投稿日:2026.10.22/更新日:2026.10.23
この記事でわかること
乳がんと診断された時、治療法の選択肢や日々の生活、そして未来について、多くの患者さまが様々な不安や期待を抱かれることと思います。医療の世界では、こうした皆さんの願いに応えるべく、研究開発が絶えず進められています。今月も、乳がん診療に関わる大切なニュースがいくつか報じられました。新しい治療の可能性から、診断技術の進展、そして医療の安全に関する重要な話題まで、一緒に見ていきましょう。
ER陽性HER2陰性の早期乳癌に対する新たな治療薬の可能性が報じられました。これは、選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレーター(SERD)と呼ばれる薬剤「giredestrant」に関する研究結果です。 この研究はASCO 2026という学会で発表されたフェーズ2試験のデータです。giredestrantが、標準的な内分泌療法と比較して、閉経前・閉経後にかかわらず浸潤性疾患のない生存期間(IDFS)を改善する効果を示したことが分かりました。IDFSとは、がんの再発や転移が起こらずに過ごせる期間を指します。 何が新しいかというと、この薬が経口で投与できる点です。これまでのSERDは注射薬が主流でした。経口薬は患者さまの通院負担を減らし、治療の利便性を高める可能性があります。 今すぐ臨床で広く使える話ではありませんが、将来の乳がん治療に新たな選択肢をもたらす可能性を秘めています。ゲノム解析に基づいた個別化医療の進展の一つとして、注目される分子標的治療薬です。当院でも、内分泌療法中の患者さまから、治療の副作用や通院負担についてご相談をいただくことがあります。新しい治療法が開発されることで、患者さまの生活の質が向上することを期待しています。もし気になるようでしたら、主治医に今後の研究進捗について尋ねてみてください。
がん遺伝子の一つであるRASを標的とする、新しいタイプの抗がん剤候補が開発されたというニュースがありました。長崎大学のチームが、タンパク質型抗がん剤候補が免疫細胞と協力して腫瘍を消失させる新たな作用機序を解明したものです。 RAS遺伝子変異は、多くのがん種で見られ、治療が難しいとされてきました。これまでのRAS阻害薬とは異なる、免疫細胞と協調する作用機序は、新しいがん治療のアプローチとして期待されます。 これは基礎研究段階の成果であり、今すぐ臨床で使える薬ではありません。しかし、乳がんを含め、様々ながん種への応用が期待される研究です。ゲノム解析によって患者さまの乳房がんの遺伝子変異を特定し、それに合った分子標的薬や免疫療法を組み合わせる個別化医療の発展につながる発見と言えるでしょう。ゲノム医療や新しい治療法に興味があれば、主治医に相談してみてください。
だ液によるがんリスク検査「サリバチェッカー」の普及に関するイベントレポートが報じられました。これは、非侵襲的で手軽にがんのリスクを評価できる検査として注目されています。 何が新しいかというと、だ液という身近な検体で、乳がんを含む複数のがんリスクを評価できる点です。早期発見は乳がん治療において非常に重要であり、このような検査が普及すれば、より多くの人ががんの早期発見につながる機会を得られるかもしれません。 この検査はすでに実用化されています。しかし、その精度やご自身の状態に適しているかは、主治医とよく相談することが大切です。検査のメリットやデメリット、そして結果の解釈について、疑問があれば主治医に確認しましょう。プレシジョンクリニックグループでも、早期発見技術の進展は個別化医療の入り口として重要だと考えています。
滋賀県東近江市の蒲生医療センターで進められている乳がん病棟の増築工事が、中東情勢の影響で遅れる見通しだと報じられました。9月に完了予定だった工期が延期されるとのことです。 乳房がんの専門的な治療を受けられる施設は、地域によって限られることがあります。このような工事の遅れは、患者さまの治療開始時期や通院計画に影響を及ぼす可能性があります。私たちの外来でも、遠方から治療のために来院される乳がん患者さまがいらっしゃいます。地域医療のインフラ整備は、安定した医療提供のために不可欠です。もし治療計画に不安がある場合は、主治医に地域の医療連携体制や、万が一の際の代替手段について尋ねておくことをお勧めします。
