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非浸潤性乳管がん(DCIS)進展阻止を目指す三抗原DNAワクチン:安全性と免疫原性を評価した第I相試験結果
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免疫療法

投稿日:2026.5.24/更新日:2026.5.24

乳がん(DCIS)進展阻止を目指す三抗原DNAワクチン:安全性と免疫原性を評価した第I相試験結果

非浸潤性乳管がん(DCIS)の過剰治療が課題となる中、本研究はDCISを標的とした三抗原DNAワクチンの第I相試験結果を報告しました。このワクチンは安全性と免疫原性を示し、DCISの新たな治療戦略として期待されます。

背景

非浸潤性乳管がん(DCIS)は、乳管内にがん細胞がとどまっている前浸潤性病変です。近年、検診の普及によりDCISの診断が増加していますが、その一部は浸潤性乳がんへ進行しないため、現在の標準治療である手術や放射線療法、全身療法は、患者さんにとって不必要な健康リスクを伴う「過剰治療」となるケースがあります。 そこで、DCIS病変をインターセプト(病変の進行を阻止)し、浸潤性乳がんへの進展を予防する新たな戦略が求められています。ワクチン療法は、患者さん自身の免疫系を活性化することで、低侵襲かつ長期的な効果が期待できるアプローチとして注目されています。

研究内容と結果

本研究では、ホルモン受容体陽性および陰性のDCISで発現が認められる3種類の抗原、すなわちインスリン様成長因子結合タンパク質2(IGFBP-2)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、インスリン様成長因子1受容体(IGF-IR)を標的とする、Th1型免疫応答を誘導する多抗原ポリエピトーププラスミドDNAワクチンが開発されました。 この三抗原ワクチンは、疾患の証拠がない非転移性乳がん患者32名を対象とした第I相臨床試験で評価されました。主要目的は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)をアジュバント(免疫補助剤)として併用したワクチンの安全性評価です。参加者は150 µg、300 µg、600 µgのいずれかの用量レベルに割り付けられ、3ヶ月間毎月皮内投与されました。 結果として、有害事象(AEs)は用量レベル間で有意な差はなく、関連するAEはすべてグレード1または2(軽度または中等度)でした。これは、本ワクチンが良好な安全性プロファイルを持つことを示しています。 免疫原性については、すべての用量で免疫応答が確認されました。免疫応答者の割合は、150 µg群で70%、300 µg群で67%、600 µg群で40%でした。特に300 µg群の全参加者は、最終接種後6ヶ月時点でも有意なTh1型抗原特異的免疫応答を維持しており、長期的な免疫持続性が示唆されました。 さらに、ワクチンによる免疫応答者から得られたT細胞は、非応答者と比較して代謝フィットネス(細胞が効率的に機能するための代謝能力)の増加を示す遺伝子発現プロファイルを示しました。これは、ワクチンが質の高い免疫応答を誘導している可能性を示唆しています。

臨床的意義

本研究は、DCISを標的とした三抗原DNAワクチンが、非転移性乳がん患者において安全であり、かつ免疫応答を誘導する免疫原性を持つことを第I相試験で初めて示しました。特に300 µg用量での長期的な免疫持続性は、予防的なワクチンとして重要な特性です。 このワクチンが将来的にDCIS患者さんの治療に導入されれば、不必要な手術や放射線療法、全身療法を回避し、浸潤性乳がんへの進展を予防できる可能性があります。これにより、患者さんの身体的・精神的負担を軽減し、QOL(生活の質)の向上に大きく貢献することが期待されます。 しかし、これはまだ第I相試験の結果であり、安全性と免疫原性が確認された段階です。実際にDCISの進展を抑制する有効性があるかどうかは、今後の第II相試験で詳細に検証される必要があります。臨床応用にはまだ時間を要しますが、DCIS治療における新たな選択肢として大きな可能性を秘めています。

まとめ

本研究は、非浸潤性乳管がん(DCIS)に対する新たな免疫療法アプローチとして、三抗原DNAワクチンの安全性と免疫原性を報告しました。精密医療の観点からは、IGFBP-2、HER2、IGF-IRといった特定の抗原を標的とすることで、がん細胞の特性に基づいた個別化された治療戦略を構築する可能性を示唆しています。 また、免疫応答者のT細胞で代謝フィットネスの増加が認められたことは、ワクチンによる免疫応答の質を評価する新たな指標となり得ます。これは、ゲノム解析や他のオミックス解析と組み合わせることで、より効果的な個別化医療の実現に繋がるでしょう。 このワクチンは、DCISの過剰治療問題に対する低侵襲な解決策となり得る重要な第一歩です。今後の第II相試験での有効性検証が待たれますが、DCISの治療パラダイムを変革する可能性を秘めた、期待される研究成果と言えます。

原論文

Safety and immunogenicity of a tri-antigen vaccine targeting IGFBP-2, HER2, and IGF-IR in participants with non-metastatic breast cancer

Abstract (Original)

Background Ductal carcinoma in situ (DCIS) is a preinvasive form of breast cancer. Current treatment consists of surgery, radiation, and often systemic therapy exposing patients to unnecessary health risks. Vaccines targeting DCIS may be a way to intercept preinvasive lesions and prevent the development of invasive breast cancer.
Methods We developed a Th1 selective multiantigen, polyepitope plasmid-DNA vaccine encoding segments of IGFBP-2, HER2, and IGF-IR, all antigens expressed in hormone receptor positive and negative DCIS. We then performed a Phase I study in participants with non-metastatic breast cancer with no evidence of disease. The primary objective was to assess the safety of 3 monthly intradermal doses (150, 300, or 600 µg) of the tri-antigen vaccine with granulocyte macrophage colony-stimulating factor as an adjuvant. 32 participants were enrolled, 10 per dose level. Toxicity evaluations occurred monthly with vaccination and at 1 and 6 months after the last vaccine. Blood was collected at baseline and at 1 and 6 months after the last immunization to assess cellular immune responses. Participants were followed annually for 5 years for long-term toxicity.
Results There was no significant difference in adverse events (AEs) across dose levels and all related AEs were grades 1 or 2. All doses were immunogenic; responders included 70% of participants at the 150 µg dose level, 67% at the 300 µg dose, and 40% at the 600 µg dose level. All participants at the 300 µg dose retained significant Th1-antigen-specific immune response at 6 months after end of immunizations. T-cells derived from vaccine immunologic responders exhibited gene expression profiles that indicated an increased metabolic fitness as compared with immunologic non-responders.
Conclusions The tri-antigen vaccine appears safe and immunogenic. The intermediate dose (300 µg) was chosen as the Phase II dose due to the long-term persistence of immunity after vaccination. The vaccine will be studied in Phase II trials for the treatment of DCIS.
Trial registration number NCT02780401 .

監修医師

矢﨑 雄一郎医師

免疫療法・研究開発

東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。

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