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抗がん剤・分子標的薬

投稿日:2026.8.8/更新日:2026.10.8

テロメライシン(スラタデノツレブ)とは|食道がんのウイルス療法

この記事でわかること

  • テロメライシン®注(一般名:スラタデノツレブ)は、がん細胞の中で増えてがんを壊す腫瘍溶解ウイルス製剤です。2026年6月に承認され、8月に発売されました
  • 対象は、手術も化学放射線療法も難しい食道がんです。放射線療法と併用し、内視鏡で腫瘍に直接、計3回注入します
  • 国内第Ⅱ相試験では36例中15例(41.7%)で局所のがんが消えました。ただし事前に決めた基準には届いていません
  • がん細胞を見分ける目印はテロメラーゼで、p53(TP53)の状態ではありません。p53を組み込んだ次世代型のOBP-702は別の製剤で、まだ準備段階です
  • 発熱は6割、リンパ球の減少は半数以上にみられます。使える医療機関は国の要件を満たす施設に限られます

2026年6月、食道がんに対するウイルス製剤が国内で承認されました。テロメライシン®注(一般名:スラタデノツレブ、開発コード:OBP-301)です。岡山大学で生まれた国産の治療で、ウイルスにがんを壊させるという発想に立っています。

先に結論を申し上げます。体力や持病のために手術も抗がん剤も難しい食道がんの方に、放射線と組み合わせて使う治療です。試験では約4割の方で局所のがんが消えました。一方で、試験の主要な目標は統計的には達成されておらず、生存期間を延ばすかどうかもまだ示されていません。期待と限界の両方を、原典の数字で整理します。

テロメライシンとは ― がん細胞の中だけで増えるウイルス

テロメライシンは、かぜの原因にもなる5型アデノウイルスを改変したものです。ウイルスが増えるために必要な遺伝子(E1AとE1B)を、hTERTプロモーターという「スイッチ」の下に置いてあります。

このスイッチが入るのは、テロメラーゼという酵素が働いている細胞だけです。テロメラーゼは、がんの種類を問わず85%以上のがんで活発に働いていますが、正常な細胞ではほとんど働いていません(Fujiwara T, Ann Gastroenterol Surg 2019)。そのため、ウイルスはがん細胞の中で選んで増え、細胞を内側から壊します。壊れた細胞から出たウイルスは、隣のがん細胞へ移っていきます。

項目 内容
販売名 テロメライシン®注
一般名 スラタデノツレブ
開発コード OBP-301
分類 再生医療等製品(遺伝子組換えアデノウイルス)
承認・発売 2026年6月8日 承認/2026年8月21日 発売
効能・効果 根治切除及び化学放射線療法の適応とならない食道がん
使い方 放射線療法と併用。内視鏡で腫瘍に直接注入。1回1mL(最大2mL)を約2週間おきに計3回
製造販売・販売 オンコリスバイオファーマ/富士フイルム富山化学

出典:厚生労働省 最適使用推進ガイドライン スラタデノツレブ(販売名:テロメライシン注)令和8年8月/承認日=オンコリスバイオファーマ「製造販売承認(通常承認)取得に関するお知らせ」2026年6月8日/発売日=富士フイルム富山化学「新発売のお知らせ」2026年8月

なぜ放射線と一緒に使うのか

テロメライシンは単独ではなく、放射線療法と組み合わせて使います。理由は、両者が互いの効きを高め合うからです。

放射線は、がん細胞のDNAを切って死なせる治療です。ところが、がん細胞には切れたDNAを修復する仕組みがあります。テロメライシンが感染すると、ウイルスが作るE1B55kDaというたんぱく質が、DNAの切れ目を見つける装置(MRN複合体)を分解します。修復できなくなったがん細胞は、放射線に弱くなります(Kuroda S ほか, Cancer Res 2010)。

逆向きの作用も報告されています。放射線を当てると、がん細胞がウイルスを取り込みやすくなるというものです。この2つが重なることを狙って、放射線の開始3日前に1回目を注入し、照射の途中に2回目と3回目を入れる日程が組まれています。