埼玉県の越谷市立病院で、がん治療薬の投薬に関わる注意義務を怠ったとされる医療事故について、市が遺族と和解する方針が報じられました。肺に異常が出た場合に投薬を中止すべき薬を、肺に症状が出た後も継続していたという事例です。 がん治療では、薬の効果と副作用のバランスを常に考慮することが重要です。乳がん治療でも様々な薬剤が用いられ、それぞれに特有の副作用があります。医療機関は、患者さまの安全を最優先に、薬剤の適切な使用と副作用の厳重な管理を行う義務があります。 患者さまご自身も、体調の変化に気づいたらすぐに医療スタッフに伝えることが大切です。服用している薬剤の副作用について、疑問や不安があれば遠慮なく主治医や薬剤師に尋ねましょう。ご自身の体と治療について積極的に知る姿勢が、安全な医療を受ける上で役立ちます。
自由診療の枠組みで遺伝子治療を提供していた全国の診療所を調査した結果、33施設で遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(通称:カルタヘナ法)違反が見つかったと報じられました。 遺伝子治療は、乳がんを含む一部のがん種で研究が進められている、個別化医療の新しい技術の一つです。しかし、その安全性と倫理性を確保するためには、厳格なルール遵守が求められます。遺伝子組換え生物の適切な管理は、患者さまだけでなく、社会全体の安全を守るために不可欠です。 このニュースは、未承認の治療や高額な自由診療を検討する際に、その治療が科学的根拠に基づいているか、安全性が確保されているかを慎重に確認することの重要性を示しています。プレシジョンクリニックグループでは、ゲノム医療の発展には、安全と倫理の確保が不可欠だと考えています。もし怪しい治療法に関する情報を見聞きした際に、主治医の意見を聞いてみるのも良いでしょう。
当院の実例
乳がんステージ4の皮膚転移に樹状細胞ワクチンを局所注射し、転移巣が消失した61歳女性
乳がんの皮膚転移に対して、樹状細胞ワクチンを転移巣へ直接注射する局所投与を行いました。その結果、皮膚転移巣の消失を確認しています。皮膚転移は目に見える場所にあるため、患者さまご自身が変化を確認しやすい部位です。全身の薬物療法を続けながら、届きやすい病変に局所で働きかけるという設計の一例です。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
今月は、乳がん治療の新たな地平を拓く研究から、日々の診療における医療安全、そして地域医療の基盤に関わるニュースまで、多岐にわたる話題をお届けしました。新しい分子標的薬の開発やRAS遺伝子を標的とする研究は、ゲノム解析に基づいた個別化医療の進展を示しています。プレシジョンクリニックグループでは、こうした最新の知見に常に目を向け、患者さま一人ひとりの乳房がんの特性に合わせた最適な治療法を追求しています。私たちは、安全で質の高い医療を提供し、患者さまが安心して治療に専念できるよう、医療スタッフ一同、日々研鑽を重ねています。ご不明な点やご不安なことがあれば、いつでもご相談ください。
ホルモン受容体陽性乳がんで、エストロゲン受容体を分解する飲み薬です。注射のフルベストラントと同じ働きを内服で行うもので、開発が進んでいます。適応や使える時期は主治医にご確認ください。
トリプルネガティブ乳がんでは免疫チェックポイント阻害薬が保険で使えます。ホルモン受容体陽性やHER2陽性でも、当院ではホルモン療法や抗HER2療法に樹状細胞ワクチン療法を重ねて長期に経過している方を経験しています。サブタイプごとに設計が変わります。
できます。副作用で治療が続けられなくなることは、結果として治療効果にも影響します。当院では減量や休薬の判断と並行して、負担の少ない免疫療法で治療を途切れさせない設計を検討します。ご相談は無料です。
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。