投稿日:2026.5.23/更新日:2026.5.23
ダラクソンラシブ(daraxonrasib/開発コード:RMC-6236)は、米国Revolution Medicines社が開発した、世界初の「Pan-RAS(汎RAS)阻害薬」です。これまで「ドラッガブルでない(薬で標的にできない)」とされてきたRAS遺伝子変異を持つがん細胞を直接攻撃する経口薬で、膵がん治療を変える可能性のある新薬として2026年5月現在、世界中の注目を集めています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一般名 | ダラクソンラシブ(daraxonrasib) |
| 開発コード | RMC-6236 |
| 開発会社 | Revolution Medicines, Inc.(米国カリフォルニア州) |
| 薬剤クラス | RAS(ON) マルチセレクティブ阻害薬(Pan-RAS阻害薬) |
| 投与経路 | 経口(1日1回) |
| 標準用量 | 300mg/日 |
| 対象疾患(試験中) | 転移性膵管腺癌(PDAC)、非小細胞肺がん、大腸がん等のRAS変異がん |
| FDA承認状況 | 未承認(拡大アクセスプログラムは2026年5月1日承認) |
| FDA指定 | Breakthrough Therapy指定、Orphan Drug指定、National Priority Voucher選定 |
ダラクソンラシブは、これまで「治療標的にできない」とされてきたRAS遺伝子変異を、活性型のまま直接ブロックする世界初クラスの分子標的薬です。特に膵がんの90%以上に存在するKRAS遺伝子変異(G12D、G12V、G12Rなど)を、変異の種類を問わず広く阻害できる点が革新的です。
膵がん(特に膵管腺癌)は、すべてのがんの中でも最も予後が厳しいがんのひとつです。転移性膵がんの5年生存率は約3%、二次治療以降の標準治療は限られており、化学療法に反応しない患者には選択肢がほとんどありませんでした。
その大きな理由は、膵がんの90%以上で「KRAS遺伝子」に変異があるにもかかわらず、長年にわたりKRAS変異を直接ターゲットにする薬がなかったためです。KRAS変異の中でも、膵がんで最も多いのは「G12D」「G12V」「G12R」というタイプで、肺がんで多い「G12C」とは構造が異なります。
2021年以降、ソトラシブ(Lumakras)、アダグラシブ(Krazati)といった「KRAS G12C」を狙う薬が承認されましたが、これらが効くのはG12C変異を持つ患者だけです。膵がん患者でG12C変異を持つのは1%未満で、ほとんどの膵がん患者には恩恵がありませんでした。
ダラクソンラシブは、G12C、G12D、G12V、G12R、G13、Q61など、複数のRAS変異を一つの薬でターゲットできる「マルチセレクティブ」設計です。これにより、膵がん患者の約90%に治療の可能性が開かれることになります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 試験名 | RASolute 302(NCT06625320) |
| 試験フェーズ | 第III相、無作為化、グローバル試験 |
| 対象患者 | 前治療歴のある転移性膵管腺癌(PDAC)患者 |
| 登録患者数 | 約500名 |
| 対象変異 | KRAS G12D/G12V/G12R など G12変異、wild-typeも含む |
| 介入 | ダラクソンラシブ 300mg 1日1回経口 vs 医師選択の標準化学療法 |
| 主要評価項目 | KRAS G12変異陽性患者における無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS) |
全生存期間(OS):
この「HR 0.40」という数値は、膵がんの臨床試験では極めて珍しい大きな差です。ASCO 2026に向けたインタビューで、複数の膵がん専門医が「practice-changing(診療を変える)試験結果」と評価しています。
NEJM(New England Journal of Medicine)2026年5月7日号に掲載された第I/II相試験「RMC-6236-001」のデータでは、以下の結果が報告されています。
これらのデータが第III相試験RASolute 302の根拠となっています。
