コンバージョン手術(Conversion surgery)とは、治療が難しいとされる進行がんや転移性がんに対して、化学療法や放射線療法などを用いて腫瘍の縮小や病状の改善を図り、その後に根治を目指して手術を行う治療アプローチのことを指します。通常、手術が難しいと判断される症例でも、術前治療により腫瘍の縮小や進行の抑制が可能となった場合に、手術が行えるようになることを目的としています。
膵臓癌におけるコンバージョン手術
膵臓癌(膵がん)は、他の臓器に転移しやすく、診断時には進行していることが多いため、手術ができない非切除可能な状態と診断されるケースが少なくありません。しかし、近年の化学療法や放射線療法の進展により、非切除可能と診断された膵臓癌患者にも手術が可能になるケースが増えてきました。これがコンバージョン手術の概念です。
主な適応ケース
- 局所進行膵臓癌: 膵臓に限定されているが、大血管や周囲の重要な臓器に浸潤しており、直ちには切除が不可能な場合。
- 転移性膵臓癌: 他の臓器(肝臓、肺など)に転移が見られるが、化学療法により腫瘍が縮小し、転移が完全に制御できた場合。
コンバージョン手術のプロセス
- 術前化学療法/放射線療法: 術前に行われる治療は、膵臓癌の進行を抑えたり、腫瘍のサイズを縮小させる目的で行われます。一般的には、ゲムシタビンやFOLFIRINOXなどの強力な化学療法レジメンが使われます。
- 治療効果の評価: 術前治療後に画像検査(CT、MRI、PETなど)を行い、腫瘍の縮小や進行停止を確認します。また、腫瘍マーカー(CA19-9など)を用いて治療の効果をモニタリングすることもあります。
- 手術適応の再評価: 術前治療によって腫瘍が手術で取り除ける状態まで改善されていれば、手術が行われます。この段階で手術が可能かどうか、再評価を行います。
- 手術の実施: 手術の目的は腫瘍を完全に切除することです。膵頭十二指腸切除術(Whipple手術)や膵体尾部切除術が行われることが多いです。
- 術後治療: 手術後も再発予防のために、さらなる化学療法が行われることがあります。
コンバージョン手術の意義と課題
膵臓癌におけるコンバージョン手術は、手術が不可能だった症例に新たな治療の可能性を開く点で非常に意義があります。しかし、すべての患者が手術の適応となるわけではなく、化学療法や放射線療法が十分な効果を示さない場合もあります。また、術前治療による副作用や手術そのもののリスクも考慮する必要があります。
コンバージョン手術の成功要因
- 適切な術前治療: 化学療法や放射線療法が効果を発揮し、腫瘍を手術可能な状態にすることが重要です。
- 患者の全身状態: 長期間の化学療法や放射線療法を耐え抜くための体力や免疫力が必要です。栄養状態の管理や免疫強化も治療成功のカギです。
【監修者】矢﨑 雄一郎
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、現在はプレシジョンクリニック神戸院長として活躍中。専門分野は一般外科及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。
略歴:
2000/11
遺伝子解析企業ヒュービットジェノミクス株式会社入社
2003/4
東京大学医科学研究所 細胞プロセッシング寄附研究部門研究員
2010/1
株式会社アドバンスト・メディカル・ケア 取締役
2012/3
テラ株式会社代表取締役社長 社長執行役員
2014/1
テラファーマ株式会社 代表取締役社長
2014/2
株式会社オールジーン 代表取締役社長
2014/8
テラ少額短期保険株式会社 取締役会長
2016/6
株式会社オールジーン 代表取締役社長
2016/10
テラファーマ株式会社 代表取締役会長
2019/4
医療法人社団プレシジョンメディカルケア理事
専門分野:
一般外科・消化器外科
著書:
著書『免疫力をあなどるな!』