2024.11.6
エンハーツ(Enhertu)は、乳がんや胃がん、他の特定のがん治療に使用される抗体薬物複合体(ADC)です。日本では、第一三共株式会社とアストラゼネカ株式会社が共同で開発した治療薬として承認されています。主成分は「トラスツズマブ デルクステカン」(trastuzumab deruxtecan)で、HER2(ヒト上皮成長因子受容体2)と呼ばれるタンパク質を標的にします。
エンハーツは、HER2を発現するがん細胞に結合し、がん細胞内に薬剤を送り込むという特異なメカニズムを持っています。以下がその作用機序の詳細です。
HER2標的:HER2は乳がんや胃がんの一部に高発現しており、がん細胞の増殖を助ける役割を果たしています。エンハーツはHER2に結合することで、がん細胞を特異的に攻撃します。
抗体薬物複合体(ADC):エンハーツは抗体と薬剤を結合させた「ADC(Antibody-Drug Conjugate)」であり、抗体がHER2陽性のがん細胞に結合した後、薬剤ががん細胞内部に取り込まれてがん細胞を殺傷します。
がん細胞内での薬剤放出:エンハーツがHER2陽性のがん細胞に結合すると、細胞内に吸収され、細胞内で化学物質(トポイソメラーゼI阻害剤)を放出します。この物質はがん細胞のDNAにダメージを与えるため、がん細胞の増殖と分裂が抑えられます。
エンハーツは以下のような特定のがんの治療に使用されます:
エンハーツの主な副作用には以下のものがあります:
エンハーツは、多くの臨床試験で高い有効性が確認されており、治療の選択肢が限られているがん患者にとって大きな期待が寄せられています。HER2陽性がんだけでなく、HER2低発現のがんにも効果を示すことが分かり、新たな治療領域の拡大が期待されています。また、他のがん種(例:肺がんなど)での適応も進められており、今後も注目される治療薬です。
エンハーツはがん治療におけるADC技術の進歩を象徴する薬剤であり、HER2を標的とする新しい治療選択肢として、がん患者のQOL(生活の質)改善に貢献しています。