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細胞老化を逆転させる治療法:ヒトでの臨床試験開始が迫る新たなアプローチ
TOP コラム 細胞老化を逆転させる治療法:ヒトでの臨床試験開始が迫る新たなアプローチ

投稿日:2026.4.10/更新日:2026.5.24

細胞老化を逆転させる治療法:ヒトでの臨床試験開始が迫る新たなアプローチ

本記事はがん治療に関係し得る技術でもあるのですが、老化を防止するためではなく、老化を逆転させるための治療であることから、矢﨑個人的に大変興味があり、アップいたしました。既に老化した細胞を若い状態に戻す「部分的エピジェネティック・リプログラミング」であり、Life Biosciences社のER-100がこの概念での初のヒトに対する試験になります。

背景

細胞老化(cellular ageing)とは、細胞が分裂能力を失い、機能が低下する状態を指します。老化細胞は炎症性サイトカインなどを分泌し、周囲の細胞に悪影響を与える老化関連分泌表現型(SASP)を示すことが知られています。この現象は、がんの発生・進行、生活習慣病、神経変性疾患など、多くの加齢性疾患の病態に深く関与しています。これまでの前臨床研究では、動物モデルにおいて老化細胞を選択的に除去したり、その機能を改善したりすることで、様々な疾患の進行を抑制できることが示されてきました。しかし、これらのアプローチがヒトの疾患治療に適用できるかは、まだ確立されていませんでした。

研究内容と結果

Nature誌の「Daily briefing」(2026年4月9日)によると、細胞老化を逆転させることを目指す治療法が、いよいよヒトでの臨床試験を開始する段階に入ったと報じられています。この治療法は、部分的エピジェネティック・リプログラミング(Partial Reprogramming)と呼ばれる全く新しいアプローチです。従来のセノリティクス(老化細胞の除去)やセノモルフィクス(SASP抑制)とは根本的に異なり、すでに老化した細胞を若い状態に「巻き戻す」ことを目指しています。具体的には、Life Biosciences社が開発したER-100という遺伝子治療製剤が用いられます。これはHarvard大学のDavid Sinclair教授の研究に基づくもので、山中因子のうち3つ(OCT-4・SOX-2・KLF-4)を改変アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで細胞内に導入し、老化によって乱れたエピジェネティックなメチル化パターンを若い状態に回復させる仕組みです。米国FDA(食品医薬品局)からIND(治験薬申請)の承認を取得しており、視神経障害を対象とした第1相試験として本年中に開始予定です。現時点では安全性と予備的有効性の確認を目的とした段階であり、具体的な数値データや統計結果はまだ公表されていません。

臨床的意義

この進展は、今後の医療に多大な影響を与える可能性を秘めていますが、現時点では将来の研究段階にあることを明確に認識する必要があります。
加齢性疾患への応用:
心血管疾患、神経変性疾患、糖尿病、骨関節疾患など、細胞老化が関与する多くの疾患に対する新たな治療選択肢となる可能性があります。
がん治療への影響:
がん発生・進行の抑制〜老化細胞が形成するがん微小環境を改善し、がんの発生や増殖を抑制するアプローチが期待されます。
治療関連の副作用軽減:
抗がん剤治療や放射線治療は、患者さんの体内で早期の細胞老化を誘導し、倦怠感や認知機能低下などの副作用を引き起こすことがあります。細胞老化を標的とすることで、これらの治療関連毒性を軽減できるかもしれません。
既存治療との併用効果:
免疫チェックポイント阻害剤などの免疫療法は、がん微小環境の免疫細胞の状態に大きく影響されます。老化細胞の除去や機能改善が、これらの治療効果を高める可能性も示唆されています。

プレシジョンクリニックグループの視点

細胞老化を標的とした治療法のヒト臨床試験への移行は、精密医療の観点からも非常に重要なニュースといえます。当グループでは、患者さん一人ひとりのゲノム情報を解析し、最適な治療法を追求する個別化医療を推進しています。 細胞老化に関連する遺伝子変異やエピジェネティックな変化は、がんの発生や治療抵抗性に関与することが示唆されています。ゲノム解析を通じて、個々の患者さんの細胞老化の状態を詳細に把握し、老化に対する個別化医療(プレシジョンメディシン)が進んでいくことになるでしょう。

記事

Daily briefing: A treatment to reverse cellular ageing is about to be tested in people

監修医師

矢﨑 雄一郎医師

免疫療法・研究開発

東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。