの参加によって、着実に進展を見せています。プレシジョンクリニックグループが創業以来最も取り組んでいるがん種のひとつが肉腫であり、個別化医療の実践に注力してきました。当グループでは、次世代シーケンサーを用いた詳細な遺伝子変異の解析や、腫瘍微小環境を考慮した統合的な治療提案の実績を積み上げています。
希少がんゆえに標準治療の選択肢が限られてしまう場合でも、最新の科学的知見をもとに最適な道筋を模索する姿勢を大切にしています。治療の選択肢やセカンドオピニオンについて、いつでも当グループへご相談ください。
国際共同第3相試験に日本の施設が先進医療Bの枠組みで参加する形で、保険診療と併用しながら試験治療を受けられる制度です。対象や参加施設が限られるため、主治医に確認してください。
現時点では基礎研究の段階で、新しい治療薬になるまでには検証が必要です。ただし肺転移を抑える標的候補の発見は、将来の再発予防薬につながる知見です。
手術・抗がん剤・放射線が土台ですが、再発予防や抗がん剤を続けにくい場合に免疫療法を組み合わせる選択肢があります。妊孕性温存や就学・就労の支援もあわせてご相談ください。
監修:矢﨑 雄一郎 医師
プレシジョンクリニック 東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア 理事長 | 専門分野:一般外科・消化器外科
がんゲノム情報に基づく個別化医療と免疫療法を専門とし、標準治療と組み合わせた治療設計に取り組んでいます。著書『免疫力をあなどるな!』。
【免責事項】本記事は2026年7月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者さまへの診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年9月9日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。