2024.11.1
膵臓癌(膵癌)は、「Cold Tumor」(冷たい腫瘍)と呼ばれる代表的ながんの一つです。このCold Tumorとは、腫瘍が免疫系による攻撃を受けにくい状態である腫瘍を指します。膵臓癌を含むCold Tumorは、主に以下のような特徴を持っています:
低い免疫細胞の浸潤
Cold Tumorでは、がん組織内に免疫細胞(特にT細胞)の浸潤が少ないため、腫瘍に対する免疫反応が抑制されています。膵臓癌の微小環境では、免疫細胞ががん細胞を攻撃する機会が少なく、また、腫瘍自体も免疫回避のメカニズムを備えているため、免疫療法に対して反応しにくい傾向があります。
免疫抑制性の微小環境
膵臓癌の腫瘍微小環境には、免疫抑制性の細胞(制御性T細胞、M2型マクロファージなど)が多く存在し、免疫反応を抑制することでがんの増殖が促進されます。また、腫瘍随伴線維芽細胞(CAF)が豊富で、腫瘍を硬くする繊維性の壁を形成し、免疫細胞の浸潤を妨げる役割も果たしています。
PD-L1発現の低さ
Cold Tumorでは、PD-L1の発現が低いため、一般的な免疫チェックポイント阻害薬(PD-1/PD-L1阻害薬)の効果が限られることが多いです。このため、膵臓癌に対しては免疫チェックポイント阻害薬単独での治療はあまり有効でない場合が多いです。
膵臓癌のようなCold Tumorに対しては、単純な免疫療法だけでなく、腫瘍微小環境を改善して免疫細胞の浸潤を促す治療アプローチが重要です。具体的には、以下のような治療戦略が研究されています:
腫瘍微小環境のリモデリング
腫瘍随伴線維芽細胞や免疫抑制性の細胞を標的とし、腫瘍微小環境を改善して免疫細胞の浸潤を促すことが検討されています。例えば、低用量の放射線療法や分子標的薬を併用し、腫瘍微小環境を変化させるアプローチが研究されています。
複合免疫療法
免疫チェックポイント阻害薬と他の免疫療法を組み合わせることや、抗癌剤や放射線療法を組み合わせることで、免疫反応を強化する方法が検討されています。膵臓癌では、免疫チェックポイント阻害薬に加えて、樹状細胞ワクチンやサイトカイン療法のような免疫活性化アプローチが注目されています。
腫瘍ワクチン
樹状細胞ワクチンやがんペプチドワクチンなどの腫瘍ワクチンは、免疫系が腫瘍細胞を認識しやすくすることで、膵臓癌に対する免疫反応を誘導する手段として研究されています。
免疫賦活剤
免疫反応を抑制している腫瘍微小環境を改善するために、STINGアゴニストなどの免疫賦活剤を使用して免疫細胞の活性化を促進する方法も試みられています。
膵臓癌は治療が難しいがんとして知られていますが、近年の研究により、Cold Tumorに対する新しいアプローチが開発されています。特に、腫瘍微小環境の制御や複合免疫療法を通じて、膵臓癌患者に対する新しい治療戦略が進展しています。
当グループの革新的複合免疫療法(The iCCI: innovative combination cancer immunotherapy)は、このCold Tumorと言われる膵臓癌と戦うために開発された免疫療法です。
【監修者】矢﨑 雄一郎
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、現在はプレシジョンクリニック神戸院長として活躍中。専門分野は一般外科及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。
略歴:
1996/3
東海大学医学部卒業
1996/4
東海大学附属病院消化器外科勤務
2000/11
遺伝子解析企業ヒュービットジェノミクス株式会社入社