第III相試験の詳細結果(変異別サブグループ解析、安全性、QOLデータなど)は、2026年5月31日にシカゴで開催されるASCO Annual Meeting Plenary Sessionで、Dana-Farber Cancer Institute(ダナファーバーがん研究所)のBrian Wolpin医師により発表される予定です(Abstract LBA5)。
RAS遺伝子は、細胞の増殖シグナルを制御する「スイッチ」のような役割を持つ遺伝子です。RAS変異が起こると、このスイッチが「常時ON」状態になり、細胞が無秩序に増殖してがん化します。RAS変異はヒトのがん全体の約30%に存在し、膵がんでは90%以上、肺がんで30%、大腸がんで45%程度に見られます。
従来の第一世代KRAS阻害薬(ソトラシブ等)は、RASが不活性型(GDP結合型、OFF状態)に戻った瞬間に結合する設計でした。これはG12C変異特有のシステイン残基に共有結合する仕組みのため、他の変異タイプには使えませんでした。
一方、ダラクソンラシブは、RASが活性型(GTP結合型、ON状態)のときに結合する設計です。サイクロフィリンA(CypA)というシャペロンタンパクと「三者複合体(tri-complex)」を形成し、RASの下流シグナル経路(RAF–MEK–ERK経路およびPI3K–AKT経路)への伝達を遮断します。
前臨床試験では、以下の変異に対して有効性が示されています:
ただし臨床試験で確実に有効性が確認されているのは、現時点でKRAS G12D/G12V/G12Rが中心です。NRAS/HRASに関する臨床エビデンスはまだ限定的です。
FDA拡大アクセスプログラム(EAP)の対象となる患者は、以下の条件を満たす方です:
KRAS変異の有無を確認するには、以下のいずれかの検査が必要です:
これらは保険適用される条件・施設が決まっています。膵がんの場合、標準治療を一定期間行った後の段階で遺伝子パネル検査が保険適用されます。
第I/II相試験および第III相試験で報告された主な副作用は以下の通りです。
前臨床マウス実験では「RAS完全阻害は致死的に近い毒性」と予測されていましたが、臨床試験では「忍容性は概ね良好(manageable safety profile)」と報告されています。第I/II相試験では、前治療歴のない患者群でGrade 3以上の治療関連有害事象(TRAE)は38%でした。
長期投与時の毒性プロファイルはまだ十分には明らかになっておらず、ASCO 2026 Plenaryでの詳細データ公開が待たれています。専門医からは「毒性管理についてはまだ学ぶべきことがある」とのコメントも出ています。
残念ながら、2026年5月現在、ダラクソンラシブは日本では承認されておらず、保険診療での使用はできません。
Revolution Medicines社は、FDA長官の「National Priority Voucher(国家優先バウチャー)」パイロットプログラムを利用して、第III相試験データに基づくNDA(新薬承認申請)を提出する意向を表明しています。このプログラムでは、通常より大幅に短縮された審査期間(1〜2ヶ月)が予定されており、2026年後半〜2027年前半のFDA承認が現実的なシナリオとして見込まれます。
日本国内での承認には、FDA承認後に国内臨床試験データや申請手続きが必要で、通常FDA承認から1〜3年程度かかります。2027年〜2028年以降の承認が現実的な見通しと考えられます(推論ベース)。
ダラクソンラシブは画期的な可能性を秘めた薬ですが、科学者の目線から冷静に整理すべき限界点もあります。
2026年5月23日時点で公開されているのは「Topline結果(OS、PFSの中央値とHR)」のみです。詳細な変異別サブグループ解析(G12D vs G12V vs G12Rでの有効性差)、QOLデータ、長期安全性は、5月31日のASCO Plenaryで初めて開示されます。
前臨床試験では複数のRAS変異に対する有効性が示されていますが、臨床的に「G12のどのタイプにも等しく効く」のか、変異タイプによって反応性が異なるのかは、現時点で確定的に言えません。
ダラクソンラシブは変異型だけでなく野生型RASにも結合します。短期的には忍容性が良好でしたが、長期投与時の慢性毒性は引き続き注視が必要です。
分子標的薬では治療開始から半年〜1年程度で耐性が出現することが知られています。ダラクソンラシブに対する耐性メカニズム(二次変異、バイパス経路活性化など)はまだ解明途上で、耐性後の治療戦略も今後の課題です。
