この症例のポイント
Case Report ─ 当院で治療を行った乳がんの症例
乳がん(ホルモン受容体陽性)と診断された直後に、当院へ相談があった患者さまの経過をご紹介します。手術・放射線治療・抗がん剤・ホルモン療法と並行して、樹状細胞ワクチン療法を続けてこられました。乳がんのタイプと標準治療の解説は、症例のあとにまとめています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 診断名 | 左乳がん(ホルモン受容体陽性) |
| 年齢・性別 | 50代 女性 |
| 発見の契機 | 左乳房のしこりを自覚 |
| 実施された手術・薬物療法 | 左乳房部分切除術、術後の放射線治療(合計20回)、抗がん剤(AC療法、ドセタキセル)、ホルモン療法(タモキシフェン)、TS-1(1年間) |
| 当院での治療 | 樹状細胞ワクチン療法(現在は半年ごと) |
左の乳房のしこりに気づいて病院を受診し、左乳がん(ホルモン受容体陽性)と診断されました。主治医からは、手術・ホルモン療法・抗がん剤による治療が提案されていました。
当院へのご相談は、その診断の時期でした。検討の課題は、主治医のもとで進める標準治療と並行して、再発予防を目的に加えられる治療があるかどうかでした。当院では、標準治療を続けていただきながら、樹状細胞ワクチン療法を併用しました。
同年12月に左乳房の部分切除術を受けられ、翌年1月から術後の放射線治療(合計20回)、2月から抗がん剤のAC療法が始まりました。AC療法は、ドキソルビシン(商品名:アドリアシン®)とシクロホスファミド(商品名:エンドキサン®)を併用する治療です。樹状細胞ワクチン療法は、その翌月(3月)から始めています。
その後、抗がん剤はドセタキセル(商品名:タキソテール®)に変わりました。8月からは、ホルモン療法のタモキシフェン(商品名:ノルバデックス®)に切り替わりました。9月からの1年間は、TS-1(一般名:テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)の内服が加わっています。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 20XX年9月 | 左乳房のしこりを自覚して受診。左乳がん(ホルモン受容体陽性)と診断。この時期に当院へ相談。 |
| 同年12月 | 左乳房部分切除術。 |
| 翌年1月〜 | 術後の補助療法として放射線治療(合計20回)。 |
| 同年2月〜 | 抗がん剤(AC療法)を開始。 |
| 同年3月〜 | 再発予防を目的に、当院で樹状細胞ワクチン療法を開始。 |
| 同年5月〜 | 抗がん剤をドセタキセルに変更。 |
| 同年8月〜 | ホルモン療法(タモキシフェン)に切り替え。 |
| 同年9月〜翌年8月 | TS-1を内服(1年間)。その後はタモキシフェンのみ継続。 |
| 診断から3年以上 | 検査で再発は認められていない。樹状細胞ワクチン療法は半年ごとに継続。 |

当グループでは、標準治療(抗がん剤)を土台としつつ、プラスアルファで免疫の働きで後押ししていきます。進行がんでも免疫の働きを強化するために、患者さまの状況に応じて複合的に免疫を改善させる独自のプロトコルSynerTri®(シナトリ/学術名 iCCI)で個別に免疫治療を設計します。
本症例では、手術・放射線治療・抗がん剤・ホルモン療法という標準治療に、免疫を活性化することをねらう〈アクセル〉として、樹状細胞ワクチン療法を組み合わせました。手術のあとに体内に残っている可能性がある小さながん細胞に対して、免疫の面からも備えることを目的とした組み立てです。診断から3年以上の時点で再発が認められておらず、再発予防に寄与できた可能性はあると考えています。
樹状細胞ワクチン療法は、1セット(7回)を1つのクール(治療単位)として実施します。本症例では、最初のクールのあとも投与を続け、現在は半年ごとに投与しています。本療法は、最初のクールを終えたあとも治療を継続される方が多くいらっしゃいます。
当院の治療はすべて自費診療(保険適用外)です。費用は改定される場合があるため、最新の金額は料金表をご確認ください。なお、クール終了後に治療を継続される場合は、別途費用がかかります。
樹状細胞ワクチン療法の副作用は基本的にほとんど認められませんが、以下の可能性があります。
本症例では、注射した部位に30〜100mmほどの発赤がみられました。
また、併用した抗がん剤(AC療法・ドセタキセル)では、脱毛、吐き気、白血球の減少、手足のしびれなどがみられることがあります。ホルモン療法(タモキシフェン)では、ほてりや月経の変化などのほか、頻度は高くありませんが、血栓症や子宮内膜の変化が起こることがあります。本症例では、タモキシフェンによる副作用はみられていません。TS-1 では、白血球の減少、下痢、口内炎、色素沈着などが起こることがあります。
※治療効果には個人差があり、すべての患者さまに同様の結果が得られるとは限りません。また、本症例で用いた治療には、国内の保険適応や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療は、リスクとベネフィットを評価し、ご本人の同意のもとで設計します。
乳がんは、がん細胞の性質によっていくつかのタイプに分けられます。ホルモン受容体(エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体)をもつかどうか、HER2というたんぱく質が多いかどうかで、使う薬が変わります。
ホルモン受容体陽性の乳がんは、女性ホルモンの働きで増えやすい性質をもちます。そのため、ホルモンの働きを抑えるホルモン療法が、治療の大きな柱になります。乳がんの中で最も多いタイプです。
乳房の一部を切除する手術(乳房部分切除術)のあとは、残した乳房からの再発を防ぐため、放射線治療を行うのが一般的です。
再発のリスクに応じて、抗がん剤を行うこともあります。AC療法のあとに、ドセタキセルなどのタキサン系の薬を続ける方法がよく用いられます。
ホルモン療法は、タモキシフェンなどの薬を年単位の長い期間続けます。エストロゲン受容体陽性・HER2陰性で、再発のリスクが中程度以上の場合には、ホルモン療法に TS-1 を1年間加える方法もあります。国内の臨床試験で、この条件の方の再発のリスクを下げることが示された方法です(Toi ほか, Lancet Oncol 2021)。
当グループでは、主治医のもとで進める標準治療を土台にしています。そのうえで、免疫の働きを後押しする樹状細胞ワクチン療法(SynerTri®のアクセル)を組み合わせる設計を検討することがあります。樹状細胞ワクチン療法は、患者さまご自身の樹状細胞を体外で培養してがんの目印を覚えさせ、体内に戻すことで、キラーT細胞にがんを攻撃させることを目指す治療です。
標準治療に加えた場合の上乗せの効果は、大規模な臨床試験で確立されたものではありません。適するかどうかは、病状と体の状態をみて個別に判断します。

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