投稿日:2024.3.23/更新日:2024.10.22
がん治療においては、近年新しい治療法の開発が加速しています。その中でも注目されているのが細胞を用いた治療法であり、また当グループでも力を入れている複合免疫療法です。
複合免疫療法とは、複数の免疫療法を組み合わせて行うことで、がん細胞に対する攻撃力を最大限に引き出す治療法です。副作用が少ない免疫療法を組み合わせること、またそれらと他の治療法との併用も可能なため、患者様の生活の質を保ちながら治療を進めることができます。本記事では、複合免疫療法の種類やその特長について詳しく解説します。
複合免疫療法は、がん治療においていくつかの免疫療法を組み合わせて行う治療法です。免疫療法は、体の免疫システムを活性化させ、がん細胞を攻撃する力を強化することを目的とした治療法ですが、複数の免疫療法を同時にまたは順番に使用することで、よりがん細胞を攻撃する免疫力を高めることが可能になります。
複合免疫治療法は注目されている分野であり、世界中で開発が進んでいます。 ここでは、想定される代表的な組み合わせをご紹介します。
免疫チェックポイント阻害薬とワクチン療法は、免疫システムを活性化してがん細胞を攻撃する治療法です。
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫細胞ががん細胞を攻撃するのを妨げるブレーキを解除する仕組みです。具体的には、がん細胞が免疫細胞の攻撃を回避するのを防ぐことで、免疫細胞ががん細胞をさらに攻撃できるようにします。 一方、ワクチン療法は、がん細胞特有の抗原を体内に入れて、がん細胞特異的な免疫反応(アクセル)を誘発します。これにより、免疫システムはがん細胞を異物として認識し、攻撃し始めます。 この2つの治療法を組み合わせることで、免疫チェックポイント阻害薬によって免疫細胞の攻撃力が増し、ワクチン療法によって標的が明確になるため、がん細胞に対する効果が相乗的に高まります。
免疫チェックポイント阻害薬
薬剤名 | 主要成分名 | 対象となるがん種 |
---|---|---|
オプジーボ | ニボルマブ | 非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫等 |
キイトルーダ | ペムブロリズマブ | 非小細胞肺がん、皮膚がん(メラノーマ)、頭頸部がん等 |
ヤーボイ | イピリムマブ | 非小細胞肺がん、小細胞肺がん等 |
イジュド | トレメリムマブ | 非小細胞肺癌、肝細胞癌 |
イミフィンジ | デュルバルマブ | 非小細胞肺がん、肝細胞癌等 |
ワクチン療法
薬剤名 | 主要成分名 | 対象となるがん種 |
---|---|---|
プロベンジ | Sipuleucel-T(APC) | 前立腺癌 |
DCVax-L | 樹状細胞 | 膠芽腫(GBM)などの脳腫瘍 |
TLP-001 | 樹状細胞 | 膵臓癌(治験中) |
②免疫チェックポイント阻害薬と放射線療法
放射線療法と免疫療法の関係が近年注目されています。がんに放射線を照射するとがん細胞が破壊されて死滅しますが、この過程で死んだがん細胞からたんぱく質やその他の細胞成分が放出され、樹状細胞が察知します。>
このがん細胞由来のたんぱく質のかけら(ペプチド)をネオアンチゲンと呼びいい、患者様のがん細胞で起こった遺伝子異常により、新たに出現したがん細胞由来の変異たんぱく質のかけら(ペプチド)になります。このペプチドが抗原(がんの目印)となり、免疫ががんを攻撃する的になります。樹状細胞はこの抗原を察知して、実際にがんを攻撃するT細胞にがんの存在、特徴を教えて攻撃させます。
放射線療法によって放出されたがん細胞の成分が樹状細胞によって捉えられた結果、体内に存在するがんに対する免疫応答が促されます。特に放射線を当てたところ以外のがんが、放射線腺をあてることで免疫が刺激され、抗がん効果が表れることを、アブスコパル効果といいます。現在、免疫チェックポイント阻害薬と免疫療法を併用することで効果を引き出すという研究が盛んにおこなわれています。
複合免疫療法は、がんの治療法として新たな選択肢として注目されています。 ここでは、3つの特長について解説します。
複合免疫療法は、他の治療法と併用することができます。例えば、手術や放射線治療、化学療法と組み合わせることで、治療の相乗効果が期待できます。手術でがんの主要部分を除去し、複合免疫療法で残ったがん細胞を攻撃することで、再発のリスクを減らすことができます。また、放射線治療や化学療法でがん細胞を弱らせ、その後に免疫療法を行うことで、免疫細胞ががん細胞を効率よく攻撃することが可能です。このように、複合免疫療法は他の治療法と組み合わせることで、治療効果を最大化することができるのです。
副作用が少ないことも特長の一つです。特に従来の化学療法(殺細胞性抗がん剤)は、正常な細胞にもダメージを与えるため、副作用が強く出ることがありました。しかし、当グループの複合免疫療法は、副作用の少ない免疫療法の組み合わせで免疫システムを活性化させることで、がん細胞のみに限定して攻撃します。正常な細胞への影響が少なく、患者様のQOL(生活の質)を保つことができます。そのため治療を続けやすく、長期間にわたって治療を受けることが可能です。
一方、免疫特有の副作用、免疫関連副作用(irAE)があることには注意が必要です。おもに免疫チェックポイント阻害薬の投与により引き起こされる副作用になります。irAEの多くは治療開始後約2カ月以内の比較的早い時期に起こりやすい傾向があります。 しかし、投与後すぐに起こるとも限らず、投与終了後,数週間から数カ月経過してから起こることもあるため、投与終了後にもirAEの発現に注意が必要となります。
複合免疫療法は、それぞれの治療が全て外来のみの治療であることも特長の一つです。中でも免疫細胞を取り出して培養する作業がキーとなりますが、当グループ内に専用の細胞培養施設を有しており、迅速に対応できる体制を整えています。放射線療法で連携している医療機関においても、基本的に外来治療のみとなりますが、患者さまのご希望に応じて、よっては宿泊対応も可能です。放射線を含む治療計画は当グループで行っています。
プレシジョン免疫療法が、米国の癌専門誌「CANCER RESEARCH」に掲載されました。
掲載記事は、2024年4月5日から10日に米国サンディエゴで開催される2024年度米国癌学会総会(AACR Annual Meeting 2024)でポスター発表予定の内容であり、樹状細胞ワクチン療法に放射線治療と低用量の免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせた革新的複合免疫療法(The iCCI: innovative combination cancer immunotherapy)についてです。
ここでは、革新的複合免疫療法(The iCCI: innovative combination cancer immunotherapy)のメカニズムと、実際の下咽頭がんステージ4の治療成功例の結果を述べています。本症例は、原発、転移部位、すべてのがんの完全消失、現在まで15カ月以上再発なく経過しています。 iCCIによって、がん周囲の免疫ミクロ環境(IMAT)内で、この患者の抗腫瘍免疫能が改善された可能性が考えられ、当グループが開発しているiCCIが将来、手術不能の進行性がんを克服する有望な戦略となるだろうという内容で締めくくっています。
※樹状細胞ワクチン療法に放射線療法と免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせたプレシジョン免疫療法は、学術的には革新的複合免疫療法The iCCI(The iCCI: innovative combination cancer immunotherapy)と表記しています。
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。