投稿日:2024.9.1/更新日:2026.9.21
この記事でわかること
Her2陽性がんは、ヒト上皮成長因子受容体2(Her2)が過剰発現または遺伝子増幅を起こすがんの一種で、迅速に進行する特性を持つ一方で、標的治療薬の進歩により治療可能性が広がっています。このタイプのがんは乳がんの約20%、胃がんの15~20%、非小細胞肺がん(NSCLC)の約3%に認められ、その他のがんとして膵がん、大腸がん、子宮がん、卵巣がんでも確認されています。
Her2陽性がん治療において、近年注目されているのがエンハーツ(Enhertu、DS-8201)です。この薬は抗体薬物複合体(ADC: Antibody-Drug Conjugate)という最新技術を用いて開発され、がん細胞を精密に攻撃することが可能です。
乳がんはHer2陽性がんの代表的な疾患であり、エンハーツは特に治療歴の多い進行性乳がん患者に画期的な結果を示しています。DESTINY-Breast03試験では、エンハーツが従来の治療薬より優れた効果を発揮しました。
Her2陽性胃がんでは化学療法や他の治療薬への耐性を持つ患者が少なくありません。エンハーツは、これらの患者に対しても有効性を示し、生活の質(QOL)の向上も期待されています。
非小細胞肺がん(NSCLC)や稀少がんである膵がん、大腸がん、卵巣がんなどにおいてもエンハーツは有望な治療選択肢となっています。
エンハーツのような新しい治療法は、これまで治療が難しかった進行がんや再発がんに希望をもたらしています。患者一人ひとりに最適な治療法を見つけるため、専門医との相談が推奨されます。
当院の実例
多発肝転移を伴うHER2陽性乳がんステージ4で予後6か月程度と説明された43歳女性に、抗HER2療法と樹状細胞ワクチン療法を併用し、著明な縮小を得て治療を段階的に減らしながら診断から5年経過している症例
腋窩リンパ節転移と多発肝転移で「予後は6か月程度」と説明され、抗HER2療法(ハーセプチン+パージェタ)を開始。翌月から樹状細胞ワクチン療法を併用したところ、2か月後のCTで原発巣と肝転移が著明に縮小しました。その後は抗HER2療法を1剤へ、さらにホルモン治療へと段階的に減らし、診断から5年、著明な縮小を維持したまま元気に生活されています。HER2という明確な標的がある場合に、標的治療と免疫療法を重ねる意味を示す一例です。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
がん種によって異なります。HER2陽性乳がんでは抗HER2療法を受けたあとの2次治療以降、HER2陽性胃がんでは化学療法後、HER2変異のある肺がんでは化学療法後に保険で使えます(2026年時点)。適応は主治医にご確認ください。
間質性肺炎(薬剤性肺障害)が最も重要で、空咳や息切れ、発熱が出たらすぐに受診が必要です。吐き気や骨髄抑制もあります。当院では副作用で減量・休薬が必要な時期に、樹状細胞ワクチン療法で治療を途切れさせない設計を検討します。
抗HER2抗体は免疫細胞ががんを攻撃する仕組み(ADCC)にも関わるため、免疫療法との相性が期待されています。当院ではHER2陽性乳がんで抗HER2療法と樹状細胞ワクチン療法を併用した経過を症例ページで公開しています。
監修医師
明星 智洋医師
抗がん剤(分子標的薬)
熊本大学医学部を卒業後、医療機関での勤務を経て、プレシジョンメディスンセンター長として活躍中。専門はがん薬物療法、血液疾患、感染症管理、免疫療法であり、日本内科学会認定内科医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本血液学会認定血液専門医など、多数の認定医や資格を保有。メディア出演や医療監修も手掛ける。