投稿日:2024.3.31/更新日:2024.10.22
2024年4月5〜10日に米国サンディエゴで開催された2024年度米国癌学会総会(AACR Annual Meeting 2024)において、樹状細胞ワクチン療法に放射線治療と免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ、ヤーボイ)を組み合わせた当グループ独自の複合免疫療法(The iCCI: innovative combination cancer immunotherapy)の成果に関するポスター発表が行われました。
Abstract 3741: Helper/killer hybrid epitope long peptide (H/K-HELP) cancer vaccine augments Th1-dependent CTL induction at tumor-draining lymph node to eradicate solid tumor: its application to develop an innovative combination cancer immunotherapy(iCCI) | Cancer Research | American Association for Cancer Research
本記事では、この樹状細胞ワクチン療法について詳しくご紹介します。
樹状細胞ワクチン療法は、がんの進行をピンポイントで抑制し、進行がんの抑制、再発を予防する可能性があるがん治療方法です。
患者様自身の樹状細胞を利用してがん細胞に対する免疫反応を強化・維持し、効果を最大限に引き出すことを目指します。
ここでは樹状細胞ワクチン療法の基本的な概念や仕組みについて解説します。
樹状細胞ワクチン療法では、まず患者様から血液を採取し、その中から樹状細胞になる単球と呼ばれる細胞を分離します。
分離した樹状細胞(単球)は体外で特定のがん抗原とともに培養され、がん抗原に反応するように成長させます。
成長した樹状細胞は再び患者様の体内に注入され、樹状細胞によって活性化されたがん抗原に反応するT細胞ががん細胞を特定し、攻撃するように導きます。
この樹状細胞による免疫反応は、転移したがん細胞を含めて全身に飛び散ったがん細胞を攻撃する能力を持っています。
免疫システムには「特異的免疫」と「非特異的免疫」の二つの防御機能があります。
「非特異的免疫」は、体内に侵入した異物に対して即座に反応する一方で、「特異的免疫」は特定の異物に対して反応します。
樹状細胞ワクチン療法は、特異的免疫に該当し、樹状細胞が特定のがん抗原に対してT細胞を訓練することで、ピンポイントでより効果的な免疫反応を引き出すことが可能です。
樹状細胞ワクチン療法と一般的なワクチン(例えばインフルエンザワクチン)との主な違いは、細胞を用いているのか、どのような抗原を用いるかによります。
インフルエンザワクチンはウイルスそのものを投与し、体内の樹状細胞を働かせることで免疫を高める仕組みです。
その場合、体外で確実に樹状細胞を刺激した樹状細胞ワクチン療法に比べると、その投与された体の体調次第になってしまう可能性があります。
がんワクチンも同様の可能性があります。
抗原については、当グループの樹状細胞ワクチンは特定のがん抗原のうち、最もがんに反応する部分に対応するように個別設計されています。
これにより、患者様一人ひとりのがんの特性に深く対応し、効果的な治療結果を目指すことが可能になります。
この個別化医療が、樹状細胞ワクチン療法の最大の強みとされています。
樹状細胞ワクチン療法の特徴は数多くあります。
ここでは、6つの特徴について詳しく解説します。
樹状細胞ワクチン療法の最大の特徴は、副作用が非常に少ないことです。
従来の化学療法や放射線療法では、脱毛や嘔吐、疲労感などの副作用が起こることが一般的ですが、樹状細胞ワクチン療法ではこれらの症状がありません。
この療法で使用される樹状細胞は患者様自身のものであり、体が異物として反応することがなく拒絶反応が起こるリスクがないからです。
ただし、注射部位に軽度の発赤や痛み、発熱が生じることがありますが、一時的なものですぐに消失します。
またこの反応は免疫が作られ、がんと闘ってくれているという指標にもなります。
樹状細胞ワクチン療法のもう一つの大きな特徴は、入院の必要がないことです。
この治療は外来で行うことが可能で、患者様は日常生活に大きな影響を与えることなく治療を受けることができます。
最初に樹状細胞を取り出す成分採血を3時間程度かけて行いますが、その後の治療は、10分程度で完了します。
そのため、患者様の時間的、精神的負担が軽減され、日常生活を維持しながら治療を受けることが可能です。
樹状細胞ワクチン療法は他の治療法と併用することが可能です。
これにより、患者様のがんの種類や進行度に応じて、最適な治療を提案することができます。
例えば、樹状細胞ワクチンを免疫チェックポイント阻害剤や放射線治療、化学療法と組み合わせることで、治療効果を高めることが期待できるのです。
