投稿日:2020.3.10/更新日:2026.3.19
トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、ホルモン受容体(エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体)およびHER2タンパク質のいずれも発現しないタイプの乳がんです。これにより、ホルモン療法やHER2に対する標的治療が効果を示さず、治療が難しいとされています。
トリプルネガティブ乳がんは他のタイプの乳がんに比べて進行が速く、再発リスクが高い傾向があります。そのため、より効果的な治療法の開発が求められています。
現時点では、トリプルネガティブ乳がんの正確な原因は解明されていません。しかし、特定の要因により発症リスクが高まることが分かっています。
以下の特徴を持つ人は、トリプルネガティブ乳がんを発症しやすいとされています。
参考URL:東京ブレストクリニック
トリプルネガティブ乳がんの治療には、以下の方法があります。
手術後に再発リスクを低減するため、放射線を照射して残存するがん細胞を破壊します。放射線治療は、がんの局所制御を目的とし、術後補助療法として頻繁に用いられます。特に腋窩リンパ節転移がある場合や、腫瘍が大きい場合には放射線の追加治療が推奨されます。
トリプルネガティブ乳がんは化学療法に対する感受性が高いため、抗がん剤が主要な治療法となります。特に、プラチナ製剤(シスプラチンやカルボプラチン)が有効とされています。これらの薬剤は、DNAを損傷させることでがん細胞を死滅させる働きがあります。また、ドセタキセルやアントラサイクリン系薬剤も使用されることが多く、手術前後において組み合わせ治療が行われるケースもあります。
近年、免疫チェックポイント阻害剤がトリプルネガティブ乳がん治療において注目されています。これらの薬剤は、がん細胞が免疫からの攻撃を回避するメカニズムを阻害し、免疫系ががん細胞を効果的に攻撃できるようにします。特に、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)などが使用されています。免疫療法は、PD-L1陽性の患者において特に有効とされ、化学療法との併用でより高い効果が期待されています。
抗がん剤と免疫療法を併用することで、治療成績が向上することが報告されています。例えば、ペムブロリズマブと化学療法を併用することで、生存期間の延長や病理学的完全奏効率(手術時にがん細胞が検出されない状態)の向上が期待されています。また、最新の臨床試験では、化学療法単独と比較し、併用療法のほうが無病生存率が高いことが示唆されています。
この報告では、治療歴のないステージ2・3のトリプルネガティブ乳がん患者さまの術前の治療として、免疫チェックポイント阻害剤+抗がん剤群と、抗がん剤の単独群とに分け、手術を受けて、術後も免疫チェックポイント阻害剤を受ける群と受けない群に分けて解析しています。
内容は「抗がん剤に免疫療法を加える方が、有意に治療成績がいい」という結果でした。ホルモン受容体陽性の乳がんよりも、トリプルネガティブ乳がんの方が、免疫療法の効果が高いことが報告されていますが、一般的にトリプルネガティブ乳がんの方が、遺伝子異常数が多く、免疫療法の効果が高いことが考えられます。
この臨床試験結果:
中間解析で手術で取り出した乳がん組織を調べ、乳がん細胞が残っているかどうか、また再発を抑える割合を比較しています。
乳がん細胞が見つからなかった患者の割合)
免疫チェックポイント阻害剤+抗がん剤群:64.8%
抗がん剤の単独群:51.2%
(P<0.001)
平均15.5ヶ月の観察期間での再発率)
免疫チェックポイント阻害剤+抗がん剤群:7.4%
抗がん剤の単独群:11.8%
免疫チェックポイント阻害剤は、乳がんによって抑え込まれていた、がんと戦うリンパ球を強化する治療であり、また樹状細胞ワクチン療法は、その戦うリンパ球を活性化させ、増やしてあげる治療法です。 この両輪である二つを組み合わせがプレシジョン免疫療法であり、トリプルネガティブ乳がんに対して良い治療選択肢になると考えられます。Peter Schmid et al.Pembrolizumab for Early Triple-Negative Breast Cancer. N Engl J Med 2020; 382:810-821
プレシジョンクリニック東京院長 矢﨑監修
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。