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TOP 症例 肛門がん 肛門管がんステージⅢで手術・抗がん剤を用いず、放射線治療と樹状細胞ワクチン療法で原発巣・リンパ節転移が消失した66歳女性の症例

肛門管がんステージⅢで手術・抗がん剤を用いず、放射線治療と樹状細胞ワクチン療法で原発巣・リンパ節転移が消失した66歳女性の症例

この症例のポイント

  • 肛門管がんステージⅢ(両鼠径リンパ節転移)と診断された66歳女性。美容関係のお仕事の経営者で、十分な標準治療の説明を受けたうえで、人工肛門を伴う手術(Miles手術)と抗がん剤は行わないと自ら決断されていた。
  • 鼠径部の転移リンパ節の切除は、局所の制御と同時に「自己がん組織」を樹状細胞ワクチンの材料として得ることが目的。自己がん組織はそのがんに固有の目印(ネオアンチゲン)を“まるごと”含む宝庫であり、ご本人も考え抜いてこの方法を選ばれた。放射線治療と樹状細胞ワクチン療法を併用。
  • 肛門の原発がん・両鼠径リンパ節転移がCT上で完全に消失。治療開始後 約2年間再発なく、現在は定期検査のみで良好に経過している。

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    肛門管がんとは

    肛門管がんは、肛門の管(肛門管)に発生するがんで、消化器のがんのなかでは比較的まれです。組織型は扁平上皮がんが多く、ヒトパピローマウイルス(HPV)との関連が指摘されています。下血・肛門の違和感・しこり・痛みなどで気づかれることがあり、進行すると鼠径部(足の付け根)のリンパ節などに転移します。

    大腸・直腸のがんとは治療の考え方が異なり、肛門管がんでは化学放射線療法(放射線と抗がん剤の併用)が標準治療の中心とされ、肛門を残せる(人工肛門を回避できる)ことが多いのが特徴です。手術(直腸切断術)は、化学放射線療法後の遺残・再発などに対して検討されます。

    肛門管がんステージⅢの治療と「手術を避けたい」という思い

    ステージⅢの肛門管がんでは、原発巣に加えて鼠径部などのリンパ節転移を伴います。標準治療は化学放射線療法ですが、手術(人工肛門を伴う直腸切断術)を勧められる場合もあり、生活への影響から手術を避けたいと考える方は少なくありません。

    本症例でも、手術・抗がん剤治療を勧められましたが、ご本人が希望されませんでした。当グループでは、放射線治療などの局所療法に、免疫を活性化する樹状細胞ワクチン療法(SynerTri®のアクセル)を組み合わせる選択肢を検討することがあります。ただし標準治療を行わない選択にはリスクもあるため、病状を十分に評価したうえで個別に判断します。

    SynerTri®の役割 本症例での対応
    スイッチ(局所制御) 鼠径部の転移リンパ節を切除(自己がん組織の採取を兼ねる)。放射線治療で原発巣・転移巣を制御。
    アクセル(免疫活性化) 自己がん組織をもとにした樹状細胞ワクチン療法を放射線治療と併用し、がん特異的免疫を誘導。
    標準治療(手術・抗がん剤) 本症例では患者さまのご希望により実施していない。

    「自己がん組織」を使った樹状細胞ワクチン療法とネオアンチゲン

    本症例で鼠径部の転移リンパ節を切除したのには、局所を制御する目的に加えて、もう一つ大切な狙いがありました。それは、切除した自己(患者さん自身)のがん組織を、樹状細胞ワクチンの「材料」として用いることです。

    がん組織には、そのがんが持つ多様な目印(抗原)が“まるごと”含まれています。とくに、がん細胞の遺伝子変異によって新たに生まれ、がん細胞だけに存在する固有の目印をネオアンチゲンと呼びます。ネオアンチゲンは患者さんごとに異なる“オーダーメイドの標的”であり、自己がん組織はその宝庫といえます。本症例の患者さまは、こうした仕組みをご自身でも考え抜いたうえで、自己がん組織を用いる方法を選ばれました。

    当グループの院長・矢﨑医師は、かつて東京大学医科学研究所で自己がん組織を用いた樹状細胞ワクチン療法に取り組んできました。この考え方をさらに発展させたのが、遺伝子解析で標的を設計するネオアンチゲンのアプローチです。詳しくは「ネオアンチゲンとは|がんワクチン治療の個別化標的を解説」をご覧ください。

    よくある質問(FAQ)