臨床試験の結果 ― 数字と、その読み方

承認の根拠になったのは国内の2つの試験です。あわせて、岡山大学の第Ⅰ相試験と米国の試験も並べます。

試験 結果
岡山大学 第Ⅰ相(13例) 手術も抗がん剤も難しい食道がん。年齢の中央値は82歳。局所の完全奏効が8例、奏効率91.7%。ステージⅠでは83.3%、ステージⅡ・Ⅲでは60.0%
国内 第Ⅱ相 OBP101JP(37例・17施設) ステージⅡ・Ⅲの局所進行食道がん。24週までの局所完全奏効率は41.7%(36例中15例、90%信頼区間 27.7〜56.7%)。18か月までの追加解析では50.0%(36例中18例)
米国 NRG-GI007 第Ⅰ相(15例) 化学放射線療法にテロメライシンを上乗せ。臨床的完全奏効は15例中13例(87%)。1年時点で9例(60%)が生存

出典:Shirakawa Y ほか, Eur J Cancer 2021/厚生労働省 最適使用推進ガイドライン/Ku GY ほか, Int J Radiat Oncol Biol Phys 2026

ここで見落としてはいけない点があります。第Ⅱ相試験は、放射線療法だけの場合の完全奏効率を30.2%と見積もり、それを上回ることを目標にしていました。結果の41.7%は数字としては上回っています。しかし信頼区間の下限(27.7%)が30.2%を下回ったため、統計的に「放射線だけより優れている」とは示せませんでした。18か月時点の50.0%は、あとから追加した探索的な解析です。

もうひとつ。この試験には、放射線だけを受ける比較のグループがありません。そして「局所のがんが消えた」ことと「長く生きられる」ことは別の話で、生存期間を延ばすかどうかは、まだ示されていません。

岡山大学の第Ⅰ相試験では、治療後の組織にCD8陽性T細胞が多数入り込み、PD-L1の発現が増えていました。ウイルスががんを壊すだけでなく、免疫を呼び込んでいることを示す所見です。

副作用と注意点

国内第Ⅱ相試験(37例)でみられた主な有害事象です。放射線療法による影響も含まれています。

有害事象 頻度(グレード3以上)
発熱 62.2%(2.7%)
リンパ球数の減少 56.8%(43.2%)
食道炎 35.1%(2.7%)
放射線肺臓炎 24.3%(8.1%)
体重減少 24.3%(0%)

出典:厚生労働省 最適使用推進ガイドライン 表5

重い有害事象は37例中12例(32.4%)にみられました。亡くなった方が1例あり(急性呼吸窮迫症候群)、放射線療法に関連するものと判断されています。テロメライシンとの関係が否定できなかった重い事象は、縦隔炎と食道潰瘍が各1例でした。

内視鏡で食道の腫瘍に針を刺して注入するため、食道に穴があく(食道穿孔)ことにも注意が必要とされています。また、遺伝子を組み換えたウイルスなので、投与後しばらくは排泄物の扱いなどについて病院から指導があります。

対象になる方・ならない方

対象は「根治切除及び化学放射線療法の適応とならない食道がん」です。高齢である、心臓や腎臓に持病がある、体力が落ちているといった理由で、手術も抗がん剤も難しい方が想定されています。

次の方は対象になりません(厚生労働省 最適使用推進ガイドライン 令和8年8月)。

  • 首・胸・上腹部に放射線治療を受けたことがあり、今回の照射範囲と重なる方
  • ほかの抗がん剤と併用する方
  • ステージ0で、内視鏡による切除がすすめられる方
  • ステージⅣBで食べ物の通りに問題がなく、化学療法がすすめられる方

第Ⅱ相試験に参加したのはステージⅡとⅢの方だけです。それ以外の病期については、必要性を十分に検討するよう求められています。投与は3回までで、4回目以降の効果と安全性は調べられていません。

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    p53(TP53)に異常があるがんに効く、は本当か

    「p53が壊れているがんに効くウイルス」という説明を目にすることがあります。テロメライシンについては、これは正確ではありません。

    テロメライシンががん細胞を見分ける目印は、テロメラーゼです。p53が正常か異常かで効く相手を選ぶ仕組みにはなっていません。国の最適使用推進ガイドラインにも、p53やTP53で対象を選ぶという記載はありません。

    p53と関係が深いのは、同じ研究グループが開発している次世代型のOBP-702です。テロメライシンの骨格に、正常なp53遺伝子を組み込んだウイルスで、感染したがん細胞にp53を作らせて細胞死を強めます。開発者自身が、テロメライシンは安全性が確認された一方で難治性の腫瘍では効果が限られていたと述べ、その課題に応えるものとしてOBP-702を位置づけています(Kuroda S ほか, Int J Clin Oncol 2026)。

