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免疫療法でなぜ「がん側」も攻略しなければならないのか|腫瘍微小環境(TME)という壁 - がん治療専門院|免疫療法|膵臓がん|プレシジョンクリニック
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免疫療法

投稿日:2026.6.3/更新日:2026.6.3

免疫療法でなぜ「がん側」も攻略しなければならないのか|腫瘍微小環境(TME)という壁

📌 この記事でわかること

  • 免疫を強化するだけでは、進行がんの「課題の半分」しか解決できていない?!
  • がんが築く「難攻不落の要塞」=腫瘍微小環境(TME)とは何か
  • なぜ早期がんと違い、「進行がん」でこそ要塞が問題になるのか
  • 免疫細胞が「腫瘍の中に入れるかどうか」がなぜ決定的に重要なのか
  • 当グループがTMEに着目し、要塞を攻略するために考えてきたこと
  • 「免疫側」と「がん側」の両輪で、進行がんの免疫療法は完結する

がんの免疫療法というと、多くの方は「免疫の力を強くする治療」をイメージされると思います。もちろん、それは正しい。ですが、私が長年の研究開発と臨床の中でたどり着いた結論は、「免疫側を強くするだけでは、進行がんという難敵には十分に届かない」というものです。

本稿では、もう一方の主役――がん側の環境、すなわち腫瘍微小環境(TME)について、なぜ私たちがここまでこだわるのか、その理由をお話しします。

プレシジョンクリニック 東京院長 矢﨑 雄一郎

なぜ「免疫を強くするだけ」では、進行がんに十分に届かないのか

私が患者さんにいつもお伝えしているたとえがあります。それは、「免疫側を強化することは、進行がんに立ち向かううえで取り組むべきことの、いわば半分にすぎない」ということです。

もちろん、進行がんの治療には、全身の状態や一人ひとりのがんの性質など、ほかにも数多くの要因が関わります。ですから「半分」というのは厳密な割合の話ではなく、患者さんにわかりやすくお伝えするための、私なりの言い方です。それでも、あえて「半分」と言いたくなるほどに、もう一方の「がん側の環境」――すなわち腫瘍微小環境(TME)――は大きな課題なのだと、私は考えています。

どれほど優れたワクチンで、がんを攻撃する免疫細胞(細胞傷害性T細胞=CTL)を育てても、その兵士たちががんの陣地にたどり着けず、力を発揮できなければ、勝負になりません。逆に、がん側の守りを崩す対策をしなければ、やはり十分な成果は望みにくい。

つまり、免疫側(攻める力)と、がん側(守りの環境=TME)の両方に働きかけてこそ、進行がんに対する免疫療法は本来の力を発揮できる。これが、私の基本的な考え方です。

がんが築く「難攻不落の要塞」 ― 腫瘍微小環境(TME)

進行したがんは、ただの細胞のかたまりではありません。私はよく、がんを「難攻不落の城(要塞)」にたとえてお話しします。

がんは、自らの周囲に、免疫の攻撃を防ぐための巧妙な防御システムを築き上げます。これが腫瘍微小環境(TME)です。城には、いくつもの守りがあります。

第一に、分厚い「城壁」。 がんの周囲には、線維性の壁(がん関連線維芽細胞などが作るコラーゲンの層)が築かれることがあります。この壁が、攻撃役の免疫細胞が城内へ入ることを物理的に阻みます。

第二に、城内の「罠」。 たとえ壁を越えて城内に入れたとしても、そこには免疫を無力化する仕掛けが待っています。せっかく入り込んだCTLが、攻撃力を奪われたり、機能を停止させられたり――時には、がん側に取り込まれて「寝返って」しまうことさえあります。

この二重三重の守りがあるからこそ、進行がんは「難攻不落」なのです。免疫という兵士をいくら鍛えても、この要塞を攻略する戦略がなければ、城は落ちません。

なぜ「進行がん」でこそ、要塞が問題になるのか

ここで大切なのは、この要塞は、最初から存在するわけではないということです。がんと免疫の関係は、時間とともに3つの段階を経て変化していくと考えられています。これは「がん免疫編集(Cancer Immunoediting)」と呼ばれる、がん免疫学の基礎的な概念です。この考え方は、私が免疫学を学ぶ原点となった恩師――元北海道大学教授で免疫学者の西村孝司先生からも、繰り返し聞かされてきたものです。シュライバー博士らが提唱した、腫瘍免疫の根幹をなす重要な枠組みです。