    Q. 肛門がんの治療では、人工肛門になりますか?
    肛門管がんの標準治療は化学放射線療法(放射線と抗がん剤の併用)が中心で、肛門を温存でき、人工肛門を回避できる場合が多いとされています。手術(直腸切断術)は再発時などに検討されます。本症例では手術を行わず、放射線治療と樹状細胞ワクチン療法で治療しました。治療方針は病状により異なります。
    Q. 抗がん剤を使わず、放射線と免疫療法で治療できますか?
    本症例では、患者さまが手術・抗がん剤を希望されなかったため、放射線治療に樹状細胞ワクチン療法を組み合わせて治療し、原発巣・リンパ節転移がCT上消失しました。ただし標準治療(化学放射線療法)を行わない選択にはリスクもあり、病状を十分に評価したうえで個別に判断する必要があります。
    Q. なぜリンパ節を切除して「自己がん組織」を使うのですか?
    がん組織には、そのがんが持つ多様な目印(抗原)がまるごと含まれています。とくにがんの遺伝子変異で新たに生まれる固有の目印を「ネオアンチゲン」と呼び、自己がん組織はその宝庫です。本症例では、鼠径部の転移リンパ節の切除を局所制御と自己がん組織の採取に活かし、それをもとに樹状細胞ワクチン療法を行いました。詳しくはネオアンチゲンの解説コラムもご覧ください。
    Q. がんが消失したあとも治療は続けますか?
    本症例では、原発巣・転移が消失したのち、現在は定期検査で経過をみています。治療の継続・終了は、画像所見や全身状態を確認しながら個別に判断します。治療効果には個人差があります。

    Case Report ─ 当院の肛門管がん改善症例

    重要症例

    肛門管がん
    ステージⅢ
    両鼠径リンパ節転移
    60代
    女性
    樹状細胞ワクチン療法
    原発巣・転移が消失

    肛門管がんで手術を選ばないとき ― 放射線治療に免疫療法を組み合わせる

    ここまで肛門管がんの治療の考え方をご紹介しました。人工肛門を避けたいなど、手術以外の道を希望される方もいらっしゃいます。実際に放射線治療と樹状細胞ワクチン療法を選ばれた患者さまの経過をご紹介します。

    患者情報

    項目 内容
    診断名 肛門管がん、両鼠径リンパ節転移(ステージⅢ)
    年齢・性別 66歳 女性(美容関係のお仕事の経営者)
    治療法 鼠径リンパ節切除+放射線治療+樹状細胞ワクチン療法(手術・抗がん剤治療は患者さまのご希望により実施せず)
    治療期間・回数 樹状細胞ワクチン療法は、1セット(7回)を1つのクール(治療単位)として実施します。本療法は、最初のクールを終えたあとも治療を継続される方が多くいらっしゃいます。
    治療費 当院の治療はすべて自費診療(保険適用外)です。費用は改定される場合があるため、最新の金額は料金表をご確認ください。なお、クール終了後に治療を継続される場合は、別途費用がかかります。

    治療経過

    時期 内容
    初発症状 下血と陰部の違和感が出現し、病院を受診。
    診断 肛門管がん・両鼠径リンパ節転移(ステージⅢ)と診断。手術(Miles手術=人工肛門を伴う直腸切断術)・抗がん剤治療を勧められたが、十分な説明を受けたうえでご本人がこれを希望されなかった
    治療開始 鼠径部の転移リンパ節を切除。この切除には局所制御に加え、樹状細胞ワクチンの材料となる「自己がん組織」を得る目的があった。得られた自己がん組織をもとにした樹状細胞ワクチン療法と、放射線治療を併用して開始。
    治療後 肛門の原発がん・両鼠径リンパ節転移がCT上で完全に消失
    約2年後(現在) 再発なく良好に経過。現在は定期検査のみで経過観察中。
    肛門管がん2920 治療経過タイムライン(手術・抗がん剤を用いず放射線+免疫療法で原発巣・転移が消失)

    治療の考え方(SynerTri®)

    当グループでは、標準治療(抗がん剤)を土台としつつ、プラスアルファで免疫の働きで後押ししていきます。進行がんでも免疫の働きを強化するために、患者さまの状況に応じて複合的に免疫を改善させる独自のプロトコルSynerTri®(シナトリ/学術名 iCCI)で個別に免疫治療を設計します。

    本症例では、患者さまが人工肛門を伴う手術・抗がん剤を希望されなかったため、局所療法〈スイッチ〉として鼠径リンパ節の切除と放射線治療を行い、免疫を活性化する〈アクセル〉である樹状細胞ワクチン療法を併用しました。このリンパ節の切除は、ワクチンの材料となる自己がん組織(ネオアンチゲンの宝庫)を得ることも兼ねています。放射線でがん細胞が壊れる際に放出される抗原も加わり、免疫療法と相乗的に働くことが期待され、本症例では原発巣・リンパ節転移の消失が確認されています。

    副作用・リスク

    樹状細胞ワクチン療法の副作用は基本的にほとんど認められませんが、以下の可能性があります。なお、放射線治療を併用する場合は、放射線に伴う副作用(皮膚炎・粘膜炎・下痢など)も生じ得ます。

    • 成分採血時:めまい・吐き気(迷走神経反射)、口の周り・手足のしびれ等
    • 細胞培養時:細菌等による培養汚染リスク
    • ワクチン接種時:注射部位の発赤・皮疹・発熱

    治療効果には個人差があります。同様の効果を保証するものではありません。

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      矢﨑雄一郎 プレシジョンクリニック東京院長
      監修:矢﨑 雄一郎 医師
      プレシジョンクリニック 東京院長 / 医療法人社団プレシジョンメディカルケア理事長
      東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。約6,000症例の免疫療法を主導し、進行がんにおける個別化免疫治療(SynerTri®)プロトコルを確立。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法(樹状細胞ワクチン)の開発企業であるテラ株式会社の創業者。