当グループが取り組んでいる樹状細胞ワクチン療法に放射線治療と免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ、ヤーボイ)を組み合わせた複合免疫療法(The iCCI: innovative combination cancer immunotherapy)、がん細胞をより強力に、より適切に攻撃することを可能にし、がん治療の成功率を高める可能性を秘めています。
また、樹状細胞ワクチン療法は副作用がほとんどないため、他の強力な治療法との併用による体への負担を軽減する可能性もあります。
樹状細胞ワクチン療法は、一度の治療で長期間にわたる効果が期待できる免疫治療法です。
樹状細胞は、体内で免疫の記憶細胞を刺激することで、がん細胞が体内に現れた際に迅速に反応することが可能です。
そのため、治療後も体はがん細胞を識別し続け、数年間にわたってがんの抑制が期待できます。
長期間に渡って効力を維持することは、がん患者様にとって再発の不安を軽減し、安定した生活を送るために重要となります。
樹状細胞ワクチン療法は、がんの再発や転移を防ぐ効果が期待できます。
樹状細胞によって活性化されたT細胞は、体内で記憶細胞として残りつつ、がん細胞を特定して攻撃する能力を持つため、治療後も数年間にわたって体内でがん細胞が発生することを防ぎます。
また、当グループの樹状細胞ワクチンは、がん細胞が微妙に変化しても、新たな変異に対しても反応を示すと考えられています。
樹状細胞ワクチン療法は、原発性のがんだけでなく、転移したがんへの治療にも有効です。
この治療法で用いる樹状細胞は、体内のあらゆるがん細胞に対して免疫応答を促すため、転移部位がどこであろうと効果を発揮します。
また、転移先のがん細胞が異なる抗原特性を持つ場合でも、当グループの樹状細胞はがんの特徴となす情報をT細胞に伝え、適切な免疫応答を引き出すことができると考えられます。
これにより、転移がんに対しても対抗することができるのです。
樹状細胞ワクチン療法にはいくつかのタイプがあり、がんの種類や患者様の遺伝子の状態に合わせて設計されています。
これらの種類や特徴は、次の表のとおりです。
療法 | 特徴 | 適用可能ながんのタイプ |
---|---|---|
自己がん組織樹状細胞ワクチン療法 | 患者様自身のがん組織から抽出した抗原を使用 | 患者様一人ひとりのがん特性に対応 |
人工抗原樹状細胞ワクチン療法/ペプチド感作樹状細胞ワクチン | がん抗原ペプチドやタンパク質を利用 | 特定の抗原に対して特化 |
局所樹状細胞ワクチン療法 / 腫瘍内局注樹状細胞療法 | 樹状細胞を腫瘍に直接注入 | 腫瘍が特定の部位に存在している場合 |
樹状細胞ワクチンの進め方は、アフェレーシス(成分採血)、細胞の培養、ワクチンの投与の順に実施されます。
ここでは、それぞれの段階の詳細について解説します。
アフェレーシスとは、患者様の血液から特定の成分を選択、分離して取り出す方法です。
樹状細胞ワクチン療法においては、白血球のうち単球を含む免疫細胞の部分が対象となります。
血液を機械に通して必要な細胞を採取後、残りの血液を患者様に戻します。
治療の初期段階で行われ、採取した免疫細胞を培養していきます。
次に、採取した免疫細胞を培養していきます。
この段階で、樹状細胞に対して患者様のがんの特徴に合った特定のがん抗原が導入され、細胞はがんの特徴(抗原)を認識して攻撃できる状態に変化します。
培養は数週間に渡って行われ、この期間に細胞は成熟、活性化し、最終的には免疫応答を効果的に引き起こすために必要なすべての特性を持つようになります。
培養された樹状細胞はワクチンとして患者様に投与されます。
この投与は皮内注射またはがんへの直接注射になりますが、投与された細胞はリンパの流れに乗ってリンパ節に移動し、そこで患者様の免疫システムを刺激します。
樹状細胞は体内(のリンパ節)で強力に免疫を活性化させ、ターゲットとなるがん細胞に対して効果的に戦うためのT細胞を作り、増やし、そして維持させます。
樹状細胞ワクチン療法は、がん治療におけるプレシジョンメディシン(精密医療)、個別化医療の一形態として注目されています。
副作用が少なく入院の必要もないため、患者様の生活を維持しながら治療を受けることが可能です。
樹状細胞ワクチン療法にはさまざまな方法があり、それぞれが患者様のがんタイプに最適化されています。
がん治療の成果を最大限に高めることが期待できる、あなたに合ったおすすめのがん治療法の一つです。
【監修者】矢﨑 雄一郎
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、現在はプレシジョンクリニック神戸院長として活躍中。専門分野は一般外科及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。
略歴:
1996/3
東海大学医学部卒業
1996/4
東海大学附属病院消化器外科勤務
2000/11
遺伝子解析企業ヒュービットジェノミクス株式会社入社