投稿日:2026.8.7/更新日:2026.10.7
この記事でわかること
がん治療において、遺伝子の特徴や病状に合わせて治療を選ぶ個別化医療が広がっています。治療の進歩が速いからこそ、ご自身やご家族の病状に合った選択肢を知ることが大切です。今回は2026年7月に届いたプレシジョンメディシン(精密医療)の最新動向を整理して解説します。日々の診療に役立つ視点をお届けします。
血液中の微量ながん遺伝子を調べることで、大腸がん肝切除後の再発リスクを見極められる可能性が示されました。術後補助化学療法の必要性を判断する手がかりになります。
国立がん研究センターや九州大学などの研究グループは、大腸がん肝転移の手術を受けた298例を対象に研究を行いました。血液中に循環する腫瘍DNA(ctDNA)をリキッドバイオプシーで測定したところ、手術後にctDNAが陽性だった患者群で、術後抗がん剤治療による明確な予後改善が認められました。一方で陰性の患者群では治療の上乗せ効果が乏しい傾向も確認されています。
この技術は将来の標準化を目指す研究段階にあります。とはいえ不要な抗がん剤治療を避け、本当に必要な方へ治療を集中させる医療への大きな前進です。
私たちの外来でも「肝臓の転移巣を手術で取り切ったのに、強い抗がん剤を続けるべきか迷う」という相談を頻繁に受けます。抗がん剤の副作用や通院の負担に不安がある方は、術後治療の継続について主治医や当グループにご相談ください。
同じ遺伝子変異であっても、生まれつきの変異と後天的な変異では、がんの性質や抗がん剤への反応が異なることが分かりました。乳がんの精密な診断につながる知見です。
横浜市立大学の研究グループは、全国がんゲノム医療データベース(C-CAT)のデータを解析しました。BRCA1やBRCA2に変異がある乳がん患者さんを調査したところ、親から受け継いだ生殖細胞系列の変異と、がん組織だけに生じた体細胞変異とでは、腫瘍微小環境の免疫状態やPARP阻害薬への治療反応性に明確な違いが見られました。
これまで同じBRCA変異陽性として扱われがちだった病態を、さらに細かく分類できる基盤になります。現在は臨床試験の解析を進めている段階であり、今後の治療指針の更新が期待されます。
ご自身の乳がん組織で遺伝子変異が見つかった場合、それが血縁者に関わるものかどうか気になる方も多いはずです。検査結果の詳しい意味や今後の選択肢については、主治医や当グループにお気軽にご相談ください。
根治切除が難しい進行尿路上皮がん(膀胱がんなど)に対して、免疫療法と抗体薬物複合体を組み合わせた新しい一次治療が日常診療で使えるようになりました。従来の白金系抗がん剤を上回る治療成績が報告されています。
承認されたのは、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)と、抗体薬物複合体エンホルツマブ ベドチン(商品名パドセブ)を併用する治療法です。がん細胞の免疫逃避を防ぎつつ、がん細胞表面に特異的に結合して細胞障害薬を届ける仕組みを持ちます。国際共同第3相試験において、従来の標準治療である化学療法に比べて全生存期間を有意に延長しました。
本治療は現在、保険適用のもとで全国の医療機関で実際に受けられる治療法となっています。皮膚障害や高血糖などの副作用に注意が必要ですが、長期的な腫瘍縮小を期待できる強力な選択肢です。
膀胱がんは高齢の患者さんも多く、従来の抗がん剤に体が耐えられるか不安視されるケースが目立ちます。体調や既往歴に合わせた最適な治療スケジュールについては、主治医や当グループにご相談ください。
がん遺伝子検査で見つかる解釈の難しい遺伝子変化を、高精度かつ迅速に判定する新しいコンピュータ解析技術が開発されました。治療につながる情報を見落とさないための技術です。
がん遺伝子パネル検査を行うと、病的意義が定まっていない「意義不明バリアント(VUS)」と呼ばれる遺伝子の変化が数多く見つかります。広島大学の研究グループは、膨大なアミノ酸配列データと機械学習を組み合わせ、治療標的となり得る遺伝子変化を優先的にふるい分ける仕組みを構築しました。
このシステムは現在、研究基盤としての検証段階にあります。近い将来にゲノム医療の解析現場へ導入されれば、エキスパートパネルと呼ばれる専門家会議の判断を強力に支援します。
当院でも患者さんから「遺伝子検査を受けたけれど、治療法のない変化ばかりで見つかった意味がなかった」という声を伺うことがあります。解釈技術が進歩すれば、埋もれていた治療選択肢が掘り起こされる可能性があります。検査レポートの疑問点については、主治医や当グループへご相談ください。
当院の実例
トリプルネガティブ乳がんステージ2で、手術・抗がん剤後に樹状細胞ワクチン療法を続け、術後12年間再発なしを維持している69歳女性
乳房切除・腋窩郭清と化学療法(FEC+タキソール)の後、樹状細胞ワクチン療法を継続。投与間隔を段階的に延ばしながら長期間続け、術後12年間再発なく腫瘍マーカーも正常値を維持しています。再発リスクの高いサブタイプで「検査結果に応じて再発予防を設計する」ことを長期に続けた一例です。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
今月は血液を用いたリキッドバイオプシーの進化から、日常診療に導入された最新の複合免疫療法まで、プレシジョンメディシンの着実な歩みが見られました。遺伝子変異の由来による特徴の違いや解釈精度の向上は、個別化医療をより確かなものへと押し上げています。
プレシジョンクリニックグループが創業以来最も取り組んでいるのは、お一人おひとりの遺伝子情報と生活背景に寄り添った最適な医療の提案です。当グループでは高度なゲノム解析の知見をもとに、科学的根拠に基づいた治療選択肢の提示に取り組んでいます。検査結果の解釈や今後の治療方針に迷われた際は、どうぞ安心してご相談ください。
がん遺伝子パネル検査として保険で受けられる場合と、自由診療で行う場合があります。目的(変異の同定か、微小残存病変の追跡か)によって検査の種類が変わるため、まず目的を整理してご相談ください。
今回の報告では由来の違いで薬剤への反応が異なる可能性が示されました。遺伝性の場合は血縁者の検査や予防の計画にも関わるため、遺伝カウンセリングとあわせて検討します。
病的かどうか判定できない変異です。判定法の進歩で将来分類が変わることがあるため、定期的に再評価してもらうことと、治療判断はほかの情報も含めて行うことが大切です。
監修:矢﨑 雄一郎 医師
プレシジョンクリニック 東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア 理事長 | 専門分野:一般外科・消化器外科
がんゲノム情報に基づく個別化医療と免疫療法を専門とし、標準治療と組み合わせた治療設計に取り組んでいます。著書『免疫力をあなどるな!』。
【免責事項】本記事は2026年7月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者様への診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、必ず主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年9月9日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。