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この記事でわかること
本症例の概要:重度の肺気腫で手術ができず、抗がん剤も副作用で続けられなかった再発スキルス胃がんの80歳男性に、内視鏡でがんに直接投与する樹状細胞ワクチン療法(WT1・MUC1標的・7回)を実施。病理検査でがん細胞の消失を確認し、30ヶ月以上の寛解が維持されています。国際査読誌「World Journal of Surgical Oncology」(2014年)に掲載された症例です。
スキルス胃がんは、胃の壁の中を広がるように進むタイプの胃がんで、内視鏡で見つけにくく、腹膜播種を起こしやすいことから、胃がんの中でも難治とされます。5年相対生存率は10〜20%未満との報告が多く、20代でも発症します。スキルス胃がんの詳しい解説は、腹膜播種を伴うスキルス胃がんステージ4の症例ページにまとめています。
再発したスキルス胃がんの標準治療は、抗がん剤を中心とした薬物療法です。現在は、抗がん剤に免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる治療や、HER2・CLDN18.2などのバイオマーカーに応じた薬剤の選択が標準になっています。局所の再発であっても、スキルス胃がんでは内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の適応にならず、根治を目指すには手術が必要になります。
本症例のように、重度の肺気腫などの合併症で全身麻酔の手術ができず、抗がん剤も副作用で続けられない場合、標準治療の枠内では「経過観察」か「症状をやわらげる治療」しか残らないことがあります。しかし、がんそのものは残っています。この段階で、体への負担が少なく、がんに直接働きかける治療があるかどうかが、患者さんにとっての分かれ道になります。
樹状細胞ワクチン療法は、患者さんご自身の血液から免疫の司令塔である樹状細胞を取り出し、がんの目印(がん抗原)を覚えさせて体に戻す治療です。本症例では、WT1(Wilms tumor 1)とMUC1(mucin 1)という2つのがん関連抗原を標的にしました。WT1は米国国立がん研究所(NCI)が最も優先度の高いがん抗原と位置づけた抗原で、MUC1は胃がんで93%という高い発現率が報告されています。事前に腫瘍組織の免疫組織化学検査(IHC)で両方が陽性であることを確認したうえでワクチンを設計しました。効きやすい症例を、効きやすい標的で狙うという、精密医療の考え方です。
投与方法も特徴的です。通常は皮下・皮内に投与しますが、本症例では上部消化管内視鏡(EGD)を用いて、胃のスキルス病変に直接ワクチンを投与する局所投与(腫瘍内投与)を行いました。腫瘍局所に高濃度のワクチンを届けることで、効果を高める狙いがあります。
本症例は、国際査読誌「World Journal of Surgical Oncology」(BioMed Central発行)に2014年に掲載された症例報告です(Kobayashi M, Sakabe T, Chiba A, et al. Therapeutic effect of intratumoral injections of dendritic cells for locally recurrent gastric cancer: a case report. World J Surg Oncol 2014;12:390)。オープンアクセス論文として全文が公開されています。
本症例は1例の症例報告(n=1)であり、すべての再発スキルス胃がんの患者さんに同様の効果が期待できるわけではありません。効果は、標的抗原(WT1・MUC1など)の発現状況、免疫の状態、がんの進行度・組織型、過去の治療歴によって大きく異なります。当グループでは、こうした個別の条件をゲノム解析・免疫解析で評価したうえで治療設計を行います。免疫を活性化する〈アクセル〉としての樹状細胞ワクチン療法を中心に、免疫チェックポイント阻害薬や放射線を組み合わせる独自のプロトコルSynerTri®(シナトリ/学術名 iCCI)で個別に設計します。
できます。本症例も重度の肺気腫で手術ができず、抗がん剤も副作用で続けられない状況でした。体への負担が少ない樹状細胞ワクチン療法を中心に、検討できる選択肢をご説明します。
がんの場所に内視鏡や針で到達できることが条件です。胃がんでは上部消化管内視鏡を用いて病変に直接投与します。事前に腫瘍組織の抗原(WT1・MUC1など)の発現を調べ、適応を判断します。
本症例は1例の症例報告であり、すべての方に同様の効果が期待できるわけではありません。抗原の発現状況、免疫の状態、進行度、治療歴によって効果は大きく異なります。
あります。腹膜播種を伴うスキルス胃がんステージ4で、抗がん剤と樹状細胞ワクチン療法(局所投与を含む)の併用により食事量が回復した症例をご紹介しています。あわせてご覧ください。
Case Report ─ 当院の改善症例
重要症例
この症例のポイント
ここまで、再発スキルス胃がんの標準治療と、標準治療ができないときの課題、局所投与という方法を整理しました。当グループでは、標準治療を併用せず、樹状細胞ワクチン療法の局所投与のみで病理検査上がん細胞が消失した患者さんを経験しています。国際査読誌に掲載された実際の経過をご紹介します。
| 患者さま | 80歳 男性 |
|---|---|
| 診断名 | 再発スキルス胃がん(印環細胞がん) |
| 合併症 | 重度の肺気腫(手術不可) |
| 標準治療 | 抗がん剤は副作用で継続できず。ESDは適用外 |
| 治療内容 | 樹状細胞ワクチン療法 局所投与(WT1・MUC1標的、内視鏡下腫瘍内投与、4ヶ月・7回) |
| 治療費 | 料金表ページをご覧ください。 |
| 診断 | 再発スキルス胃がん。重度の肺気腫で根治手術は不可、ESDも適用外と判断 |
|---|---|
| 抗がん剤 | 副作用のため継続できず |
| 免疫療法 | 腫瘍組織のIHCでWT1・MUC1が陽性であることを確認し、樹状細胞ワクチンを上部消化管内視鏡で胃の病変に直接投与(7回) |
| 投与後1ヶ月 | スキルス胃がんは縮小。病理検査でがん細胞の消失を確認 |
| 免疫の変化 | スキルス胃がんと戦うT細胞が3倍以上に増加。WT1・MUC1に対する特異的免疫応答を確認 |
| その後 | 投与終了後、30ヶ月以上にわたり寛解を維持 |

当グループでは、標準治療(抗がん剤)を土台としつつ、プラスアルファで免疫の働きで後押ししていきます。進行がんでも免疫の働きを強化するために、患者さまの状況に応じて複合的に免疫を改善させる独自のプロトコルSynerTri®(シナトリ/学術名 iCCI)で個別に免疫治療を設計します。
本症例では、抗がん剤などの標準治療を併用せず、免疫を活性化する〈アクセル〉としての樹状細胞ワクチン療法を、内視鏡による局所投与で行いました。事前に抗原の発現を確かめ、効きやすい標的を効きやすい方法で狙う設計です。
免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)では副作用が認められることはほとんどありませんが、未知の副作用等が起こる可能性は否定できません。主な副作用は以下のとおりです。
本症例は、手術も抗がん剤もできなかった再発スキルス胃がんに対し、樹状細胞ワクチン療法の局所投与のみで病理検査上がん細胞が消失し、30ヶ月以上の寛解を維持した一例です。1例の症例報告であり、治療効果には個人差があります。すべての患者さんに同様の結果が得られるとは限りません。
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