投稿日:2022.12.1/更新日:2024.12.31
膵臓がんは、治療が難しいがんの一つとして知られています。しかし、治療内容を知って自分に合った治療方法を選ぶことで、改善への一歩につながります。本記事では、膵臓がんの治療方法の一つである標準治療について、特徴や副作用などを解説します。
膵臓がんの標準治療は、病期や患者さまの体力に応じて選ばれる治療法で、主に手術、抗がん剤治療、放射線治療があります。なかでも、進行したステージ4では手術が適応外となる場合が多く、抗がん剤治療が主流な選択肢です。
ステージ4の膵臓がん患者さまに対する標準治療は、主に抗がん剤治療です。使用される抗がん剤は、大きく二つの種類に分けることができます。一つはがん細胞を直接する殺細胞性抗がん剤で、もう一つはがん細胞の特定の遺伝子に働きかける「分子標的薬」です。
殺細胞性抗がん剤は、がん細胞をはじめとして増殖する細胞を、正常な細胞を含めて攻撃するため、副作用が強く現れる傾向があります。多くの方がイメージされる抗がん剤は、この殺細胞性抗がん剤です。
現在、膵臓がんの標準治療として承認されている抗がん剤のほとんどが殺細胞性抗がん剤に当たるため、副作用が強く出る傾向にあります。また、副作用は治療期間が長くなるにつれて蓄積する場合もあるため、治療効果を確認しながら、将来の影響も見越して慎重に治療を進める必要があります。
分子標的薬は、がん細胞の遺伝子変異を攻撃するため、正常細胞への影響が少なく、副作用は比較的軽減される傾向にあります。具体的な分子標的薬の副作用は、種類にもよりますが、殺細胞性抗がん剤の副作用の1/10〜3/10程度とされます。
膵臓がんの標準的な抗がん剤治療のほとんどに、フォルのフィリノックス(FOLFIRINOX)やゲムシタビンなどの「殺細胞性抗がん剤」が使用されます。これらの薬剤はがん細胞を攻撃する一方で、正常細胞も傷つけるため、副作用が強く出やすい特徴があります。主な副作用として、吐き気や嘔吐、骨髄抑制による貧血や感染症のリスク、食欲不振、脱毛、倦怠感などが挙げられます。患者さまのQOLを維持するため、副作用対策が重要となります。
以下、膵臓がんの標準抗がん剤治療法について詳しく解説します。
以下引用元:がん研有明病院
5-FU・イリノテカン・オキサリプラチンの3種類の抗がん剤に、5-FUの増強剤であるレボホリナートを加えた多剤併用の治療法です。2週間ごとに繰り返す治療ですが、1回あたり2日間かかるため、外来・在宅で治療を行うために、皮下に埋め込み型のポートを造設する小手術を行う必要があります。最も推奨度の高い治療のひとつですが、副作用(感染症・下痢・しびれ、など)の頻度も高く、十分な体力があり、全身状態が良好な方が対象になります。副作用を低減するために、量の修正を加えた投与法(modified FOLFIRINOX)も行われています。
1回60-90分の点滴を、週1回で3週連続行い4週目を休む、4週間1コースのスケジュールで繰り返す治療法です。FOLFIRINOX療法と並んで、最も推奨度の高い治療法のひとつですが、副作用(感染症・しびれ、脱毛など)の頻度も高く、やはり、ある程度の体力があり、全身状態が良好な方が対象になります。
術前化学療法として本邦の多施設共同研究で有用性が報告されている治療法です。主として切除可能膵がんに対し、術前に本治療を2コース行っています。
2020年6月に保険承認された治療法で、先述のFFX療法からオキサリプラチンを外し、イリノテカンをリポソーム型イリノテカンに組み替えた、二次治療用*の併用療法です。FFXと同様に2週間ごとに繰り返す治療で、1回あたり2日間かかるため、皮下に埋め込み型のポートを造設する小手術を行う必要があります。イリノテカンをリポソームのナノ粒子に封入したのがリポソーム型イリノテカンで、抗がん剤をナノ粒子に封入することにより、抗がん剤をがん細胞が存在する組織により選択的に届けられるようにすることで、イリノテカンの副作用を軽減すると考えられています。
*二次治療について:FFX療法とGnP療法は一次治療として確立した治療法ですが、二次治療に関しては、安全性と有効性が科学的に証明されないまま、十分な体力がありそうな患者さんに対して、みなし標準的に使われてきました。Nal-IRI/FL療法はゲムシタビンベースの一次治療後の二次治療として、FL療法と比して有効性が証明された治療法ですが、FFX療法と比較しているわけではないため、FFX療法との優劣はまだよく分かっていません。FFX療法と比べ、体力的な面で対象患者さんのすそ野が広がるものと期待されますが、FFX療法が十分できそうな患者さんに対してどちらを用いるかに関しては、今後の臨床データの蓄積が必要です。
