投稿日:2026.6.8/更新日:2026.10.8
この記事でわかること
食道がんの診断や治療は、日々進化を続けています。患者さんやご家族にとって、新しい情報が希望につながることも少なくありません。今月も、食道がんの治療選択肢の広がりや、診断・手術技術の進歩に関する注目すべきニュースが報じられました。これらの情報が、皆さんの日々の生活や治療の選択にどのように関わるのか、詳しくご紹介します。
2026年5月21日、厚生労働省の薬事審議会で、遺伝子改変腫瘍溶解性アデノウイルス製剤「テロメライシン®注(一般名:スラタデノツレブ)」が審議されました。この薬剤は、根治切除や化学放射線療法の適応とならない食道癌の患者さんを対象としています。部会を通過したことは、承認に向けて大きく前進したことを意味します。 テロメライシンは、がん細胞に感染して増殖し、がん細胞を破壊する特殊なウイルス製剤です。さらに、がん細胞が破壊される際に、体内の免疫細胞を活性化させる効果も期待されています。従来の治療法では効果が限定的だった進行した食道がんの患者さんにとって、新たな治療の選択肢となる可能性があります。 これは今すぐに臨床で使えるようになる治療法です。承認されれば、これまで治療が難しかった患者さんの希望となるでしょう。ご自身の食道がんの状態や、この治療法の適応について、主治医の先生に詳しく相談してみることをお勧めします。
追記(2026年10月):テロメライシン®注は2026年6月8日に製造販売承認を取得し、8月21日に発売されました。対象は、根治切除と化学放射線療法のどちらも適応とならない食道がんです。放射線療法と併用し、内視鏡を使って腫瘍に直接注入します。
食道がんの根治を目指す治療法として、手術は重要な役割を担います。かつては胸部や腹部を大きく切開する開胸手術が一般的でした。しかし、この方法は患者さんへの負担が大きく、回復に時間がかかることが課題でした。 近年では、より負担の少ない「胸腔鏡手術」が普及しています。これは、小さな切開から内視鏡と専用の器具を挿入し、モニターを見ながら手術を行う方法です。読売新聞の報道によると、胸腔鏡手術は開胸手術と同等の治療効果があることが明らかになってきました。 胸腔鏡手術のメリットは、手術後の痛みが少なく、回復が早まることです。これにより、患者さんは早期に日常生活に戻りやすくなります。私たちの外来でも、食道がんの診断を受けた患者さんから、手術の負担についてご質問をいただくことがよくあります。この技術の進歩は、患者さんの生活の質(QOL)向上に大きく貢献するものです。 ご自身の食道がんの病状や体力、施設の専門性などを考慮し、胸腔鏡手術が選択肢となるか、主治医の先生とよく話し合ってみましょう。
がんゲノム医療は、がんに関係する遺伝子(ゲノム)の変化を網羅的に調べ、患者さん一人ひとりに合った治療薬を探す取り組みです。朝日新聞の報道によると、この検査は保険診療になってから7年が経過し、これまでに12万人を超える患者さんが検査を受けました。 しかし、ゲノム検査を受けた患者さんのうち、実際に治療にたどり着くのは約1割にとどまるという現状も指摘されています。これは、食道癌の患者さんにも共通する課題です。それでも、他のがんの薬であっても、ゲノム解析の結果から効果が期待できる場合は、その薬が検討されることもあります。 プレシジョンクリニックグループでも、食道がんの患者さんからゲノム検査について質問をいただくことがあります。ゲノム検査は、治療の可能性を探るための重要な情報源です。しかし、必ずしもすぐに治療薬が見つかるわけではないことを理解しておく必要があります。ご自身の食道がんの治療方針として、ゲノム検査が有効かどうか、主治医の先生と相談してみてください。
医療技術の進歩は、治療法だけでなく、診断の精度向上にも大きく貢献します。2026年5月26日、オリンパスがイスラエルの医療機器メーカーBioProtect社を買収すると発表しました。買収額は2億7000万ドル(約430億円)です。この買収は、泌尿器科領域の強化を目的としています。 直接的には食道がんのニュースではありませんが、オリンパスは内視鏡分野で世界をリードする企業です。このような医療機器メーカーによる技術投資や企業買収は、将来的に内視鏡の性能向上や新たな診断補助技術の開発につながる可能性があります。 食道がんは早期発見が非常に重要です。内視鏡による精密な検査が、がんの早期発見や病期診断の精度を高めることにつながります。これは将来の研究段階の話ですが、医療機器の進化が、今後も食道癌の診断に革新をもたらすことが期待されます。
がん治療用ウイルス療法は、がん細胞を特異的に攻撃するウイルスを利用した新しい治療法です。2026年5月20日、東京大学医科学研究所が、次世代型がん治療用ヘルペスウイルスT-BVを用いた悪性神経膠腫(脳腫瘍の一種)の第1相医師主導治験を開始すると発表しました。 このウイルスは、腫瘍内で抗VEGFモノクローナル抗体であるベバシズマブ(商品名:アバスチン®)を局所的に発現させます。これにより、脳腫瘍の腫脹や脳浮腫を抑制しながら、抗がん免疫を誘導することが期待されています。この研究はまだ脳腫瘍を対象としたものですが、遺伝子改変ウイルスによる免疫療法という点で、食道癌を含む他の固形がんへの応用も視野に入れた、将来性の高い研究です。 遺伝子改変ウイルス製剤テロメライシンの承認に向けた動きと合わせて、がん治療におけるウイルス療法の可能性が広がっています。これはまだ研究段階ですが、将来の食道がん治療に新たな道を開くかもしれません。最新のウイルス療法について興味があれば、主治医の先生に相談してみましょう。
当院の実例
食道がんステージ4で肝転移が消失し、13年間再発なく経過している66歳男性
食道がんの肝転移を伴うステージ4と診断されました。標準治療に加えて当院で免疫療法を併用したところ、肝転移が消失し、その後13年間にわたり再発なく経過しています。食道がんは進行して見つかることが多いがんですが、治療の組み立て方によって長期の経過が得られる場合があることを示す一例です。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
2026年5月は、食道がんの治療と診断に関する様々な進展が報じられました。根治切除が難しい患者さんへの遺伝子改変ウイルス製剤「テロメライシン」の承認に向けた動きは、治療選択肢の広がりを示すものです。また、胸腔鏡手術の普及は、患者さんの身体的負担を軽減し、生活の質の向上に貢献しています。 がんゲノム医療の広がりは、個別化医療の重要性を改めて示しました。プレシジョンクリニックグループでは、これらの最新情報を常に把握し、患者さん一人ひとりに最適な治療法を提案できるよう努めています。私たちは、ゲノム解析に基づいた個別化医療の推進を大切にし、患者さんの生活の質を向上させることを目指しています。
切除が難しい場合でも、抗がん剤と放射線を組み合わせる根治的化学放射線療法が標準治療として確立しています。加えて当院では樹状細胞ワクチン療法を併用し、免疫の働きを後押しする設計を検討します。内視鏡で腫瘍へ直接注入する方法を選べる場合もあります。
食道がんに対するウイルス製剤は開発・治験の段階で、一般診療では受けられません。国内では脳腫瘍に対するものが承認されています。現時点で受けられる治療の組み立ては当院でご相談いただけます。
あります。遺伝子パネル検査で治療に結びつく変異が見つかることがあり、免疫チェックポイント阻害薬の適応判断にも関わります。当院では検査結果を樹状細胞ワクチン療法の設計にも活用します。
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。