投稿日:2026.8.6/更新日:2026.11.6
この記事でわかること
頭痛や手足のしびれをきっかけに脳の病変が見つかると、誰もが大きな不安を抱えます。確定診断や治療方針を決めるためには、開頭手術による生検や組織採取が必要となる場面も少なくありません。身体への負担を減らしながら、個々の腫瘍の性質に合わせた治療を選ぶ道筋が求められています。今回は、診断の負担を軽減する画像AI技術や新たな併用療法、生活を支える集学的治療の最新動向を整理してお伝えします。
国立がん研究センターなどの研究チームは、MRI画像データから脳腫瘍のIDH遺伝子変異を予測するAIモデルの精度を検証しました。従来は開頭手術や生検を行って組織を採取しなければ、この遺伝子異常の有無を確認できませんでした。画像解析のみで変異の有無を高い精度で推測できれば、体に傷をつけずに治療計画を立てられる可能性が広がります。
IDH変異は、グリオーマの悪性度判定や予後予測において欠かせない指標です。この変異を持つ腫瘍は、変異を持たないタイプと比べて進行速度や抗がん剤への反応性が大きく異なります。もし手術前に変異の有無が分かれば、切除範囲の決定や術後療法の選択を早期に進めやすくなります。
本研究は理化学研究所や東海大学、全国の複数医療機関が連携して実施されました。専門医の読影と比較しながらAIの予測能力を検証しており、臨床現場での実用化に向けた基礎データを固める段階に位置します。現時点では研究段階の手法であり、直ちに日常の保険診療で生検の代わりとして使えるわけではありません。
私たちの外来でも「頭を切らずに腫瘍の遺伝子が分からないのか」と尋ねられる機会が増えています。画像から遺伝子特徴を読み取るラジオミクス解析は、患者さまの身体的負担を減らす大きな希望です。今後の画像診断の可能性や遺伝子検査の必要性については、主治医や当グループにお気軽にご相談ください。
国立がん研究センター中央病院は、転移性脳腫瘍の摘出手術に光線力学的療法を組み合わせる第2相臨床試験を開始しました。この治療法はPDTと呼ばれ、あらかじめ投与した薬剤が腫瘍細胞に集まったところで特定のレーザー光を照射し、がん細胞を壊死させる手法です。手術で目に見える病変を取り除いた後、周囲に残存する微小な病変を光で制御することを目指します。
他のがん種から脳へ転移した病変に対しては、手術や定位放射線治療が標準的な治療選択肢です。一方で、切除腔の周囲からの局所再発や、放射線治療後の再燃が課題として残されていました。PDTは正常な脳組織への侵襲を抑えながら、浸潤した腫瘍細胞をピンポイントで攻撃できる特徴を持っています。原発巣の治療を続けながら脳転移の制御を高める手段として期待が寄せられています。
本試験は安全性の確認と局所制御効果の検証を目的としており、現在参加者を募って臨床試験が進められている開発段階にあります。PDTの実施には専用のレーザー機器と光感受性物質の投与が必要となるため、現段階では限られた高度医療機関でのみ行われる治療法です。光線過敏症を避けるための遮光管理など、一定の生活上の注意も求められます。
当院でも患者さまから「放射線治療の後に再発した場合、ほかに手はないか」という切実な声をよく伺います。標準治療が基本となりますが、臨床試験の適応を含めた選択肢の把握は治療意欲の維持にもつながります。転移病変の局所治療や今後の選択肢について気になる点があるときは、主治医や当グループにご相談ください。
国立がん研究センター希少がんセンターは、グリオーマの最新診療をテーマにしたセミナーを開催し、分子診断に基づく個別化医療と支持療法の重要性を発信しました。悪性度の高い膠芽腫をはじめとする神経膠腫の治療体系は、病理組織の形態だけでなく、遺伝子変異や染色体の状態を組み合わせて診断する形へと大きく進化しています。
現在のグリオーマ診療では、IDH変異や1p/19q共欠失、MGMTプロモーターメチル化などの分子マーカーが治療選択の根拠となります。特定の分子異常に対しては、分子標的治療薬の適応を検討する場面も出てきました。腫瘍の遺伝子プロファイルに応じて放射線照射の範囲や併用する化学療法の種類を最適化することが、標準的な診療手順となりつつあります。
治療の進歩と並行して、生活の質を維持するための支持療法も重視されています。脳腫瘍は運動麻痺や言語障害、認知機能の低下といった神経症状を伴いやすく、患者さま本人だけでなくご家族の生活にも大きな影響を及ぼします。早期からのリハビリテーション介入や抗てんかん薬の適切な調整、精神的支援を多職種で支える体制が治療成績の向上にも寄与します。
当グループの外来でも「退院後にどのような生活を送ればよいか分からない」と悩まれるご家族が多くいらっしゃいます。病変に対する抗腫瘍治療と並行して、生活環境を整える支持療法を早い段階から取り入れる姿勢が欠かせません。治療中の生活支援や分子診断の活用方法に迷われた際は、主治医や当グループにご相談ください。
当院の実例
再発を繰り返す悪性グリオーマに樹状細胞ワクチン療法とBNCTを組み合わせ、診断から2年良好に経過している30代女性
退形成性星細胞腫の手術後、放射線とテモダールを行うも8か月で再発。テモダール+アバスチンへの変更と同時に樹状細胞ワクチン療法を開始し、再発巣は消失しました。1年6か月後の再々発ではBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)を追加し、樹状細胞ワクチン療法も継続。診断から約2年、良好な経過を維持しています。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
脳腫瘍の診療は、画像AIによる診断技術の開発、光線力学的療法を組み合わせた局所制御の臨床試験、分子プロファイルに基づく個別化治療と、多角的な広がりを見せています。プレシジョンクリニックグループでは、脳腫瘍を創業以来最も力を注いで取り組んでいるがん種のひとつとして位置づけ、数多くの実績を積み上げてきました。
当グループでは網羅的なゲノム解析を通じて腫瘍微小環境や遺伝子変異を詳細に捉え、お一人おひとりの病状に即した治療戦略の提案に注力しています。標準治療を大切にしながら、より負担が少なく精度の高い選択肢をお探しの際は、どうぞお気軽に当グループへご相談ください。
AIによる予測は手術前の参考情報であり、確定診断と治療(摘出)の必要性を置き換えるものではありません。摘出組織の遺伝子検査が治療方針の基本になります。
摘出手術とPDTを併用する第2相試験が国立がん研究センターで始まった段階で、参加は適格基準によります。当院では摘出後の残存病変に対して免疫療法を重ねる設計をご相談いただけます。
IDH変異や1p/19q共欠失などの分子情報で予後や薬の効き方が変わり、治療の強さや期間を決める根拠になります。当院ではこの情報を免疫療法の抗原選択にも活用します。
監修:矢﨑 雄一郎 医師
プレシジョンクリニック 東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア 理事長 | 専門分野:一般外科・消化器外科
がんゲノム情報に基づく個別化医療と免疫療法を専門とし、標準治療と組み合わせた治療設計に取り組んでいます。著書『免疫力をあなどるな!』。
【免責事項】本記事は2026年7月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者さまへの診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年9月9日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。