長年、進行膵臓がんに対する標準治療とされていた治療法で、1回30-60分の点滴を、週1回で3週連続行い4週目を休む、4週間1コースのスケジュールで繰り返します。副作用が少ないため、高齢者や体力がやや低下している方でも比較的安全に治療が行えます。
ゲムシタビン療法と同程度の効果が示されている、飲み薬による治療法です。1日2回の服薬を4週継続した後、2週休薬するという6週間1コースの治療を繰り返します。最近は、手術後の補助化学療法(再発予防目的)や、Gem/nab-PTX療法が無効になったあとの二次治療として用いられています。
BRCA遺伝子変異陽性の治癒切除不能な膵がんにおいて、白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法後の維持療法として承認された、膵がん初の分子標的薬です。白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法で疾患進行が認められていない状況下で、1日2回服薬を行います。BRCA変異は膵がん全体の約5%前後と限られてはいるものの、使用条件を満たす場合には、7.4ヵ月の無増悪生存期間(投与開始~画像で腫瘍増大が確認されるまたは死亡までの期間)が得られたと臨床試験で報告されています。
患者さまの多くが経験される副作用には、脱毛や吐き気、血球減少(貧血、白血球減少による感染、血小板減少)、下痢、手足のしびれ、冷たいものに触れたときの痛み(寒冷刺激)などがあります。プレシジョンクリニックグループでは、このような副作用と治療効果のバランスを慎重に考慮し、副作用によって患者さまの活力や「日常をエンジョイしながら、長く生きる」ことが、脅かされないように治療に関するご相談に応じてます。
私たちは、主治医と密接に連携を取り、患者さまのご要望を尊重した治療方針の調整を心がけております。
膵臓がんの治療において「ハイボリュームセンター」とは、年間の手術件数や治療件数が多い医療機関のことを指します。ハイボリュームセンターは、膵臓がんの診断や治療において非常に豊富な経験を持つため、通常の医療機関に比べて治療成績が良好であることが知られています。特に膵臓がんのように難治性のがんにおいては、専門的なチームや最新の医療技術、複雑な手術が可能な施設があることが重要です。
ハイボリュームセンターの特徴
膵臓がん治療で世界的に評価の高いハイボリュームセンターの一例として、以下のような病院が挙げられます。
アメリカメイヨー・クリニックは、膵臓がんの手術、化学療法、放射線療法、そして臨床試験の実施において世界トップレベルの施設です。特に複雑な膵頭十二指腸切除術(Whipple手術)で知られています。膵臓がん治療の新しい技術や治療法に積極的に取り組んでおり、個別化医療も導入しています。
アメリカ膵臓がんの治療におけるハイボリュームセンターであり、手術だけでなく、精密放射線治療や免疫療法、分子標的薬の使用にも力を入れています。また、多くの臨床試験が行われているため、新しい治療法へのアクセスも可能です。
アメリカ手術、化学療法、免疫療法、放射線治療の全領域において卓越した治療を提供しています。膵臓がん治療に関する最新の研究が行われており、長年にわたって高い治療成績を挙げています。
ドイツ欧州でもトップクラスの膵臓がん治療施設として知られています。高度な手術技術に加え、先進的な放射線治療や化学療法を提供しており、ヨーロッパにおける膵臓がん治療のハブとなっています。
世界的に評価の高いハイボリュームセンターでは、通常、膵臓がんの診断から治療、術後のケアまで、専門的なチームアプローチが採用されており、個々の患者に合わせた最適な治療プランを提供します。また、臨床試験への参加機会や最新の治療法が利用できる点も特徴です。
日本では、国立がん研究センター東病院や慶應義塾大学病院などが膵臓がんの治療においてハイボリュームセンターとされています。これらの施設では、手術や化学療法、放射線療法だけでなく、精密な診断と個別化治療が行われています。
日本と海外のハイボリュームセンターの違い
膵臓がん治療でお悩みの方はプレジョンクリニックにご相談ください!
膵臓がん治療では、標準治療の適切な選択と経験豊富な医療機関での治療が、患者さまのQOLや治療成績を大きく左右します。
プレシジョンクリニックでは、がんと診断され、治療法に迷われている方やお困りのご家族さまへ向けて、初回無料の医療相談を実施しています。来院が難しい場合でもオンラインでの対応が可能ですので、どんな些細なことでも気軽にご相談ください。
専門医療機関として、患者さまに寄り添い、最善の治療とケアをご提案いたします。
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。