投稿日:2026.8.7/更新日:2026.10.7
この記事でわかること
膵臓がんと診断されたとき、治療の選択肢や病状の見通しに大きな不安を感じる方が少なくありません。標準治療を確実に受けながら、自分に適した新しい選択肢がないか探しているご家族も多いはずです。今月報じられた臨床現場の動きや研究成果から、明日からの療養生活に役立つ確かな情報をお伝えします。
急な血糖値の上昇や糖尿病の新規発症が、膵臓がんの早期発見につながる重要なサインとして注目を集めています。
膵臓の組織に異常が生じると、インスリンの分泌低下や抵抗性の悪化ががんの初期段階から現れます。読売新聞などの報道によると、地域の糖尿病専門医と拠点病院が連携し、血糖が急変した患者さんへ腹部超音波やMRI検査を積極的に行う取り組みが全国で広がっています。岡山県などの医療圏でも地域連携パスを活用した早期発見プログラムが本格的に動き出しました。
この取り組みは特別な新薬を待つ必要がなく、今すぐ日常の診療で活用できる実践的なアプローチです。
私たちの外来でも「健診で急にヘモグロビンA1cが上がった」と受診され、精査で膵癌の小さな病変が見つかる例が増えています。生活習慣の変化がないにもかかわらず血糖値が急上昇したときは、見過ごさずに腹部画像検査を検討する価値があります。ご自身やご家族の血糖コントロールに突然の乱れが見られた際は、糖尿病の主治医に膵臓の詳しい画像検査を受けたい旨を相談してみてください。
東京大学の研究グループは、膵臓がんが抗がん剤を跳ね返す微小環境の新たなメカニズムを突き止めました。
膵がんの組織は、がん細胞の周囲に膠原線維などの硬い間質が分厚く発達する特徴を持っています。この線維化によって組織の内部は高い圧力がかかり、血管が押しつぶされて抗がん剤が届きにくくなります。今回の基礎研究では、間質の形成と免疫細胞の排除を同時に引き起こす特定のシグナル経路が同定されました。
この成果は現在、実験室や動物モデルで確認された基礎研究の段階であり、直ちに保険診療で使える治療法ではありません。
しかし、抗がん剤を遮断する壁を崩す薬剤が開発されれば、既存の抗がん剤や免疫チェックポイント阻害薬の効果を大きく底上げできる可能性があります。創薬ベンチャーや国内の製薬企業も、この腫瘍微小環境を標的とする薬剤の開発に乗り出しています。ご自身の病状において微小環境へのアプローチがどう位置づけられるか興味がある方は、臨床試験の参加基準なども含めて主治医や当グループにご相談ください。
膵臓癌の約9割に認められるKRAS遺伝子変異を直接攻撃する新規阻害薬の開発が、着実に前進しています。
これまでの臨床現場では、KRAS遺伝子は薬剤が結合しにくく、標的にすることが極めて困難とされてきました。しかし、G12D変異などを特異的に阻害する経口薬の第1相および第2相試験が国内でも進捗を見せています。学会や医療専門メディアの報告によると、一部の治験薬では既存治療が効かなくなった進行期の患者さんにおいて、腫瘍の縮小や病勢の安定が確認されました。
これらの分子標的薬は現在、国内外で厳密な治験が進められている段階であり、一般の処方が可能になるまでにはもう少し時間がかかります。
それでも、標的が存在しなかった膵がんの薬物療法に、個別化医療の光が差し込んでいることは確実です。従来の殺細胞性抗がん剤とは異なる作用機序を持つため、副作用の性質も異なり、通院しながらの治療継続が期待されています。遺伝子検査の結果をもとに適応となる治験が存在するかどうか、主治医に問い合わせてみるのもひとつの選択肢です。
がん組織を用いないリキッドバイオプシーによる遺伝子解析が、膵臓がんの診療現場で実用化の幅を広げています。
膵臓は胃や十二指腸の背側深くに位置するため、生検で十分な組織を採取することが難しい臓器です。日経メディカルなどの報道によると、血液中の微量な遊離DNAを測定する解析技術の保険適用範囲が広がり、侵襲の少ない検査が可能になりつつあります。この検査によって、BRCA遺伝子変異やマイクロサテライト不安定性といった治療選択に関わる情報が迅速に得られるようになりました。
リキッドバイオプシー検査は一部の保険診療で既に導入されており、組織採取が難しい場合の有力な選択肢となっています。
血液検査で変異が見つかれば、PARP阻害薬や免疫治療薬など、特定の性質に合わせた薬剤を選択できる道が開かれます。当院でも患者さんから「体力が落ちて生検手術を受けるのがつらい」という切実な声を頻繁に伺います。体に大きな負担をかけずに遺伝子の特徴を把握できる方法は、患者さんの体調を守る意味でも大変有用です。検査の受け時や適応の可否については、主治医やゲノム医療に精通した専門医に尋ねてみてください。
当院の実例
血管浸潤で手術が困難だった膵体部がんステージ3に、重粒子線・抗がん剤・樹状細胞ワクチン療法を組み合わせ、手術が可能になって寛解した46歳男性
重粒子線治療と抗がん剤(ジェムザール)でわずかに縮小した後、副作用で抗がん剤をTS-1に変更し、樹状細胞ワクチン療法を併用しました。縮小が維持されて手術が可能となり、コンバージョン手術を実施。術後の病理では残存腫瘍を指摘できず、寛解となって再発なく経過しています。「強固な間質」を局所療法と免疫で攻略した一例です。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
膵臓がんの治療開発は、早期発見の工夫から腫瘍微小環境の攻略、そしてゲノム解析に基づく創薬まで多角的に進化しています。糖尿病の急変といった日常のサインを手がかりにする早期診断は、今日から意識できる大切な視点です。
プレシジョンクリニックグループは、創業以来最も力を注いで膵臓がんの診療と向き合ってまいりました。一人ひとりの遺伝子情報や免疫状態を詳細に分析し、標準治療を支える個別化医療の実績を積み上げています。
プレシジョンクリニックグループの膵臓がん治療についての知見も生かしながら、患者さんの生活と尊厳を守る治療提案を大切にしています。
どのような段階であっても治療選択肢を広げる道は存在しますので、現在の治療計画に不安がある方は当グループへお気軽にご相談ください。
血糖の急な悪化や糖尿病の新規発症は、膵臓がんの早期発見につながるサインの一つとして注目されています。特に体重減少や腹痛を伴う場合は、腹部の画像検査(造影CT・MRI・超音波内視鏡)を主治医に相談してください。
がん細胞を取り囲む線維芽細胞やコラーゲンの層で、薬や免疫細胞が腫瘍に届きにくくする「壁」になります。当院では放射線や抗がん剤でこの壁を崩してから免疫を働かせる順番で治療を設計します。
治験は実施施設と適格基準(変異の型・治療歴・全身状態)によります。まずがん遺伝子パネル検査でKRAS変異の型を確認しておくことが前提です。当院でも遺伝子解析からご相談いただけます。
監修:矢﨑 雄一郎 医師
プレシジョンクリニック 東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア 理事長 | 専門分野:一般外科・消化器外科
がんゲノム情報に基づく個別化医療と免疫療法を専門とし、標準治療と組み合わせた治療設計に取り組んでいます。著書『免疫力をあなどるな!』。
【免責事項】本記事は2026年7月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者様への診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、必ず主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年9月9日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。