用語集 DICTIONARY

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がんゲノム医療

ゲノムとは、その生物に含まれている、その生物を作るのに必要なすべてのDNAの情報を指します。一方、遺伝子とは、化学物質が意味のある順番で並んだ文字列で、それが生命を作る・起動するために必要な情報を指します。 がんゲノム医療とは、このゲノムに基づいたがん医療です。ゲノムは患者さま一人ひとり異なるため、個別化医療ともいます。プレシジョンメディスンと表現することもあります。
プレシジョンメディスンという言葉は2015年、オバマ前アメリカ大統領が一般教書演説で推進を約束したことで世界的にも知られるようになった言葉です。
「精密医療」と訳され、患者さま一人ひとりに合わせた治療全般のことを指しますが、主にがん患者さまの治療に用いられています。

【例】胃がんと診断された患者さまがいた場合
胃がんの患者さまのがん組織を採取して、遺伝子情報を解析すると、がんの原因となった遺伝子変異が見つかる場合があります。その情報を元に最も効果的な治療を行うのががんゲノム医療です。

胃がん患者さまの集団の統計から有効だと思われる抗がん剤を、その患者さま本人にも効くかどうか順々に試していく従来のやり方に比べれば、患者さまのがんの変異部分に効果を示すことが明らかな薬剤を使うため、その精度は飛躍的に高まると言えます。

しかし、現在においてはがん細胞を攻撃するだけでなく、正常な組織に対しても作用する殺細胞性抗がん剤が推奨されています。

「殺細胞性抗がん剤」とは、私たちが、がんゲノム医療で用いる「分子標的薬」とは異なります。従来より用いられている、いわゆる抗がん剤と呼ばれてきた多くの薬剤は、がんの無限増殖に伴うDNAの合成や細胞分裂を阻害することによりがん細胞を死滅させる作用をもつため、「殺細胞性抗がん剤」と言われます。これらは正常細胞においても、DNAの合成や細胞分裂の盛んな血液の細胞や、腸管、毛髪細胞などに影響を及ぼし、ダメージを与えてしまいます。一方、「分子標的薬」は、がん細胞や腫瘍環境で異常亢進を来たしている分子、すなわちがんの特性を規定する分子を標的として、その機能を制御する作用をもつ薬剤です。 標的分子ががん特有の分子と明確であるため、正常組織のダメージは少なく、より治療効果の予測が可能となります。ダメージという点でもう一つ重要なことは、正常な免疫細胞に傷害を与えないという点においてもがん治療に優位に働くと言えます。

事前に遺伝子解析を行うがんゲノム医療では薬剤の命中率が高まるだけでなく、効果が見られない薬による余計な副作用が避けられること、免疫にダメージを与えにくいというメリットがあります。

遺伝子解析の技術の発達、特定のがん細胞に有効な分子標的薬の登場でがん治療は新たなステージを迎えたと言えるでしょう。