免疫療法におけるシュードプログレッション(偽増悪)とは?
シュードプログレッション(Pseudoprogression, 偽増悪)とは、免疫チェックポイント阻害薬(ICI, Immune Checkpoint Inhibitors)をはじめとする免疫療法を使用した際に、一時的に腫瘍が大きくなったように見える現象を指します。しかし、これは本当の腫瘍増大(病勢進行)ではなく、その後に腫瘍縮小がみられることが特徴です。
なぜシュードプログレッションが起こるのか?
免疫チェックポイント阻害薬(例:PD-1/PD-L1阻害薬、CTLA-4阻害薬)は、がん細胞によって抑制されていたT細胞の働きを活性化させ、免疫系を再びがんと戦える状態にします。この過程で、以下のような免疫応答が起こることで、一時的に腫瘍が大きくなったように見えます。
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炎症反応の増加
活性化されたT細胞が腫瘍に浸潤し、炎症を引き起こす。
その結果、腫瘍の周囲に浮腫(むくみ)や炎症細胞の浸潤が起こり、画像診断で腫瘍が大きく見えることがある。
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がん細胞の破壊による腫瘍内部の変化
免疫攻撃により腫瘍細胞が壊れ、内部に壊死組織や免疫細胞が蓄積する。
これにより、CTやMRIなどの画像検査で腫瘍が拡大したように見える。
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時間差での抗腫瘍効果
免疫チェックポイント阻害薬は効果発現に時間がかかることが多い。
治療開始後すぐには腫瘍縮小が起こらず、一時的な増大が見られる場合がある。
シュードプログレッションと本当の増悪(真の病勢進行)をどう見分けるか?
シュードプログレッションと真の病勢進行(PD, Progressive Disease)を区別することは重要ですが、臨床的に難しい場合があります。そのため、以下の方法が用いられます。
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免疫関連の画像診断基準(iRECIST, irRECIST)の使用
伝統的なRECIST基準(がんの増大を病勢進行と判断)とは異なり、「一時的な腫瘍増大があっても、後続のスキャンで縮小が見られる場合、シュードプログレッションと判断する」 という基準を採用する。
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追加の画像検査
6~8週間後に再度CTやPET-CTを撮影し、腫瘍が本当に増大し続けているのかを確認する。
真の病勢進行であれば腫瘍がさらに大きくなるが、シュードプログレッションの場合はその後縮小することが多い。
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腫瘍マーカーや臨床症状の評価
例えば、PSA(前立腺がん)やCA19-9(膵臓がん)などの腫瘍マーカーの動きを確認。
本当の病勢進行であれば、症状の悪化(体重減少、痛みの増加など)を伴うことが多い。
シュードプログレッションが起こりやすいがん種
シュードプログレッションは、特に免疫チェックポイント阻害薬が有効ながん種で観察されることが多いです。
- メラノーマ(悪性黒色腫)
- 非小細胞肺がん(NSCLC)
- 腎細胞がん
- ホジキンリンパ腫
- 膀胱がん など
ただし、すべての患者に起こるわけではなく、シュードプログレッションが見られるのは免疫チェックポイント阻害薬を受けた患者の約5~10% ほどと報告されています。
なお、当グループの免疫療法「樹状細胞ワクチン療法」におけるシュードプログレッションについてですが、技術元の東京大学医科学研究所で行われたメラノーマに対する樹状細胞ワクチン療法の臨床研究で同様の現象を認めており、膨張したメラノーマの壊死像と、病理の結果、栄養する血管の破壊とT細胞の腫瘍への浸潤を認めていました。
シュードプログレッションの臨床的意義
- シュードプログレッションが起こる患者は、免疫応答が活性化している可能性が高いため、長期的な治療効果を期待できる場合がある。
- そのため、早急に治療を中止せず、慎重に経過観察を行うことが重要。
- しかし、真の病勢進行と見分けるのが難しく、誤って治療を継続するとがんが進行してしまうリスクもあるため、慎重な判断が必要。
まとめ
✅ シュードプログレッション とは、免疫チェックポイント阻害薬等の免疫療法による治療中に、一時的に腫瘍が大きくなったように見える現象。
✅ これは 炎症やT細胞の浸潤、がん細胞の壊死 によるものであり、その後に腫瘍が縮小することがある。
✅ irRECISTや追加の画像検査 によって、本当の病勢進行と見分けることが大切。
✅ シュードプログレッションが起こる患者は、免疫応答が活発で長期的な治療効果を得られる可能性がある。
✅ しかし、判断を誤ると不適切な治療継続につながるため、慎重な観察が必要。
免疫チェックポイント阻害薬をはじめとする免疫療法では、このシュードプログレッションの概念を理解し、適切な経過観察と判断を行うことが重要です。