がん免疫編集の3相(排除・平衡・逃避)の概念図。進行がんでは逃避の段階で免疫を抑え込む要塞(腫瘍微小環境・TME)が築かれる。

第一段階の「排除」では、免疫ができはじめたがん細胞を見つけ出し、排除しています。免疫が優勢な、いわば早期の状態です。続く「平衡」では、免疫とがんが拮抗し、長いせめぎ合いが続きます。そして第三段階の「逃避」で、がんは免疫を抑え込む環境――すなわち腫瘍微小環境(TME)という要塞――を築き上げ、免疫から逃れて増殖を始めます。

つまり、早期のがんでは、まだ要塞が十分に築かれていません。免疫の力が比較的届きやすい段階です。ところが、がんが進行するにつれて、この要塞は徐々に、そして強固に築かれていきます。進行がんで免疫療法が難しくなる大きな理由が、ここにあります。だからこそ、進行がんでは「要塞を攻略する」という発想がどうしても必要になるのです。

勝負を分けるのは「免疫細胞が、がんの中に入れるか」

では、要塞攻略の鍵はどこにあるのか。私は、「免疫細胞が、腫瘍の中に入っていけるかどうか」に尽きると考えています。

理由は単純です。免疫細胞は、がん細胞に直接接触しなければ、がんを攻撃できないからです。城壁の外でいくら大軍が待機していても、城内に攻め込めなければ、がん細胞を倒すことはできません。

がんの内部に入り込み、実際に攻撃できる位置にいる免疫細胞のことを、専門的にはTIL(腫瘍浸潤リンパ球:Tumor-Infiltrating Lymphocytes)と呼びます。このTILが、がんの内部にどれだけ存在し、機能できているか――それが、免疫療法の成否を大きく左右すると考えられています。

だからこそ、「免疫を強くする」だけでは足りない。免疫細胞が城内に入り、そこで働ける状態を作ること――すなわちTMEを整えることが、どうしても必要になるのです。

要塞を攻略するための、私たちの考え方

では、どうやってこの要塞を攻略するのか。当グループでは、段階的に城を攻める発想で治療を設計しています。具体的な手法や薬剤の詳細は控えますが、考え方の骨子はこうです。

① 城壁を薄くする ― 免疫が入れる「道」を作る

まず、免疫細胞の侵入を阻む線維性の壁(バリア)を、できるだけ薄くすることを目指します。壁が厚いままでは、どんな精鋭部隊も城内に入れません。壁を薄くし、免疫細胞が通れる道を作る――これが攻略の第一歩です。

② 火種を作る ― がんの目印を露わにする(点火)

次に、局所療法などを用いて、がん細胞から目印(ネオアンチゲンなど)を露出させ、免疫が「敵」を認識しやすい状態を作ります。冷えて免疫が働きにくくなった環境(コールドな状態)に、火種を灯すイメージです。この「点火」は、アブスコパル効果とも関わる重要な工程です。

③ 攻撃役を呼び込み、増やす ― 免疫の招集

そして、樹状細胞ワクチン療法を中核に、がんを攻撃する免疫細胞を育て、城内へ招き入れ、増やしていきます。壁が薄くなり、火種が灯った城内でこそ、この攻撃役は本来の力を発揮できます。

重要なのは、この戦略を患者さん一人ひとりの「城の構造」に合わせて設計することです。城壁が分厚い方もいれば、そうでない方もいる。免疫細胞がまったく入れていない方もいます。当グループでは、腫瘍微小環境を独自に評価し、その方のがんがどのような守りを築いているかを見極めたうえで、最適な攻略法を組み立てることを目指しています。画一的ではない、その方のための戦略です。

※治療効果には個人差があり、すべての患者さんに同様の結果が得られるとは限りません。また、腫瘍微小環境への介入を目的とした薬剤等には、国内の保険適応や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療は、リスクとベネフィットを評価し、ご本人の同意のもとで設計します。

