投稿日:2024.5.19/更新日:2024.10.22
今回は、ガンとは関係ない話題ですが、皆様に是非、お伝えしておきたい話題です。
当クリニックの樹状細胞ワクチンも仲間の一つですが、ガン免疫細胞治療CD19-CAR-T療法が、自己免疫疾患に有効かもしれないとの話題です。
自己免疫疾患(多発性硬化症、SLE etc)で、もしかしたら一回の治療で、ドラックフリー寛解(薬なしの寛解)を達成できるかもしれません。医学史上に残る、大きなパラダイムシフトを目撃することになるかもしれませんので要注視!
『CAR-T therapy for multiple sclerosis enters US trials for first time』 Nature 22 February 2024』
米国で、多発性硬化症に対するCAR-T細胞療法の最初の臨床試験がボランティアの募集を開始し、神経変性疾患および他の自己免疫疾患の新しい治療選択肢誕生への期待が高まっています。
CAR-T療法を利用して、これまで血液がんに対して制御を失ったB細胞を排除する方法が行われていますが、このB細胞はさまざまな自己免疫疾患にも関与するため、これらの治療も可能にするかもしれません。多発性硬化症は、病的T細胞とB細胞によって始まる自己免疫疾患で、神経細胞を攻撃します。
研究者は、数十年にわたり、CD20と呼ばれるタンパク質を標的とする抗体で多発性硬化症を治療してきました。 この抗体はこれらの細胞を殺し、免疫システムを抑制します。 しかし、この抗体療法では、効果があっても病気を停止させるのではなく、遅らせるだけです。
そこで研究者たちはCAR-T細胞に注目し、特にCD19と呼ばれるタンパク質を保持するB細胞を殺すことに着目しています。 CAR-T細胞は抗体よりも優れた細胞殺傷能を持ち、抗体が到達できない脳などの組織に浸潤するようです。
理論によれば、これらのB細胞を徹底的に減少させることが、病気による脳の損傷を止め、暴走している免疫系をリセットするはずです。
研究者たちはすでに多発性硬化症の人々のためのCAR-T療法の小規模な試験を実施しており、 現在、参加者を募集中の米国での第I相試験を行っています。
自家造血幹細胞移植療法では、多発性硬化症の患者様に高用量の化学療法を受けさせ、免疫細胞をすべて排除し、その後、自身の幹細胞を戻して免疫系を再構築(リセット)します。 しかし、この療法のリスクと複雑さが問題だと述べており、広く利用できる治療ではないと述べています。
CAR-T細胞は免疫系をリセットするよりも簡単な方法になる可能性があります。 化学療法は患者のT細胞とB細胞をすべて殺すことができますが、CAR-T細胞は疾患を引き起こすB細胞の部分だけを排除します。
最大の懸念点は脳毒性であり、これは混乱、発作、死などの重大な副作用を引き起こす可能性があり、これまでにがんを治療するためにCAR-T細胞が使用された際にも見られました。多発性硬化症の患者様の脳はすでに炎症を起こしており、悪化させる可能性があります。
予備的臨床結果は既にループスの治療を変える可能性を示唆しており、多くの研究チームの関心を引き付けています。
課題もあります。CAR-T療法は自家造血幹細胞移植よりも穏やかですが、治療用細胞を受け入れるために厳しい「前処置」化学療法が必要です。
そして価格も問題です。製造が困難な治療法は現在、最大で50万ドルかかります。 次世代のCAR-T細胞も開発中であり、自己免疫疾患での成功がこれらの取り組みを促進する可能性があります。
プレシジョンクリニック名古屋院長
岡崎監修
【監修者】岡崎 能久
大阪大学医学部を卒業後、同大学院の修士課程を終了したのち、関西地方を中心に医療に従事、現在はプレシジョンクリニック名古屋院長として活躍中。専門は内視鏡診断および治療・研究開発。日本内科学会認定医や日本消化器病学会専門医、日本医師会認定産業医などの認定医を保有。
略歴:
2001/3
大阪大学医学部卒業
2001/6
大阪大学医学部附属病院内科研修医
2002/6
大阪厚生年金病院 内科 研修医