投稿日:2026.7.7/更新日:2026.10.7
この記事でわかること
大腸がんと診断されたとき、これからの治療方針や日常生活への影響について多くの方が不安を抱かれます。近年のがん医療は遺伝子解析技術や免疫療法の進歩によって、患者さん一人ひとりの状態に合わせた個別化医療へと大きく舵を切っています。2026年6月時点での最新知見を整理し、日々の生活や主治医との対話に生かせる情報をお届けします。
切除不能な進行結腸がんに対して、腫瘍微小環境(TME)の免疫抑制を解除する新規分子標的薬と抗PD-1抗体の併用療法が良好な治療成績を示しました。がん情報サイト等でも取り上げられた最新の第2相臨床試験では、従来の免疫チェックポイント阻害薬が効きにくかったMSS(マイクロサテライト安定型)の患者群において、奏効率38パーセントが確認されました。
これまで大腸がんの約95パーセントを占めるMSS型の患者さんには、単剤での免疫療法では十分な効果が得られないという厚い壁が存在していました。この課題を打破するために、がん細胞の周囲に存在する線維芽細胞や骨髄由来抑制細胞の働きを抑える薬剤の併用開発が世界中で活発に進められています。
ここで注目したいのは、今回の成果が単に腫瘍を小さくするだけでなく、無増悪生存期間の延長にも寄与している点です。今すぐ保険診療で受けられる段階ではありませんが、第3相試験への移行が決まっており、創薬パイプラインにおける実用化への期待が高まっています。
私たちの外来でも、患者さんから「自分のがんには免疫チェックポイント阻害薬は効かないのでしょうか」という質問を頻繁に受けます。MSS型に対する免疫療法の臨床試験は国内でも複数動いていますので、該当する治験の有無や適応について主治医に確認してみるとよいでしょう。当グループでも遺伝子プロファイリングをもとに最適な治療選択肢の提示を行っていますので、お気軽にご相談ください。
直腸がんの根治手術を受けた後の再発リスク評価において、血液中の微量ながん由来DNA(ctDNA)を測定する検査の有用性が示されました。国内の複数施設が参加した前向き観察研究において、術後4週時点でctDNAが陽性であった患者群は、陰性群に比べて再発リスクが明らかに高いことが確認されました。
従来の画像診断やCEAなどの腫瘍マーカーでは捉えきれなかったごくわずかな残存病変を、高感度な遺伝子解析によって早期に見つけ出す技術です。この検査により、不要な術後補助化学療法を減らしつつ、再発リスクが高い患者さんに対して重点的な治療を行う個別化治療の実現が近づいています。
とはいえ、この検査は現時点では先進医療や研究段階の位置づけにとどまります。陽性と判定された際にどのタイミングでどのような抗がん剤を開始すべきかについては、現在検証的な大規模試験が進行している最中です。
外来でも患者さんから「目に見えないがん細胞が残っていないか不安です」という切実な声をよく伺います。定期的なCT検査や採血の計画を立てる際には、現在の再発リスク評価がどのように行われているのかを主治医と率直に話し合ってみることをおすすめします。微小残存病変の評価に関心がある方は、プレシジョンクリニックグループまでいつでもご相談ください。
生活環境や社会的支援の存在が大腸癌の早期発見および生存率に好影響を与えるという疫学研究の解析結果が発表されました。約20万人規模の患者データを追跡した調査によると、配偶者がいる患者群は独身の患者群と比較して、ステージ1や2などの早期で発見される割合が有意に高いことが判明しました。
家族からの促しによって便潜血検査や大腸内視鏡検査をためらわずに受診することが、早期診断につながる大きな要因として考えられています。さらに、治療中の副作用の早期察知や服薬管理の徹底、心理的な孤立の防止といった生活面のサポートが、結果として治療の継続率を高めています。
体調の小さな変化を自覚していても、日々の忙しさから受診を後回しにしてしまう方は少なくありません。血便や便の性状の変化、原因不明の貧血などの症状がある場合、周囲の勧めを待つことなく速やかに医療機関を受診する姿勢が求められます。
