2024.2.1
進行・再発大腸がんは命に関わる病気ですが、日々治療法が進化しています。
本記事では、免疫療法・プレシジョンメディシンに焦点を当て、今日の大腸がんにおける免疫療法について掘り下げていきます。
進行・再発大腸がん治療における免疫療法の多くは、患者さま一人ひとりのがん遺伝子の特徴によって選択されます。
また、患者さまの既往歴(どのような持病を持っているか)や患者さまの医療条件も考慮されるため、免疫療法特有の専門的な判断が必要となることが前提です。
ここでは、免疫療法が有効とされる三つの主要な条件について解説します。
大腸がんにおける免疫療法の判断基準の一つに、「ミスマッチ修復機能欠損(dMMR)」があります。
これはがん細胞がDNAのコピー時に発生する自然なミスを修復する能力が損なわれている状態です。
dMMRは大腸がん患者さまの約15%(欧米の場合)に見られ、非常に高い変異負荷(がん細胞の遺伝子の異常(変異)の量)を持っているとされています。
高い変異負荷は、がん細胞が異常なタンパク質を大量に生成し、これが免疫療法により認識されやすくなります。
このため、dMMRのある大腸がんは免疫療法によって治療できる可能性が高く、特にPD-1阻害薬などの免疫チェックポイント阻害薬が有効であるとされています。
PD-L1は、がん細胞が免疫系の攻撃から逃れるために利用するタンパク質です。
大腸がんの中でも、PD-L1の発現が高いがんは、免疫チェックポイント阻害薬による治療が推奨されています。
治療では、PD-1やPD-L1を標的とする薬剤を使用し、がん細胞の免疫回避機能を無効化することが可能です。
この治療法は、PD-L1の発現が高いことが確認された患者さまにおいて、他の治療法に比べて効果を示すことが多いです。
また、PD-L1発現検査は治療前に行われることが一般的であり、この結果に基づいて最適な治療法を選択していきます。
進行性または難治性の大腸がん患者さまにおいて、免疫療法が重要な選択肢の一つとなることがあります。
従来の化学療法や放射線療法、すなわち標的治療薬が困難な場合、免疫療法による治療が考えられます。
免疫療法は、従来の化学療法とは異なり、体内の免疫の働きを利用した新しいがん治療のアプローチです。
患者さまの体内でがんに対する免疫系を活性化させ、がん細胞を攻撃させます。
免疫療法には免疫チェックポイント阻害剤と免疫の細胞そのものを強化する免疫細胞療法があります。
免疫チェックポイント阻害薬はPD-1やPD-L1阻害薬がよく知られていますが、がん細胞が免疫応答から逃れるために利用するタンパク質の作用をブロックし、がんに対する免疫応答を強化します。
一方、免疫細胞療法はがんを攻撃する主役であるキラーT細胞(CTL)を増やすことによって、免疫応答を強化します。
進行性または難治性のがんでは、これらの薬剤・療法によって生存期間の延長が期待できるケースが多く報告されています。
ここでは、免疫療法における免疫チェックポイント阻害薬やがんワクチン、免疫細胞療法について解説します。
それぞれの治療法がどのように機能し、がん治療においてどのような利点をもたらすのかをご紹介します。
免疫チェックポイント阻害薬は、現在免疫療法における主軸となります。
免疫チェックポイント阻害薬によって、免疫のブレーキを解除することで、免疫系ががん細胞を認識して攻撃できるようにします。
主にPD-1、PD-L1、CTLA-4といった免疫チェックポイントを標的とし、これらの阻害薬によりがん細胞に対する免疫反応が増強され、治療効果が向上する仕組みです。
特に、ミスマッチ修復機能欠損や高い変異負荷を持つがんにおいて有効とされています。
がんワクチンには、予防がんワクチンと治療がんワクチンの二種類があります。
予防がんワクチンは、主にヒトパピローマウイルス(HPV)や肝炎ウイルスなど、がんを引き起こす可能性のあるウイルスに対する免疫を強化し、がんの発症を予防します。
一方、治療がんワクチンは既に発症したがんを対象とし、患者自身の免疫系を活性化させることで、がん細胞を攻撃し、病状の進行を抑えることを目的としています。
予防がん ワクチン |
ヒトパピローマ ウイルス(HPV) ワクチン |
主に子宮頸がんを引き起こすHPVに対抗するために使用。 高リスク型HPVに対する免疫を構築し、子宮頸がんだけでなく、 他のHPV関連がん(肛門がん、陰茎がん、咽頭がんなど)のリスクを 減少させる効果が期待できる。 |
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B型肝炎ウイルス(HBV)ワクチン | B型肝炎ウイルスによる感染を防ぐために使用。 肝臓がん(肝細胞がん)の予防に効果が期待できる。 |
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治療がん ワクチン |
Sipuleucel-T (プロベンジ) |
進行性の去勢抵抗性前立腺がんの治療に使用。 がんの進行を遅らせ、生存期間を延ばす効果が期待できる。 |
DCVax®-L | 膠芽腫(GBM)などの脳腫瘍に使用。 DCVax-Lと標準療法の併用が、新規診断膠芽腫と 再発膠芽腫のどちらに対しても全生存期間(OS)を延長。 |
免疫細胞療法は、患者さまから採取した免疫細胞を体外で増やし、改良した後に再び患者さまに戻すことによってがんに対抗する方法です。
この治療法には様々な技術がありますが、中でもCAR-T細胞療法が注目されています。
T細胞にがん細胞特有のターゲットを認識する受容体を組み込むことにより、効率的にがん細胞を標的として攻撃します。
その他、TCR-T細胞療法、TIL療法、がんワクチンで応用されている樹状細胞ワクチン療法、NK細胞療法等、免疫細胞療法は、特に再発性または難治性のがんに対して、新しいアプローチで他の治療方法では得られない効果が期待できるとされています。
プレシジョンクリニックでは、ゲノム検査に基づいた免疫療法、分子標的薬治療であるプレシジョンメディシンを提案しています。
プレシジョンメディシンとは精密医療と訳され、患者さまのゲノム情報(DNA配列)を基にした個別化医療です。具体的には、患者さまの遺伝子の変異や特性を詳細に分析し、その情報をもとに病気の診断、治療、予防策を提案するアプローチ方法です。
大腸がんに対して、このゲノム医療とも言われるプレシジョンメディシンの治験結果が発表され、遺伝子パネル検査でMSI-H(陽性)を示した患者さまに対するオプジーボとヤーボイの免疫療法が化学療法単独治療を上回る2年無増悪生存率が期待できることがわかりました。
日本がん対策図鑑 | 【MSI-H大腸がん:一次治療(PFS)】「オプジーボ+ヤーボイ」vs「化学療法」
我々が取り組んできたコンセプトであるプレシジョンメディシン、その中でも免疫療法の結果の証明でもあり、勇気づけられた結果になります。
大阪大学医学部を卒業後、同大学院の修士課程を終了したのち、関西地方を中心に医療に従事、現在はプレシジョンクリニック名古屋院長として活躍中。専門は内視鏡診断および治療・研究開発。日本内科学会認定医や日本消化器病学会専門医、日本医師会認定産業医などの認定医を保有。
略歴:
2001/3
大阪大学医学部卒業
2001/6
大阪大学医学部附属病院内科研修医
2002/6
大阪厚生年金病院 内科 研修医