スキルス胃がんは進行が早く、初期では自覚症状がほとんど現れないことが多い難治性の胃がんです。本記事では、ステージごとの症状の特徴や、検査方法、治療方法などについて解説します。さらに、抗がん剤とプレシジョン免疫療法を併用して症状が改善した57歳女性の症例もご紹介します。
スキルス胃がんは、胃壁の深い部分にゆっくりと広がる、悪性腫瘍です。通常の胃がんとは違い、腫瘤や潰瘍を形成しないため、内視鏡などの検査で見つけにくいとされています。進行が早く、発見されたときにはすでに転移していることも多いのが特徴です。
一般的な胃がんは、胃の内部に塊や潰瘍をつくることが多いため症状が出やすく、比較的早期に発見されやすい傾向があります。一方で、スキルス胃がんは、胃壁全体に広がって硬くし、目立つ病変をつくらないため、内視鏡などでは見つかりにくいのです。さらに、症状が出る前に広がっていることが多く、発見が遅れがちになるという点でも一般の胃がんと異なります。
5年生存率は、診断から5年後に生存している人の割合(5年相対生存率※)を指しますが、これは完治率ではありません。胃がん全体の5年相対生存率は日本ではおよそ70%前後ですが、スキルス胃がんでは著しく不良です。報告により幅があるものの、全体で10%前後〜20%未満になることが多く、手術ができる場合の例でも15〜30%程度にとどまるケースが多いといわれています。
※相対生存率:同じ年齢・性別などの一般集団における期待生存率で割って補正した生存率。がん患者の実測生存率が、背景死亡を除いて見たときどの程度保たれているか(= がんによる超過死亡の影響)を表す指標。
スキルス胃がんは、ステージによって症状の現れ方が異なります。初期では自覚できる症状がほとんどなく、健康診断で偶然見つかることもあります。進行するにつれて胃の不快感や食欲低下、体重減少などが出てきます。さらに末期では、吐き気や腹部の膨満感など日常生活に影響する症状が顕著になります。ここからは、ステージごとの特徴を解説します。
ステージ1のスキルス胃がんでは、ほとんど症状が出ないため、自分で気づくのはとても難しい段階です。がんは胃の粘膜の浅い部分にとどまっているため、痛みや強い不快感は感じにくいのが特徴です。そのため、発見のきっかけは健康診断や胃の検診での偶然ということが多くなります。ごくまれに、胃の張りや軽い消化不良、食欲の低下を感じることもありますが、風邪や疲れなど日常的な体調不良と区別するのは難しく、初期段階で診断がつくのは容易ではありません。
ステージ2になると、がんは胃の壁の奥まで進み、周囲のリンパ節に転移が始まることがあります。それでも症状はまだ軽く、体調の変化に気づきにくいことがほとんどです。ただし、少しずつ消化器系の不調が現れやすくなります。具体的には、食後の胃もたれや違和感、軽い胃の痛み、食欲不振などが続くことがあります。さらに食べる量が減って体重が落ちてくる場合もありますが、これらは他の消化器の病気でもよくある症状のため、スキルス胃がん特有のサインとは言い切れません。そのため、この段階でも見逃されてしまうケースがよくあります。
ステージ3では、がんが胃の壁を越えて外側や近くの臓器に広がり、リンパ節への転移も多く見られます。このため症状がはっきり出るようになります。代表的なのは、持続する胃の痛みや不快感、強い食欲不振、急な体重減少、そして貧血によるだるさです。がんが広がることで腸が詰まったり、肝臓に影響して黄疸が出たりするなど、消化管や他の臓器にも症状が及ぶことがあります。日常生活に支障を感じやすくなるのも、この段階の特徴です。
ステージ4では、がんが胃の外に広がり、肝臓や肺、腹膜など遠くの臓器に転移していることが多くなります。強い胃痛や持続する不快感、急激な体重減少、強い倦怠感といった症状が現れ、日常生活にも大きな影響を及ぼします。食欲はほとんどなく、わずかな量で満腹になるほか、吐き気や嘔吐を繰り返す場合もあります。腹膜に転移すると腹水がたまり、お腹がふくらんだり、肝臓に転移して黄疸が出たりすることもあります。臓器の機能低下が進み、生活の質が大きく損なわれる段階です。
スキルス胃がんの診断には、さまざまな検査が組み合わされます。血液検査や腫瘍マーカーで体の異常を確認し、内視鏡では胃の粘膜を観察して必要に応じて組織を採取します。また、X線検査やCT・MRIで胃の形や周囲臓器への広がりを調べることで、病状を詳しく把握できます。これらの検査を組み合わせることで、発見の難しいスキルス胃がんの状態をより正確に確認することが可能です。ここからは、スキルス胃がんの検査方法について解説します。
血液検査では炎症や体の異常を調べ、腫瘍マーカー検査では「CEA」や「CA19-9」といった値を確認します。ただし、数値が高いからといって必ずがんとは限らず、逆に正常でもがんがあることがあります。そのため、診断の補助や治療後の経過観察に利用され、他の検査と組み合わせて行うのが一般的です。
内視鏡検査は、胃カメラを使って胃の粘膜を直接観察し、必要に応じて組織を採取して病理検査を行います。胃がん診断に欠かせない検査ですが、スキルス胃がんは粘膜の下に潜んでいることがあり、見つけにくい場合もあります。そのため、疑わしい所見があれば組織を取ったり、再検査を行ったりして確認していきます。
X線検査では、造影剤であるバリウムを飲んで胃の形や粘膜の状態を撮影します。胃壁の凹凸や形状、動きを確認できるため、異常の有無を把握する手がかりとなります。ただし、臓器が重なっている部分は画像が不鮮明になり、詳細な診断が難しいこともあるため、他の検査と併せて行われることが一般的です。
