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TOP 用語集 ADC(抗体薬物複合体)

2024.10.11

ADC(抗体薬物複合体)

抗体薬物複合体(ADC, Antibody-Drug Conjugate)は、がん治療の新しいアプローチの一つで、抗体と抗がん薬(細胞毒性薬)を結合させた治療法です。ADCは、標的特異性を持つ抗体によってがん細胞を認識し、がん細胞にだけ薬物を直接送達できるように設計されているため、従来の化学療法に比べて高い治療効果と低い副作用を期待できます。

抗体薬物複合体の構成

ADCは、次の3つの主要な要素から構成されています:

  1. 抗体:特定のがん細胞上に存在するターゲット分子(抗原)を認識するモノクローナル抗体。例えば、Trop-2やHER2といったがん細胞の表面に高発現するタンパク質がターゲットとなります。この抗体がターゲットに結合することで、抗がん薬ががん細胞に特異的に送達されます。
  2. 細胞毒性薬(抗がん薬):がん細胞を破壊する強力な薬物です。ADCでは、この細胞毒性薬が抗体に結合され、がん細胞に届けられるまで活性を保持した状態で安全に運搬されます。通常、これらの薬物は、DNAを損傷させる、細胞分裂を阻害するなど、がん細胞を直接殺傷する作用を持っています。
  3. リンカー(結合剤):抗体と細胞毒性薬を結びつける役割を果たします。リンカーの安定性が重要で、血流中では分解されず、がん細胞に到達した時にだけ薬物が放出されるように設計されています。このリンカーが安定していることにより、治療の標的性と安全性が保たれます。

抗体薬物複合体の作用メカニズム

  1. 標的分子の認識: 抗体部分が、がん細胞上の特異的な抗原(例: HER2, Trop-2)に結合します。この抗原はがん細胞に特有または高発現しており、正常細胞にはほとんど見られません。
  2. がん細胞への取り込み: 抗体が抗原に結合すると、がん細胞は抗体ごとADCをエンドサイトーシス(細胞内取り込み)します。
  3. 細胞内での薬物放出: がん細胞内部に取り込まれると、細胞内の酵素や環境によってリンカーが分解され、薬物(細胞毒性薬)が放出されます。この薬物はがん細胞を破壊し、アポトーシス(細胞死)を引き起こします。
  4. がん細胞の破壊: 放出された細胞毒性薬は、がん細胞内で標的分子に作用し、DNAの損傷や細胞分裂の阻害を通じてがん細胞を死に至らせます。

ADCの利点

  • 高い標的特異性: 正常細胞には影響を与えず、がん細胞に対してのみ特異的に働くため、従来の化学療法に比べて副作用が少ない。
  • 強力な抗がん作用: 細胞毒性薬ががん細胞内部で直接作用するため、強力な抗がん効果が期待されます。
  • 薬剤耐性克服の可能性: 抗体によるターゲティングと新たな細胞毒性薬の組み合わせにより、薬剤耐性を持つがんに対しても有効な場合があります。

主なADC薬剤の例

  • Trodelvy(サシツズマブ・ゴビテカン): Trop-2を標的にする抗体薬物複合体で、転移性乳がんや尿路上皮がんに対して使用されます。
  • Kadcyla(トラスツズマブ・エムタンシン): HER2陽性乳がんに使用されるADCで、HER2タンパクを標的にしてがん細胞に抗がん薬を届けます。

課題

ADCは非常に強力な治療法ですが、次のような課題もあります:

  • 薬剤耐性: 一部のがん細胞が抗体や薬剤に対して耐性を獲得する可能性がある。
  • 副作用: 標的以外の細胞に影響を及ぼすことがあり、特に高用量では副作用が問題となる場合があります。

ADCは、がん治療の新たなフロンティアを切り開く技術であり、がん治療の個別化や副作用の軽減に大きな貢献をしている領域です。