    OBP-702は、膵臓がんの実験モデルで、免疫が反応しにくい「冷たい腫瘍」を「熱い腫瘍」へ変える働きが報告されています。ただしこれは前臨床(細胞と動物)の結果です。ヒトでの最初の試験(超音波内視鏡で膵臓の腫瘍に注入する方法)は準備中の段階で、治療として受けることはできません。

    食道がん以外ではどうか

    テロメラーゼは多くのがんで働いているため、食道がん以外でも試験が行われてきました。

    米国の第Ⅰ相試験では、さまざまな固形がんの16例に1回だけ腫瘍内へ注入し、安全性が確かめられました。注入した病変の部分奏効が1例、病状の安定が7例でした(Nemunaitis J ほか, Mol Ther 2010)。進行した肝細胞がん20例の第Ⅰ相試験でも、複数回の注入に耐えられることが示されています(Heo J ほか, Mol Ther 2023)。

    免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせも研究されています。マウスの実験では、テロメライシンの仲間のウイルスを片方の腫瘍に注入して抗PD-1抗体を併用すると、注入していない側の腫瘍も小さくなりました(Kanaya N ほか, Mol Ther 2020)。

    いずれも承認には至っていません。現時点で使えるのは食道がんだけです。

    当院の考え方 ― 「壊す」と「免疫に見せる」を重ねる

    腫瘍溶解ウイルスの面白さは、がんを壊すことと、壊れたがんを免疫に見せることが、ひとつの治療の中で同時に起きる点にあります。岡山大学の試験で治療後の組織にCD8陽性T細胞が集まっていたのは、その現れです。

    当グループがSynerTri®(シナトリ/学術名 iCCI)で組み立てているのも、同じ発想です。放射線などの局所療法でがんを壊し、そこで出てきた目印を樹状細胞ワクチン療法で免疫に覚えさせます。使う道具は違いますが、「壊して終わりにしない」という考え方は共通しています。

    なお、テロメライシンは放射線療法ができる病院など、国の要件を満たした医療機関で使われる薬で、当院での投与は行っていません。腫瘍溶解ウイルスについては、膵臓がんに対する腫瘍溶解ウイルス治療の記事でも取り上げています。

    当院の実例

    食道がんステージ4で、副作用のため抗がん剤を中止したあと、樹状細胞ワクチン療法を行い再発なく経過している79歳女性

    喉の違和感をきっかけに食道がんステージ4(リンパ節転移)と診断された方です。放射線治療と抗がん剤を始めましたが、手のしびれ、倦怠感、食欲不振のため抗がん剤は中止になりました。中止時の内視鏡では、がんによる食道の肥厚と狭窄が改善していました。その後、再発予防を目的に樹状細胞ワクチン療法を約4か月・計7回行い、診断から約1年4か月の時点まで再発なく経過しています。高齢で抗がん剤を続けられない方に、放射線と免疫の力を組み合わせるという点で、本記事の主題と重なる一例です。

    症例の詳細を見る →

    ※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。

    治療を検討する前に知っておいていただきたいこと

    第Ⅱ相試験の主要な目標は、統計的には達成されていません。放射線だけの場合より優れていると証明されたわけではありません。

    比較のグループがない試験です。放射線療法だけでどこまで効いたのかを、同じ条件で比べたデータはありません。

    生存期間への効果は示されていません。局所のがんが消えることと、長く生きられることは別です。

    調べられた人数は多くありません。国の資料にも「臨床試験成績は限られている」と明記され、発売後の調査が課されています。

    まとめ

    テロメライシン®注(スラタデノツレブ)は、テロメラーゼを目印にがん細胞の中で増える腫瘍溶解ウイルス製剤です。手術も化学放射線療法も難しい食道がんに、放射線と組み合わせて使います。国内第Ⅱ相試験では約4割で局所のがんが消えましたが、放射線だけより優れているとはまだ証明されていません。

    これまで放射線しか選べなかった方に、もうひとつの手段が加わった。現時点で言えるのは、そこまでです。

    ※治療効果には個人差があり、すべての患者さまに同様の結果が得られるとは限りません。また、本記事で紹介した研究の多くは開発・検証の段階にあり、国内の保険適応や大規模臨床試験で標準治療として確立されたものではありません。実際の治療は、リスクとベネフィットを評価し、ご本人の同意のもとで設計します。

    よくある質問

    テロメライシンはどこで受けられますか?