米国での想定価格は明確に公表されていませんが、同種のRAS阻害薬と同様、年間数千万円規模の薬剤費が見込まれます。日本での保険適用までは、高額療養費制度の対象外となる可能性があります。
ダラクソンラシブのような分子標的薬と、樹状細胞ワクチン療法(DCT)や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)などの免疫療法を組み合わせる戦略は、現在世界中で研究されている重要なテーマです。プレシジョンクリニックグループでは、特に「KRAS変異」そのものを標的とした樹状細胞ワクチン療法に注力しており、将来的にダラクソンラシブとの相乗効果を狙った治療戦略を構想しています。
RAS変異がん細胞は、増殖能だけでなく「免疫から逃れる仕組み(免疫回避)」を強く持っていることが知られています。ダラクソンラシブによってRASシグナルが遮断されると、以下のような変化が起こる可能性が報告されています:
これらの変化により、樹状細胞ワクチン療法(DCT)や免疫チェックポイント阻害薬の効果が増強される可能性が示唆されています。
樹状細胞ワクチン療法は、患者ご自身の血液から樹状細胞(免疫の司令塔となる細胞)を採取し、体外でがん抗原を学習させ、再び体内に戻すことで、がん特異的なT細胞免疫を誘導する治療法です。
近年、変異KRASタンパクの一部(変異ペプチド)が「ネオアンチゲン(新生抗原)」として強力な免疫原性を持つことが明らかになってきました。特にG12D、G12V、G12R変異由来のペプチドは、特定のHLA型と組み合わせることで、T細胞による腫瘍認識を強く誘導できる可能性が、複数の査読論文で報告されています(Wang QJ et al., Cancer Immunol Res 2016;Tran E et al., NEJM 2016;Leidner R et al., NEJM 2022)。
プレシジョンクリニックグループでは、これらのエビデンスに基づき、KRAS変異特異的なネオアンチゲンを標的とした樹状細胞ワクチン療法に力を入れています。患者ご自身のKRAS変異タイプとHLA型を解析し、最適なペプチド設計により、がん細胞だけを精密にターゲットする「個別化ネオアンチゲンワクチン」のアプローチを実践しています。
ダラクソンラシブが日本で承認された将来、同じくKRAS変異を標的とする樹状細胞ワクチン療法との併用は、以下のような理論的相乗効果が期待されます:
| 治療法 | 主な作用 | 強み | 限界 |
|---|---|---|---|
| ダラクソンラシブ(分子標的薬) | KRASシグナル経路を直接遮断 | 即効性、強力な腫瘍縮小効果 | 耐性出現の懸念、薬を止めると再増殖 |
| KRAS標的 樹状細胞ワクチン療法 | 変異KRAS特異的T細胞免疫を誘導 | 免疫記憶による長期効果、耐性クローンへの対応 | 効果発現に時間を要する、単独では腫瘍縮小が緩やか |
| 併用戦略 | シグナル遮断+免疫誘導 | 即効性と持続性の両立、耐性予防 | 臨床エビデンスは今後の研究課題 |
具体的には、ダラクソンラシブによる腫瘍縮小と免疫学的「ホット化」のタイミングに合わせて、KRAS標的樹状細胞ワクチンを投与することで、変異KRASに対する特異的T細胞免疫を成立させ、薬剤耐性出現後も腫瘍制御を継続する──このような戦略が、プレシジョンクリニックグループが構想する次世代の複合的免疫療法(iCCI: innovative Combination Cancer Immunotherapy)の核となります。
※注意事項:上記の併用戦略は、現時点では理論的・科学的根拠に基づく「将来構想」です。ダラクソンラシブは日本未承認であり、現時点で当院での投与は実施しておりません。KRAS標的樹状細胞ワクチン療法は、化学療法・標準治療と組み合わせた自由診療として実施可能です。
プレシジョンクリニックでは、患者一人ひとりのKRAS変異の種類(G12D/G12V/G12R等)、HLA型、TME(腫瘍微小環境)の状態を詳細に解析し、最適なネオアンチゲン設計と免疫療法プランを構築しています。
標準治療(化学療法・分子標的薬)と樹状細胞ワクチン療法を組み合わせる「複合的免疫療法(iCCI)」のアプローチは、それぞれの治療法の長所を活かしつつ、単独治療では届かない領域をカバーする戦略として注目されています。ダラクソンラシブのような分子標的薬が日本で承認された後は、こうした併用戦略の幅がさらに広がることが期待されます。