なぜ、私はTMEにたどり着いたのか

私がTMEにこだわるようになった理由は、はっきりしています。樹状細胞ワクチン療法だけでは、進行がんには十分に効かない場面がある――その現実に、研究開発と臨床の中で何度も直面したからです。

樹状細胞ワクチン療法は、条件が整えば劇的に働くことがあります。私自身、それを目の当たりにしてきました。しかし、進行がんでは、いくら優れた免疫を育てても、それが届かない壁がある。その壁こそが、TMEだったのです。「免疫側」を磨き続けた先で、私は「がん側」の環境に向き合わざるを得なくなりました。

免疫を強くする努力と、がんの要塞を切り崩す努力。その両方がそろって初めて、進行がんの免疫療法は完結する。この考えに至った経緯と、樹状細胞ワクチン療法そのものへの私の想いについては、ネオアンチゲンのコラムや、がんワクチンの最新研究動向とあわせてお読みいただくと、より深くご理解いただけると思います。

「免疫側」と「がん側」、両輪で完結する

最後に、もう一度お伝えします。進行がんに対する免疫療法は、「免疫を強くする」だけでも、「がんの環境を変える」だけでも、完結しません。攻める力を鍛え、同時に、その力が届く道を切り拓く。この両輪がそろってこそ、進行がんに立ち向かう一つの形になると、私は考えています。

進行がんと診断され、「もう打つ手がない」と言われた方にも、考えうる選択肢はまだあるかもしれません。諦める前に、一度ご相談いただければと思います。

プレシジョンクリニック 東京院長
矢﨑 雄一郎

「自分のがんの場合、どのような治療設計が考えられるのか」を知りたい方へ。プレシジョンクリニックの無料相談では、現在の診断内容や治療経過をもとに、考えられる選択肢をお伝えします。

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よくある質問(FAQ)

Q. 腫瘍微小環境(TME)とは何ですか?

がん細胞そのものではなく、がんを取り囲む細胞や組織(線維芽細胞、血管、免疫細胞など)の総称です。がんはこの環境を、免疫の攻撃を防ぐ「要塞」のように利用することがあります。詳しくは用語解説ページもご覧ください。

Q. なぜ免疫を強くするだけでは不十分なのですか?

がんを攻撃する免疫細胞を育てても、がんが築いた壁(線維性バリア)に阻まれて腫瘍の中に入れなかったり、入っても無力化されたりすることがあるためです。免疫細胞ががん細胞に直接接触できなければ、攻撃はできません。そのため、免疫側の強化と、がん側の環境(TME)への対策の両方が重要だと考えています。

Q. 早期のがんと進行がんで、免疫療法の効きやすさは違うのですか?

異なると考えられています。がんと免疫の関係は「排除・平衡・逃避」という3つの段階(がん免疫編集)を経て変化します。早期はまだ免疫を抑え込む要塞(腫瘍微小環境)が十分に築かれていませんが、進行がんではこの要塞が強固に築かれているため、免疫療法だけでは届きにくくなります。このため進行がんでは、要塞を攻略する複合的なアプローチが重要になると考えています。

Q. TILとは何ですか?

腫瘍浸潤リンパ球(Tumor-Infiltrating Lymphocytes)の略で、がんの内部に入り込んだ免疫細胞を指します。このTILがどれだけ存在し機能できているかが、免疫療法の成否に関わると考えられています。

Q. TMEへの治療は、誰でも受けられますか?

適応は、がん種・進行度・腫瘍微小環境の状態・全身状態などにより異なります。また、TMEへの介入を目的とした薬剤には、標準治療として確立されていないものも含まれます。詳細は個別の状況によりますので、無料相談でご確認ください。

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矢﨑雄一郎 プレシジョンクリニック東京院長

【著者・監修】矢﨑 雄一郎

東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事。その後、東京大学医科学研究所にて樹状細胞ワクチン療法の臨床研究に従事したのち、現在はプレシジョンクリニック東京院長として活躍中。専門分野は一般外科及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。

専門分野:
一般外科・消化器外科

著書:
『免疫力をあなどるな!』

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