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TOP コラム 免疫療法 膵臓がん治療で注目されているmRNAワクチンのメカニズムとコロナ禍での活躍

免疫療法

投稿日:2023.7.13/更新日:2024.10.22

膵臓がん治療で注目されているmRNAワクチンのメカニズムとコロナ禍での活躍

膵臓がんは再発しやすく生存率が低いと言われているがんですが、新しい治療法としてmRNAワクチンが注目されています。開発が早く、作るまでに時間がかからないことから、コロナ禍において活躍したワクチンでもあります。本記事では、mRNAワクチンのメカニズムやターゲットにする遺伝子変異などについて詳しく解説します。

膵臓がんの治療で注目されているmRNAワクチン

膵臓がんの治療には、外科的療法や化学療法などが行われていますが、その中でも注目されているのがmRNAワクチンです。ここでは、mRNAワクチンのメカニズムやターゲット、併用について解説します。

mRNAワクチンのメカニズム

mRNAワクチンは、タンパク質の合成を促すメッセンジャーRNAを使用して免疫応答を引き起こします。ワクチンによってmRNAを細胞内に送り込み、患者様自身の細胞を利用して特定のタンパク質(例えば膵臓がん由来のタンパク質)を合成させます。このタンパク質が細胞の表面に現れると、免疫システムは脅威と認識して、対抗するための抗体とT細胞を生成するのです。

mRNAワクチンがターゲットにする遺伝子変異

mRNAワクチンは、膵臓がんで多くみられるKRAS遺伝子の変異由来のタンパクをターゲットとする能力を持っています。KRAS変異は膵臓がん患者の約90%に見られる遺伝子ですが、ターゲットとすることでがん細胞のみを効率的に攻撃することが可能になります。KRAS以外にもターゲットとなる遺伝子は数多くあります。

TP53 「がん抑制遺伝子」として知られており、多くのがんで変異が確認されています。変異TP53タンパク質は、がんワクチンのターゲットとして研究されています。
EGFR(上皮成長因子受容体) 肺がんや大腸がんなどで過剰発現や変異が確認されており、がんの増殖や進行に関わる重要な遺伝子です。
HER2(ERBB2) 乳がんや胃がんで過剰発現している遺伝子で、既存のHER2ターゲット治療に加え、mRNAワクチンでもターゲットとされています。
NY-ESO-1 多くのがんで発現するが、通常は健康な組織では発現しない「がん・精巣抗原」の一種。免疫系ががん細胞を特異的に認識できるため、ワクチンのターゲットとして注目されています。
MUC1 乳がんや膵臓がん、卵巣がんで異常に発現している細胞表面タンパク質で、免疫療法の標的として広く研究されています。
TERT(テロメラーゼ逆転写酵素) 多くのがん細胞で高い活性を示す酵素で、がん細胞の不死化に関与しています。これを標的としたmRNAワクチンの研究も進められています。

他の治療法との併用が可能

mRNAワクチンは他の治療法と組み合わせて使用することが可能です。例えば、化学療法や放射線療法と併用することで、治療の効果を高めることが期待されます。また、mRNAワクチンは標的治療薬との相乗効果を生む可能性もあります。

mRNAがコロナ禍で話題になったのはなぜか?

コロナ禍において、mRNAワクチンが注目を集めました。mRNAワクチンは、遺伝子の情報を使ってタンパク質を生成し、それに対する免疫応答を促す仕組みです。従来のワクチンとは異なり、mRNAワクチンは活性化されたウイルスを使用せずにウイルスの遺伝子の一部の情報だけを利用するため、早く開発することができ、生産が容易であるため、大量生産に適しています。この柔軟性を生かして、2020年初頭にコロナウイルス対策のために急速に開発されました。短い期間で設計され、臨床試験に成功すると、数ヶ月という驚異的な速さで全国に配布が始まりました。このスピードの速さと高い効果、安全性によって、世界中で注目されることとなり、パンデミックの流れを変える重要な役割を果たしたのです。

【臨床治験結果】他治療との併用で免疫応答の誘導を示す

コロナウイルス対策で広く知られるようになったmRNAワクチンですが、膵臓がん治療への応用についての興味深い研究結果が『Nature』誌に掲載されました。

【研究内容】
・膵管腺がんの患者16名を対象に、個別化されたmRNAワクチン「autogene cevumeran」を使用したアジュバント療法を実施。
・患者たちはmRNAワクチンと化学療法、免疫療法を併用した治療を受診。

【研究結果】
治療を受けた患者の半数に強いT細胞応答が観察され、mRNAワクチンが効果的に免疫応答を引き起こすことが確認されました。
さらに、18ヶ月にわたる追跡調査では、これらの患者が持続的な免疫反応を示し、がんの再発までの期間が延長されたことが明らかになりました。

このワクチンの作用メカニズムは、コロナウイルス用ワクチンと同様に、樹状細胞に取り込まれた後、リンパ節でキラーT細胞を活性化させるというものです。樹状細胞は免疫療法においても中心的な役割を果たしており、将来的にはこれらを使用せず、直接mRNAワクチンの投与だけで治療が行われる可能性も考えられます。この新しい治療法に対する期待が高まっています。

参考文献:https://www.natureasia.com/ja-jp/clinical/research/14490?fbclid=IwAR0IxwMZ5gsX2wLN3JbDj0YMmP3bJnnzaIDYmBPpb7bNJFeI6yxV0P9XSAo

監修医師

岡崎 能久医師

内視鏡診断/治療・研究開発

大阪大学医学部を卒業後、同大学院の修士課程を終了したのち、関西地方を中心に医療に従事、現在はプレシジョンクリニック名古屋院長として活躍中。専門は内視鏡診断および治療・研究開発。日本内科学会認定医や日本消化器病学会専門医、日本医師会認定産業医などの認定医を保有。

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