CTやMRIによって体を断面像を撮影し、がんの広がりや転移の有無を調べます。CTはX線を使うため被曝がありますが、短時間で検査できるのが特徴です。一方、MRIは磁気を利用するため被曝はありませんが、騒音が大きく、体内にペースメーカーがある人は受けられない場合があります。
スキルス胃がんの治療には、手術や薬物療法、免疫療法などが用いられます。胃切除ではがんを含む胃の一部や全体を取り除き、必要に応じて周囲のリンパ節も切除します。手術が難しい場合は抗がん剤や免疫療法を組み合わせ、病変の進行を抑えることを目指します。それぞれの方法には特徴や効果があり、患者さまの状態に合わせて最適な治療計画が立てられます。
術前補助化学療法は、手術の前に抗がん剤を用いてがんを小さくしたり、広がりを抑えたりする治療です。特にリンパ節が大きく腫れているなど、手術の安全性・根治性を高めたい状況で検討されます。
日本ではこれまで「D2郭清+術後補助化学療法」が基本でしたが、スキルス(びまん型)や大型3型に対する術前S-1+シスプラチンは第III相試験で全生存の上乗せを示すことができず(JCOG0501)、標準になっているわけではありません。ケースごとに専門のチームで議論し、SOX(S-1+オキサリプラチン)やDOS/DCS系などを選択することがあります。欧米ではFLOT(5-FU+レボホリナート+オキサリプラチン+ドセタキセル)が標準として用いられていますが、日本での採用は病院や症例によって異なります。
薬物療法は、進行・再発のスキルス胃がんにおいて非常に重要です。抗がん剤・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を、体調や病状、バイオマーカー(HER2、PD-L1 CPS、MSI/MMR、CLDN18.2など)に合わせて組み合わせ、目に見えない小さながんにも作用することが可能です。点滴・内服を使い分け、完治が難しい場合でも進行を遅らせたり症状を軽くしたりすることが期待できます。副作用は事前に共有し、できるだけ症状が出ないようにコントロールしながら進めていきます。
1次治療(初回の全身治療)の代表例
2次治療以降の代表例
D2郭清後のpStage II–IIIでは、S-1(1年)、CAPOX(6か月)、リスクによってはSOXやS-1 +ドセタキセルも選択肢となります。病理所見や年齢、合併症により最適化します。
スキルス胃がんと腹膜播種について(補足)
スキルス胃がんでは腹膜播種が問題になりやすく、全身化学療法が基本です。腹腔内パクリタキセル併用は国内外で研究が続けられ、有望な結果も出ていますが、ランダム化第III相(PHOENIX-GC)では主要評価項目を満たしていないため、現時点では標準治療とされていません。PIPACなど新しいアプローチも臨床研究段階です。
進行したスキルス胃がんでは、がんによる出血や強い症状を和らげる目的で緩和手術が行われることがあります。根治はできなくても、つらい症状を防ぐことで入院を避けられる可能性があり、生活の質を保つ手助けとなります。
対症療法(緩和ケア)は、がんそのものを治すのではなく、痛みや吐き気、食欲不振などのつらさを和らげるための医療です。診断の直後から始めることができ、身体だけでなく精神的な支えにもつながります。医師や看護師に加え、理学療法士や栄養士、心理士など、多職種が協力して患者さまをサポートします。がんの進行に伴う症状や治療の副作用を軽減することで、残された時間をより安心して過ごせるようにすることが目的です。早期から取り入れることで生活の質を高める効果が期待できます。
手術では、がんを含む胃の一部や全体を切除し、必要に応じて周囲のリンパ節も取り除きます。遠隔転移がない場合には、治療の中心となる方法です。
いくつかの代表的な治療方法をご紹介しましたが、スキルス胃がんは、抗がん剤とプレシジョン免疫療法を組み合わせた方法で、改善が期待できます。実際にこの治療方法で改善された患者さまの事例をご紹介します。

■患者さま:57歳 女性
■診断名:スキルス胃がん印環細胞がん
■ステージ:4
■状態:腹膜播種(お腹の中にがんが広がった状態)
■治療期間・回数
樹状細胞ワクチン療法:4か月間、7回投与
■費用
樹状細胞ワクチン療法:約280万円(7回セット)
■経過
精密検査の結果、腹膜播種が確認され、手術は不可能と判断されました。そのため、抗がん剤治療を開始し、同時にプレシジョン免疫療法(樹状細胞ワクチン療法、局所投与)を併用しました。その結果、胃のスキルス病変は著明に改善し、これまで30%しか摂取できなかった食事量も通常に回復しました。
■内視鏡での確認内容
胃体上部の腫大したひだ(襞)が改善
胃の伸展性が改善
■副作用・リスク
プレシジョン免疫療法は基本的に副作用が少ない治療ですが、未知の副作用の可能性もあります。考えられる症状は以下の通りです。
・成分採血時:めまい、吐き気(迷走神経反射)、手足や口まわりのしびれ
・細胞培養時:培養中の細菌汚染など
・ワクチン接種時:注射部位の赤み、皮疹、発熱
上記のように、この症例は免疫療法を併用することで、進行したスキルス胃がんでも症状改善が期待できることを示しています。
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