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TOP コラム 脳腫瘍治療2026年5月|次世代ウイルス治験やIDH標的薬など3つの進展

投稿日:2026.6.1/更新日:2026.8.28

脳腫瘍治療2026年5月|次世代ウイルス治験やIDH標的薬など3つの進展

この記事のポイント

  • 東大医科研が抗VEGF抗体を発現する新ウイルスT-BVの第1相治験を開始。
  • IDH変異陽性グリオーマに対し分子標的薬ボラシデニブの実用化が進展。
  • 昭和医科大学が脳腫瘍による言語障害の個人差に右半球構造が関与すると発表。

脳腫瘍の診断を受けた患者さんやご家族は、日々の症状や今後の選択肢に不安を感じながら治療と向き合っています。近年は遺伝子解析や腫瘍周囲の環境に着目した治療開発が進み、少しずつ新しい選択肢が見えてきました。今月は国内で始まった新しい治験情報や、遺伝子変異を標的とする薬剤の動向、後遺症の解明につながる研究成果をお届けします。

新規ウイルス製剤T-BV、悪性神経膠腫を対象に第1相医師主導治験を開始

東京大学医科学研究所は2026年5月20日、悪性神経膠腫を対象とした新規がん治療用ウイルス製剤T-BVの第1相医師主導治験を開始したと発表しました。初期治療後に再発した進行例を対象として、投与時の安全性や忍容性を確かめる第1段階の臨床試験です。

本製剤は、がん細胞の中だけで増殖して細胞を破壊する遺伝子改変ヘルペスウイルスを基盤に開発されました。最大の特徴は、ウイルス自体に抗VEGFモノクローナル抗体であるベバシズマブの遺伝子配列が組み込まれている点です。ウイルスが腫瘍細胞を破壊しながら、局所でベバシズマブを産生します。

従来のウイルス療法では、腫瘍が壊れる過程で強い炎症が起こり、脳浮腫や腫瘍の腫れが悪化することが課題でした。T-BVは病変内部で血管新生を抑える抗体を直接放出するため、脳浮腫を和らげつつ抗腫瘍免疫を活性化する効果が期待されています。

当院でも患者さんから「新しいウイルス治療はすぐに受けられますか」と質問されることがあります。この治療は現在、東大医科研病院で第1相治験が始まった研究段階の医療です。安全性と適切な投与量が確認された後、有効性を評価する段階へと進みます。

膠芽腫をはじめとする悪性脳腫瘍に対して、腫瘍微小環境を局所から制御する試みは意義深い進展といえます。参加条件や適応基準は厳密に定められているため、治験への参加に関心がある場合は主治医や当グループにご相談ください。

IDH変異陽性グリオーマに対する分子標的薬ボラシデニブの臨床展開

変異型IDH1またはIDH2を有する神経膠腫(グリオーマ)に対し、経口分子標的薬ボラシデニブの臨床導入が進んでいます。本薬剤は腫瘍細胞の増殖を促す異常な代謝物質の産生を抑える治療薬であり、血液脳関門を効率よく通過するよう設計されています。

従来の抗がん剤治療や放射線治療は、腫瘍全体へのダメージを狙うアプローチが中心でした。一方でボラシデニブは、がん遺伝子パネル検査などでIDH遺伝子変異が確認された特定の患者さんに対して直接作用します。不要な副作用を抑えつつ、病気の進行を遅らせる効果が期待されます。

私たちの外来でも「遺伝子検査で自分の腫瘍に合う薬は見つかりますか」と来院される方が増えています。グリオーマの治療方針を決めるうえで、手術で採取した検体のゲノム解析を行うことは今や標準的な手順となりつつあります。

ボラシデニブはすでに検証試験を経て承認プロセスが進んでおり、実臨床での活用が現実味を帯びてきました。治療の開始時期や対象となる病期については個別の判断が必要です。ご自身の腫瘍におけるIDH遺伝子変異の有無や適応の可能性については、担当医へ確認してみるとよいでしょう。

脳腫瘍による言語障害の個人差、右半球の神経構造が関与と昭和医科大が発表

昭和医科大学などの研究グループは、脳腫瘍によって左半球の言語領域が損傷された際、右半球の構造的な特徴が言語機能の維持に関係していることを突き止めました。病変の大きさが同程度であっても症状の重さに差が出る理由を説明する研究成果です。

左脳に腫瘍が発生すると、言葉が出にくくなったり理解が遅れたりする言語障害が生じやすくなります。研究チームは脳の神経線維の連絡性を画像解析技術で詳しく調べました。その結果、右脳の特定経路が発達している患者さんほど、言語処理の速度が保たれやすい傾向が確認されました。

この知見は基礎研究の段階ですが、将来の手術計画やリハビリテーションの個別化に役立つ可能性があります。右脳の予備能力を術前に評価できれば、より安全な切除範囲の設定や、退院後の回復プログラムの最適化につながると期待されます。

外来診療でも「手術後に言葉の障害がどの程度残るのか不安です」という切実な声を多くいただきます。脳は障害を受けた領域の機能を他の部位が補い合う柔軟性を備えています。後遺症の不安や術後のリハビリ計画について気になる点があれば、医療スタッフへ気軽に質問してください。

まとめ

脳腫瘍の治療は、標準治療に加えて遺伝子変異に応じた標的治療や次世代のウイルス製剤の開発により、個別化の方向へ着実に前進しています。脳腫瘍はプレシジョンクリニックグループが創業以来最も力を入れて取り組んでいるがん種の一つです。

当グループでは、がんゲノム医療や腫瘍微小環境を標的とする先端医療の実績を積み重ねてきました。患者さん一人ひとりの病状と遺伝子プロファイルに合わせた最適な選択肢の提示を大切にしています。治療の選択肢やセカンドオピニオンについてお気軽にご相談ください。

参考にした記事

【監修】矢﨑雄一郎(プレシジョンクリニック東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア)

【免責事項】本記事は2026年05月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者様への診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、必ず主治医または専門医にご相談ください。

【最終更新日】2026年8月28日