当院でも患者さんから「家族に強く勧められて検査を受けたら病気が見つかりました」というお話を伺う機会が多々あります。一人で抱え込まずに身近な人や地域の医療機関に相談することが、適切な治療への第一歩となります。日常生活での不安や受診のタイミングに迷われた際は、遠慮なく当グループへご相談ください。
結腸がんおよび直腸がんで高頻度に認められるKRAS遺伝子変異を直接標的とした新たな分子標的治療薬の開発が加速しています。ASCO等の国際学会でも、KRAS G12D変異に対する新規阻害薬と抗EGFR抗体との併用療法において、病勢コントロール率70パーセント以上を達成した初期データが報告されました。
これまでKRAS変異を持つ大腸癌は、分子標的薬である抗EGFR抗体の効果が期待できない難治性の代表格とされてきました。しかし、G12C変異に続く形でG12DやG12Vといった主要な変異タイプに対する阻害薬が次々と登場し、治療の選択肢が急速に広がりつつあります。
これらの薬剤はまだ第1相から第2相の治験段階であり、一般的な処方はできません。しかし、国内の創薬ベンチャーや製薬企業が治験を積極的に展開しており、数年以内の実用化が期待される極めて有望な分野です。
ご自身のKRAS変異の有無や特定の変異タイプを把握しておくことは、将来の治験参加や新薬へのアクセスを考える上で極めて有益です。遺伝子パネル検査を受けた経験がある方は、ご自身の変異情報について主治医に詳しく確認してみることを推奨します。遺伝子検査の結果の解釈や今後の治療方針についてお悩みであれば、いつでも当グループにご相談ください。
当院の実例
3種類の抗がん剤でも制御できなかった大腸がんの腹膜播種が、4種類目の抗がん剤と樹状細胞ワクチン療法で腹水とともに消失した63歳女性
手術と3種類の抗がん剤を経ても腹膜播種が制御できず再々発。4種類目の抗がん剤に樹状細胞ワクチン療法(4か月・7回)を組み合わせたところ、画像上で腹膜播種と腹水が消失し、元気に日常生活を送れるまで回復しました。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
今月は大腸がんにおける免疫複合療法の進歩、ctDNAによる再発予測、生活環境と受診行動の影響、KRAS標的薬の進展をお伝えしました。大腸がん診療は遺伝子プロファイルや微小環境の解析に基づき、より精密な個別化医療へと着実に進化しています。プレシジョンクリニックグループは、創業以来大腸がんのゲノム解析や先進的な治療選択肢の提示に最も注力してきました。
私たちは最新のエビデンスに基づき、患者さん一人ひとりの状態に寄り添った医療の実践を大切にしています。治療方針に迷われた際は、主治医や当グループにお気軽にご相談ください。
腫瘍微小環境を標的にした併用で奏効率38%を示した第2相試験が報告されましたが、治験段階です。当院では免疫チェックポイント阻害薬と樹状細胞ワクチン療法、局所療法を組み合わせる設計をご相談いただけます。
再発予測目的のctDNAモニタリングは臨床応用が近づいている段階で、保険適用は検査の種類によります。当院ではctDNA・MRD検査を行い、再発予防の免疫療法の設計に使っています。
KRAS G12C変異では阻害薬と抗EGFR抗体薬の併用が海外で承認されています。それ以外の型に対する低分子阻害薬は開発中です。まず遺伝子パネル検査で変異の型を確認してください。
監修:矢﨑 雄一郎 医師
プレシジョンクリニック 東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア 理事長 | 専門分野:一般外科・消化器外科
がんゲノム情報に基づく個別化医療と免疫療法を専門とし、標準治療と組み合わせた治療設計に取り組んでいます。著書『免疫力をあなどるな!』。
【免責事項】本記事は2026年6月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者様への診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、必ず主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年9月9日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。