投稿日:2026.7.7/更新日:2026.10.7
この記事でわかること
がんの治療法は日々進化しており、標準治療の枠組みを超えた新たなアプローチが模索されています。免疫チェックポイント阻害薬の登場以降、治療成績は向上しました。しかし、効果が十分に見込めない患者さんも存在します。最新の学会発表や創薬動向を知ることは、ご自身に合った治療を探す第一歩になります。今月発表された知見を分かりやすく整理しました。
切除不能なHER2陰性進行胃がんの初回治療として、ONO-4578と抗PD-1抗体ニボルマブ、化学療法の併用を検証する第2相試験の結果がASCO2026で発表されました。本試験は日本を含む国際共同治験として進められています。
ONO-4578は、がん細胞周囲の免疫抑制に関わるプロスタグランジン受容体EP4を選択的に阻害する薬剤です。従来の化学療法に抗PD-1抗体を重ねるだけでなく、腫瘍の微小環境を改善して免疫を活性化させる狙いがあります。
この治療は現在臨床試験の段階にあり、すぐに保険診療で選べるわけではありません。しかし、従来の初回免疫療法で効果が出にくい層に対する新たな選択肢として期待が集まっています。
当院の外来でも、胃がんの進行期と診断され、標準治療以外の併用療法について質問される方が増えています。胃がんの薬物療法は分子標的薬や遺伝子検査の結果によって選択肢が変わります。治療方針に迷う場合は、主治医やプレシジョンクリニックグループへご相談ください。
米CytomX社と米Regeneron社は2026年6月、腫瘍組織でのみ活性化するマスク化二重特異性抗体の共同開発契約を拡大しました。正常組織への影響を抑えながら、がん細胞への攻撃力を高める技術です。
二重特異性抗体は、がん細胞とT細胞の双方に結合して免疫細胞を病変部に誘導します。強力な効果が期待できる半面、正常組織を傷つける副作用が課題でした。新技術では抗体に分子のフタを施し、病変部特有の酵素でフタが外れる仕組みを採用しています。
この開発は初期の研究段階であり、患者さんのもとに届くまでには治験の積み重ねが必要です。とはいえ、腫瘍微小環境を標的とする創薬ベンチャーの技術は着実に前進しています。
全身の副作用を抑えつつ免疫療法を継続できる未来につながる可能性があります。抗がん剤や免疫チェックポイント阻害薬の副作用がつらく治療継続を悩まれている方は、我慢せず主治医や当グループにご相談ください。
PD-L1の発現が認められず免疫療法の対象外となる進行トリプルネガティブ乳がんに対し、抗TROP2抗体薬物複合体ダトポタマブ デルクステカンの有用性が示されました。第3相試験の日本人集団解析が日本乳癌学会2026で報告されています。
進行乳がんの初回治療では、PD-L1陽性であれば抗PD-1抗体などの併用が選択されます。しかし、陰性の場合は従来の殺細胞性抗がん剤が標準でした。新薬は腫瘍細胞の表面に多くあるTROP2を目印にして、抗がん剤を直接届けます。
この治療法は薬事承認に向けた段階にあり、日常診療での本格的な使用は今後の承認を待つ必要があります。それでも、免疫療法の恩恵を受けられなかった患者さんにとって、生存期間を延ばす新たな武器になる見込みです。
乳がんはサブタイプごとに治療戦略が大きく異なります。ご自身の病理結果やPD-L1の発現状況について詳しく把握したいときは、遠慮なく主治医やプレシジョンクリニックグループにお尋ねください。
英国で実施された20年以上の追跡調査により、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種世代で子宮頸がんの死亡率が大幅に低下したことがLancet誌に掲載されました。集団接種による長期的ながん予防効果が実証された形です。
一方、日本国内の調査では、男性もHPVワクチンを接種できる事実を知る人が約4割にとどまることが分かりました。HPVは子宮頸がんだけでなく中咽頭がんや肛門がんの原因にもなるため、男女双方での感染予防が求められています。
ワクチンによる免疫の獲得は、将来のがん発症リスクを直接減らす確実な手段です。すでに一般の医療機関で広く接種が受けられる体制が整っています。
病気になってから治すだけでなく、免疫の仕組みを活用して未然に防ぐ視点は欠かせません。ご家族の接種時期や適応について疑問がある場合は、身近な主治医や当グループへ気軽にご相談ください。
当院の実例
手術も抗がん剤もできなかった再発スキルス胃がんに、樹状細胞ワクチンの局所投与のみで病理検査上がん細胞が消失した80歳男性(国際査読誌掲載)
重度の肺気腫で手術ができず、抗がん剤も副作用で続けられませんでした。WT1・MUC1を標的にした樹状細胞ワクチンを内視鏡で胃の病変に直接7回投与。1か月後にがんは縮小し、病理検査でがん細胞は消失、30か月以上の寛解を維持しました。World Journal of Surgical Oncology(2014年)に掲載された症例です。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
今月は胃がんにおける併用療法や抗体薬物複合体の進展、腫瘍微小環境を考慮した次世代創薬の動きが見られました。がん治療は画一的なアプローチから、個々の組織特性や遺伝子異常に合わせた個別化医療へとシフトしています。
プレシジョンクリニックグループが創業以来最も取り組んでいるがん種をはじめ、当グループでは網羅的なゲノム解析に基づいた治療提案の実績を積み上げています。標準治療に行き詰まりを感じている方や、最適な免疫療法の選択肢を探している方は、ぜひ当グループにご相談ください。
ONO-4578とニボルマブの併用第2相試験が報告されました。治験段階ですが、胃がんの免疫療法は選択肢が広がっています。当院では樹状細胞ワクチンの内視鏡下局所投与という方法も行っています。
抗体薬物複合体の有用性が示唆されているほか、当院では樹状細胞ワクチン療法を抗がん剤やホルモン療法と組み合わせる設計を行っています。適応外=免疫療法ができない、ではありません。
HPVワクチンは感染を防ぐ予防的免疫で、子宮頸がんの死亡率減少が示されました。がんを治療する免疫療法とは仕組みが異なりますが、「免疫でがんを防ぐ」という考え方の裏づけになります。
監修:矢﨑 雄一郎 医師
プレシジョンクリニック 東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア 理事長 | 専門分野:一般外科・消化器外科
がんゲノム情報に基づく個別化医療と免疫療法を専門とし、標準治療と組み合わせた治療設計に取り組んでいます。著書『免疫力をあなどるな!』。
【免責事項】本記事は2026年6月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者様への診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、必ず主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年9月9日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。