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TOP コラム 抗がん剤 膵臓がんのプレシジョンメディシン

抗がん剤

投稿日:2022.12.2/更新日:2024.10.22

膵臓がんのプレシジョンメディシン

ここでは世界の趨勢になりつつあるプレシジョンメディシンについてご説明いたします。

プレシジョンメディシンは、精密な医療という意味で、患者様一人ひとりの遺伝子情報をもとに、最適なお薬、具体的には分子標的薬・抗体医薬を処方するという、まさに個々人に合った医療です。

患者さまのがん組織や血液から、がんの原因となる遺伝子を網羅的に調べて、患者さまのがんに最適な薬剤を見つけます。標準抗がん剤治療のページで、抗がん剤は殺細胞性抗がん剤と分子標的薬の二つに大別でき、日本で膵臓がんの患者さまが受けられている抗がん剤のほとんどが殺細胞性抗がん剤であると説明していますが、後者の分子標的薬を用いた治療がプレシジョンメディシンにあたります。

分子標的薬は、殺細胞性抗がん剤とは異なり、がん細胞の遺伝子変異の場所に的を絞って攻撃するため、副作用は比較的少なくなります。

日本では、遺伝子を網羅的に調べることが出来る遺伝子パネル検査の一般的な利用が2019年6月から始まりましたが、米国のように診断時に遺伝子パネル検査を受けることが推奨されていない現状があります。

がんと診断されたら遺伝子パネル検査をして、薬を選択するという時代が来れば、膵臓がんの完治も夢ではないかもしれません。

プレシジョンクリニックグループ
医師 矢﨑

~膵臓がんのプレシジョンメディシン~

1.遺伝子変異から見た膵臓がんの成り立ち
膵臓がんはいくつかの重要な遺伝子に変異が起こる段階を踏みながら発生する(多段階発がんモデル)といわれています。正常な膵管の上皮細胞は、KRAS、TP53、CDKN2、SMAD4などの遺伝子変異が積み上がり、一連の組織学的に定義された前駆体(パ二ンPanIN)を介して、浸潤がんへと進行するといわれています。 KRAS遺伝子の変異は、早い段階に起こり、中間段階ではCDKN2(P16)遺伝子が不活性化し、TP53、SMAD4(DPC4)の不活性化は比較的遅く起こるといわれています。がん抑制遺伝子であるSMAD4に変異がない患者さまは、変異のある患者さまより予後がよくなるとの報告もあります。

2.プレシジョンメディシン
膵臓がんには多様な遺伝子変異がみられます。そのうち、遺伝子変異の半数以上に有効な治療薬が存在することが明らかになっています。例えば、ARID1A/ARID2にはMTOR阻害剤、BRCA2にはPARP阻害剤などです。多くの膵臓がん患者には共通する4つの遺伝子変異(KRAS, TP53, CDKN2,SMAD4)がありますが、近年KRASをターゲットとする分子標的薬が開発されています。米国では、遺伝子パネル検査の報告書に記載されている分子標的薬(FDA承認)、あるいは未承認の適応外薬(オフラベル)を使用した治療、あるいはそれらの医薬品を使った治験に参加する患者がたくさんいます。当グループではオフラベルの使用に取り組んでいます。
膵臓がんでは、他のがんに発現している遺伝子変異(ALK、NTRK、ROS、RET、BRAF、FGFR、EGFR、BRCAなど)も多数発見されていることから、日本では膵臓がんに対して4剤の分子標的薬・免疫チェックポイント阻害剤が承認されています(BRCA:オラパリブ、NTRK:ラロトレクチニブ・エヌトレクチニブ、MSI-H/TMB-H:ペンブロリズマブ)。世界を見渡すと、膵臓がんにみられる、それら多数の遺伝子変異に対してさまざまな分子標的薬が試験されており、膵臓がんの患者さまに希望をあたえています。

3.標準抗がん剤 VS プレシジョンメディシン
 膵臓がんのNPO法人パンキャンでは、2015年より膵臓がん患者さま1,000例以上を対象に、遺伝子変異にマッチした治療、すなわちプレシジョンメディシンを受けた患者群(OS=2.58年)、それに対して受けなかった患者群(OS=1.51年)または標準治療を受けた患者群(OS=1.32年)と比較して、予後が大幅に改善されていたことが明らかにしています。
プレシジョンメディシン群 VS 標準治療群では、HR=0.34と良好な成績を上げています(P-VALUE = 0.0000023, HR = 0.34 (0.22-0.53))。
米国NCCNガイドラインが早速改訂され、すべての膵臓がん患者さまに生殖細胞系遺伝子検査(Germline Test)が推奨されました。また、転移性膵臓がん患者には、診断時にがん遺伝子パネル検査(FoundationOneCDx、MSK-IMPACT)を受けることが推奨されました。しかし、日本では、標準治療を先に受けることがルールとされており、他の治療選択肢がなくなった患者さまの最後の砦という位置づけになっています。このように、日本のプレシジョンメディシンは容易に受けられず、治療を受けることができない、狭き門であり、膵臓がん患者の不利益につながっています(参照:膵癌ナショナルアドボカシーデー活動)

引用:PAN CANより(https://pancan1.org/index.php?option=com_content&view=article&id=502&Itemid=607)

【監修者】矢﨑 雄一郎

東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、現在はプレシジョンクリニック神戸院長として活躍中。専門分野は一般外科及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。

略歴:

1996/3

東海大学医学部卒業

1996/4

東海大学附属病院消化器外科勤務

2000/11

遺伝子解析企業ヒュービットジェノミクス株式会社入社

2003/4

東京大学医科学研究所 細胞プロセッシング寄附研究部門研究員

2004/6

テラ株式会社設立 代表取締役社長

2010/1

株式会社アドバンスト・メディカル・ケア 取締役

2012/3

テラ株式会社代表取締役社長 社長執行役員

2013/3

テラ株式会社代表取締役社長

2013/5

タイタン株式会社 取締役(現任)

2014/1

テラファーマ株式会社 代表取締役社長

2014/2

株式会社オールジーン 代表取締役社長

2014/8

テラ少額短期保険株式会社 取締役会長

2015/12

株式会社オールジーン 取締役

2016/6

株式会社オールジーン 代表取締役社長

2016/10

テラファーマ株式会社 代表取締役会長

2017/3

テラ株式会社代表取締役社長CEO

2019/4

医療法人社団プレシジョンメディカルケア理事

2019/10

プレシジョンクリニック神戸院長

専門分野:
一般外科・消化器外科

著書:
著書『免疫力をあなどるな!』

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