投稿日:2026.6.1/更新日:2026.9.21
この記事でわかること
肺がんと診断されたとき、治療法の進歩がご自身の状態にどう当てはまるかは最も切実な関心事です。近年の肺癌治療は、遺伝子変異や免疫環境に合わせた精密医療へと大きく舵を切っています。当グループでも遺伝子解析に基づく治療提案を重視しています。今月報告された最新の臨床試験や基礎研究の成果から、今後の治療選択に役立つポイントをわかりやすく解説します。
PD-L1陽性の進行非小細胞肺がんに対して、抗TROP2抗体薬物複合体と免疫チェックポイント阻害薬の併用が有効性を示しました。中国で実施された第3相臨床試験において、ペムブロリズマブ単剤療法と比べて無増悪生存期間を有意に延ばす結果が得られました。
この試験で検証された薬剤は、sacituzumab tirumotecanという抗TROP2抗体に抗がん剤を結合させた薬剤です。がん細胞の表面に多く発現するTROP2を目印にして、がん細胞へ直接抗がん剤を届ける仕組みを持ちます。免疫の働きを高めるペムブロリズマブと同時に投与することで、相乗的な治療効果が期待されています。
私たちの外来でも「一次治療でどの免疫療法を選ぶべきか」というご質問をよく受けます。現在は海外の臨床試験段階ですが、今後日本国内での承認申請が進めば、初回治療の有力な選択肢になる可能性があります。抗体薬物複合体と免疫療法の組み合わせについて気になる方は、主治医や当グループにご相談ください。
中四国地方を中心とする13の医療機関が連携し、切除が難しい局所進行肺がんを対象とした医師主導治験を始めました。標準治療の効果をさらに高めながら、治療に伴う副作用を軽減することを目指した新しい取り組みです。
局所進行期の非小細胞肺がんでは、放射線治療と抗がん剤を同時に行う化学放射線療法が標準的に選択されます。しかし、一定の頻度で再発を認めたり、放射線による肺臓炎などの副作用が問題になったりすることがあります。今回の治験では、既存の治療に新薬を加えることで、治癒率の向上と安全性の両立を検証します。
当院でも患者さんから「標準治療以上の選択肢はないのか」と相談される場面が少なくありません。地域の中核病院が協力して行う医師主導治験は、既存の治療で効果が不十分な患者さんにとって大きな希望となります。対象となる条件や参加の可否については、通院中の主治医へ確認してみるとよいでしょう。
長崎大学の研究チームが、難治性がんの原因となるRAS遺伝子変異を直接標的とする新しいタンパク質型抗がん剤候補を開発しました。腫瘍細胞の増殖を抑えるだけでなく、体内の免疫細胞と協力して腫瘍を退縮させる仕組みが明らかになりました。
RAS遺伝子の変異は、非小細胞肺がんの中でも特に腺がんで高頻度に認められる異常です。これまでRASタンパク質は構造上の理由から薬剤が結合しにくく、標的治療の開発が極めて困難とされてきました。研究グループは特殊なタンパク質製剤を用いることで、細胞内のRAS変異体へ効率的に結合させる技術を確立しました。
この薬剤はマウスを用いた前臨床試験の段階であり、ヒトへの投与には今後の治験を待つ必要があります。とはいえ、がん免疫を同時に活性化させる作用機序は、将来の複合治療において大きな可能性を秘めています。ゲノム検査でRAS変異が判明した際の選択肢について知りたい方は、お気軽に当グループへお尋ねください。
小細胞肺がんの治療では、標準治療の枠組みを理解した上で、個々の生活環境や価値観に合わせた治療設計が求められます。特に脳への予防的照射に関しては、有効性と生活への影響を慎重に天秤にかける必要があります。
小細胞肺がんは進行が速く、初期治療が奏効した後でも脳への転移を起こしやすい特徴があります。そのため、脳転移を予防する目的で全脳照射を行う治療法がガイドラインで推奨されてきました。一方で、照射に伴う認知機能の低下や疲労感などを懸念し、定期的なMRI検査による厳重な経過観察を選ぶ患者さんもいます。
外来でも「ガイドライン通りの治療をすべて受けるべきか」と悩まれる患者さんが多くいらっしゃいます。画一的な適応ではなく、患者さんの年齢や仕事、生活の優先順位を考慮して方針を決めることが重要です。治療のメリットと身体への負担について疑問があれば、遠慮なく医療スタッフに相談してください。
今月は抗TROP2薬による免疫療法の強化、局所進行肺癌に対する多施設共同治験、RAS標的治療の基盤研究など、多方面で前進が見られました。肺がん治療は画一的なアプローチから、腫瘍微小環境やゲノム情報に応じた個別化医療へと進化しています。プレシジョンクリニックグループは、創業以来肺がんの診療と研究に最も注力してきました。
当グループでは最新の遺伝子解析を駆使し、患者さん一人ひとりに適した精密医療の実績を積み上げています。ご自身に最適な治療戦略を見つけたいときは、いつでも当グループへご相談ください。
当院の実例
間質性肺炎と高齢のため「積極的な治療は難しい」とされた肺がんステージ4に樹状細胞ワクチン療法を行い、転移巣が縮小し酸素が毎分5リットルから0.5リットルへ減った80歳男性
胸膜播種・肝転移・骨転移を伴う肺がんステージ4で、間質性肺炎と高齢のため主治医のもとでは対症療法の方針となっていた方です。呼吸苦と背部痛で入院し、胸水ドレナージ・持続酸素・疼痛コントロールを受けていました。ご本人の「治療をしたい」という希望を受け、体への負担の少ない樹状細胞ワクチン療法(4か月・7回)を開始。右肺の原発・胸膜播種・肝転移・骨転移の著明な縮小を画像で確認し、呼吸苦は劇的に改善、持続酸素は毎分5リットルから0.5リットルまで減量できました。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
TROP2を標的にするADCは、日本では乳がんで先に承認され、肺がんでは臨床試験と承認申請が進んでいる段階です(2026年時点)。PD-L1陽性の非小細胞肺がんで免疫チェックポイント阻害薬との併用が無増悪生存期間を延ばしたという記事の結果は中国の試験で、日本での承認は今後の課題です。主治医または当院で最新の状況をご確認ください。
あります。樹状細胞ワクチン療法は、ご自身の免疫細胞を使う治療で重い副作用がほとんどなく、間質性肺炎や高齢で抗がん剤が難しい方にも検討できます。本記事の実例のように症状の改善が得られる方もいますが、効果には個人差があります。抗がん剤が使えない理由と現在の状態をうかがったうえでご提案します。
組み合わせられます。放射線で壊れたがん細胞の成分を免疫が学習する「アブスコパル効果」を狙って、当院では放射線治療をスイッチとして樹状細胞ワクチン療法や免疫チェックポイント阻害薬と組み合わせています(アブスコパル効果の解説、肺がんの分子標的薬と副作用)。
【監修】矢﨑雄一郎(プレシジョンクリニック東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア)
【免責事項】本記事は2026年05月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者様への診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、必ず主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年8月28日