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TOP コラム 遺伝子治療 Candel Therapeuticss社の膵臓がん治療薬(CAN-2409)について

遺伝子治療

投稿日:2025.2.25/更新日:2025.12.1

Candel Therapeuticss社の膵臓がん治療薬(CAN-2409)について

1. どんな薬か

CAN-2409は、「がんそのものをワクチン化する」タイプの遺伝子治療 × 免疫療法です。

増殖できないように改変したアデノウイルス(ベクター)の中に、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-TK)遺伝子を入れておき、腫瘍内に直接注入します。続いてバラシクロビルなどの抗ヘルペス薬の内服を組み合わせることで、腫瘍内でのみ薬が「毒性代謝物」に変換され、がん細胞を選択的に壊します。

壊れた腫瘍からは大量のがん抗原が放出され、局所で免疫が立ち上がることで、in situ ワクチン(腫瘍をその場でワクチン化)として全身の抗腫瘍免疫を誘導する、というコンセプトです。


2. 作用機序

  1. 腫瘍内投与されたCAN-2409が腫瘍細胞に感染し、HSV-TKを発現させる

  2. 患者に投与されたバラシクロビル/ガンシクロビルが、HSV-TKによってリン酸化され、腫瘍細胞内でDNA合成阻害を起こして細胞死を誘導

  3. この細胞死が免疫原性細胞死(ICD)の形をとるため、腫瘍抗原+DAMPsが提示され、樹状細胞・T細胞が活性化

  4. 結果として、局所だけでなく遠隔部位の腫瘍にも作用し得る「in situワクチン+TME再プログラム」が期待されます


3. 膵管腺がん(PDAC)での第2相試験のポイント

対象は境界切除可能(borderline resectable)PDACで、標準治療(化学療法+CRT+手術)にCAN-2409を上乗せした群と、標準治療単独群をランダム化比較した第2相試験です。

●OS中央値
・CAN-2409+標準治療:31.4か月
・標準治療のみ:12.5か月
  → 少数例ながら、生存期間が約2.5倍程度に延長というインパクトのある結果が報告されています。

●長期生存例
CAN-2409群では7例中3例がデータカット時点でも生存しており、登録後 66.0 / 63.6 / 35.8か月 生存と、通常のPDACとしては異例の長期生存が観察されています。

●安全性
用量制限毒性や重篤な膵炎などの大きなシグナルは報告されておらず、標準治療に上乗せしても許容可能な安全性とされています。
もちろん症例数はまだ少なく、対照群も小さいので、現時点では「非常に有望な仮説生成データ」レベルと理解するのが妥当だと思います。


4. 開発状況とレギュラトリー

FDAからは、境界切除可能PDACに対して
・Orphan Drug Designation(希少疾病用医薬品指定)
・Fast Track Designation
をすでに取得済みです。

この結果を受けて、より大規模な後期ランダム化試験(phase 3 相当)に向けた準備を進めているとアナウンスされています。
CAN-2409自体は、前立腺がん(局所)、NSCLC、脳腫瘍などでも臨床試験が進んでおり、「既製 in situ ワクチンプラットフォーム」として複数がん種展開を狙っているポジションです。


5. 当グループの治療との併用効果

CAN-2409は
1. 「術前CRT+in situ ワクチン」という位置づけで、局所コントロールとともに、術後の遠隔再発リスクを免疫学的に下げにいくアプローチ
2. 同じ「局所治療×免疫」の枠組みでも、
・当グループが扱っている凍結+DC+ICIが患者自身の細胞・ワクチン側をカスタムするのに対し、
・CAN-2409は「既製アデノウイルス+抗ウイルス薬」の組み合わせで、プラットフォーム化しやすい in situ ワクチンである
という位置づけができます。
このように、当グループの治療との相乗効果が期待できます。

監修医師

矢﨑 雄一郎医師

免疫療法・研究開発

東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。

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