現時点(2026年5月)でFDA拡大アクセスプログラムの対象は、前治療歴のある転移性膵管腺癌でKRAS G12変異(G12D/G12V/G12Rなど)を持つ患者です。今後の試験結果次第で、肺がん、大腸がん、未治療膵がんなどへの適用拡大が見込まれています。
2026年5月現在、日本では未承認です。日本での承認は、FDA承認(2026年後半〜2027年前半見込み)の後、さらに1〜3年程度を要する見通しです。
前臨床試験ではG12C、G12D、G12V、G12R、G12A、G12Sを含む複数のG12変異に対して有効性が確認されています。臨床試験では特にG12D/G12V/G12Rでの有効性データが揃っています。ただし変異別の有効性差の詳細は、2026年5月31日のASCO Plenaryでの発表待ちです。
主な副作用は皮疹、口内炎、悪心、下痢、疲労感などです。Grade 3以上の重篤な副作用は約38%(第I/II相試験データ)。「忍容性は概ね良好」と評価されていますが、長期投与時の安全性は今後のデータ蓄積が必要です。
ソトラシブ・アダグラシブは「KRAS G12C」のみを対象としますが、ダラクソンラシブはG12C、G12D、G12V、G12Rなど複数のRAS変異を一つの薬でターゲットできる点が大きく異なります。膵がんではG12Cが1%未満であるため、ダラクソンラシブの方が膵がん患者の多数(約90%)に適用可能です。
ダラクソンラシブが日本で承認されていない現時点では併用治療の実施は困難ですが、メカニズム的には免疫療法との相乗効果が強く期待される組み合わせです。プレシジョンクリニックグループではKRAS変異そのものを標的とした樹状細胞ワクチン療法に注力しており、ダラクソンラシブによるシグナル遮断効果と、樹状細胞ワクチンによる変異KRAS特異的T細胞免疫誘導を組み合わせることで、即効性と持続性を両立する複合的免疫療法(iCCI)戦略を構想しています。
がん遺伝子パネル検査(FoundationOne CDx、OncoGuide NCCオンコパネル等)はがんゲノム医療中核拠点病院・連携病院で実施されています。リキッドバイオプシー(Guardant360)は当院で実施可能です。主治医または私たちにご相談ください。
2026年5月31日(米国時間)にシカゴで開催されるASCO Annual MeetingのPlenary Sessionで詳細データが発表されます。Dana-Farber Cancer InstituteのBrian Wolpin医師による発表で、Abstract番号はLBA5です。
ダラクソンラシブ(RMC-6236)は、膵がん患者の90%以上に存在するKRAS変異を直接ターゲットにできる、世界初のPan-RAS阻害薬です。第III相試験では化学療法と比較して全生存期間を約2倍に延長するという、膵がん治療では極めて稀な大きな効果が示されました。
2026年5月23日時点でFDA正式承認はまだ取得されていませんが、拡大アクセスプログラム承認、NEJM論文掲載、ASCO Plenary発表予定と、承認に向けた節目を着実にクリアしています。米国では2026年後半〜2027年前半の承認、日本ではその後1〜3年程度での承認が見込まれます。
膵がんと診断された方、ご家族の方は、以下のステップをおすすめします:
当院では、最新のがん免疫療法・分子標的治療に関する無料医療相談を受け付けております。KRAS変異検査の結果や標準治療の経過を踏まえた個別化治療プランについて、お気軽にお問い合わせください。
プレシジョンクリニックでは、樹状細胞ワクチン療法・免疫チェックポイント阻害薬・腫瘍微小環境調整など、患者一人ひとりに最適化された複合的がん免疫療法をご提案しています。
【免責事項】本記事は、2026年5月23日時点で公表されている査読論文・FDA公式発表・Revolution Medicines社IR情報・主要医学メディア報道に基づいて作成しています。ダラクソンラシブは2026年5月現在、日本国内で承認されていません。本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、特定の患者様への診療を行うものではありません。実際の治療方針は、必ず主治医または専門医にご相談ください。
【監修】矢﨑雄一郎(プレシジョンクリニック東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア)
【最終更新日】2026年5月23日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。