投稿日:2024.2.1/更新日:2026.9.14
この記事でわかること
KRAS遺伝子変異は肺がん、大腸がん、膵臓がんに多く見られる重要な要因です。本記事では、KRAS変異の基礎知識から最新の治療法、研究の進展までを詳しく解説します。
KRAS(ケーラス)は、細胞の成長や分裂を調節する重要な遺伝子です。この遺伝子が正常に機能することで、私たちの体内の細胞は健康に保たれます。しかし、KRAS遺伝子に変異が起こると、がん細胞の異常な成長が引き起こされることがあります。
特に肺がん、大腸がん、膵臓がんでKRAS変異が高頻度で見られることが知られています。
KRAS変異は、がん治療の中で長年「治療困難なターゲット」とされてきました。その主な理由は以下の通りです。
しかし、近年ではKRAS G12C変異をターゲットとする治療薬が登場し、大きな希望をもたらしています。
KRAS G12C変異は、大腸がんや肺がんなどで多く見られる変異型です。これに対応する治療薬として、KRAS阻害剤(例:ソトラシブ、アダグラシブ)が開発されています。
KRAS変異の治療は、個々の患者に合わせた精密医療の分野で大きく進展しています。以下は治療の一例です。
治療法の選択には、がんの遺伝子解析を行い、KRAS変異のタイプを特定することが不可欠です。
KRAS変異に対する治療法は発展途上ですが、次世代の治療法として以下が期待されています。
当院の実例
手術不能の膵臓がんステージ4(肝転移)で、抗がん剤の減量後に樹状細胞ワクチン療法を併用し、原発巣と肝転移の消失・腫瘍マーカーの正常化を確認した63歳男性
膵臓がんは9割以上にKRAS変異があるとされ、G12C以外の型が大半を占めるため、承認済みのKRAS阻害薬の対象になりにくいがんです。この方は抗がん剤(ジェムザール+TS-1)を2コース行った時点で進行が停止したものの、副作用のため投与量を減量。そこで樹状細胞ワクチン療法を併用したところ、経過のなかで原発巣と肝転移の消失、腫瘍マーカーの正常化が確認されました。KRAS標的薬を待つ間も、免疫を使った治療設計で進める道があることを示す症例です。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
KRAS変異そのものが免疫療法を無効にするわけではありません。肺がんではKRAS変異があっても免疫チェックポイント阻害薬が有効な例が多く報告されています。膵臓がんでは腫瘍の環境が免疫を妨げるため、当院では放射線や抗がん剤と樹状細胞ワクチン療法を組み合わせて設計します。
2026年時点で日本で承認されているKRAS阻害薬はG12C変異向けです。G12DやG12Vなど他の型に対しては複数の薬が治験中で、米国では2026年に膵臓がん向けの多変異型RAS阻害薬が承認されました。当院のRAS変異がん専門外来で、変異の型ごとに最新の状況を整理します。
遺伝子パネル検査(組織)または血液で調べるリキッドバイオプシーで判定できます。検査の実施と結果の読み解き、治験や自費治療への橋渡しまで、当院の担当医が行います。
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。