    国が定めた要件を満たす医療機関に限られます。食道がんに対する放射線療法ができること、がん診療連携拠点病院や特定機能病院などに該当すること、遺伝子組換えウイルスを扱う体制があること、講習を修了した医師が責任者であることなどが条件です。当院での投与は行っていません。受けられるかどうかは、食道がんを診ている主治医か、お近くのがん診療連携拠点病院にご相談ください。

    食道がん以外のがんにも使えますか?

    承認されているのは「根治切除及び化学放射線療法の適応とならない食道がん」だけです。肝細胞がんなどで臨床試験は行われていますが、食道がん以外では承認されていません。

    p53(TP53)に変異があるがんほど効きやすいのですか?

    テロメライシンは、p53の状態で効く相手を選ぶ薬ではありません。がん細胞を見分ける目印はテロメラーゼという酵素です。p53と関係が深いのは、正常なp53遺伝子を組み込んだ次世代型のOBP-702で、こちらはまだ臨床試験の準備段階にあり、治療として受けることはできません。

    副作用はどのくらい出ますか?

    国内第Ⅱ相試験(37例)では、発熱が62.2%、リンパ球数の減少が56.8%にみられました。放射線療法と併用するため、食道炎(35.1%)や放射線肺臓炎(24.3%)も起きています。重い有害事象は32.4%にみられました。内視鏡で腫瘍に注入するため、食道に穴があく(食道穿孔)ことにも注意が必要とされています。

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      • 厚生労働省. 最適使用推進ガイドライン スラタデノツレブ(販売名:テロメライシン注)~根治切除及び化学放射線療法の適応とならない食道癌~. 令和8年8月.(PDF)
      • オンコリスバイオファーマ. 腫瘍溶解ウイルス テロメライシン注の製造販売承認(通常承認)取得に関するお知らせ. 2026年6月8日.(PDF)
      • 富士フイルム富山化学. テロメライシン®注 新発売のお知らせ. 2026年8月.(PDF)
      • Shirakawa Y, Tazawa H, Tanabe S, ほか. Phase I dose-escalation study of endoscopic intratumoral injection of OBP-301 (Telomelysin) with radiotherapy in oesophageal cancer patients unfit for standard treatments. Eur J Cancer. 2021;153:98-108.(doi:10.1016/j.ejca.2021.04.043)
      • Ku GY, Winter K, Ilson D, ほか. NRG-GI007: Phase 1 Study of OBP-301, An Oncolytic Virus, and Definitive Chemoradiation in Locally Advanced Esophageal Cancer. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2026.(doi:10.1016/j.ijrobp.2026.05.057)
      • Kuroda S, Fujiwara T, Shirakawa Y, ほか. Telomerase-dependent oncolytic adenovirus sensitizes human cancer cells to ionizing radiation via inhibition of DNA repair machinery. Cancer Res. 2010;70(22):9339-9348.(doi:10.1158/0008-5472.CAN-10-2333)
      • Fujiwara T. Multidisciplinary oncolytic virotherapy for gastrointestinal cancer. Ann Gastroenterol Surg. 2019;3(4):396-404.(doi:10.1002/ags3.12270)
      • Kuroda S, Tazawa H, Hashimoto M, ほか. Turning pancreatic cancer from cold to hot: the promise of a p53-expressing oncolytic adenovirus (OBP-702). Int J Clin Oncol. 2026.(doi:10.1007/s10147-026-02991-7)
      • Nemunaitis J, Tong AW, Nemunaitis M, ほか. A phase I study of telomerase-specific replication competent oncolytic adenovirus (telomelysin) for various solid tumors. Mol Ther. 2010;18(2):429-434.(doi:10.1038/mt.2009.262)
      • Heo J, Liang JD, Kim CW, ほか. Safety and dose escalation of the targeted oncolytic adenovirus OBP-301 for refractory advanced liver cancer: Phase I clinical trial. Mol Ther. 2023;31(7):2077-2088.(doi:10.1016/j.ymthe.2023.04.006)
      • Kanaya N, Kuroda S, Kakiuchi Y, ほか. Immune Modulation by Telomerase-Specific Oncolytic Adenovirus Synergistically Enhances Antitumor Efficacy with Anti-PD1 Antibody. Mol Ther. 2020;28(3):794-804.(doi:10.1016/j.ymthe.2020.01.003)
      監修医師:矢﨑 雄一郎医師

      監修医師

      矢﨑 雄一郎医師

      免疫療法・研究開発

      東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。

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