2024.10.22
西川伸一先生が運営するAASJにおいて、中外製薬が開発中の有望なペプチド医薬型RAS阻害剤が紹介されたことは、私の記憶に新しいです。(2023年12月31日 | AASJホームページ)
世界的に、RAS阻害剤の開発はますます活発化しています。
現在、KRASG12C変異をターゲットにした薬剤として承認されているのは、ソトラシブ(G12C変異専用)だけです。そのため、遺伝子パネル検査を受けても、適応する薬がある患者様は全体の約15%程度にとどまっています。
しかし、近い将来、マルチセレクティブRAS阻害剤の登場により、多くの患者様に対してより効果的な治療が提供できる可能性があります。中外製薬の独創的な技術で開発中の環状ペプチドRAS阻害剤は、耐性が出現しにくいという特徴があるかもしれません。現在、この薬剤はPhase 1試験を終了し、次の開発段階に進んでいます。
『Concurrent inhibition of oncogenic and wild-type RAS-GTP for cancer therapy』(Nature, 2024年4月8日号)によれば、RASがん遺伝子(特にKRAS)は、がんで最も頻繁に変異する遺伝子の一つです。一般的なドライバー変異は、コドン12、13、そして611に見られます。
KRAS(G12C)オンコプロテインを標的とする小分子阻害剤は、複数のがんタイプで臨床的な有効性を示し、特に非小細胞肺がん治療では承認されています。しかし、KRASG12C変異はKRAS変異が見られるがん全体の約15%にすぎません。他のKRAS変異を持つ腫瘍患者には、承認されたKRAS阻害剤がないのが現状です。
今回紹介するのは、幅広いスペクトラム活性を持つ可逆的三重複合RAS阻害剤「RMC-7977」です。この薬剤は、変異型および野生型のKRAS、NRAS、HRAS変異体に対して有効なRAS(ON)マルチセレクティブ阻害剤です。
前臨床試験では、RMC-7977はさまざまなRAS依存性腫瘍に対して強力な活性を示しました。特に、KRASコドン12変異(KRASG12X)を持つがんモデルにおいて効果的であり、腫瘍の縮小を引き起こしました。また、さまざまなRAS依存性前臨床がんモデルでも良好な耐容性が確認されています。
さらに、RMC-7977は、KRAS(G12C)阻害剤に耐性を持つKRASG12Cがんモデルの成長も抑制することができました。これは、RAS経路シグナルの回復によるものです。
RAS(ON)マルチセレクティブ阻害剤は、複数のがん原性および野生型RASアイソフォームを標的とするため、広範囲のRAS依存性がんに対して新しい治療の可能性を秘めています。現在、関連するRAS(ON)マルチセレクティブ阻害剤「RMC-6236」も、KRAS変異型固形腫瘍患者を対象に臨床評価が進められています(NCT05379985)。
プレシジョンクリニックグループ
岡崎能久