この症例のポイント
Case Report ─ 当院で治療を行った膵臓癌の症例
腹痛と便通の異常から膵臓癌(膵臓がん)と腹膜播種が見つかり、人工肛門をつくる手術のあとに抗がん剤治療を始めた患者さまの経過をご紹介します。膵臓癌のステージや標準治療の解説は、症例のあとにまとめています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 診断名 | 膵臓癌(膵体部がん)・腹膜播種 |
| ステージ | ステージⅣ |
| 年齢・性別 | 70代後半 女性 |
| 発見の契機 | 腹痛、便秘と下痢の繰り返し |
| 手術・標準治療 | 人工肛門造設術(腹膜播種による腸閉塞に対して)、抗がん剤(GnP療法)、放射線治療(20回) |
| 当院での治療 | 樹状細胞ワクチン療法 |
腹痛と、便秘・下痢を繰り返す症状が2週間ほど続き、近くの医療機関を受診されました。処方を受けても改善せず、別の医療機関のCTで膵臓の腫瘍が疑われました。精密検査の結果、膵体部がん・腹膜播種と診断されました。
同じ月に、腹膜播種によるS状結腸の閉塞(腸閉塞)が起こりました。このため、人工肛門をつくる手術を受けられました。
術後の状態が落ち着いてから、抗がん剤のGnP療法が始まりました。GnP療法は、ゲムシタビン(商品名:ジェムザール®)とナブパクリタキセル(商品名:アブラキサン®)を併用する治療です。当院では、その治療を続けていただきながら、翌月から樹状細胞ワクチン療法を併用しました。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 20XX年 | 腹痛と、便秘・下痢を繰り返す症状が2週間ほど続き受診。CTで膵臓の腫瘍が疑われ、精密検査で膵体部がん・腹膜播種と診断。 |
| 同じ月 | 腹膜播種によるS状結腸の閉塞(大腸イレウス)のため、人工肛門造設術。 |
| 診断から2か月後〜 | 術後の状態が安定し、抗がん剤(GnP療法)を開始。 |
| 3か月後〜 | 当院で樹状細胞ワクチン療法を開始。同じ月のCTで、腫瘍の縮小を確認。 |
| 7か月後 | 放射線治療(20回)。 |
| 診断から12か月 | 抗がん剤と樹状細胞ワクチン療法を併用しながら通院。腫瘍は縮小した状態を保っている。 |
3か月後のCTは、樹状細胞ワクチン療法を始めた月の検査です。抗がん剤(GnP療法)を始めて約1か月後にあたります。この時点の縮小を、樹状細胞ワクチン療法の効果とみることはできません。

当グループでは、標準治療(抗がん剤)を土台としつつ、プラスアルファで免疫の働きで後押ししていきます。進行がんでも免疫の働きを強化するために、患者さまの状況に応じて複合的に免疫を改善させる独自のプロトコルSynerTri®(シナトリ/学術名 iCCI)で個別に免疫治療を設計します。
本症例では、標準治療としての抗がん剤(GnP療法)に、免疫を活性化することをねらう〈アクセル〉として、樹状細胞ワクチン療法を併用しました。経過の途中で、放射線治療(20回)も受けられています。
樹状細胞ワクチン療法は、1セット(7回)を1つのクール(治療単位)として実施します。本療法は、最初のクールを終えたあとも治療を継続される方が多くいらっしゃいます。
当院の治療はすべて自費診療(保険適用外)です。費用は改定される場合があるため、最新の金額は料金表をご確認ください。なお、クール終了後に治療を継続される場合は、別途費用がかかります。
樹状細胞ワクチン療法の副作用は基本的にほとんど認められませんが、以下の可能性があります。
併用した抗がん剤(GnP療法)では、疲労、脱毛、吐き気、手足のしびれ(末梢神経障害)、貧血、白血球や血小板の減少、下痢などがみられることがあります。重い副作用として、骨髄抑制、感染症、間質性肺疾患などが報告されています。
GnP療法の第Ⅲ相試験では、強い副作用(グレード3以上)が次の割合でみられました。好中球の減少38%、疲労17%、末梢神経障害17%です(Von Hoff ほか, N Engl J Med 2013)。副作用の出方には個人差があります。
放射線治療の副作用は、照射する部位によって異なります。
※治療効果には個人差があり、すべての患者さまに同様の結果が得られるとは限りません。また、本症例で用いた治療には、国内の保険適応や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療は、リスクとベネフィットを評価し、ご本人の同意のもとで設計します。
膵臓癌は、胃の後ろにある膵臓にできるがんです。初期は症状が出にくい病気です。腹痛、背中の痛み、体重の減少、黄疸、便通の変化などをきっかけに見つかることがあります。
腹膜播種は、がん細胞がおなかの内側をおおう膜(腹膜)に散らばった状態です。膵臓から離れた場所への転移にあたるため、腹膜播種があるとステージⅣと診断されます。進むと、腹水がたまる、腸の通りが悪くなる(腸閉塞)といった症状が出ることがあります。
膵臓癌の治療の全体像は「膵臓がんの方へ」に、腹膜播種の治療の考え方は「腹膜播種の治療相談」にまとめています。
腹膜播種で腸が狭くなると、便やガスが通らなくなることがあります。これが腸閉塞です。食事がとれない状態が続くと、抗がん剤治療を始めることも難しくなります。
このようなとき、便の出口をおなかの表面につくる手術(人工肛門造設術)が行われることがあります。目的は、腸の通り道を確保し、食事や次の治療につなげることです。手術のあと、全身の状態が落ち着いてから薬物療法を検討します。
腹膜播種など遠隔転移のある膵臓癌では、薬物療法が治療の中心になります。最初に行う薬物療法を、一次治療と呼びます。一次治療には、主にGnP療法(ゲムシタビンとナブパクリタキセルの併用)と、FOLFIRINOX療法が用いられます。
どちらも、臨床試験でゲムシタビン単独より生存期間が長いことが示された治療です(Von Hoff ほか, N Engl J Med 2013/Conroy ほか, N Engl J Med 2011)。そのぶん、副作用は増えます。
どちらを選ぶかは、年齢、全身の状態、副作用の出方などをふまえて決めます。全身の状態によっては、ゲムシタビン単独やS-1単独が選ばれることもあります。
当グループでは、この標準治療を土台に、免疫の働きを後押しする樹状細胞ワクチン療法(SynerTri®のアクセル)を組み合わせる設計を検討することがあります。樹状細胞ワクチン療法は、患者さまご自身の樹状細胞を体外で培養してがんの目印を覚えさせ、体内に戻すことで、キラーT細胞にがんを攻撃させることを目指す治療です。標準治療に加えた場合の上乗せの効果は、大規模な臨床試験で確立されたものではありません。適するかどうかは、病状と体の状態をみて個別に判断します。

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