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TOP コラム 腸内細菌叢(腸内フローラ)が膵臓がんの化学療法(抗がん剤治療)の効果を高める可能性

投稿日:2023.8.11/更新日:2024.10.31

腸内細菌叢(腸内フローラ)が膵臓がんの化学療法(抗がん剤治療)の効果を高める可能性

プレシジョンクリニックグループに通院中の膵臓がん患者様は、化学療法を受けている方が多くいらっしゃいます。
化学療法は、効き具合が人によって違い、実際の効果を治療前に予測するのは困難です。
化学療法への効果を事前に予測できたり、効果を高める薬があると、どんなに素晴らしいことでしょう。
また、治療効果の差は、患者様のゲノム(遺伝子変異)の差によるのではないかと考えられがちです。
しかし、ある論文によると、治療への効果の差は実は腸内細菌叢(腸内フローラ)にあり、これが作り出す化学物質(indole-3-acetic acid (3-IAA))によることが明らかになりました。

腸内細菌叢(腸内フローラ)とは

腸内細菌叢(腸内フローラ)とは、腸内に存在する無数の微生物です。健康を維持するために不可欠で、次のような働きをします。

消化と栄養吸収を高める

腸内細菌叢(腸内フローラ)は消化を助け、栄養素の吸収を促進する重要な役割を担っています。食物繊維などの、人間の消化酵素では分解しきれない成分を分解し、その過程で発生する短鎖脂肪酸が腸の健康を支えるだけでなく、全身のエネルギー源としても利用されます。これによって腸内のpHバランスが保たれ、有害な細菌の増殖が抑えられるなど、消化器系の健康を保つ効果が期待できます。

免疫システムの調節を行う

腸内細菌は、体内の免疫システムと密接につながっています。これらの微生物は、腸壁を通じて免疫細胞にシグナルを送ることで、体が病原体やがんに対する反応を向上させます。また、一方過剰反応を抑えることでアレルギーや自己免疫反応のリスクを軽減するとともに、健康な免疫応答のバランスを維持するのに役立ちます。

代謝を調節する

腸内細菌叢(腸内フローラ)は、体の代謝にも大きな影響を与えます。腸内細菌による短鎖脂肪酸の生成によって、インスリン感受性が改善されたり血糖値が安定したりします。糖尿病などの代謝性疾患の予防や管理にも効果的です。また、腸内環境が肥満や体重管理に影響を及ぼすこともあるため、健康的な腸内細菌叢(腸内フローラ)が代謝の健康を支える一因にもなっています。

がんにおいては興味深い論文が「Nature」というトップジャーナルにオンラインで掲載されました。タイトルは「細菌叢由来の3-IAAが膵臓がんの化学療法効果に影響する」というものです。この研究は、膵臓がんの化学療法効果を高める腸内細菌叢(腸内フローラ)に注目し、必須アミノ酸であるトリプトファンが代謝されて生成される化学物質(3-IAA)が活性酸素を通じて抗がん剤の効果を高めることを発見しています。このトリプトファンを代謝する細菌叢(腸内フローラ)が今後、膵臓がんの治療において重要になるのかもしれません。

おわりに

すでに、当クリニックグループでは、腸内細菌叢に注目した治療も提案させていただいております。
化学療法だけでなく、免疫療法でも、腸内細菌叢が大事な働きをしていることが明らかになっています。

参考文献:2月25日 ガンの化学療法効果を高める細菌叢因子(2月22日 Nature オンライン掲載論文) | AASJホームページ

監修医師

岡崎 能久医師

内視鏡診断/治療・研究開発

大阪大学医学部を卒業後、同大学院の修士課程を終了したのち、関西地方を中心に医療に従事、現在はプレシジョンクリニック名古屋院長として活躍中。専門は内視鏡診断および治療・研究開発。日本内科学会認定医や日本消化器病学会専門医、日本医師会認定産業医などの認定医を保有。